幕間 炎の記憶(メモリー・オブ・アッシュ)
――思うに、彼はいまだ、悔いているのだと思う。
悔いるぐらいなら初めからやらなければよかったのだとは、傲慢だとよく言われるあたしでも思わない。
彼の優しさは身に染みて分かっているし――本当に身に染みているし――性格もよく分かっている。彼はなんというか、お人好しで、それが誰でも……きっと、あたしでなかったとしても、目の前で倒れ、助けを求めている命を蔑ろにすることは出来なかった。
それでも、あえてあたしらしく、傲慢に物を言わせてもらえば、彼はあたしだから助けてくれたのだろうと、むしろ祈るような心地であたしは信じているのだ。
恋は盲目というけれど、実際にそうだ。
あたし達は愛し合っていた。
だから彼は罪を犯して。
だからあたしは【魔王】になった。
あたしには目的がある。
半ば契約のようなものだけど、確固たる目的がある。
彼があたしを阻もうとする、それと同一以上の目的がある。
まあ、彼は善人だから、どうしたって世界の崩壊や【神】の死を受け入れられない。犠牲というものが、決して許せない人間だから。
だから、あたしは袂を別った。
とても分かりやすい形で拒絶をした。
その癖に、彼はまだ、あたしを止めようとしている。
……殺せるものなら殺してみればいい。彼があたしを止めれるのなら、それが世界の選択なのだ。
だけれど、あたしは世界の選択を良しとしない。
世界の選択に刃向い、殺戮を繰り返す。
そしてこの殺戮は、彼の罪の上にある。
故に、彼はあたしを止めようとするだろう。
そこにどれほどの実力差があろうとも。
神と薄紙ほどの差があろうとも。
それでも彼は挑むだろう。
あたしは、それを愉快な気分で待つ。あたしには止まるつもりがない。この身に在る全ての力を費やし、世界を変える。今のあたしにはそれしかない。
世界が何を選択するのか、それは分からない。
それでも、人は足掻く。
【神】は――それを知れ!