うろな町長の長い一日 その三 うろな高校駄弁り部Ⅱ編
シュウさんへ。
うろな町企画と言う素晴らしい企画を作ってくださり、また自分のような当時は若輩者でしかなかった私を参加させてくださいましてありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
紺色のシャツを着たうろな町の町長さんは、うろな町の街中を歩いていた。
暖かい太陽の日差しの下、町長さんが今日も気ままにうろな町を歩いていると「あっ! 見つけた!」と言う声が聞こえてくる。町長が振り返ってみると、そこには珍妙な格好の男女3人の姿があった。
「あっ、町長さんですね」
「やっと会えましたね。ボク達のためにありがとね、天塚君」
「…………」
黒いジャージを着た身軽な格好の天塚柊人。薄い青色のカーディガンと藍色のスカートの女装男子、瀬島蒼龍。深緑色の執事服と片眼鏡を付けた男装女子、大神義愛。ちょっと珍妙な3人組であった。町長を見つけた柊人は「良かった~」と言いながら話しかけて来た。
「あっ、町長じゃないですか。丁度良かった、伝えたい事があったんですよ」
「うん……? 何か用があるの?」
と、町長が聞く。柊人はコクコクと肯いていた。
「駄弁り部の相談事の1つで、町長さんに言いたい事があるからと瀬島蒼龍と大神義愛の2人が頼んで来てね。では、どうぞよろしくお願いします」
「うん。まぁ、言いたいのはボクじゃなくて、ギアちゃんだけどね。ねー、ギアちゃん♪」
そう言われて、町長がカッコいい男性にしか見えない義愛の方を見ると「うっ……」と若干涙目になっている義愛。
「な、何故涙目!?」
うろな町の住民の事を知っている町長は、大神義愛が男装している女性である事を知っている。それ故に涙目になっている女性である事を知っているから、いきなり涙目になってしまった義愛にちょっと罪悪感を覚えてしまったようなのである。
「え、えっと……」
「ほら、ギアちゃん。ちゃんと言わないと伝わらないよ。音楽と一緒さ、言葉にしないと伝わらない」
「うぅ~」
何か伝えたい事があるようだが、彼女自身がちょっと恥ずかしがって話せないようだと、町長はそう理解して義愛の言葉を待った。そして何度か逡巡するような姿を見せた後、義愛はコクリと首を1度振り、覚悟がこもったような目で町長を見つめた。
「あ、アニメ声ですけど……」
「それは知っているけど……」
「…………」
「…………」
何とも言いえないような複雑な雰囲気が漂う。そんな中、「あぁ、じれったいなぁ!」と義愛の兄である蒼龍が町長に話しかける。
「ギアちゃんはね、アニメ声である事を一時期本当に悩んでいたの。それは町長さんも知っているでしょう?」
「まぁ、風の噂程度には……」
「そして、それに対して町長さん、いやうろな町の人々は自分の事を受け入れてくれた。その事にうろな町を代表して町長さんにお礼を言いたいんだって」
蒼龍の言った事を頭の中で整理する町長。
(つまり、うろな町では自分がコンプレックスに思っていたアニメ声でも受け入れてもらえて嬉しかったと言う事か。けれどもそれはうろな町全体の功績であって、私自身の功績ではないよな)
「良いよ。うろな町を気に入ってくれた事はありがたいけど、それは私だけの功績ではない。この町に住む皆の功績だと思うし」
「……町長さんは欲がないねー。まぁ、秋原さんも居るし、当然だけど」
「どうしてここで秋原さんの名前が?」
いきなり自分の秘書の名前を出されて、ちょっと困惑する町長。その困惑の理由が秋原さんと言う人物のどこになったのかは、彼自身も分かっていないが。
「ギアちゃんは素直だからね。多分、町長が『ありがとう、マイエンジェル。君の事は良く覚えておくさ☆』みたいな事を言ってキラリと笑みを浮かべた日には、『素敵、抱いて!』と言うチョロイン並みの展開で兄としては、とっても面白く……」
「ソ、ウ、ル~!」
蒼龍がペラペラと話していると、それを受けた義愛の顔が真っ赤になってそのまま怒りへと変わったその気持ちのまま蒼龍へと迫る。
「やばいな~。ボクの知る限り、ギアちゃんが僕の事をあぁ呼ぶのは本気でキレた時の声だね。
じゃあ、町長! 妹を救ってくれたこの町をこれからもよろしくね、じゃあ!」
そう言って一目散に逃げ出す蒼龍。その後を物凄い勢いで追う義愛。そして呆気に取られてしまった町長。
「……まぁ、一応気持ちだけは受け取っておこう。うろな町について好意的に思っているようだし」
うんうんと頷く町長。そんな町長に柊人が「あっ、そうだ」とあからさまな声を出して近付く。
「こっちからも個人的に渡す物があるんでした。町長さん、うろな町をこれからもよろしくお願いします」
そう言って、町長の手の上に『赤ちゃん命名辞典~名前の意味~』と言う本を置く柊人。
「あっ、ありがとう、柊人君。けど、なんで赤ちゃんの命名辞典?」
「元々は、清水夫妻に渡す予定でしたがその前に子供の名前が決まっていたようなので渡せなくて……。じゃあ、次に使う人物にと。あと、日向蓮華さんからは薔薇の花束を。後は霧島恵美からも渡す物があるから渡しておきますね」
そう言って、命名辞典の上に、ネックレスと薔薇の花束を渡す柊人。また増えたプレゼントに苦笑する町長。
「これは……」
「僕からは未来をと言う意味ですが、どう言う意味に取って貰って構わないですよ。まぁ、そうなるように祈って置くとでも言っておきます。日向蓮華さんはこれからもよろしくと言う意味だそうですよ。霧島恵美は未来のための布石のプレゼントですよね」
「まぁ、一応貰って置くね。柊人君」
と、作り笑いをする町長。そして、そのまま「これからもよろしくお願いしますよ」と言って帰ろうとする柊人。
「―――――――じゃあ、またね。町長さん」
「あぁ、またね。柊人君」
そして町長は天塚柊人と別れて、町内の散策を続けるのであった。
次の担当は三衣千月さんです。
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