あらわれた少女
智代編の完結です。最後にヤヤがでます
「急いで追跡しないんですか!」
達樹が、所属部隊の隊長に詰め寄る。
「少しは、落ち着け。奴等も馬鹿では、ない。こっちの本部の傍で事件を起こして、追跡されないとは、考えてないだろう。それ相応の準備がしてある筈。そこに準備も無く向かうのは、無謀だ」
「しかし、こうやって居る間にも、奴等の足取りは、掴めなくなります」
達樹が必死に言うと、後ろに居た、白衣の女性が言う。
「それは、大丈夫。うちの名刺には、特殊な術がかけられていて。追跡できるようになってるのよ」
「そういうことだ。私も奴等に魔神を復活させる事は、させたくない。こちらも準備が十分に出来次第、動く」
隊長の言葉に、何とか理性を保とうとする達樹だったが、全身から苛立ちが伝わってくる。
「落ち着いて。そんな事では、傷の回復にも影響は、あるわ」
そう言って、達樹の足の怪我に粘りつくスライムを指差す白衣の女性。
「解っています!」
達樹が怒鳴り返すと、傍に居た槍を持った年上の少年が石突(槍の逆側)で軽く叩く。
「解ってない。とにかく落ち着け。自分の失敗に苛立つのは、解るが、まだ巻き返すチャンスは、ある」
達樹は、何か反論しようとしたが、黙り、近くのソファーに座る。
その時、オペレーターの女性が入ってきて言う。
「各部隊の準備が整いました。出撃できます」
その言葉に達樹の隊長が頷く。
「行くぞ!」
「はい!」
即座に反応する達樹であった。
「ここに魔神が封印されてるのね?」
クライシスコーラーの女の言葉に、虚ろな視線の智代が頷く。
「本当にここなのか?」
蛇鎖が首を傾げる。
「本当にこんな所にあるのか?」
蛇鎖が疑るのも仕方なかった。
そこは、都心の公園の中にある、小さな祠の前だったからだ。
女が言う。
「ぱっと見は、大した事が無いように見えるけど、公園を中心にして、巨大な結界が形成されているわ。認識を狂わす、効果も強く、導きの指輪がなければこの祠を見つけることすら、出来なかったでしょうね」
蛇鎖は、祠を軽く叩きながら言う。
「それで、封印の解除法は、解っているのか、紫蜂」
その女、紫蜂が頷く。
「ええ、魔神の封印の事実と共に解って居たわ。だからこそ、さっきの襲撃を仕掛けたの」
部下の一人が首を捻る。
「どういう意味ですか?」
蛇鎖が呆れた顔で言う。
「小娘を誘拐するんだったら、もっと方法があった。それこそ、小娘の家に襲撃をすれば良かったんだよ」
紫蜂が苦笑する。
「流石に竜夢区で仕掛けるのは、問題だけど、奴等の事務所の傍で仕掛ける必要は、無かったわね」
「だったらどうして、あちらにこちらの襲撃を解らせる必要があったのですか?」
部下の質問に紫蜂が答える。
「この封印は、魔神の力をこの世界の形成する神の力、一説には、新名と呼ばれる神の力を増幅する事で成り立っているの。それを人の力でどうこうする事は、出来ない。人が生身で空を飛べないのと一緒」
蛇鎖が今の説明で察する。
その間にも、クライシスコーラーのメンバーがどんどん集まってくるのであった。
「公園の封鎖が終りました。いつでも突撃がかけられます」
連絡員からの言葉に、達樹の隊長が頷き、指示を出す。
「魔神の封印の解除には、特別な時で無ければいけないことが判明している。最優先は、神器の回収。各員、準備は、良いか?」
「ちょっと待って下さい。導きの指輪を装着した少女の救出が優先されるべきでは、ありませんか!」
達樹の言葉に、達樹の隊長が首を横に振る。
「残念だが、相手の戦力も集結しつつある今、少女の安全を保障する事は、不可能だ」
「我々は、一般市民の平和を護る為に、戦ってるのでは、ないんですか!」
達樹が怒鳴ると達樹の隊長は、冷徹に告げる。
「だからこそだ。一人の少女の命の為、不要な危険を冒していては、一般市民の平和は、護れない」
更に反論しようとする達樹を、同僚の槍が使い押しどめる。
「止めろ。護りたかったら、自分の力でやれ。それを他人に押し付けるのは、お前の我侭だ」
達樹が強い視線で隊長を見て言う。
「彼女は、俺の手で救い出します」
達樹の隊長は、その言葉に答えず、隊員に指示を出す。
「散開して、突撃開始」
「ここは、何処?」
智代の目の焦点が合う。
「お目覚めの様ね」
妖しい笑みを浮かべる紫蜂。
智代は周りを見ると、刺青をした、妖しい集団の中心に居る事に気付いて、悲鳴をあげた。
「安心しなさい。貴女に危害を加えたりしないわ。貴女が生きていた方が、その指輪が力を発揮するもの」
紫蜂の言葉に智代が言う。
「開放してよ!」
その時、巨大の火の玉が迫って来た。
「来たみたいだぜ!」
蛇鎖が自分の神器である、鎖を操り、炎を散らす。
一斉に、神器を持った神器会の戦闘隊が襲ってくる。
クライシスコーラー達も必死に交戦するが、神器会の方が数、神器の質ともに勝っていた。
蛇鎖は、神器会の人間を何人も倒していたが、クライシスコーラー達は、どんどん倒されて、制圧されていく。
その中、達樹が蛇鎖の前に立つ。
「もうお終いだ。お前一人、どれだけ好戦しても、この戦力差は、覆らない」
その後ろでは、氷の塊が降り注ぎ、雷が飛ぶ、常識外の戦闘が行われていた。
「だからどうした? それが、お前がこの小娘を助けられる事とは、一緒じゃないだろう」
蛇鎖が智代を指差す。
達樹が歯を食いしばる。
「前回の決着をつけようぜ!」
蛇鎖の鎖が、達樹に迫る。
達樹は、音切を振り上げる。
「絶対に助ける」
「出来るものなら、やってみな!」
蛇鎖が挑発する中、その鎖が達樹に迫る。
「その力を解放しろ、音切」
鎖が突風に巻き込まれるように上昇する。
達樹は、鎖に引っ張られるように接近してきた蛇鎖を、刃が無い音切で斬る。
「何度も見れば、対応方法も思いつく」
達樹がそう言い捨てて、智代の元に向かう。
「大丈夫か?」
智代が達樹に抱きつく。
「あー、もう嫌っ! なんなのよ!」
達樹が辛そうに頭を下げる。
「俺のミスだ。すまない」
智代が少し驚いた顔をした後、拗ねた顔で言う。
「今回だけは、許してあげるけど、次は、ないからね」
達樹が頷く。
「そこ、戦闘中にラブラブするな」
達樹の同僚の槍使いが、槍を振るい、氷を放ちながら突っ込む。
達樹が智代を引っ張り言う。
「そうだった、取敢えず、安全な所まで行くから、ついてきてくれ」
智代が頷いた時、戦場の中央にあった祠が崩れた。
達樹の隊長が驚愕の表情で呟く。
「封印解除を行える時間では、無いはずだ!」
それに対して、紫蜂が高笑いで答える。
「だから何? あたし達が封印を解除しなくても、良かったのよ。この場に集まった大量の神器が、その力を行使すれば、封印に使われている力がそちらに引っ張られる。そうして、封印さえ弱まれば、魔神は、自らの力で復活できる」
その言葉の正しさを示すように、それは、発生した。
黒い闇の集合体。
人を遥かに超越した者。
それは、破滅を導く魔神。
『長い封印が今、破られた。今こそ、この力で、この世界に終焉をもたらさん』
神器会の人間が怯んでいる間に、クライシスコーラー達は、逃亡していく。
「待て!」
達樹が、いつの間にかに復活した蛇鎖を追おうとしたが、隊長が止める。
「捨てておけ! 今は、魔神をなんとかする方が先だ!」
達樹は、頷き、魔神を見て、全身を振るわせる。
「あんな化物をどうすれが良いんだよ」
達樹の同僚の槍使いが弱音を吐くが、それが、この場に居た者達の総意であった。
そんな中でも、何人かの神器の使い手が攻撃を仕掛けた。
それが、意外な効果を呼んだ。
魔神自体には、ダメージは、無かったが、しかし攻撃を防ぐ事に力を使った瞬間、魔神に対する封印が強まった。
それを見て、達樹の隊長が怒鳴る。
「怯むな! 相手は、完全に封印から解き放たれていない。ダメージを与えられなくても、その力で封印に押し戻す事は、出来る筈だ!」
達樹の隊長自身も杖の神器から雷を放つ。
全ての神器の力を振り絞る神器会。
当然、達樹もその力を使い続けていたが、突如、音切の力が消えた。
「こんな時にエネルギー切れかよ!」
傍に居た智代が言う。
「どういうこと?」
達樹は、舌打ちをしながら答える。
「音切は、風を操る神器だ。しかし、その力の源は、その刀身に受けた風力を貯めておく事によって得ている。ここ数日使い続けたから、もう貯めていた力が無くなった」
説明の間にも、音切と同じ様にエネルギー切れを起こす神器が出始めた。
達樹の同僚の槍使いも、力尽きた槍を抱えて、下がってくる。
「もう一押しの所なのに、それが出来ない」
魔神は、その姿を最初の半分以下にまで小さくしていた。
しかし、神器のエネルギー切れに伴い、少しずつ大きさを取り戻す。
「他にも神器があれば」
達樹がそういった時、智代がポケットの中のスクランブルエッグを思い出し、差し出す。
「駄目もとで使ってみる?」
達樹が首を傾げるので、智代が良美から聞いた話をそのまま説明する。
達樹の同僚の槍使いが大きく溜息を吐く。
「そんな玩具で、何が出来るんだよ」
しかし、達樹はスクランブルエッグを受取り言う。
「何もやらないよりましだ。スクランブルエッグよ、その力で魔神を倒せ」
その瞬間、スクランブルエッグは、光る刀に変化した。
驚く、智代達だったが、一番、驚いていたのは、魔神であった。
『馬鹿な、お前等みたいな人間が、最強の戦神、聖獣戦神、八百刃様の神器を、持っているのだ!』
さっきまで、余裕の笑みを浮かべていた魔神の驚愕に、だれもが驚くが、達樹は、スクランブルエッグを振り上げて、駆け寄る。
魔神は、封印に抗うのすら止め、達樹に攻撃を開始する。
『来るな!』
しかし、全ての攻撃が、スクランブルエッグによって弾かれてしまう。
そして、達樹は、スクランブルエッグを魔神に振り下ろす。
たった一撃。
それだけで、神器会が保有する神器では、傷すらつかなかった魔神が滅び去った。
達樹は、大きく息を吐くと、スクランブルエッグも元の卵型に戻るのであった。
神器会の本部。
智代は、達樹につれられて、やって来た。
達樹の同僚の槍使いが、呟く。
「あの神器は、結局なんなんだ? 魔神すら一撃なんて、普通の神器じゃありえないぜ」
達樹も頷く。
「とても、お前が聞いた逸話で手に入れた神器とは、思えない」
智代も頷く。
「だよね、いくらなんでも卵料理と交換で、あんな凄い武器もらえないよね?」
三人が悩んでいると、達樹の隊長が来て言う。
「一つ朗報が入った。緑川さん、君は、二度とクライシスコーラーに狙われることは、無くなった」
それに対して達樹が言う。
「いくら魔神を失ったといっても、奴等が諦めるとは、思えません。次の目的の為に、こいつを使おうとするかもしれません」
首を横に振る達樹の隊長。
「これは、正式な宣言だ」
達樹の同僚の槍使いが冷めた口調で言う。
「そんな物を守る連中じゃないと思いますけどね」
達樹の隊長が肩を竦めて言う。
「少なくとも日本支部の連中は、無理だ」
達樹が詰め寄る。
「何でそんな事が言えるんですか!」
達樹の隊長が言う。
「必殺の白手の手によって、警告無視の見せしめとして、壊滅させられた」
唾液を飲み込む達樹達を見て、智代が言う。
「何、その必殺の白手って?」
達樹が緊張した表情で言う。
「前に話した八刃だ。その中でも、盟主と呼ばれる白風の次期長の事だ」
達樹の同僚の槍使いも嫌そうな顔をして言う。
「相手が悪すぎたな。公然の秘密になってるが、生で山一つ消し飛ばしたって化物だぜ」
智代の顔が引き攣る。
「それって本当に人間?」
達樹が否定する。
「だから人外だって言われてる。常人の常識なんて奴等にとっては、意味無い物なのだろう」
そして、連絡員の女性が青褪めた表情で入ってくる。
「大変です。必殺の白手が襲来しました。スクランブルエッグと緑川智代さんの引渡しを通告してきてます」
達樹が、智代を庇うように立つが、達樹の隊長が首を横に振る。
「我々の手に負える相手では、無い。締めろ」
達樹が必死の表情で言う。
「せめて、一緒に行かせて下さい」
智代が驚く。
「良いの? 相手は、山を消し飛ばす化物でしょ?」
達樹が、真っ直ぐな目で答える。
「次は、許して貰えないらしいからな」
「馬鹿!」
顔を真っ赤にする智代。
そして、達樹と智代達は、必殺の白手が待つ、応接間に向かう。
「智代、大丈夫だったか?」
達樹がドアを開けた瞬間、智代のクラスメイト、良美が駆け寄ってくる。
「どうして良美がここに居るの?」
智代が驚いていると良美の後ろから、智代と良美のクラスメイトの童顔のポニーテールの少女、白風較が顔をだす。
「あのね、神器会なんて、非公式組織と関っているんだったら、何か言っていって。魔神騒動が起きて、それにスクランブルエッグが関ってる事から、智代の事が解った時は、心臓が止まるかと思ったんだからね」
達樹が言う。
「この二人の事を知っているのか?」
達樹が痙攣した顔で質問すると智代が疼く。
「うん、クラスメイトだよ。でもなんでここが解っちゃった?」
首を傾げる智代に良美が答える。
「ヤヤの叔母さんに、そっちの業界に詳しい人間が居たから、調べて貰ったの」
「そうなんだ、意外」
驚いた顔をする智代だったが、その時、一緒に来た達樹たちが物凄く緊張している事に気付く。
「どうしたの? そういえば、必殺の白手って人が居ないけど、ここじゃないの?」
良美が平然と答える。
「それってヤヤの裏での通り名。ヤヤってそっちの人には、ゴジラ以上に恐れられてるんだよ」
不思議そうな顔をする智代。
「変なの、ヤヤって凄く大人しいし、作るぬいぐるみも可愛いよ」
「とにかく、おばさんが心配してるから、家に帰るよ。スクランブルエッグは、後で郵送してくだされば良いですから」
較に言われて智代が慌てた。
「家に連絡するのを忘れてた。急いで帰えらなくっちゃ」
そのまま智代は、較達と家路につくのであった。
その後姿を見て、達樹の同僚の槍使いが言う。
「突然、神器事件に巻き込まれた一般人のクラスメイトが、必殺の白手だなんて落ちありかよ」
「言うな、今更だが、あいつの学校名が、必殺の白手の通う学校だって思い出した所なんだからな」
達樹の言葉に、達樹の隊長が告げる。
「そういうことは、もっと先に言ってくれ。寿命が十年は、縮んだぞ」
この世の非条理を嘆く神器会のメンバーであった。




