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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
3/52

その右手は白く光る

ミサラ王国編完結。良美が傍に居る理由が判明する

「ユリーアさんを最後に見たのは何時ですか?」

 それがお城に着いた、較の第一声だった。

 ざわめく宮殿の人たちに、較は溜息を一つ吐いて地面を踏み込む。

『タイタン』

 周囲が揺れて較に視線が集まる。

「ミールさんの身の安全がかかってるの、早く教えて!」

 一人のメイドが答える。

「先程まで、ミスリルナイツの人達に尋問されていた筈です」

 サイトが大声を出す。

「何でそんな事を!」

「当然だろう、あんな異国の人間が信用できるか! 怪しい奴から調べるのが普通だろう」

 そう言って、一人の騎士の格好をした中年男性が現れる。

「レイト叔父さん。彼女は姫様の客人です。失礼があっていい訳がありません!」

 サイトが反論するとその騎士、レイト=サルダが一笑する。

「その姫様がさらわれたのだ、そんな下らない事を気にしている場合じゃないのだ。姫様に取り入って、偉くなった気になっているお前は黙っていろ!」

「レイト叔父さん!」

 さらに詰め寄ろうとするサイトを較が止める。

「ありがとうございます。貴方のおかげで、ミールさんが助かりました」

 頭を下げる較に動揺するレイトを置いて、較はユリーアの居る筈の客室に移動を開始した。



 ユリーアと合流した較は王の広間に来ていた。

「問題は、誰が誘拐の手引きをしたかって事だね」

「我等の中にその様な不心得者が居ると言うのか!」

 レイトが怒鳴るが、較達は相手をしない。

「あちき達がムーンウルフのアジトに向った所を狙った上に、空港の襲撃まず間違いないですね」

「信じられん」

 ミルド国王の言葉にユリーアが言う。

「それでは、信じてもらわなくても結構です。あたし達は、自分達に邪魔な人間を見つけ出して動けなくさせるだけ。クレームはエンさんに言って貰えばいいですからね」

 ユリーアは周囲を一瞥する。

「ふざけたマネを!」

 レイトが剣を抜いて、ユリーア達に向ける。

「そいつらこそが姫様の誘拐を助けた奴等だ!」

 ミスリルナイツが一斉に襲い掛かるが、ユリーアの糸に防がれる。

「何度同じまねすれば気が済むの?」

 ユリーアが呆れた表情で言うと、レイトが怯む。

 そこで較が言う。

「ところで一つ聞いて良い?」

「何だ!」

 レイトがやけくそ気味に怒鳴ると較が質問する。

「何で、誘拐を助けたって言ったの?」

 レイトが怒鳴り返す。

「それはお前等以外にそんな真似をするとは考えられないからだ!」

 較が苦笑して続ける。

「じゃあ聞き直すけど、どうしてあちき達自身が誘拐したとは思わないの?」

 レイトは、意味が解らない顔になって言う。

「当然だろう、誘拐された時に、外に居るか、傍に居たからだ」

 ユリーアが肩を竦める。

「まだ気付いていない?」

 だれもが困惑する中、較が続ける。

「誘拐された時って言うけど、実際誘拐されたのは何時なのか解らない。だからこそ困惑してる筈だよ。だから問題の時間のアリバイがちゃんとしてる訳無いよ。ついでに言っとくけど、ユリーアさんは、貴方達の前からミールさんを誘拐するのには十分な時間姿を消してたた時もある筈だよ」

 話について来られない一同。

「結局どういうことだよ!」

 良美がきれて怒鳴るとユリーアが苦笑する。

「簡単よ、この男が誘拐の手引きをしたって事」

 広間にざわめきが起こる。

「何を根拠にそんな事を!」

 レイトの反論に較が聞き返す。

「最後に確認するけど、貴方が誘拐だと判断して、城に包囲網を廻らせたのよね?」

 レイトが強く頷く。

「そうだ、そこからも私が誘拐に加担していない事が解るだろう。誘拐に加担していたら態々ばらす真似はせん!」

 頷く連中に呆れながら、ユリーアが言う。

「それが決定打なのよ。さっきもヤヤちゃんが言って居たでしょう、何時誘拐されたのか解らないって。はっきり言ったら誘拐されたかどうかも解らないのよ?」

「何を馬鹿な事を言っている! ミール姫様が居ない事が誘拐の証だろうが!」

 較は入り口の方を向いて告げる。

「ミールさんもう入ってきても良いよ」

 入り口からミールが入ってくるのを見て、広間に元々居た人間は驚きの表情を向ける。

「どうして? 確かにミール姫様は奴等に連れて行かれた筈」

 困惑するレイトの呟きが最後の真実を白日の下にさらした。

「どう言う事だ、レイト!」

 普段は、温厚なミルド国王の言葉に、レイトがあせって言う。

「それは偽者だ! 本物の訳がない!」

 較が大きく溜息を吐き事情を説明する。



 ユリーアと合流する前まで時間は戻り、ユリーアの部屋の前。

「早く姫様を探さないといけません!」

 慌てているサイトに較が肩を竦ませて言う。

「居場所は大体解っているよ」

 較はそう答えながら、ユリーアの部屋のドアに手を触れる。

『バハムートブレス』

 ドアが弾き飛ぶ。

 部屋に突入する較に、ユリーアが引き攣った笑みで答える。

「早かったのね?」

 較は部屋を一瞥して、ベッドの掛け布団を取るとそこにはミールが居た。

 言葉が無いサイトに涙ながらに較に抱きつくミール。

 較は猿轡を外して言う。

「ごめんなさいね、まさか誘拐なんてイレギュラーが起こると思ってなかったから、釘刺しておくの、忘れていたよ」

 ユリーアを睨む較。

「だって可愛かったんだもん」

 言い訳にならない言い訳を聞き流しながら、較が言う。

「それで、敵の足取りは大丈夫ですか?」

 ユリーアは、余裕たっぷりな顔に戻って答える。

「当然でしょ」

 二人のやり取りに、サイトが困惑して言う。

「誘拐されたのは誤解だったのでは?」

 較は首を横に振る。

「誘拐が実行されたのは本当だよ。ただ、こっちも万が一の事を考えて、身代わりを用意しておいたの。本人には、隣室にいてもらって、身代わりの人間が指示を受け、ミールさんの代わりに対応していたの」

 ユリーアが頷く。

「それで誘拐されたのはその身代わりの方よ」

 その言葉にミールがつらそうな顔をする。

「私の為に……」

 較が手を横に振る。

「気にしなくてもいいよ。殺される可能性も含めてやってもらってる事だから。さすがに栗菜クリナさんが本気で危ない時に、ユリーアさんがミールさんに手を出そうとしないよ。時間あいたからって、自分のテクニックで落とそうなんて変態的思考が出来るって事は、栗菜さんの身の安全が確認出来る状態だって事ですよ」

 ユリーアは頷く。

「あたしの糸から身代わりの、栗菜の心音が正常値で伝わってきている。問題ないわ」

 安堵の息を吐く、ミール。

 ホープが来て言う。

「オーフェンのアジトに襲撃かけるんだろ。さっさと行こうぜ!」

 較は、首を横に振る。

「駄目、先に内部の膿を取り出しとかないとね」



 説明を終えた較に言葉を無くすレイト。

「念の為の用心だったけど、やっといて正解だったね」

 較の言葉が止めで、レイトは王の親衛隊に連れて行かれる。

「無事で良かった」

 真底嬉しそうにするミルド国王にミールが言う。

「今は一刻も早く、私の身代わりになって誘拐された栗菜さんを助け出す事が先です」

 その一言に、ミスリルナイツも頷く。

「それじゃあ俺達も行くぞ!」

 ホープが声を掛けるが、較が止める。

「ホープは留守番お願いね」

 おもいっきり嫌そうな顔をするホープ。

「内通者が判明したんだから良いだろう?」

 較が首を横に振る。

「内通者が一人だとは、限らないし、用心し過ぎって事は無いからね」

「だったらユリーアにやらせれば良いだろう。俺はそんな仕事は向いてない!」

 必死に抵抗するホープにユリーアがにじりよって言う。

「大切な子猫ちゃんが誘拐されたあたしに残れって言うの?」

 あくまで笑顔のユリーアだったが、ホープは、大量の冷や汗を垂らしたあと、諦めた様に言う。

「……解った」

 そして、較とユリーア達は、敵のアジトに向うのであった。



 王宮に程近い、立派だが人気が無い館の前に、較達が居た。

「本当にここなのか?」

 サイトの言葉にユリーアが頷く。

「間違いないわ」

「疑ってても仕方ないからとっとと入ろう」

 危機感無しに歩き出す良美を片手で引き戻す、良美より小柄な較。

「何するんだよ!」

 較は無言で小石を投げると小石が転がった先で地面が爆発する。

 ミスリルナイツも沈黙してしまう。

「相手がオーフェンだからって科学的トラップが無いわけじゃないの。逆に奴等は、科学も魔術も使えるものは何でも使ってくわよ」

 ユリーアはそう言って、糸を使ってどんどんトラップを解除していく。

「こういった細かい作業はやっぱユリーアさん向きだね」

 較はユリーアが作った道を確実に進んでいくのであった。



 較達が屋敷の探索をした結果、奥に捉えられていた栗菜はあっさり見つかった。

「良かった」

 安堵の息を漏らすミールの後ろで顔を見合す較とユリーア。

「お姉様、あたしを誘拐した奴は、分裂して生み出された分身です。奴等の本体は王宮に残ってます!」

 舌打ちをする較。

「読み間違えた、ミールさんを日本まで追っかけて来たから、本命はミールさんだと思ったのに!」

「愚痴を言っても仕方ないわ、早く戻るわよ!」

 そう言って、捕らわれていたミールに変装していた栗菜に背中を向けた時、栗菜の手が伸びて、ミールに襲い掛かる。

 較もユリーアも反応が間に合わなかった。

「サイト!」

 そして腹を貫かれたのは、ミールの傍に居て、咄嗟に庇ったサイトであった。

 栗菜は目から涙を流しながら言う。

「ごめんなさいお姉様……。あたし操られてます」

 腕が触手の様に伸びて、周りの人間を襲い始める。

「ヤヤどうするの!」

 良美の言葉に、較はユリーアを見る。

「先に行って良いわ。ただし止めはささないでね」

 ユリーアの言葉に、較は傷付いたサイトを抱えて出口に向う。

「良いのですか?」

 サイトを心配しながらも、後ろの状況をほってはおけない複雑な表情をするミールに較が断言する。

「傍に居ると危険なの。ユリーアさん本気で怒ってるから」

「しかし……」

 何か言おうとしたミールに較が告げる。

「今は時間がないから急ぐよ」

 加速する較に必死に追いかけるミール達であった。

 その間にも戦いは続く。

「ごめんなさいお姉様」

 涙を流しながらも攻撃を続ける栗菜にユリーアは答えない。

 そして触手の一本がユリーアを貫こうとした瞬間、栗菜の体を無数の糸が貫く。

「消えなさい」

 その一言と共に放たれた気が、栗菜を侵食していた、メイダラスの欠片を全て消去する。

 傷だらけになって気絶する栗菜を抱きしめながら、凄惨な笑顔を浮かべてユリーアが呟く。

「絶対に許さない」



 較達が王宮に戻った時には、王宮には大穴が幾つも空いていた。

「嵌められたみたいだな」

 王宮の人間達を護りながら、無数とも思える完全侵食された人狼達を打ち倒していくホープに苦虫を噛み潰した顔で頷く較。

「それで、相手は?」

 それに対して大臣が叫ぶ。

「奴等は城の秘宝、ミスリルオーブを奪取して、城の地下に潜っていきました!」

 ミールが青褪めた表情になる。

「まさか、ミスリルの魔王の封印を破るつもりなの?」

 較が納得した表情になる。

「なるほどね、最初っからあいつ等の狙いは、ミスリルの体をもって居たと言われる、封じられたミスリルの魔王の復活だったんだ」

「ヤヤお姉ちゃんミスリルの魔王って何?」

 小較の質問にミールが答える。

「この国が生まれる前に、その体を構成するミスリルで邪悪な光を無限増殖し続けて、万物を滅ぼすと言われた魔王が降臨したそうです。その魔王は、この世界の光を妬み、滅ぼす為に、星すらも打ち砕く、邪悪な光を生み出そうとしていました。それを我等の先祖が、光の増幅中の無防備な魔王の体内から、邪悪な光をこの世界に導く為の核、ミスリルオーブを奪う事で阻止したのです」

 較が続ける。

「この国にミスリルが豊富なのはその魔王の死骸が眠っているからって説だよ。問題はその魔王は、邪悪な光を増幅し続けたまま、封印されたって事だよ」

 その一言に小較は最悪な事態を予測した。

「まさか、ミスリルオーブがその魔王に戻った瞬間、この国が消滅してしまうかもしれないの?」

 較が溜息とともに言う。

「最悪、この星が本当に滅びるかもね」

 王宮の人間達は、困惑する。

「わしの所為じゃない。わしの所為じゃない!」

 必死に言い訳をするミルド国王をほって置いて、較が断言する。

「絶対止めるよ」

 強く頷くミール。



 地下に向った較達を無数の触手が襲い掛かった。

「ここは我々が防ぐ先に行け!」

 ミスリルナイツのメンバーが死力を尽くし、較達に道を作る。

「多分メイダラスは、ミスリルの魔王の力を流用しているから、この触手にミスリルの武器は有効じゃないよ」

 較の言葉にミスリルナイツの一人が答える。

「そんな事は関係ない。我等は、護るべき王家と国の為に死力を尽くす。それだけだ」

 ミールが驚く。

 別のミスリルナイツの一人が苦笑して言う。

「一番の若造に身を持って示された以上、私達がそれを示さない訳には行かないだろう」

 ミールは、上に残して来たサイトの事を思い出し、涙を流す。

 そんなミールの背中を良美が叩く。

「ほら、泣いてても始まらないぞ。ヤヤ急ごう!」

 較は頷き駆け出し、良美もミールを引っ張り駆け出す。

 そんな中、ミールが言う。

「そういえば、どうして大門さんが、一緒に来ているのですか?」

 併走する様に走っていた小較が不機嫌そうな顔をして言う。

「本当だよね。邪魔なだけなのに」

 良美と睨み会う小較に苦笑しながら較が言う。

「小較も解ってるでしょう、本当に死力を尽くす戦いの時には良美が傍に居ないと駄目だって事くらい」

 較の言葉に、小較は渋々頷いた。

「どういう意味ですか?」

 ミールが質問すると、較が困った顔をして答える。

「あちきは、ヨシが傍に居ないと不安で限界まで力を出せないの」

 ますます首を傾げるミールであった。



 そして、ミスリルナイツに大量の負傷者を出しながらも、較達は王宮の地下の封印の間に到着した。

 そこには、脈打つ半透明の球体が浮かび上がっていた。

「残念ね、もうミスリルオーブは、ミスリルの魔王の心臓に取り込まれたわ」

 球体の隣に居たメイダラスの言葉に、ミールが叫ぶ。

「まだです! ミスリルオーブは、心臓部の中心部に収まらない限りその能力が発揮できません。今でしたら再び取り出す事は可能な筈です!」

 高笑いあげるメイダラス。

「確かにミスリルオーブを取り出した時ならばそれも可能だったかも知れないわね、しかし今はもう駄目よ! ミスリルの魔王の心臓には撃ち損ねた邪悪な光が増幅されて巡り回っているわ。この中に手を入れると言う事は、星を砕くほどの力の中に手を差し込む事と同じ。そんな事が人間に可能かしら?」

 ミールが震えながらもミスリルの魔王の心臓に手を伸ばす。

「王家の者として生まれてきた者の宿命です。この命を捨てる事になっても……」

 ミールの心に反して、ミールは心臓に触った瞬間、弾き飛ばされる。

「無駄よ! さっきも言ったでしょ、星を砕く力よ、人間の力では、触れることすら叶わないわ!」

 勝利の笑みを浮かべるメイダラスに対して、較が良美の方を見て言う。

「我慢してね」

 良美は指を立てて断言する。

「任せておけ!」

 較は右手を心臓に向ける。

「無駄だといってるのが解らない! 例え八刃の人外の力をもってしても、人の器から放たれる力で、その中に手を入れる事なんて出来ない!」

 較は左手を右腕に添える。

『ホワイトファング!』

 較の右手が白く光った。

 較は、そのまま右手を心臓にめり込ませていく。

 信じられない物を見る顔をしてメイダラスが呟く。

「嘘よ、星を砕く力よ! 人間が一人でなんとか出来る力じゃない!」

 較は必死に堪え、右手をミスリルオーブに伸ばしながら言う。

「あちきの右手は八百刃様の使徒、第一の八百刃獣、白牙ビャクガ様に侵食されている。太陽すら打ち砕く力に浸食されたこの右手なら、星を砕く力にも打ち勝てる!」

 ミールが緊張の面持ちで呟く。

「そんな力があるなんて……」

 その時、隣に居た良美が床を転げまわる。

「どうしたのですか?」

 小較は必死に良美を抑えながら言う。

「良美は、馬鹿だから侵食されたヤヤお姉ちゃんの肉を食べちゃってリンクしてるの。だからヤヤお姉ちゃんへの白牙の侵食が強まると、適応力が無い良美は、とんでもない激痛に襲われる。それが、ヤヤお姉ちゃんが本気を出す時に傍に居る理由」

 ミールは慌てて較を見る。

 その表情は鬼気迫る物があり、絶対的な力に抗う為に死力を尽くしているのが解った。

「させない!」

 メイダラスが較に触手を伸ばす。

「貴女があたしの大切な子猫を苛めたのね?」

 声と共に、無数の糸がメイダラスに襲い掛かる。

 メイダラスの触手はあっという間に切り刻まれる。

 階段からユリーアが現れて宣告する。

「楽に死ねると思わないでね」

「時間が無い時に!」

 メイダラスが舌打ちをする。

「だりゃ!」

 較はミスリルオーブを引き抜く。

 メイダラスは憎悪が篭った視線を較に向けた後、周囲を見回して言う。

「失敗ね。でも次はこうは行かないわ」

 逃げに入るメイダラス。

「逃がすと思ってるの!」

 ユリーアの糸がメイダラスに襲い掛かった時、それが起こった。

 ミスリルの魔王の心臓から、ヤヤが手を抜いた時に漏れた光が、地下室を砕いていく。

 ユリーアの糸も天井が無くなり連携が崩される。

 舌打ちをするユリーア。

「退避するよ!」

 較がそう言って、駆け出そうとした所で、倒れる。

「較さん!」

 ミールが駆け寄ろうとするのをユリーアが止めて、言う。

「貴方は早く上に登りなさい。ヤヤちゃんはあたしが、連れて行く」

「先行っています!」

 自分より背が高い良美を肩に担いで階段を登り始める小較。

 ミールもその後を追う。

 較を抱き上げてユリーアが言う。

「本気で軽いわね」

 少し驚いた顔をしていた。

「普通のつもりですけど」

 較の返答に苦笑するユリーア。

「星を砕く力に打ち勝った子が、普通通りだとは誰も思わないわよ」

 そして駆け上がっていくユリーアであった。



 数日後、空港に較達が居た。

「ようやく開放されたな」

 ホープが背を伸ばしぼやくと売店から戻ってきた小較が言う。

「ホープさんは、ずっと昼寝してただけじゃないですか!」

 そんな小較の頭を撫でながら較が言う。

「それぞれ役割分担があるんだから良いのよ。それよりユリーアさんには本気で気をつけてね!」

 強い口調に見送りに来ていたミールが苦笑する。

「はい。でもユリーアさんは、栗菜さんの看病が大変そうですから大丈夫ではないですか?」

 較が首を横に振る。

「ユリーアさんは、釣った魚にも餌やるタイプだけど、同時に新しい獲物を狙うのは絶対止めないから油断しちゃ駄目だよ」

 真剣な顔に思わず頷くミール。

「それにしても、全身を糸で貫かれたのに栗菜さんはよく生きていましたね?」

 較は平然と答える。

「ユリーアさんにとっては、致命傷にならない所を狙って全身を貫くなんて、通常技のレベルだからね。それでも相手の侵食率が解らないから最大限まで糸を張り巡らせたから、かなりダメージは大きいみたいだよ」

「ヤヤ、早く帰るぞ!」

 良美がさっさと搭乗口に向う。

「はいはい。それじゃあ何かの機会があったら」

 手を振って去っていく較達に頭を下げるミール。

 完全に飛行機が見えなくなるまで居たミールの所に松葉杖をついたサイトが来て言う。

「嵐の様な人達でした」

 ミールが頷き振り返る。

「これからは私達の仕事です」

 ムーンウルフとオーフェンの介入で乱れた王宮を正す為にミールが歩み始める。

 その背後の電子掲示板に赤い文字が浮かぶ。

『日本行きの便が原因不明のトラブルに遭い、行方不明』

 較の右手を侵食する使徒の主は、まだまだ較達を休ませる気は無い様だった。

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