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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
4/52

戦う覚悟

戦うのには、覚悟が居る。強い覚悟が

 ミサラ王国からの帰りの飛行機の座席で小較が眠そうな目を擦っていた。

「眠っておいたほうが良いよ」

 較の言葉に小較が窓の外を見て思案すると較が笑顔で言う。

「ちゃんと日の出には起こしてあげるから」

「本当だからね」

 小較は確認した後、目を瞑ると直ぐに寝息をたてる。

「まだまだガキだね」

 今さっきまで寝ていた良美が言う。

 較は軽くむっとした顔をしてから言う。

「何で小較が朝日みたいか解かる?」

「小学生は何でも見たがるものでしょ」

 真理とばかりに言う良美に較が言う。

「ミサラ王国は、緯度が高いからね、ロンドンと一緒で白夜ビャクヤがあるの。普通とは少し異なる日の出が見れるの」

 ほほをかいて良美が言う。

「白夜ってなんだ」

 呆れた顔をになって較が言う。

「こないだの地理の授業で習ったでしょ、地球の傾きの関係上、日照時間が異なり、特に緯度が高いロンドンでは夜でも明るい白夜ってあるって!」

「馬鹿だなー、あたしが授業なんて聞いてる訳無いだろう」

 胸を張って言う良美に較が頭を抱える。

「あちきの家に来てから悪化してる気がするよ」

 そんな馬鹿なやり取りを聞いていた隣席で同じ年位の少女が小さく笑う。

「貴方達、面白いわね」

 金髪の少女の意外に流暢な日本語に驚いた顔をする良美。

「へー日本語解かるんだ?」

 金髪の少女が頷く。

「昔、日本で暮らしてた事あるから。それにこれからは日本で暮らさないといけないしね」

 さびしそうな顔をする少女に較が言う。

「どんな理由があるか知らないけど、新しい生活を絶望したら駄目だよ。全てが動き続ける限り、過去には絶対戻れないんだから」

 辛そうな顔をして少女が頷く。

「そうだよね、もう帰ってこないんだよね」

 少女が席を立ってトイレに向かう。

「どういう事情なの?」

 良美が当然の様に較に聞く。

「多分、両親のどちらかが死んだんだよ。だから元の生活を続けられなくなって、知り合いが居る日本で暮らすんだと思う」

 較があっさり答えると良美が少し考えた後、名案を思いついた様な顔をして言う。

「あたし達が友達になれば良い」

 較は複雑な表情をして言う。

「単純だけどそれが一番の解決法かもね。正直、友達になるのは簡単だけど、友達を続けるのは大変だよ?」

 自信たっぷりな表情で良美が断言する。

「大丈夫だよ」

 それを聞いて、少女の隣に居た日系の男性が声をかけてくる。

「頼もしい事だ。ぜひそうして欲しい」

「おじさん誰?」

 良美の質問に軽くショックを受けながらもその男性が言う。

「私の名前は、空天クウテン風太フウタ、あの子の叔父だ」

「似てないけど本当?」

 良美が疑わしそうな視線を向けるが、較が頷く。

「本当だよ、いくつかの共通点もあるし、座っていたとき、彼女がその空天さんを怖がる様子も無かったから間違いない。それで、質問だけど、死んだのはお父さんの方?」

 較のストレートな質問に驚きながらも風太が答える。

「ああ、私達兄弟は父親の影響を受けて、飛行機のパイロットになった。私は、戦闘機乗りで、兄は、ジャンボジェット機のパイロットだったがな」

 その一言で較が頬をかいて言う。

「もしかして、一ヶ月前に謎の墜落した、ジャンボ機のパイロットだったりしますか?」

 その言葉に辛そうに風太は頷く。

「その通りだ。兄は、最後に『空の悪魔に取り付かれた』という謎の言葉を残して、ジャンボジェット機を墜落させてしまった。機体になんの異常も無かった為、パイロットが精神異常になって、墜落させたって言うのが世間一般の捉え方だ」

「本当?」

 良美の言葉に較が首を横に振る。

「まずありえないよ。ジャンボ機のパイロットっていざって時の為に二名居るの。万が一にも彼女のお父さんが精神異常になっても副パイロットがちゃんと制御出来る。考えられるのは、本当に空の悪魔に取り付かれたって事だけど」

 良美が興味津々な顔をして言う。

「空の悪魔なんて居るの?」

 較は首を横に振る。

「その一部の人間の間しか通じない隠語の一つだと思う」

 風太が驚いた顔をする。

「その通りだ。空の悪魔は、多分親父が昔よく話していた、特殊な乱気流の事だよ。強い気流の流れで、一番の問題はその気流は、睡眠を促す成分が含まれている。パイロット仲間の噂じゃ、睡眠薬を作る原料となる植物が多く生える場所の風が強風で凝縮されたって事になっている」

 較は肩を竦めて言う。

「実際の所は、気流を完全に追いきれない今の科学力じゃ、原因が掴めない怪現象ですね? 結構被害が出てると思いますけど?」

 風太は辛そうに頷く。

「しかしここ数年、被害は無かったから安心していた。空の悪魔も予兆は常にあったから避ける事は出来る筈だった。あの日もその予兆があった。朝日が昇る時に、不自然な大きな黒い点が見つかった時は危険なのだ」

 そんな話をしている間に風太の姪が戻ってくる。

「風太叔父さんどうしたの?」

 風太は少女に言う。

「彼女達がお前と友達になりたいそうだ」

 そんな言葉に少女が驚く。

「なんでそんな話しになってるの?」

「日本では、友達いないでしょう? だったら友達一号二号だよ」

 普通に手を出す良美に、言葉をなくす少女に良美が続ける。

「あたしの名前は大門良美だよ。こっちは、白風較。よろしくね」

 戸惑いながら少女が答える。

「エアーナです」

「エアって呼んで良いよね?」

 良美の強引なペースに巻き込まれるエアーナであった。



「きれい」

 朝日をみて嬉しそうにする小較。

「元々多少明るいからね、普通の朝日とは違って見えるんだよ」

 風太が解説する。

「確かに一見の価値はあるね」

 偉そうに言う良美。

「あたしもじっくり見るのは初めてかも?」

 すっかり打ち解けたエアーナも朝日をじっと見ている。

 ただ較だけは厳しい顔をしていた。

「どうしたんだい?」

 風太が較の方を向くと較は、風太を引っ張り席から離れてから朝日を指差して言う。

「空の悪魔の予兆ってあの黒点ですか?」

 その一言に風太は慌てて朝日を睨む様に凝視する。

「間違いない!」

 風太は慌ててスチュワーデスを掴まえて言う。

「機長に言ってくれ、空の悪魔の予兆が出ている。急いで近くの空港に着陸しろと!」

 スチュワーデスも空の悪魔の事を知っているのか慌ててコックピットに向かう。

「近くに空港に着くまでは大丈夫な筈だ」

 風太は不安を押さえ込みながら言うが、較は難しい顔のまま質問する。

「機長が応じるとして、この航空会社が納得すると思う?」

 その一言に風太が舌打ちをする。

「兄貴の時もそうだった。兄貴は飛行を取りやめた方が良いって言ったんだが・・・」



「結局、許可が下りなかった訳だね」

 較が問いかけると風太が頷く。

「奴らは何にも判っていない! このままでは、兄貴の事件の二の舞だ」

 苛立つ風太に較は周囲の気配を感じながら言う。

「自然現象だったら、注意していればなんとかなると思うけど・・・」

 言葉を濁らせる較に風太が不信感を持つ。

「どういうことだ?」

 較が大きな溜息を吐く。

「もしかしたら本当にいるかもしれないよ」

「居るって何がだ!」

 風太が怒鳴ったとき、小較が駆けてくる。

「ヤヤお姉ちゃん、この気配って異邪だよね?」

 小較の後ろに居る良美とエアーナを見て顔を抑えながら較が言う。

「小較にも感じられた以上間違いないね。空の悪魔は、異邪だよ」

「異邪ってなんですか?」

 エアーナの質問に較が答える。

「異界から来た、邪悪な者を指す言葉。そして上位世界からの干渉者で常人では対抗出来ない者。小較、ホープさん呼んできて」

「了解!」

 駆け出す小較。

「馬鹿な本物の化け物だと言うのか?」

 風太の言葉に、較が頷く。

「時たまあるんだよね自然現象って呼ばれていたのが、異邪の仕業だって事が。空の悪魔って異名も、眠る前に相手の姿を見た人が言い始めたんだよ、他の人は、眠っているときの見間違いだと思ったから単なる俗称と勘違いされて来たって落ちだね」

 肩を竦める較に風太が怒鳴る。

「万が一にも空の悪魔が本当の化け物だとして、どうしていままで発見されなかった? この世界で空に居て見つからないものなど居ない!」

「肉眼でしか見つからない化け物なんていくらでも居るよ。それに空の悪魔はずっと以前から姿が目撃されてたよ」

 首を傾げる風太。

「そんな話しは聞いた事は無いぞ?」

「朝日に見える黒い点、それが空の悪魔だよ。空の悪魔は朝日と共に動いている」

 良美が興味をそそられた顔をして言う。

「そんな異邪が居るの?」

 較は悩んだ顔をして言う。

「異邪は異世界の存在だから基本的にこっちの常識は、あまり当てはまらない事が多い。でも、八百刃様に以前聞いたホープワールドの魔獣にそんな習性を持った奴が居たらしいから可能性は高い筈だよ」

 正直信じられない話しに風太とエアーナが戸惑う。

「叔父さん、今の日本人って皆あんななの?」

 首を横に振る風太。

 その時、近くに居たスチュワーデスが倒れる。

 慌てて駆け寄る風太とエアーナ。

「どうしたの?」

 エアーナの質問にスチュワーデスの様子を確認した風太が答える。

「大丈夫だ、ただ眠っているだけだ」

 風太がそう答えている間にも周囲のスチュワーデスが眠りに落ちていく。

「どういうことだ? もう睡眠効果がある空気が進入して来たと言うのか?」

「半分正解、空の悪魔の能力で、人を強制的に睡眠状態に落とす空気が流れてこんで来たよ」

 そこにホープを連れてきた小較が戻ってくる。

「化け物が来たって? 距離はどんくらいだ?」

 ホープの問いに較は、窓の外を指差して言う。

「もう常人の視界にも捉えられるから」

 較の言葉に全員が窓から外を見るとそこには、一見すると巨大なハングライダー状の黒い物体がジャンボ機に迫ってきていた。

「でかいな」

 ホープが淡々と告げる。

「それでも地上だったら勝つ自信あるよね?」

 較の言葉にホープが当然と言う顔をして言う。

「当たり前の事を言うな。お前だってこのジャンボ機の人間の命を考えなければ、苦戦するが勝てない相手じゃないだろう?」

 較が頭を掻きながら言う。

「問題はそこだね、このジャンボ機を護る以上、攻撃を避けるって選択が出来ないのはきつ過ぎる」

「それでもやるんだろう?」

 半ば挑発するようにホープが言うと較が溜息を吐く。

「じゃあ役割分担だね。あちきとホープであいつを倒す。だからヨシと小較は、風太さんについていってコックピットの安全確保をお願い」

 そういって、人が居ないドアに近づく較とホープ。

「お前達何を考えているんだ!」

 ここに来てようやく動けるまで理性が復活した風太の言葉に較は極々当然の様に言う。

「あの化け物に襲われたらジャンボ機が大変だから退治に行くんですけど何か問題でもありますか?」

「あんな化け物を生身の人間がどうにか出来る訳無いだろう。無線で救援を呼ぶしか無いだろうが!」

 較はそんな風太を落ち着かせるように言う。

「理性的に考えて下さい。いまから軍隊を呼んだとしても、到着するまえにあの化け物やられますよ。ここはあちき達に任せて下さい」

「理性的じゃないのは君だ、ここは鳥すら飛ばない上空だぞ、人間が外にでてまともに動けないぞ!」

 風太の言葉に苦笑する較。

「あちき達は、人外って呼ばれています」

 そういって外に出て行く較とホープ。

「がんばってねー」

 のんきに手を振る良美にさっさとドアを閉める小較。

「良美行くよ!」

「命令するな!」

 そんな二人を無視してドアに手をかけようとする風太。

「早く助けに行かないと!」

「叔父さん……」

 エアーナが窓の外を指差す。

「今は忙しいから後にしてくれ!」

 エアーナがなおも袖を引っ張るので窓の外を見ると高速で飛ぶジェット機の翼の上に二本足で平然と立つ較とホープが見えた。

 言葉を無くす風太に良美が言う。

「風太さん、コックピットまで案内して。パイロットが眠る前に着かないと大惨事なるよ」

 風太は、無理やり納得するように言う。

「そうだな、そちらも大切だな」

「あたしも一緒に行きます」

 エアーナがそういって、コックピットに向かう風太達の後をついていく。



 突風が吹き荒れるジャンボの上にも関らず較とホープは普通に会話をしていた。

「先制攻撃で倒せればベストだね」

「主義じゃないんだがな」

 気が乗らない様子のホープに較が言う。

「特別ボーナスをあちきが払うよ」

「金で俺が動くとも?」

 ホープが睨むと較が肩を竦ませて言う。

「慰謝料を払って早く片付けないと離婚されそうなんでしょ?」

 しばらく思案した後、かっこつけながらホープが言う。

「仕方ない、大勢の命が懸かっている以上、多少は主義も曲げなければいけないな」

 較は何も言わず、空の悪魔の方を見る。

「簡単に済めば良いけど」



「閉められてる」

 風太の言葉に良美が言う。

「開けられないの?」

 風太が頷く。

「ハイジャックの用心の為、中からでないと開けられなくなっている」

「状況が状況だから力技で行くよ!」

 小較がノブを掴む。

『ガイア』

 撃術で腕力を増強して一気に扉を開ける。

 信じられないものを見る目をするエアーナだったが、風太はもう諦めたのか、直ぐに中に入っていく。

 そこにはすでに眠っているパイロット達が居た。

「情けない奴らだ!」

 慌てて計器を確認し始める。

「仕方ないですよ、あたしやヤヤお姉ちゃんが、空の悪魔の出す眠りの空気を中和していたから風太さん達が大丈夫なんですから」

 小較の言葉に溜息をついて風太が言う。

「そういうことか。とにかく今はオートパイロットが有効になっているから大丈夫だ」

 そう良いながら風太が通信機を動かすがそこから漏れるのはノイズだけだった。

「どうなっているんだ!」

 小較が周囲の気配を感知しながら言う。

「多分、空の悪魔が周囲の通信を遮断してるみたいです。そうだよね、ヤヤお姉ちゃん?」

 トランシーバーに話しかけると、そこから較の声が返ってくる。

『間違いないね、これから交戦に入るよ。何か問題が起こったら連絡お願いね』

「了解」

 小較が返事をする。そうしている間にも、視界に空の悪魔の姿が入ってくる。

 その大きさに声が擦れる風太。

「これが空の悪魔なのか……」



「大きいが、硬くない、再生能力が高くなければ俺の拳銃だけでどうにかなるな」

 そういって拳銃を構えるホープ。

「余裕見せる必要は無いからね」

 較が念を押すと、ホープは渋々頷き拳銃を連射する。

 ホープの莫大な気が込められた弾丸は空の悪魔を粉砕していった。

 しかし、較が舌打ちをする。

「効果無しだね」

 ホープも頷く。

「集団意識で動く、微生物の集合体だ。直撃した一部以外は、拡散する事で俺の気を受け流しているな」

 較は連射を続けるホープに静止をかける。

「作戦変更するしかない。一度ジャンボ機に取り付かせて動きが止まった所で、あちきが凍らせる。そこを一気に粉砕する」

 ホープも頷く。

「それしかないな。しかしそうなると問題はジャンボ機がどこまでもつかだな?」

 較は通信機に向かって話しを始める。



「詰り、一度あの化け物をこのジャンボ機に取り付かせるから、その間の姿勢制御をマニュアルでやる必要があるって事だな」

 風太の言葉に小較が持つトランシーバーから較が返事をする。

『そっちの状況も理解してるけど、さすがに取り付かれる前にあれを全部消去する事は出来そうもないから。とりついて動きが止まった瞬間に相手の凍らせるしか無いの。任せて良い?』

 風太は、実際に操縦をした事がないジャンボ機のコックピットを凝視した後、目を瞑って何かを決心するように言う。

「そうすれば兄貴の敵を討てるんだな?」

『絶対に倒す』

 較の返答に風太がパイロットを座席からどかせてコックピットについて言う。

「こっちはなんとかする。任せたぞ!」

『任された』

 較が断言すると、エアーナがトランシーバーを掴んで言う。

「お願いだからね、お父さんの敵を絶対とって!」



 通信機のスイッチを切って較が言う。

「敵討ちか……」

 頭を掻く較。

「普通だと思うぞ」

 ホープの言葉に較が肩を竦ませて言う。

「ジャンボ機の姿勢制御をする風太さんはともかく、他人任せのエアーナの中にしこりが残るだけだよ」

 その言葉には、ホープも頷く。

「なんだったら止めをあいつにやらせるか?」

「意味無いよ。それにメンタルケアは、あちきの担当じゃないよ」

 較の言葉にホープが納得した顔になって言う。

「そういえば、レベルが低いが根性だけはある奴が向うに行っていたな」

 笑顔で言う。

「ヨシは、いつも無茶だけど間違いを許さないから、納得できる形に落ち着かせてくれるよ」

 較は向かってくる空の悪魔を睨み言う。

「チャンスは一度だけだよ」

 ホープは拳銃に自分の気を最大限に溜め込みながら言う。

「そっちこそ洩らすなよ」

 次の瞬間、微生物の集合体である空の悪魔がジャンボ機を覆った。



「捕まってろ!」

 風太がそう叫びながら、空の魔獣との接触で崩れたバランスを必死に回復させる。

 小較が座席から降ろされたパイロットを押さえつける中、近くの柱にしがみ付いていた良美が転がっていこうとしていたエアーナの腕を掴む。

「ボーとしていない! しっかり柱に掴まる!」

 しかしエアーナは目の前の空の悪魔を睨みながら答えない。

 良美は、そんなエアーナに頭突きをかます。

「痛い! 何するの!」

 良美はまじめな顔で言う。

「あいつの事が憎いの?」

「当然の事を言わないで!」

 エアーナが怒鳴り返すと良美が極々普通に言う。

「だったら殴りに行けば?」

 考えもしなかった事を言われて戸惑うエアーナ。

 エアーナが何とか頭を回して反論しようとした時、良美が先に言う。

「実力が足らなくても、ヤヤに懇願すれば、止めを譲って貰える。多分なんとか出来るよ」

 意外な言葉、しかし問題の化け物を見てしまったエアーナには、その言葉は信じられなかった。

 人間が抗う事が出来る者とはとても思えなかったからだ。

 次の瞬間、ジャンボ機を覆いつくそうとしていた空の悪魔が凍りつき始めた。



『シヴァダンス!』

 較がジェット機の上で舞う。

 その動きと共に舞う冷気が空の悪魔を凍りつかせていく。

「ちゃんと全部押し上げろよ!」

 ホープの放った弾丸が、空の悪魔のジャンボ機との接触箇所を消し飛ばす。

『ガルーダウイング』

 較が両手の振りと同時に発生させた強烈な風が、空の悪魔をジェット機から突き放す。

『ラストショット』

 ホープの最終技、自ら撃った気を周囲の気と共に収束して放つ、弾無き弾丸が、凍りつき、力を受け流せなくなった空の悪魔を消し飛ばす。

「やったな」

 ホープの言葉に較も頷く。

「多少は残っているけど実害が無いレベルだね」

 そして戻ろうとする較の通信機が鳴る。

『ヤヤお姉ちゃん大変、風太さんが機内の人間を眠らせていた空の悪魔の一部に襲われて大怪我しちゃった!』

「おいおい、パイロットを狙うなんて知能有ったのかよ?」

 ホープの言葉に較が舌打ちする。

「異邪を甘く見すぎた。直ぐ戻るから、その間だけ機体を安定させて!」

 駆け出す較とホープ。



 コックピットでは良美に押さえつけられて、無理やり横になっている風太が叫ぶ。

「座席に戻させろ! 運転できるのは俺だけなんだ!」

 良美が風太を押さえつけながら言う。

「少しでも動いたら内臓が出そうな怪我しておいてうるさい! 小較、ベホマ使えないの!」

 気をコントロールして、風太の怪我を治療する小較が首を横に振る。

「元々白風の技に他人を治すのって殆ど無いの!」

「万能だっていつも自慢してるのに?」

 挑発気味の良美の言葉に小較がすねた顔をして言う。

「自分の怪我だったら治せるよ。はっきり言って自分の怪我くらい治せない奴なんて仲間にもしないのが八刃なんだよ!」

「治療はいい! 俺を座席に座らせろ!」

 暴れる風太に良美が決断する。

「眠らせろ」

 小較は髪の毛を風太の前に垂らして言う。

『ラフレシア』

 特殊撃術の香りの効果で風太が寝てしまう。

「良かったの?」

 小較が不安そうに聞くと良美が座席に座っているエアーナに向けて言う。

「そういう事で任せた」

「任せたじゃないわ! 少しは操縦桿握った事があるって言ったけど、あたしに操縦なんて出来ない!」

 エアーナが必死に操縦桿を握り姿勢制御しながら怒鳴り返す。

「だったら、風太さんが死んでも良かったの?」

 その一言に黙るエアーナ。

「これはエアーナの戦いだよ、あんな化け物に大切な者を二人も奪われて平気なの!」

 エアーナは操縦桿を強く握り締めて怒鳴る。

「いいわけない! あたしは、あんな化け物に負けない!」

「だったら頑張る!」

 良美の言葉にエアーナが頷く。

「任せて!」



「任せておいていいのか?」

 ホープの言葉にコックピットのドアによりかかっている較が言う。

「姿勢制御だけだったらなんとかなるみたいだから、暫くこうしておきましょう、危なくなったら起こせば良いんだから」

 足元に居るパイロットを指差す。

 ホープが呆れた顔をして言う。

「しかし、本気で無茶するなあいつは?」

 肩を竦ませて較が言う。

「それがヨシの良い所でも悪い所でもあるんだけどね」



 近くの空港の緊急着陸したジャンボ機は、マスコミに囲まれたが、乗員が全員眠っていたので詳細が解らない怪現象と暫くニュースを騒がせたが、裏からの圧力でどんどん扱いが小さくなって消えていった。

 空の悪魔が実在した真実は闇の中に消えていった。



「また転校生だよ!」

 較達のクラスメイト、緑川ミドリガワ智代トモヨが朝の騒がしい教室に入ってくる。

「一足遅かったな、本人がもう来てるぞ」

 良美が不適な笑みを浮かべて隣に居るエアーナを指差す。

「どうして!」

 驚く智代に較が言う。

「ちょっと知り合いになって、学校まで道案内して来たの」

 そしてエアーナが笑顔で言う。

「空天エアーナです。よろしくお願いします」

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