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あれから二ヶ月ほどの月日が流れ、夏休みが始まった。
高校三年の夏休みなんて、受験勉強しかしてなかったなぁ。
ということで、今年はエンジョイするぞー!去年はまだ小さかったし、季節の変わり目に風邪を引いてしまったため、海には入れなかった。全く、うちの親は過保護すぎるんだよね。
「兄さん兄さん! 今年は一緒にプールに行こうね!」
「うん! かき氷もいっぱい食べよう!」
もちろんだぜ、お腹壊すまで食ってやんよ。いやー、小さい子ってあんまり太らないよね! 幼女バンザイ!
――――と思っていた時期が、私にもありました。
「うげ……さ、三キロも……」
夏休みが始まって数日。お風呂屋さんに行ったとき、私は現実と向き合ってしまった。
誰だよ太らないとか言ったやつ! 私だよこんちくしょう!
幼稚園児のときから太る……なんて、恐ろしいこと考えたくも無い!
「美琴ー、奏也ー、おやつよー」
「はーい!」
奏也兄さんはなんで太らないのかな、男子が羨ましい。
今日のケーキは兄さんが食べました。
*
さて、最近気づいたけど、この家はかなりのお金持ちらしい。
ゲームでは一般的な家庭だったけど……うーん、分からん。
父とあまり会ったことが無いのは、会社が忙しいから。大手ブライダル企業の社長で、中々時間が取れないそうだ。
母は専業主婦だけど、兄さんが生まれるまでは父の秘書をしていたそうだ。そこから恋に落ちて……って、なんてロマンチックなんでしょうねぇ。プロポーズもさぞかしロマンチックだったんだろうなぁ、「俺の隣で笑っているのは、キミしか考えられない」的な?うっはー、キザだねぇ。
おっと、話が逸れた。何処まで話したっけ? ……そう、この家が金持ち、ってとこだ。全然話進んでないけど、気にしたやつは負けだ。
まあそんなわけで(?)、私は英才教育を受けている。ゆくゆくはチートだな、いや、もう既にチートだな、うん。
やっぱ転生ってさ、チートになるってことだよね。今の私は勉強は出来るわ顔はいいわ、運動神経はいいわ、金持ちだわでチートすぎるよ。2ちゃんねるなら「妄想乙」で終わってたわー。見ろおまいら、チートはホントにあるんだぜ? わははははー! ……空しいな。
「みことー! 遊びに来たぞー!」
「あ、はーい! ちょっと待ってねー!」
今日は哉斗達とプールに。よし、プールで痩せよう。痩せるほど泳ごうじゃないか!
「兄さん、私頑張る!」
「え? あ、うん……?」
待っててね、私の愛しのプールちゃん!
空に向かって手を広げていると、哉斗に見られてました。おぅふ。
*
「「「流れるプールだぁっ!」」」
着いたのは、皆さんお察しの通り流れるプールがある、かなり大きいプール。
スライダーやらなんやらあって、子ども達……あ、私も含むね、は大騒ぎ。
前世は「プールなんざ行く暇あったらネットじゃネット」の人だったからなー。
うむ、改めて来るといいね、これ。
転生してから思考が幼くなってる気がするなぁ。まあ、勉強とかは大丈夫だと思うけど。
なんて、考えてたら迷子になりました。
「母さーん! にーさーん! かーなーとぉ!」
何処行ったんだろうな、一人で遊ぼうかな。
いや、それはダメか。誘拐とかあったら困るし。
「あれ、キミも迷子?」
「……誰?」
あるあるだよね、こういうのってさ。迷子イベントとか面倒以外の何も無いよね。
時にワトソン君、この目の前にいる成長したら私好みになりそうなショタは誰だい? 誘拐して愛でてもいいかい?
そんなことを考えていると、「僕は神谷健二。キミは?」と聞いてきたので、とりあえず自己紹介をした。
「私は阿ヶ崎美琴。さっきお母さんとはぐれちゃって……」
「そうなんだ。僕も家族とはぐれちゃったから、一緒に迷子センター行こっか!」
「うん!」
ああ、迷子センターね! やっぱ知能も退化してるかも……
それにしてもこの子、ゲームの一枚絵で見たことあるような気がするんだよね。でも、健二なんか居なかったと……
「ねぇねぇ、健二くんは何歳?」
「僕? 今は……えーっと、五歳!」
「そうなんだ! 私は四歳!」
「一つ違いだねー」
「ねー」
ふむ、五歳か。兄さんの一個下で、私の一個上ね。
神谷、神谷……うーん、分からんな。
「あ、お母さんだ!」
「私のお母さんも居る!」
ああ、もう少し喋りたかったな。可愛い可愛い健二くん。
……あぁ!
「健二くん! お兄さん居る!?」
「え? いるけど……」
そうだ、思い出した!
神谷誠一、兄さんと同い年。
桜川学園高等部生徒会副会長で、兄さんの善きライバルなのだ。
ゲーム内ではツンデレ苦労人というポジションで、かなりのイケメン。私はこのキャラが一番好きだったなぁ。
うん、それで健二くんを見たような気がしてたのね、よく似てるし。
「じゃあ僕はもう行くね! また会えるといいなぁ」
「うん! だから、『またね』」
「……っうん! 『またね』!」
彼のあの満面の笑みは、きっと忘れないだろう。
だって、彼とまた会ったときに、「昔はねー……」と言って、弄ってやるつもりなんだから。