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第一話 とある勇者のプロポーズ(前編)

罵倒系毒舌高血圧ヒーローと猪突猛進あとで後悔型ヒロイン中心のなんちゃってラブコメです。


(2016/9/25)

改訂版と差し替えました。全三話→前後編、ニュアンスなどが若干変わってますが流れは一緒です。

とある休日の城下町、そこではとある勇者のとある魔王討伐を祝したパレードが催されるため朝っぱらからかつてないほど賑わっていた。

まあ気持ちは分からんでもないと薬師の青年・ルインがぼんやり店内から眺めていると、そんな彼にも聞こえるくらい大きな声でその噂はやってきた。


「ねえ知ってる?王女様に勇者様がプロポーズしたんだって!」


「――は?」

その噂を耳にした瞬間、青年はだらしない体勢のまま凍りついた。

「…いやいや、まてまて」

一体どういう事なのか。

彼の記憶違いでなければ勇者は、彼の幼馴染みでもあるイリア・ラングレンという人物の性別は女である筈だ。

ありえない筈の噂を詳しく確認するべく店の入り口へ視線を移すと、丁度そのタイミングで勢いよく扉が開かれた。

「ルイン!ルイン助けてええ!」

まるで子供の様に半泣き状態で店に乱入してきたのは、中性的な容姿だがどちらかと言えばギリギリ男だろう細マッチョの美少年。

単純に記憶を辿れば初対面の筈のその少年は、しかしどこか懐かしい。

そしてルインの人生の中で一人だけ、その燃える様な赤髪と、何より凛々しさの欠片も無い甘えたな性格に心当たりがある人物がいた。


「…イリアなのか?」

「そうだよ!キミの幼馴染のイリア・ラングレンだよぉ…」

まさか、と思いつつもルインが問いかけた言葉に、目の前の少年は記憶の中のそれよりもやや低い声で泣きべそをかきながら肯定した。

確かにその様や口調、雰囲気はルインの知る幼馴染みのイリアそのものだが、どちらかと言えばギリギリ女だった以前とは明らかに風貌か違う。

「どういう事だ?」

イマイチ状況を飲み込めないルインに少年――イリアは一瞬躊躇った後、静かに言葉を続けた。

「見ての通り本当に男の子になっちゃった。このままだと戻れないかもしれない助けてルイン…」

そうして力なく床に座り込んだ彼女とルインの間に沈黙が降りる。

――とりあえず、店を閉めるか。

そう決めた彼はテキパキと閉店作業を済ませると、しょぼくれた勇者を抱え込み店の奥の住居スペースへ移動することにした。


◆ ◆ ◆


イリア・ラングレンは城下町では結構有名な剣術道場の一人娘だ。

彼女の父親自身が王宮で勤めた事はないが、道場の出身者達が「またあそこの道場か」と言われる程度には功績上げている、らしい。

そんな道場で誰よりもスパルタ教育を受け、この数年は誰よりも――流石に純粋な力で押しきられると厳しいため無敗ではないが――強かったのがイリアだった。


そんな彼女がある日、城下町の広場でやっていた催しに顔を出しうっかりその場で聖剣を引き抜いた。

聖剣には不思議な力が宿っており、彼女の短所だったパワー不足を見事にカバーしただけではなく、長所だった魔法剣の威力が格段に上がり。そうしてルインの幼馴染みは国内最強の勇者様として魔王討伐の旅に出向くハメになったのだ。それが一年前の話である。


「…じゃあ旅の中盤からその格好のままなのか」

「うん…」

あれから数分後、ルインが淹れたリラックス効果のあるお茶とイリアが手土産として持ってきた甘い焼き菓子でお互い少しは落ち着いついたかと言うところで二人は話を再開した。

――再開はしたのだが、イリアの口から語られる内容の突飛さにルインの眉間の皺は見る見るうちに深くなっていた。

「つまり魔王の部下に性別転換出来る奴がいた。けれど元々男装していたお前は相手の意図に反して本当の男になった。そうしたら元の状態の時より強くなって敵をアッサリ倒せた―ここまではいい。ここまでは」

「うん」

「で、なんで折角敵を倒して解けた筈の呪いを今度は味方から受けてんだよ」

「あ、いや魔王の部下のは呪術で、サリエがしたのは黒魔術だから正確には同じ術じゃな――」

「んなもんどうだっていい」

「デスヨネ」

つまりその後の顛末はこうだ。

イリアは今回あえて男に扮して旅をしていたため、一部の身内および国の上層部しか勇者が女だとは知らない事だった。

そして彼女の正体を知らない姫君は、男装姿のイリアに惚れてしまったのだ。

「勇者様一行でも一目おかれる癒しの賢者なんじゃなかったのかその姫様」

「いや、姫様はすごい治癒術の使い手だし頭も冴えてる御方だよ!ただ恋愛に関しては結構ロマンチストってだけで…」

「ハッ、恋は盲目とはよく言ったもんだな」

思わず鼻で笑うルインにイリアが不謹慎だぞと睨む。


「それでこの世の春を謳歌してる姫様の初恋を旅の途中でぶっ壊すとフォローが面倒くさいし、旅を早く終わらせるために効率がいいとか何とか他の奴らに唆されてご丁寧に姫様の騎士演じたってバカだろ。何で裏で手ェ回して他の奴に目移りさせなかったんだよ」

「なるほど!」

その手があったか!と目から鱗を放出させる幼馴染にルインの口から本日何度目か分からない溜息が出る。

「昔から少しは物事考えてから行動しろって散々言ってきただろ。流されてんじゃねーぞバカ」

「いや、うん、仰る通りで…」

まるで叱られた犬の様にシュンとうなだれる彼女の頭にルインは手を乗せる。

「素直に反省するバカは撫でてやらんこともない」

「あ、ありがたき幸せ…」

などと宣いながら気持ちが浮上したのか多少マシになったイリアの間抜け面に安堵したルインは、それを悟られぬよう彼女にデコピンをお見舞いした。

「いたッ」

「次はもっとマシな行動取れよこの阿呆」


さて、それではこれからどうするかと言う話なのだが、正直詰んでるなというのがルインの見解だった。

英雄との結婚に乗り気な姫に事情を知らない者は歓喜し、知ってる者は知ってる者でも「もうそのまま男として生きてきゃいーじゃん」状態なのだ。

「所詮寄せ集め勇者一行じゃむさ苦しい固い絆は生まれなかったか」

「平民勇者大ピンチだよ…。そ、それでね」

項垂れる彼女が、それでも何かを伝えようとしたその時、店の外から聞こえていた歓声が一際盛り上がりだす。

パレードの本隊が今まさに手前の大通りを通過しようとしているのだろう。

凱旋パレードの本隊、つまり勇者一行が。

「今更だけど凱旋パレード出なくて大丈夫なのか?」

「あ、うん。…許可は貰ってると言うか、貰っちゃったと言うか…まあ、いずれにせよ影武者のクラウスが上手いことやってくれてる、と思う」

「ああ、男装勇者の代わりに道中の公式行事全部出てくれたって言うあの」

「うん…」

「で、“貰っちゃった”ってどう言う事だよ」

「う゛っ」

イリアの説明の中で引っかかったそれを指摘すると、彼女は見事に顔を引きつらせる。

嫌な予感しかしない。そう思いつつもイリアの言葉を待つルインに、彼女は数回口の開閉を繰り返した後、盛大に爆弾をぶちまけた。


「ねえルイン、結婚しよう!」

「………は?」

「結婚、いや、婚約だけでもいい。少しの間でいいから結婚前提に恋人になって下さいお願いします」

「…………」

突然何を言い出すんだこのバカは。色ボケ姫に当てられでもしたのか?――などと冷めた視線を向けるルインにイリアは非常に気まずそうに言葉を続けた。

「実は、そのう…結構な人の前で、姫様に“ルインという将来を約束した人がいる”って言っちゃって…」

「つまり最初にお前が言った“助けて”の意味は要するに」

「偽装婚約者として、姫様との結婚を断るの手伝って下さいッ!」

そうして勢いのまま土下座する彼女に、それまで思案を巡らせていた打開策を全てぶち壊された青年は一年振りに本格的な説教を始める事にした。

「こっっンのクソバカ脳筋勇者がーーー!」


そんな経緯で、城下町のしがない薬師でしかなかったルイン・ハーゲントは幼馴染みにして勇者のイリア・ラングレンに連れられ、一生縁のない場所だっただろう城まで勇者の偽装婚約者として馳せ参じるハメになったのであった。


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