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とある薬師と花嫁志望の勇者様  作者: 秋生
番外編(時系列関係なし)
5/8

番外編02:とある王宮薬師見習いの独り言

お久しぶりな薬師勇者です。

ラブコメだけど恋愛ものじゃねぇよなと言う事でカテゴリをコメディに変更しました。

俺の名前はアベル。

前世では笹原誠と名乗っていた所謂転生者というヤツである。


今世ではそこそこ裕福な商家の三男として生まれ、幼少時よりなるならやっぱり収入が安定してる仕事がいいと勉学に励んだ結果、現在では薬師見習いとして王宮で働いている。


「ねえねえそこの君、ルイン見なかった?」

「ああ、彼ならつい先程そこの窓から逃亡しました」

「ありがと~」

今日も今日とて俺たちの作業場に現れた魔術師団長のサリエ様は「どうしてバレるかな~」と呟きながら俺が指差した窓から外へ飛び立った。

ここ3階なんだけど、なんてツッコミは最初の数日で諦めている。

この国の人間は基本的にユルいので日本人的な常識ある反応をしても疲れるだけなのだ。

とはいえ見習いだが薬師の端くれなもんで、薬師の塔の真下に怪我人が転がっていていないか確認しない訳にはいかない――そんな体で、俺は窓からサリエ様がこの塔を立ち去ったことを確認した。

「行ったぜルイン」

「悪い。助かった」

「気にすんな」

俺の合図に隣の保管室から出てきた同僚のすまなそうな表情に思わず苦笑が漏れる。

この目前にいる同僚こそサリエ様を始めやたらと大物に絡まれる謎の存在として王宮内で地味に噂の薬師見習いルイン・ハーゲント本人である。

容姿はまあまあ、薬師としてもまあまあ、あとは地味に腕っ節が強いという日本ならそこそこ優良物件扱いされそうなスペックの新婚ほやほやなリア充野郎だ。

なお地味に腕っ節が強い理由は城下にあるやたら屈強な猛者ばかり輩出するあのラングレン道場出身者で、辞めた後も指導する立場で時たま道場へ顔を出しているから、らしい。


「それにしてもすげー方面にモテモテだよな、お前」

「やめてくれ…」

そう、この地味にチート気味なこの男は妙にモテるのだ。

…だがそのモテ方がちょっとおかしい。

「魔術師団長様に騎士団長様だろ?最近はあの二人の部下からも可愛がられてるよな。主にオッサン世代。あとは勇者イリアとも仲がいいって噂で聞いたぞ」

「あいつら俺が平民だからって遊んでるんだよ」

「うーん、玩具というよりはキャンキャンわめく弟をからかって遊んでる様に見えるけど」

「どっちにしろ遊んでるじゃねーか!」

「すまんすまん」

その面白いくらいに低い沸点もあの人たちに遊ばれる原因の一つだぞ――と心の中で思いつつ、言わないでおいた。

無駄な争いを極力避けたい性格は今世になっても変わっていない。


――俺には前世の記憶がある。

数年前まで俺はそんな俺が苦痛だった――何故なら、ひょっとして俺は特別な存在にならなければならないのか、と思っていたからだ。

だって転生設定とかどこのラノベだよって話だ。

勇者になって世界を救いに行くなんて根性、俺にはないよ。

…そう本気で思っていたのだ。今となっては穴があったら入りたいくらい恥ずかしい過去だ。

実際に2年前、魔王討伐という出来事は発生したが勇者に選ばれたのは全く違う人物だった。

そして魔王はあっさり討伐された――なにか一波乱あるんじゃないかと身構えていた俺は拍子抜けした。

更に時は流れ王宮薬師見習いとなって出会ったのが目の前のルイン・ハーゲントだ。

勇者イリアとはまた違った意味で注目を少しずつ集めているこの同僚は、出会った当初からなかなかにクレイジーな存在だった。

「やっほールイン!今日から王宮勤め仲間だね~!ヨ・ロ・シ・ク☆」

「………。…わざわざ我々の様な見習いにまでお声をかけて頂き恐縮です魔術師団長様」

「ぶっは!!ちょ、何その畏まった態度あははははは」

「うるせぇ俺に構うな変態野郎!」

正直初日なんてドン引きだった。

いやお前平民出身だよね?って内心めっちゃハラハラしてた。

だけどそんな俺の心配が全く無意味でバカらしくなるくらい、この国の大物達はみな大らかで変わり者ばかりだったのだ。

勿論、身近に居るものならば本人が相手も状況からきちんと使い分けているのは分かるのだが――何も知らない人間からするとパッと見どうしても身の程知らずにしか見えない同僚の態度に反感を抱く者が居なかった訳じゃない。

ただ――なんというか、このルインという男は心底権力に興味が無いのだ。

「私の様な身の程知らずがこの王宮で勤めている事がご不満でしたら、是非解雇する様に手配して頂けませんか。そうすれば私は城下町のしがない薬師に戻ります」

俺たちの作業室に乗り込んできた貴族へ発せられる同僚の台詞に、驚かなくなるのに日はかからなかった。

この台詞を聞いた数日後にすまなそうな貴族が同情するような表情で彼に「私には無理だった。生きろ」と謝罪する流れまでもはやこの作業室でのテンプレ展開だ。

――つまり何が言いたいのかというと、ルインは苦労性の愛され不憫野郎なのだ。


「結局、世界も物語も誰が主役でも勝手に回ってくもんなんだよなぁ」

「何の話だ?」

そんな愉快な同僚の存在に、俺がどれだけ救われたのか目の前の男は知らないだろう。

前世の記憶があるからって別に大業を成し遂げる必要なんて全くないのだ。

そんなものはただのオプションで、俺は俺なりにのらりくらりと生きてゆけばいいのだから。

「まあ、それでもあえて物語にするなら『同僚の波乱万丈待ったなしな人生をゆる~くフォローしつつ穏やかに人生まっとうする話』になるかもな」

「……おい待てその同僚って――」

「あっやべ早く支度しねーと先輩に怒られるぞルイン」

「こら待て逃げんな!」

さらっと流して作業を始めた俺にぶつぶつ言いつつも続くルイン。

そんな同僚に何だかんだで真面目だよなぁと思う。


数日前、同僚と二人で城下町の酒場へ飲みに行った。

城下町でも知り合いに話しかけられる同僚はやっぱり人気者で、それに一つ一つきちんと反応する様子を見てなるほどこりゃ構って欲しくもなるわな、と妙に納得した。

「でも何で王宮薬師になんてなろうと思ったんだ?」

「…色ボケどもに嵌められた」

「は?」

「……俺は、アイツのお願いに弱いんだよ」

酒場ではずっと気になっていたことを聞かせてもらった。

同僚がアイツと言うのはこの世でただ一人しかいない。

新婚ほやほやの同僚の奥さん――彼女もまた謎が多く、個性的かつ強烈なキャラクターで王宮内の注目を集める人間の一人だ。

普段うちの職場へおしかけてはデロデロに旦那へ甘える姿ばかり見ているため、公式の場で凛々しく王女を護衛する姿を見ると同一人物なのが未だに信じられない。

そんな彼女と何故結婚したんだと思ってしまうほど普段はそっけない態度ばかり取る同僚だが、実際はこちらも相当惚れこんでいたらしい。

「まあ、アイツのために命捨てる覚悟できるくらいだしな」

意外だ、と伝えると苦笑しながらそう言われた。

訳アリそうな二人の過去は知らないが、王宮勤めをするに至った経緯のどこかで何かあったのかもしれない。

なんと言うか、ご馳走様な夜だった。


「ルイン~!お昼ごはん食べよっ」

「仕事はどうした嫁」

「継続中!だから姫様とその旦那も一緒」

「このクソボケ嫁がぁぁぁぁぁ!!!!!!」

あれ、やっぱあの夜の話は幻聴だったんじゃね?――そう思わずにはいられない怒号が今日も作業塔に響き渡る。

だがしかし今はそれどころではない。

同僚の嫁がなんと王女様と勇者イリアを引き連れてやってきたらしい。

一刻も早くこの部屋を立ち去らねば面倒事に巻き込まれるのは間違いない。

「なあルイン」

「アベル?」

「俺たちは食堂行くから終わったら連絡くれ」

「な――アベル、それに先輩達も俺を見捨てるつもりですか」

信じられないという表情でこちらに視線を向ける同僚が今日も今日とて不憫でならないが、しかし自分が一番な俺も先輩達もただただ無慈悲な笑みを返す。

「いつものことじゃん?」

「なー。まあ頑張って生きろ」

「じゃあな~」

ぞろぞろと作業室を出る俺達は入れかわる形でいそいそと部屋に入っていく王女様とげんなり顔の勇者に恭しく頭を下げた。

「あ、向こうからこっちに来てるのってサリエ様じゃね」

「騎士団長のガイル様も一緒ですね」

「ルイン……お前の勇姿は忘れないぜ…」

「「「「あっはっは」」」」

この裏切り者―――そんな絶叫が後ろから聞こえた気がしたが、まあ気のせいだろうと俺達はのらりくらりと今日も食堂へ向かうのであった。


俺の名前はアベル。

前世の記憶というオプション持ちの王宮薬師見習いだ。

それはさておき、今日の昼食は食堂のスペシャル定食にしようと思う。

久々に書き終わったネタがこれだった\(^p^)/


ルインはモテるというよりは周囲に構ってもらいたい人が多い感じです。主に子供とおじさん世代。

王宮勤めの件は本意じゃないしガラでもないけど仕事自体は楽しいしイリアのお願いだしでなんだかんだで続けてる状況です。

アベルとはお互いただの同僚な間柄ですがそこそこ仲はいいんじゃないかなと思います。

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