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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
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戦いは望まなくてもやってくる

ミサラ王国の事件の事後処理の為の八刃の会議の間にも新たな火種が

「今日はヤヤさんと一緒に帰らないんですか?」

 学校からの帰り道、エアーナが言うとつまらなそうに良美が答える。

「ヤヤって、お偉いさんに呼び出し食らってる」

「お偉いさんって?」

 エアーナが聞き返す。

「なんでも八刃の上層部らしいよ」

 良美の言葉にエアーナが首をかしげながら言う。

「人外のお偉いさんですかー。あまり想像できませんね」

「意外と普通だぞ、普段は」

 良美の言葉にエアーナは気になって確認する。

「普段はってどういう意味ですか?」

 良美が学校のグラウンドを見て言う。

「あそこって一度完全崩壊したんだよ」

 首を傾げるエアーナ。

「どうしてですか?」

 普通に良美が答える。

「ヤヤのお父さん、白風の長が戦闘して超高熱で融解したから」

 暫く沈黙した後エアーナが言う。

「それはどういう冗談ですか?」

「単なる真実、智代達に聞けば、謎のグラウンド破壊事件って教えてくれるよ」

 何も言えなくなるエアーナに一人の男子がぶつかる。

「邪魔だ、どけ!」

 そう言った男子にむっとしたのか良美がその男子のタックルをかます。

「何しやがる!」

「それはこっちの台詞だよ! ぶつかっておいて謝罪も無いなんて、何を考えてるの!」

 良美の文句に、少年が連れていた、儚げな雰囲気な少女が頭を下げる。

「すいません。でも、今は急いでいるのです」

 その時、数人の男が良美達を囲む。

「蛍様、お戻り下さい」

 男達が儚げな雰囲気の少女を見ているのを確認して良美が言う。

「こいつ等が追手な訳だね? それでもぶつかったら謝罪するのが当然だよ。そこの男子!」

 良美の場違いな突っ込みにその男子は苛立ちながら怒鳴る。

「状況を考えろ! 今はそんな事をしてる場合じゃないだろうが!」

 しかし、良美も負けていない。

「どんな状況だろうと通すべき筋ってあるんだよ!」

 にらみ合う二人を後ろに、蛍が言う。

「もう少しだけ待ってくださいませんか? 森田くんとの約束を果たしたら必ず戻ります」

 その言葉に、男達が躊躇するが、後ろからだらしないがどこか尖った雰囲気を持つ男が出てきて言う。

「残念だけどよ、そのガキと盛った後じゃ困るんだよ、荒神を封じる人柱としてはな!」

「蛍は絶対に俺が護る!」

 竹刀と抜き出して構える森田と呼ばれた少年。

「森田くん止めて!」

 蛍と呼ばれた少女が止めようとするがその前に森田少年は竹刀で叩きに行く。

 尖った雰囲気を持った男が手で複雑な印をきる。(きるとは、この場合、連続して複雑な形を組む事だと思って下さい)

『風神の舞』

 突風が発生して、森田少年を吹っ飛ばす。

「一般人は引っ込んでな」

 尖った雰囲気を持った男がそう言って、蛍に近づく。

「さあ、おとなしくついて来いよ」

 蛍が森田少年を気にする様子を見せながらも何かを決心するように近づこうとした時、良美が前に立つ。

「あんた最低だね。蛍って言うんだよね? 逃げるから準備して。そっちの男子も遅れるんじゃないよ!」

 良美の言葉に尖った雰囲気を持った男が爆笑する。

「逃げるだって、お前らの常識が通じると思うなよ」

 その時、良美がかばんについていた虎のぬいぐるみを外して投げつける。

「いけーミニ白牙ビャクガ

 蛍を引っ張って駆け出す良美。

 エアーナも森田少年を助けて駆け出す。

「かわいいね。こんなぬいぐるみが足止めになるなんて思うなんて」

 尖った雰囲気を持った男がぬいぐるみを弾こうとした時、ぬいぐるみの口が開いた。

 とっさに手に持っていたリュックで防ぐが、あっさり噛み切られる。

「馬鹿な、あんなガキが式神を使うっていうのか! お前らぼーとしてないで追え!」

 しかし、追いかけようとする男達の前にミニ白牙が立ちふさがる。

「何なんだ、あいつ等は?」



「あのー席を変更しませんか?」

 八刃の重要会議が行われる会議室で一番の上座に座らされた較が言うと、一番の下座に座る、年輪を感じさせる老人が言う。

「この座席順は、古くからの決まりだ。一番の上座は盟主、白風の代表が座り、敵との距離が近い順に、神谷カミヤ萌野モエノ霧流キリナガレ遠糸エンシ谷走タニバシリ百母モモモそして、我ら間結マムスビと」

 間結の長、間結陽炎カゲロウの言葉に較が溜息を吐き小声で呟く。

「年上の人間の上座に座る人間の気持ちも考えて欲しいよ」

「何か言ったか?」

 陽炎の言葉に較は作り笑顔で答える。

「気にされる事ではありません」

「遅れてすいません。子供達のご飯を用意していたもので」

 そこに人の良さそうな女性、霧流の長の妻、霧流八子ハチコが入ってくる。

 八子が席に座ったのを確認して、執事ルックの渋めな中年、谷走の長、谷走湖月コゲツが言う。

「全員揃ったので始めます。今回の招集は、ミサラ王国の一件についてです。当事者の白風の次期長、お願いします」

 較は注目される中、立ち上がって言う。

「こちらの予想通り、オーフェンが関っていました。ミサラ王国に封じられたミスリルの魔王を復活させようしていましたが、阻止は成功しました。しかしその作戦を実行していた敵の六頭首の一人、メイダラスには逃げられました」

 それを聞いて、老人なのに強い覇気を感じさせる男性、萌野の長、萌野勇一ユウイチが言う。

「だから多少強引でも我ら八刃が直接動くべきだったのだ、わしがその場に居たら、奴らの幹部を減らせたものを」

 それに同意するように、もう孫も居るって言うのに四十位にしか見えない優しげな表情の男性、百母の長、百母西瓜スイカが言う。

「確かに、敵の幹部だとしたら、直系が動くには十分な理由でしたね」

 暗に自分が戦いたかった事が解る口調に、山の様な安定感を感じさせるこの中では若い方に入る男性、神谷の長、神谷夕一ユウイチが釘をさす。

「百母の長には、東京を守護する役目があるので離れて頂く訳にはいきません」

 軽く溜息を吐く、百母の長。

「テリトリーに来なければ私が戦えないのは、辛いね」

 その中、凛とした雰囲気持った老女、遠糸の長、遠糸翼ツバサが言う。

「今回、白風の次期長は、十分役目を果たしました。敵の幹部については、確実な事を言えなかった以上、十分な戦力を送ることは、周囲不必要な軋轢あつれきを生む事になる為、不可能です」

 その言葉に、神谷の長、谷走の長、間結の長が頷いた為、較の責任問題には、発展しない流れになった。

 事後処理についていくつか話し合いが済んで、較が安堵した時、間結の長が宣言する。

「これから今回の一番の問題を話し合う」

 いきなりの展開に、戸惑う較に視線が集まる。

 そして、谷走の長が言う。

「確認します。ミスリルの魔王を封じる時に、白牙様の力を使った事に間違いはありませんか?」

 一番の爆弾に冷や汗を垂らす較。

「情報のソースは?」

「谷走の情報収集能力を甘く見ないで下さい」

 谷走の長の言葉を較がハッタリでない事を確認して、告げる。

「はい。再封印に必要だった為、使用しました」

「正気とは思えない。暴走すればこの星すら砕ける力を魔王の力に向かって使うとは」

 間結の長の言葉に較はしっかりとした視線で答える。

「あちきは必要だと判断したので使いました。その判断に間違いはないと考えます」

 開き直りともとれる言葉に場が沈黙する。

 その沈黙を破ったのは八子だった。

「今回の白牙様の力の発動で、この世界に大きな影響は無かったわ、これは元新名の巫女の私が保証するわ。だから今回の件は不問にすると言うことでは良いのではないのですか?」

「本人の心構えを問題にしている!」

 萌野の長の言葉に、翼がお茶を啜りながら言う。

「長なのに不必要な争いを起こりかねない事を言う貴方には、言う資格はありません」

 萌野の長は、何か言い返したそうだったが、何も言わず沈黙するのを見てから間結の長が言う。

「今回問題無かったからこれからも大丈夫だという保障はない。この場に居る全員が理解しているだろう。いまこの瞬間でも白風の次期長が力の制御を誤れば最低でも日本が無くなる事を」

 誰も否定しない。

「詰まり、白風の次期長には十分な注意をしてもらい、不用意な戦闘は避けて貰いたい。次期長として配下の人間を使う事を学んで下さい」

 神谷の長の言葉に、較以外の全員が頷く。

「了解しました」

 較が頭を下げて会議が終了した。



 白風家に逃げ帰って一息吐く、良美と蛍、森田健太ケンタ

「さっきのあれは何だったのですか?」

 蛍の質問に良美が言う。

「少し前にヤオに卵をたっぷり使ったケーキを譲る条件で貰った、八百刃獣の力を封じたぬいぐるみ」

「とてもデザートと交換でもらえる物とは思えませんが?」

 戸惑う蛍に良美が言う。

「そう? あのクラスの神器だったらヤオからいっぱい貰ったよ。卵料理と引き換えに」

 沈黙する蛍。

 そこにエアーナを送ってきていた小較が戻ってきて言う。

「ちなみに言っておきますけど、良美が言っているヤオって、最上級の戦神、八百刃様の事です」

 完全に言葉を無くす蛍。

「実際問題、八百刃様自身が降臨したら、この世界なんて消し飛んでしまいますから、その端末って言っていいですね」

 小較の説明に蛍が搾り出すように言う。

「どうしてそんな高度な存在が居たのですか?」

「ヤヤお姉ちゃんが、八百刃様の高位使徒、白牙様の力を借りすぎて、侵食された為、監視に来ていた見たいです」

 冷や汗を流しながら蛍が確認する。

「それってもしかして物凄く危ない事態だったのでは?」

 その言葉には、小較も答えを躊躇していると良美があっさり言う。

「なんでもその力が暴走したら、地球くらい消し飛ぶって言ってたよ」

 深く重い沈黙がその場を支配した。

「そんな事はどうでもいいんだ! あいつらが蛍をどうしようとしてるかが問題だ!」

 健太の言葉に良美が聞き返す。

「聞いていないの?」

 その言葉にばつがわるそうな顔をして健太が言う。

「蛍が家の事情で俺と一緒に今夜の大鳥オオトリマコトさんの試合を見に行けないって言ったから無理やり連れてきただが、何故かあいつ等に襲われたんだ」

 その言葉に良美がしまったって顔をして言う。

「そうだった今日は真さんの試合の日だった。ヤヤが用事があるって言ってたんで忘れていた」

「お前も大鳥真さんのファンか?」

 うれしそうに言う健太に良美も頷く。

「当然よ、あたしは、これでも空手やってるからね。あんたこそ、剣道やってるのにどうして?」

 健太は誇らしげな顔をして言う。

「あの人の戦いには、そういった垣根を取り払った上での凄さがあるからだよ」

 頷き良美が言う。

「だったら行かないとね。ヤヤ、早く帰ってこないかな?」

 落ち着きが無い良美に蛍が言う。

「今は危険です、外には私の一族の人間が私を捕まえる為に待ち構えています。ここはおとなしくしていた方が……」

「残念だけどもう手遅れだぜ」

 その声と共に、白風家の庭にさっき襲ってきた男が居た。

蟷螂カマキリさん、お願いです、今夜だけ見逃して下さい!」

 蛍が哀願するが、その男、蟷螂は下品な笑い声を上げて言う。

「馬鹿いうんじゃねえよ、長公認の戦闘を止められっかよ!」

 良美が前に出る。

「あんた本気で性格悪いね! あんたみたいのはろくな死に方しないよ!」

「さっきと同じ手は効かないぜ」

 そう言って動きを封じたミニ白牙を放り投げる蟷螂。

 それを受け取り小較が言う。

「ヤヤお姉ちゃんの留守の間はあたしがこの家を護る!」

 また大爆笑する蟷螂。

「オムツもとれてない餓鬼が何言ってやがる」

 そう言って小較の方を向いたが、そこに小較は、居ない。

「馬鹿に付き合う気は無いよ」

 蟷螂の腹に小較の掌が当たる。

『バハムートブレス』

 吹き飛び壁に激突する蟷螂。

「馬鹿な? 貴様みたいな餓鬼がどうしてこんな力を?」

「だから油断するなと言った筈だ」

 一人の蟷螂達と同じ、どこか和風な雰囲気がある服装を着た青年が現れた。

「兄上」

 蛍の言葉に良美が言う。

「お兄ちゃんなの?」

 蛍は頷く。

「はい。兄の風院フウインハチです。蟷螂さんも親戚にあたります」

 蜂は、鋭い視線を向けて言う。

「蛍。お前は大切な名継ナツギの身、勝手が許されると思うな」

 蛍が俯きながらも答える。

「大切なお役目だとは理解しています。しかし、今夜だけお許し下さい」

 必死に頭を下げる蛍。

「例外は無い」

 近づこうとする蜂に良美が怒鳴る。

「妹の我侭聞くのが兄の度量でしょう! 許して上げなさいよ!」

「家族の縁なぞ関係ない。これは一族の決まりなのだ」

 蜂は、一切の迷いも無く断言して近づいた時、小較が迫る。

「ヤヤお姉ちゃんが居ない時に勝手な事はさせないよ!」

 いっきに間合いを詰める小較に対して蜂は冷静に半歩だけ下がり、タイミングをずらす。

「動きは早いが、実戦経験が少なすぎだ」

 蜂の手刀が小較の首筋に決まり、倒れる小較。

「小較ちゃん!」

 蛍が叫び、健太が竹刀を蜂に向けて怒鳴る。

「まだ年端もいかない子供に何してるんだよ!」

 蜂は冷静に告げる。

「まだ小さいが、この中では一番戦闘力が高い、放置は出来なかった」

 良美が頬を掻いて言う。

「あーあ、やっちゃった」

 その言葉に蜂は初めて疑問を放つ。

「この娘に傷をつけると何か問題があるのか?」

 大きく頷く良美。

「ヤヤを本気で敵にまわした事になるよ」

 その一言に答えるように蜂の背中から較の声がする。

「確かに、どんな事情があるか知らないけど、大切な妹を傷つけられてほっておけないね」

 蜂は慌てて飛びのく。

 小較の様子を確認しながら較が言う。

「小較は平気、少し気絶してるだけ」

 良美の方を向いて較が溜息を吐く。

「どうしてこー問題を拾って来るの? あちき今さっき自粛しろって釘を刺されたばっかなんだよ」

 良美が心外そうに言う。

「半分以上はヤヤがらみでしょ! あたしに責任かぶせないでよ」

 冷や汗を垂らす蜂に壁からようやく抜け出した蟷螂が怒鳴る。

「何やってるんだよ、そんな餓鬼にびびってるんじゃねえよ!」

「うるさい」

 較が瞬間的に蟷螂の横に現れる。

『バハムートブレス』

 較のそれを食らった蟷螂は、一瞬で壁にめり込み戦闘不能になる。

「お前は何だ?」

 蜂は、何者だとは聞かなかった。

「貴方達こそ、ここがどこだか解って騒いでるの?」

 その言葉に戸惑う蛍。

「あたし達は、良美さんに連れてこられて、不味かったのですか?」

 大きく溜息を吐く較。

「ヨシ、ここは、八刃の一家、白風の長の家だから、あまり揉め事を持ち込まないでって言っておいたよね?」

 その一言に、蜂と蛍の顔色が明らかに変わる。

 不思議そうな顔をする健太。

「どういう意味だ?」

 蛍が震えながら言う。

「人外八刃の盟主、白風の本家で揉め事起こしたなんてしれたら大変な事になる」

 頭を下げる蜂。

「我らが長から正式に謝罪と蛍の身の引渡し要求があると思います。今は、一時的に引かせてもらいます」

 蜂は、男達を引き連れて白風家から出ていった。

「あちきは、こーやってどんどん争い事に巻き込まれる運命なんですね八百刃様」

 困惑する周囲を見渡してから右手を見ながら較が言った。

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