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「全然、すっきりなんてしてないわよっ!」
眞虎は怒り狂っていた。
「なんで連絡先ぐらい残しておかないのよっ! 聞かなかったあたしもバカだけどさあ。
もう、仕方ないから学校の事務室に電話して、菊川 英理っていう人知りませんかって言ったら、
そんな学生はいないっていってくるし。そん時は、ほんと、狐に騙されたのかって思ったわよ。
二年生で、髪の毛束ねてて変態で女装好きでおかしな行動してるけど、顔はまあまあだとか
いっぱい説明してたら、やっと気が付いたらしくて、「菊川 英理」だって教えてもらって。
もう大変だったんだからね!」
「すみません……」
呼び出された英理は頭を下げた。けど、何となく感じていた。
(眞虎ちゃん、なんか楽しそうだな)
「ちゃんと、名前、生年月日、血液型、連絡先、住所も。家族とか、好き嫌いとか、好みのタイプとか
書いて返しなさい。いい、わかったっ!?」
英理は渡された紙に記入し始めた。
「ワシは?」
「あんたはいらん」
文輝にはつっけんどんに答える眞虎。
「で、何がすっきりしてないというんじゃな?」
「その格好でそのセリフは全然合わないわよ」
(確かになあ)書き終わって英理はそう思った。三つ編み、メガネの女装に年寄っぽい言葉。
「じゃが、ワシはこれが好きでのう。ばあさんや」
「あたしはお前のばあさんじゃないやい!」
眞虎は取り上げた紙をポケットにおさめながら、言った。
「この前の結論はおかしいと思わない?」
「そうなんだ?」
「そうかのう」
「そうなのよ」眞虎の口調が一番きつい。
「いい? あの物置部屋を見つけて、中に入ったまではいいとしてよ。そこで夏龍の浮世絵を見つけてしまった。
例え、それがレプリカだったとしても、それに喜んで思考停止してしまった、そう思わない?」
「うーん」英理はうなった。「眞虎ちゃんはどうしてそう思うの?」
「喉よ!」
眞虎の答えに、文輝はうなずいた。
「うん、あの呪文にあった『喉』じゃな」
「繰り返すわよ。昼寝は夏だとして、『夏 竜は喉にある』が問題。で、あの答えのどこに『喉』があるっていうのよ?」
ようやく、英理にも眞虎の言いたいことが理解できた。
「じゃあ、あの答えは間違ってたってこと?」
「間違いかどうかはわからないけど、何か『喉』を見つけないことには答えかどうかわからないってこと。
だから、もう一回、あの部屋を調べなくちゃ」
文輝が眞虎の前に出た。
「では、またワシのテクニックが必要じゃな」
「残念でした」眞虎が差し出す手には古びた鍵。
「ちゃんと事務室から借りてきたわ。だから堂々と入れるわよ」
「ワシは、ワシの出番はないのかのう?」
「ちゃんとあるから、安心して」
と眞虎は身を乗り出した。
「それより、鍵借りる時にびっくりしちゃった。事務室の受付に行ったら、そこにいたのが学園長なんだもん。
学園長が受付してるの、って驚いたら、お休みで誰もいないからだって」
「学園長が?」
「学園長って誰だっけ?」
「入学式の時に前で挨拶してたのに!」
「あ、寝てた」
文輝の声に憮然とした顔の眞虎。
「ほら、結構若作りのおば――お姉さまよ。その学園長がその鍵でどうするのって聞いてくるから。
答えに窮しちゃって」
「へえ、眞虎ちゃん、なんて答えたの?」
「思わず、ミステリークラブでお掃除します! って答えちゃった。というわけで、お掃除、お願いします!」
ツインテールがお辞儀でぴょこんとはねた。よく見れば、背後には掃除道具まで用意してある。
「えー、みんなでするんですよね?」
「あたし、掃除ってあんまり得意じゃないのよね」
「ま、手伝ってはやる。頑張れ、英理。その間に、眞虎とお茶してるから」
「残念でした。そんなわけにもいかないのよ。学園長が後で激励に行くからって言ってたの。
さぼってたのがばれたら、厳罰必須よ。だから、やるのよ、文輝。頑張りましょうね。英理くん」
眞虎は準備しておいたマスクを差し出した。
部屋は掃除のために猛烈な埃の中に埋没していた。
「で、本当に掃除のために来てるんじゃないですよね」
「当たり前じゃない。なんとかして、答えを見つけるためよ」
持ち込んだ掃除機をかけ、吹き払い、そして荷物を整頓しながら二人は確認した。
「お掃除戦隊、ドゲヤアアアー!」
ゴーグルまでかけた文輝はおかしな踊り。
「ああいうバカはほっときましょう。あたしたちの目的を果たさなきゃ」
「そのヒントはあるんですか?」
「概ね正解の近くまでは来てると思ってる。夏龍なんて、もしかするとわざと目くらましの目的なんじゃないかっていうぐらい。
木を隠すのなら森の中って言葉、知らない? ここは森じゃないけど、きっと近くにあるって感じはするの」
「じゃあ、何を探しましょう?」
「夏龍。きっと他にもあるはず」
三人、いや、ふざけすぎて疲れから寝てしまった文輝を外して実質二人で部屋の探索をした。
その結果、やっとのことで見つけたのは一冊の浮世絵の本。
「これ……あのレプリカのお手本になった本みたいですけど、これぐらいしか見つからない……」
「これじゃあ、答えにならないわよ。結局、『喉』も不明のままみたい」
「うーん。問題が悪かったみたいね。素人でごめんなさいね」
いきなり、頭の上から高音の声が降ってきた。見上げると、そこには熟女が微笑んでいる。
「が、学園長!?」