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「うぅー、あうあー」
「あらあら、美琴は好奇心旺盛ねぇ」
転生してから暫くたって、私はようやく歩けるようになった。この家の中を把握しておきたかったため、色々な所に行っている。まあ、すぐに連れ戻されるのだが。
「にーに、にーに」
「どーしたの?」
にーにというのは兄のことだ。
童顔だが、三歳児にしてはとても整った顔をしている。
「抱っこー」
「抱っこ?おかあさまー」
私はこのくっそ可愛いショタ……げふん、兄に抱いてもらいたいのに……
ひょい、とこっちの世界での母親に抱っこされ、頭を撫でられる。予想だけど、この親達はかなり親バカなんじゃないかな。
すると、兄が「僕も」とせがんでいた。
かわええのぉ……このまま撫で撫でしたい。この体じゃ無理だけど。
「はいはい、奏也もね」
「うぇ?」
……あれ、今この人『奏也』って言ったよね?
奏也って言ったら、あの乙ゲー人気No.1のアレっすか?
阿ヶ崎奏也。
あの乙女ゲームに出てくる中で、絶大な人気を誇る攻略キャラだ。
ゲームの舞台である桜川学園の高等部生徒会長で、このキャラの攻略が一番難しいらしい。
彼ルートになると、いつも真面目そうな表情をしているのに、主人公にだけ笑いかけてくれるそうだ。
まだ確証は得られないが、この整った顔立ち、声。何処と無く似てる気がする。まあ違ってても、すごい可愛いから気にしない。げへへ、ショタ万歳!
そういや私の苗字ってなんだ?家族内で苗字で呼び合うことが無いから知らなかったけど……
兄を抱っこするために一度私を下ろしたので、その隙にテーブルの上の封筒を拝見させてもらうと、奏也くん……いや、お兄ちゃんの苗字である阿ヶ崎という字が書かれていた。
「こーら、危ないでしょ?」
「……あい」
間違いない、私は。
どうやら、阿ヶ崎奏也の妹に転生してしまったようだ。
*
あれから三年。私は幼稚園の年小さんになっていた。
奏也くんの妹ってだけでも吃驚なのに、奏也くんに次ぐ人気を誇る水無月哉斗くんと家が隣だったことにも、驚きを隠せなかった。
いや、マジでファンの人に刺されたらどうしよう、絶対怒り買ってるよ。
そんな思いとは裏腹に、哉斗くんはとても眩しい笑顔で私と喋ってくれる。
「あのなみこと!今日なー、俺らのクラスでなー……」
「私のクラスではねー……」
などといった会話を毎日し、それはそれは仲良くしている。
余談だが、最近、兄の奏也は、シスコン化しつつある。いつも真面目そうな表情なんて嘘じゃないの?常にニコニコだよ?
まあ笑ってるほうがもちろんいいし、可愛いからいいけど。
あと、余談というか雑談だが、奏也兄さんと哉斗がじゃれている(?)間、私がぼっちになるのでやめてほしい。可愛いからいいけど。ていうか奏也兄さん、小学校と幼稚園の帰る時間がちがうから、迎えに来るのやめてくれ。待ってる間暇だから。お母さんが来てくれない哀れな子どもと勘違いされるから。
まあ、これといって事件があるわけでもなく、ダラダラと一年が過ぎていった。