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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
6/52

神と戦う者達の決意

真の試合の観戦、その裏で行われる神との戦い。ヤヤは勝てるのか?

「『名も無き荒神アラガミ』を封印する巫女?」

 真の試合を見るため、電車で移動している途中に事情を聞いた較が驚いた顔をして聞き返す。

 無言で頷き返す蛍。

「ヤヤが知ってるって事は有名なの?」

 良美の言葉に首を横に振る較。

「有名じゃないよ。思いっきりマイナーでも八刃の人間の中だけだったら高名だよ。神殺しの専門家の神谷の本家の人間、数人が命を捨てる事でようやく封印を出来る状態にした上位異邪だって」

「その話しは私達にも伝わっています。人との調和を重んじた和御魂ニギミタマと違い、人を滅ぼそうとした荒御魂アラミダマの暴挙で当時の都が滅びかけた時、神殺しの業を背負った一族、神谷の人間がその命と引き換えに沈め、我等の一族が封印したと」

 手を上げる小較。

「ヤヤお姉ちゃん和御魂って何?」

 較が応援グッズの団扇の片面を見せながら解説を始める。

「古来の日本の神様には二面の顔があると言われてるの。温和な和御魂と荒々しい荒御魂」

 団扇を裏返しながら較は説明を続ける。

「八刃の研究によれば、これにはいくつかのパターンがあって、一番あるのは、受け取る側が違う事で、荒々しく捉えられる場合と大人しく捉えられる場合があるという、同一型。他には、単なる二重人格なだけなんて神様も居たらしい」

「問題の奴もそれなの?」

 良美の言葉に較が首を横に振る。

「あれは、特例中の特例。同じ世界の存在が二柱来ていて、片方が温和だったけど、もう一方が暴挙に出たんだよ」

「伝承ではまったく同じ姿をしていたとありますが?」

 蛍の質問に較が答える。

「問題の神様は、精神体で、器になれる人間が少なく、交互に同じ人間に憑依してただけだよ。それだからこそ、目を潰し、耳を潰し、鼻を潰し、舌を抜いた巫女に強制憑依させて封印するなんて真似を続けているんだよ」

 その言葉に今まで黙っていた健太が怒鳴る。

「まさか蛍をそんな目にあわせるって言うのか!」

 蛍が否定しないのを確認して較が答える。

「一応本人も了解済みって感じだね」

 健太が蛍に詰め寄る。

「そんな事は止めろ!」

 蛍はまっすぐな瞳で返す。

「これは誰かがやらないといけないことです。その誰かが私なのです」

 悔しそうな顔をする健太。

 そんな二人を見て良美が怒鳴る。

「そんなの間違ってる!」

「しかし、そうしなければ大きな被害がでます」

 蛍の正論を較が頷く。

「その可能性は高いね」

「ヤヤはそれで良いの?」

 睨む良美に較はあっさり言う。

「あちきだったらヨシや小較が生贄になるなんて知ったら、そいつを滅ぼすよ」

 その答えに一切の妥協は無かった。

「それは貴女が強いから言える言葉です!」

 蛍が感情的に反論するが較が断言する。

「あちきは自分より強い相手でも対応は変わらない。問題は一つ、それが譲れない物かどうかって事」

「俺は蛍がそんな目にあうなんて認めねー!」

 健太の言葉に良美も頷く。

「当然、あたしもそんなやり方は、嫌だよ」

 小較が自分の顔色を窺っていると気付き較が言う。

「答えは出さなくて良いよ。こんな判断はその時々変わる。自分にとって決断しなければいけない時に決断すれば良い。今回の当事者は蛍ちゃんと健太さんの二人。その二人がどう思うかだよ」

 自分を見る較に蛍は何も答えられない。

「蛍! お前は、本当にそれで良いのか!」

 戸惑いながらも蛍が答える。

「私一人の為に大勢の人間を危険に晒す事は出来ません」

 健太が更に詰め寄ろうとした時、較が告げる。

「もうすぐ着くよ」

 そしてこの話しは有耶無耶になった。



「来てくれたか」

 空手家の大鳥オオトリマコトの控え室に較達は来ていた。

「お前達、大鳥選手と知り合いだったのか?」

 健太が驚いた顔をする。

「以前、そこのヤヤに完膚なきまでにやられた」

 真の言葉に、控え室がざわめく。

 真の後輩の人間が信じられないという顔をして言う。

「冗談でしょ?」

 首を横に振る真。

「本当だ。ヤヤは、裏世界では有名で、ノンデッドクラッシャーと呼ばれ。対戦した相手を二度とベッドから起き上がれなくするって言われてる」

 頬を掻く較に畏怖の眼差しが集まる。

「とにかくがんばってくださいね」

 良美の言葉に頷く真。

「ああ、最高の戦いを見せる」

 そう断言して試合場に向かう真を見送ってから、較達は会場に向かったが途中、較が少し周囲を窺ってから言う。

「少し野暮用が出来たから、先に行ってて」

「早く来るんだぞ!」

 良美の言葉に手を振りながら較は、外に出た。

「野暮用とは、何でしょうか?」

 蛍の言葉に良美が苦笑して言う。

「さっきの奴等が来たんだよ。ヤヤはあたし達に真さんの試合を見せる為に出て行ったんだよ」

 意外な答えに驚く蛍と健太。

「どうしてそんな事をしてくれるんだ?」

 健太の質問に良美が言う。

「貴方達が真さんの試合をどうしても見たいと思っていて、あたしがそれを応援したいから。それ以外に理由は無いと思うよ」

「信じられません。較さんは、私の事は、気にしていないと思っていました」

 肩を竦める良美。

「ヤヤは、自分で動こうとしない人間は、好きじゃないから。なんでも八百刃様の教えらしいよ。まーあの卵料理狂いの教えがどれだけ正しいかしらないけどね」

「だったら尚更です。私は巫女としての役目を全うするつもりです」

 蛍の言葉に、良美が言う。

「でもこの試合だけは健太と見るんでしょ? その為に抜け出して来た意思を護ろうとしてるんだよ」

「俺は手伝いに行く!」

 健太が外に出ようとするが良美が止める。

「あたし達がやるべきは真さんの試合を見ること。そうしないとヤヤが態々動いてる意味が無いよ」

「しかし、一人では危険ではないですか?」

 蛍が戸惑うが良美が断言する。

「ヤヤは戻ってくると言った。ヤヤは絶対に約束を護るよ」

 その言葉に蛍も健太も何も言い返せなかった。



 周りの人間が真の試合会場に向かう中、較は一人、人気の無い公園に移動していた。

「会場に行きたかったらあちきを倒さないと駄目だよ」

 その言葉に答える様に蜂が現れる。

「八刃は不干渉では無いのですか?」

 予測通りの答えに較は苦笑して言う。

「基本的にね。でも例外は、ある。例えば必死に貫こうとする個人的な思い。それを無視してまでルールを護るほどあちきは、大人じゃないよ」

「貴女は八刃の盟主、白風の次期長だ。貴女は必要以上の干渉をすると言う事の意味は解っているのですか?」

 蜂の言葉に較は強く頷く。

「大問題になるね。だから何? 勘違いしてるみたいだけどあちき達は、ルールを護る為に戦ってる訳じゃない。護りたいものを護りたいから。護りたいものを護らないでルールを護るなんて考えは少なくともあちきには無いよ」

 較と蜂の間に緊張が走る。

「どうしてもひきませんか?」

「試合は終わるまでは引かないよ。逆言えば試合は終われば通しても構わない」

 その言葉に蜂が首を横に振る。

「一刻の猶予も無いのです。押し通ります」

 いっきに詰め寄る蜂。

 較は大きく後退して、両手を振る。

『ダブルヘルコンドル』

 較の両手から放たれたカマイタチが茂みに潜んでいた男達を倒す。

「解っていたのですか?」

 蜂の言葉に頷く較。

「貴方に気付く前からね。都会で気配を隠す時は、気配を消してはいけないって常識も知らないレベルじゃね」

「我々はこの様な都会での戦闘を想定していません」

 蜂の反論も納得が出来たが較は苦笑する。

「だったら、都会まで蛍ちゃんを逃がした時点で敗北決定ね」

 返す言葉を無くす蜂だったが、言葉のやり取りを諦めたのか、大きく深呼吸をして詠唱を始める。

『偉大なる我等の導き手、貴方様の意思を、我が身を使い、御示し下さい』

 蜂の気配が一変した。

『汝は自分がどれほど愚かな事をしているのか理解していないな』

 蜂の口は動いていない、較の心に直接それは話しかけて来た。

 較は額に流れる冷や汗を拭い答える。

「蛍ちゃんの血縁だったら、神降ろし出来てもおかしくないか。幾つか聞いて良いですか?」

『答えよう』

 蛍に宿る神に較が頭を下げて言う。

「感謝します。貴方は『名も無き荒神』の和御魂、同世界から来た者ですね?」

 蜂に宿る神は頷く。

『その通りだ。我はあれを封じる為、この地に留まり、この者達に力となっている』

「予想はされていたのですが、やっぱり『名も無き荒神』は、貴方の世界の重罪人で、この世界に島送りになったのですね?」

 較の予想を蜂に宿る神は、肯定した。

『その通りだ。この世界の住民には悪い事をしている。しかし、こうするしか方法が無かったのだ。我々は肉体を持たぬ故に永遠に存在し続ける。この世界のように遠い世界に送るしか真に排除する事は出来ないのだ』

「身勝手って思いますが、それはこの際おいておきます。問題は貴方を降ろしたその者の意思が何時まで保つかです」

 嫌悪感を隠しながらした較の質問に蜂に宿る神が答える。

『もう手遅れだ、我を降ろした以上、我が意思が消えぬ限り、この者は意思が再び覚醒する事はない』

 大きな溜息を吐く較。

「本当に馬鹿だね」

『力なき者が嘲るのか?』

 蜂に宿る神を睨み返しながら較が答える。

「はい。自分の力が足らないなど、安易考えて、自分を捨てる様な馬鹿な男は、叩き起こして理解させる必要があります」

 蜂に宿る神がその手を振り上げる。

『出来ると思ってか!』

 振り下ろされる手刀から、物凄い突風が発生して較を襲う。

 較は大きく横に飛び退くが、衝撃波は、容易に較を吹っ飛ばす。

『イカロス』

 慣性をコントロールして、空中で体勢を整える較を見ながら蜂に宿る神が告げる。

『多少は意思の力を操れるようだが、我等の力に勝てるつもりか?』

 それが、軽く手を扇ぐだけで、竜巻が発生し、較を巻き込もうとする。

『タイタンキック』

 較の蹴りが地面を抉り、その土を竜巻が巻き込み、視界を殺す。

『無駄だ、我が力はクウなり。我が空の前には、全てのものがその身をユダねている』

 周囲を探る蜂に宿る神。

 しかし、較の気配が完全に消えていた。

『馬鹿な何処に隠れたと言うのだ?』

『サンドワーム』

 地面が盛り上がり、蜂に宿る神を襲う。

『この程度の力など我には通用しない』

 言葉通り、盛り上がった地面はすぐさま押し戻される。

『トール』

 その詠唱に反応して蜂に宿る神が上を見た時は、手遅れであった。

 較の雷撃が篭った踵落しが蜂に宿る神に直撃する。

『まだだ!』

 圧倒的な力を持つそれは、周囲の空の力を一点に集める。

『この一撃をお前はかわせるか!』

 苦笑する較。

「食らう前にこっちが攻撃すれば大丈夫ですよ」

 一気に間合いを詰めた較のアッパーが蜂の顎に当たる。

『バハムートファング』

 強烈な気が、蜂に宿る神の力を一時的に減退させ、同時に神降ろしを行った蜂の魂を覚醒させた。

『たかが人間に?』

 消えていく蜂に宿る神。



「体は大丈夫?」

 較に膝枕されていた蜂が愕然とした顔で言う。

「まさか神に打ち勝ったのか?」

 較はあっさり首を横に振る。

「『名も無き荒神』って上位異邪イジャの和御魂が本気出せば、この東京なんて壊滅しますよ。そんなのと正面からやり合う気なんてしませんよ。あちきがやったのは戦闘しなれてない相手を挑発して、本気を出す準備をさせて、出来た隙を突いただけ。元々神降ろしに適してない蜂さんとのリンクを断ち切るなんて結構楽だったですよ」

 言葉を無くす蜂。

「自分より強い奴なんていくらでも居る。どうしようもない力がある奴も。それに対抗する方法は、強い意思を持って諦めない事だけなんだよ」

 較は蜂を背負い言う。

「それじゃあ試合会場に行くけど問題ないよね?」

 意外な言葉に蜂が驚く。

「どうしてですか?」

 較は近くの時計を指差して言う。

「もう直ぐ試合が終わるよ。そうしたら蛍ちゃんも自分の意思で戻るって言ってる。あちきは自分の意思で戻るんだったら邪魔しないよ。まー気が変わってたら別ですけどね」

「蛍には、巫女としての覚悟があります」

 蜂は、少し辛そうに呟いた。



 真が自分の倍の体重がある外国人選手の猛攻に耐えていた。

「どうしてあんな無茶をするのでしょうか?」

 観客席の蛍が呟く。

「真さんが選んだ道だからだよ」

 良美の答えに健太が言う。

「選んだってどういう意味だよ?」

 良美が真の姿から目を逸らさず答える。

「真さんは、最強を目指していた。天国にいる母親に会った時に間違いなく強くなったって伝える為に」

 意外な言葉に蛍が驚く。

「でもそれは駄目だった。ヤヤに完敗した。それでその時ヤヤが言ったの。最強なんて自分ひとりにしか意味が無い。目指すんだったら最高を目指せって」

 健太は眉間に皺を寄せて言う。

「それって違うのか?」

 良美も首を傾げながら答える。

「最強は相対的なもんで、最高は絶対的なもんだって、ヤヤが答えてたっけ」

 健太も悩みだす中、蛍が一人理解する。

「言いたい事は解ります。だからこそ、こんな無謀な戦いをする必要が無いのでは?」

 良美が首を横に振る。

「だからこそだと思う。最高の意味をどれだけ高められるか。それが真さんにとって一番大切なことだと思う」

「正直あちきには解らない感覚だけどね」

 その声に振り返ると較が居た。蛍はその背中にいる蜂を見て驚く。

「遅いよ、ヤヤ」

 良美が普通にクレームを言うが、健太が蜂を睨みながら怒鳴る。

「何のつもりだ、そいつは蛍を生贄にしようとしてる奴だぞ!」

 較は頷き言う。

「そうだね。でもあちきがこの試合が終わるまでは何もさせないよ」

 自分の方を意味ありげに見る較に頭を下げる蛍。

「ありがとうございます。それだけで結構です」

 健太が文句を言おうとした時、良美が大声を出す。

「試合が決まるよ!」

 全員の視線が試合場に集まる。

 相手の猛攻を耐え切った真の必殺の回し蹴りが相手選手の顎にクリーンヒットして一撃でダウンさせた。



 試合が終わり座席を後にした較たちは、人気の無い通路に移った。

「小較。近くにだれも来ないように見張っていて」

「了解」

 較の指示に小較が通路の出口に向かった。

「戻り、巫女の役目を全うします」

 蛍の言葉にようやく自分一人で立てるようになった蜂が頷く。

「時間はあまりない。急ぐぞ」

「はい」

 大人しく頷く蛍に健太が怒鳴る。

「どうして蛍が生贄にならないと行けないんだ!」

「誰かがやらないといけないことなの」

 諭すように蛍が言った。

 何か言おうとする良美を較が口を塞ぐ。

「俺は認めない! 蛍が犠牲にならなければ護れない世界なんて!」

 健太の言葉に蛍が驚き、蜂が反論する。

「何も犠牲にしないで護れる世界などないのだ」

「それでも、そんな世界を認めない」

 健太の言葉に戸惑う蛍。

 そして較が良美の拘束を解く。

「なんで諦めるの! 戦えば良いじゃない! 相手が化け物だからって生贄を出すなんて相手に屈服してる以外の何者でもないよ!」

「万が一開放されたら沢山の人間が死ぬ。そんな危険な真似は出来ない」

 蜂の言葉に較が言う。

「あちきが強い理由って解る?」

「そういう血筋だからだ」

 蜂の言葉に較が余裕の笑みを浮かべて言う。

「さっきも言ったよ、強い意志を持ってるから神にも対抗出来ると。その強い意志は、世界平和なんて建前じゃ手に入らないよ。本当に助けたい人が居て、初めて手に入れられる力だよ。貴方達にそれはある?」

 蛍は健太を見る。

 その視線が全てを物語っていた。

「だったら相手の意思も少しは考えなよ、真実を知った以上健太は、生き残っても幸せにはなれないよ」

 較の言葉に健太は頷く。

「俺は絶対お前を犠牲にした奴等を許さない!」

 戸惑う蛍を見ながら蜂が言う。

「しかし他に手は無い。倒す方法等ないのだ」

 較は自分の右手を見せて言う。

「少し反則だけど一つだけ方法がある。あちきの右手の力を使えば、上位異邪でも滅ぼせるよ」

 蜂は首を横に振る。

「貴女が強いのは知っています。しかし『名も無き荒神』はあの和御魂より数段強い力を持っています。人の力が通用する相手ではありません」

 頷く較が続ける。

「だから、あちきの右手の力を使うの。最上級神、八百刃様の第一の八百刃獣、白牙様の力を。あちきの右手は白牙様の力に浸食されてるから、一時的に開放して滅ぼす」

 少し思案して蛍が言う。

「それは、もしかして物凄く危険な事では無いのですか?」

 あっさり頷く較。

「あちきが八百刃様の力を借りて封じてるだけで、万が一暴走すれば、地球くらい無くなる可能性大だよ」

「そんな危険な真似が出来まるか!」

 蜂の言葉に較が答える。

「でも上手く行けば蛍ちゃんは救えるよ」

 その一言に健太が言う。

「だったらやろうぜ!」

「失敗したときの被害が大きすぎる!」

 蜂が反論し、蛍も頷くが良美が怒鳴り返す。

「失敗する事を考えるから間違いなのよ! 成功する事を考えて精一杯がんばれば良いじゃない!」

 戸惑う蜂と蛍に較が言う。

「選択するのは蛍ちゃんだよ」

 蛍が全員の顔を見回し、最後に健太の顔を見る。

「森田くんと一緒に生きたい」

 その一言で全てが決定した。

「それじゃあ行こうかヤヤ」

 良美が軽く言うと較が溜息を吐く。

「これでまた呼び出しうけるんだろうな」

「私の為にすいません」

 頭を下げる蛍。

 そして移動を開始する較達に何も言えずに居た蜂。

「無理しなくても良いよ。あちきに負けて、動けなかった。それで言い訳にはなるでしょ?」

 苦笑して蜂が言う。

「私も見たくなった、蛍と一緒に生きる明日を」

 一緒に並ぶ蜂。

「兄上」

 蛍が嬉しそうな顔をする。

 そんな較達の前に小較とその両脇に男女が立っていた。

「これから『名も無き荒神』がいる所に向かうのね?」

 そういったのは、鋭いイメージを持った女性。

「待ちくたびれたな」

 逆の方に立つ刀を持った男の鋭き気配に蜂が構える。

「何者だ?」

 その答えは隣の較から返ってきた。

一文字イチモンジ剣一郎ケンイチロウ千夜チヤさん。千夜さんは元神谷の次期長。多分そっちが八刃にあちきの事で出した抗議で今回の事件をしって送ってきたんでしょ」

 その言葉に鋭いイメージを持った女性が頷く。

「そうよ。父の、神谷の長の意思で動いているわ」

「多くの犠牲を払った神谷、封印を護る為に人を送って来たのか?」

 前に出る蜂。

「ここは私が盾になる。蛍の事を頼みます」

 較は首を横に振る。

「残念だけど、その千夜さんだけでなく剣一郎も居る以上、あちきでも逃げるのは無理だよ」

 蜂が精一杯の思いを込めて言う。

「お願いです。邪魔をしないで下さい!」

 剣一郎は首を横にふり言う。

「残念だが、そうは行かない。お前達の思い通りにさせる訳にはな」

 次の瞬間、蜂が吹き飛ぶ。

「大したものね、ダーリンの一撃を感じ暫撃を防ぐなんて」

 蛍が困惑する。

「何が起こったのですか?」

 良美が答える。

「剣一郎は、間合いを無視した居合いが出来るの。あの二人に勝てる?」

 良美の言葉に較はあっさり首を横に振った。

「無理。剣一郎もオーフェンハンターとして連戦を続けて実力が格段アップしてる上、千夜さんはあちきより数段上にいる人だもん」

「そんな……」

 絶望を感じる蛍を庇うように立つ健太。

「絶対蛍は護る」



 較でも勝てない二人組みが較達の前に立った。

 較達は無事、『名も無き荒神』の元に向かえるのであろうか?

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