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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
22/52

撃術使いヤヤ

少し短め、無敵のヤヤを封じる方法があるのか?

「やはり、ここを出たほうが良いと思いますが」

 四十四号と呼ばれる少年が呟くと、小較が睨む。

「何度も言わせないでよ、そんな事は、あたしが認めない」

 困った顔をする四十四号と呼ばれる少年に良美が言う。

「ところで、名前は、どうする? 四十四号って言うのも変だろう?」

「そうだね、シシで良いんじゃない?」

 小較の答えを、良美が鼻で笑う。

「単純な名前だな」

「良美だけには、言われたくない」

 小較が反論すると、頭が良い四十四号と呼ばれる少年、シシが言う。

「もしかして、小較と言う名前を考えたのは、そちらの大門さんですか?」

「そうよ、センスあるっしょ」

 良美が胸を張るが、小較が嫌そうに言う。

「ヤヤお姉ちゃんと同じ漢字を使ってなかったら、絶対拒否してたよ」

 睨み合う二人を尻目に、シシが言う。

「もしかして、開発№五八八なのですか?」

 頷く小較。

「まーね、失敗が多かったみたいだよ」

 少しつらそうな顔をする小較に、シシが言う。

「僕の開発にあたっている人間が、以前に話していたことがあります。遺伝子操作の傑作と呼べる少女が居たと」

 小較の顔が固まり、良美の目に怒りがこみ上げる。

「小較を改造した奴等の生き残りが、まだ居たんだ」

「その話は、利用できるね」

 そういいながら較が入ってくる。

「希代子さんとのお話しは、どうなったの?」

 小較の質問に較が肩を竦める。

「どうも中途半端、確かに抗議してきているんだけど、即刻返せって話になっていない。まるで時間稼ぎをしてる感じ」

「おかしいですね、あちらにとって、時間が経てば経つほど不利になる筈なのに」

 シシの言葉に較が言う。

「多分、あちきに対抗する方法を検討してるんだよ」

 驚いた顔をするシシ。

「そんな馬鹿げている、貴女と対抗して勝てる訳が無い。少なくともアスモデウスは、そんな馬鹿な事は、しない」

 較が苦笑する。

「理論的思考で、全てが解決するわけじゃないの。九割九分駄目な事でもやる事があるし、とんでもない裏技を使ってくることもある。それでもこの家に居る間は、大丈夫。この家に居る間に手を出せば、流石に白風に喧嘩を売る事になるからね。そうなったらあちきじゃなく、お父さんが出てくる。それが何を意味するかくらいこの業界で知らない人間は、居ない」

「そうなの?」

 良美が質問するとシシが青褪める。

「最悪の最悪です。白風の長を敵に回せば、八刃と全面戦争です。万が一にも魔王や神々を召喚しようが、異界に逃れようが、全滅するしかありません」

 その時、較の携帯の電話が鳴る。

 較が出て少し話してから、本格的に眉を顰める。

「絶対罠だな」

「どうしたの?」

 小較の問いに、較が答える。

「今回の件で話し合いがしたいから、指定した場所まで来てくれと言ってる。解らないのが、シシ達を連れてこなくても良いって話だけ」

 シシも眉を顰める。

「どう考えても、僕も呼び出して、隙を突いて、僕を連れ出すのが、一番の良策の筈?」

 較が肩を竦めて言う。

「一緒に行くよ。裏をかかれた時、傍に居ないと困るから。相手が正気を無くして、こっちに来ても面倒だからね」

 そして較達は、相手が指定した、夜の公園に向かう。



「人払いは、完璧。相手の伏兵は大量。でも、決定打が無い。これだけだったら、間違いは、起こらない」

 較が、何処か納得していない顔で言うと、前回の男、支部の幹部、モリモトが現れる。

「それでは、こちらの要求だが、その四十四号を渡せ、そうすれば、今回の干渉は、忘れてやる」

 偉そうな言葉に、良美が反発する。

「何様のつもり、ヤヤ、ぶっ飛ばしちゃえ!」

 較は、そんな良美を無視して、冷静に語る。

「もしかして、勘違いしていませんか?」

「何を勘違いしているって言うんだ! お前達、八刃は、不干渉が鉄則。それを侵しているのが、解らないって言うのか?」

 あくまで自信たっぷりの言葉に、較は笑顔で答える。

「基本的にです。何事にも例外があります。今回みたいに、そちらからあちき達の身内に攻撃した場合。特に今回は、年端も行かない小較に攻撃していますから、そういった奴等には、徹底的に壊滅させるって選択肢もありですよ」

 冷や汗を垂らすモリモト。

 較が、前に出た時、それが起こった。

「何するの!」

 良美の大声に較が振り返ると、良美の首に、何かを巻きつける男が居た。

 瞬間移動と思える、動きで較が、近づき、男を捕らえ、言う。

「今すぐ、外せば、後悔しないで済むよ」

 常人だったら、失禁する迫力を込められた言葉だが、その男は、無反応である。

 舌打ちして、較が振り返る。

「やって良い事と悪い事の区別も出来てないみたいだね」

 較が手を振り上げた。

『ガ……』

 その瞬間、良美がうずくまる。

「どうなってるの? まさか撃術に反応して、装着者にダメージを与える装備?」

 小較が困惑に、較が首を横に振る。

「違うよ、撃術は、端的に言えば、意志力による、摂理コントロール。強い意志力を攻撃力に変換する装備だったら、殺傷能力があるから、隠蔽されていても、あちきが気付くよ」

 モリモトが自信満々の様子で、水晶を取り出す。

 光が飛び出すと、空中に二人の男の姿を映し出す。

 一人は、幹部のアスモデウス、もう一人は、白衣を着たであった。

「ルショー博士」

 シシの言葉に、その白衣を着た男、ノーベ=ルショーが答える。

『私の最高傑作が二体揃っているとは、嬉しい事だ』

 その言葉に、小較が青褪め、較が睨む。

「詰り、貴方がバトルの組織の生き残りで、シシを改造した人間だね」

 ルショーは、頷く。

『その通り、五八八の方は、延命を諦めていたが、さすがは、人外八刃と言う所だな』

 荒く息をしながら、良美が怒鳴る。

「それって、あの時、もしも小較が、ヤヤを倒しても、延命できなかったって事!」

 ノーベは極々当然な顔をして言う。

『あれは、あの女が勝手にした約束だ。五八八は、使い捨ての予定で、限界まで、遺伝子を弄ったから、あのままでは、一週間と生きられなかっただろうな』

 俯く小較、怒りで今にも飛び掛ろうとする良美を押さえながら較が言う。

「それで、良美の首輪の事を教えてくれる?」

 アスモデウスが頷き答える。

『当然武器では、ありませんよ。どれだけ巧妙に隠蔽したところで、殺傷能力があるものを、八刃の人間に隠して置けませんからね』

「どういう理屈なんですか?」

 小声でシシが質問すると、較が答える。

「上位の人間になると、恒常的に周囲に極少量の気を放出してるの。それの返りで、視界の届かないところまで、察知している。武器等の触れた相手が殺意を持っているものに関しては、残留気配で危険を察知できるの。しかし、あれには、それが無かった」

『はい。あれは、殺傷兵器では、ありません。それどころか、貴方達の力を向上させる働きがあるのです』

 アスモデウスの言葉で、較は、全てを察知する。

「あちきから流れ込む力が増幅されて、常人のヨシには、耐えられなくしたって事だね」

 嬉しそうにアスモデウスが言う。

『話しが早くて助かります。それを取り外すには、専用の道具か、効力の切れるのを待つしかありません。四十四号を返して頂けましたら、今回の件は、全て無かった事にして、解除の為の道具をお渡しします』

 較が戸惑うが、良美が即答する。

「そんな条件に乗れるか! あたしは、死んでも言う事は、聞かないぞ!」

 大きく溜息を吐く較。

「そういうことだよ、時間さえあれば、どんなアイテムでも自力で解除する。はっきり言って、こんな手段を考えて、小較のトラウマを突く奴をほって置くほどあちきは、大人じゃないよ」

 確りとした眼差しで、その事を告げると、アスモデウスが残念そうに言う。

『解りました。諦めましょう』

 あっさりした態度に、較達が不審を覚えた時、アスモデウスが微笑み、シシの方を向いて、告げる。

『そうそう、貴方と一緒に改造させた子達ですが、使い道が決まりました。薬で意識を暴走させて、テロ行為を行わせます。決行は、三日後ですよ』

 その捨て台詞を残して、映像が途絶える。

 シシが悔しげな顔をする。

「たった三日しか時間が無いなんて……」

 そんな、雰囲気をぶち壊すようにモリモトが言う。

「三日も時間をやるか! ここでお前を捕らえれば、アスモデウス様に認めてもらえる。行け!」

 モリモトの指示で、周囲に展開していた、武装集団が現れる。

「撃術を封じられればただの小娘、もう一人の奴も、戦闘意欲が無い今、前回の借りを返させてもらう!」

 較が呆れきった顔をする。

「命令違反して楽しい?」

 モリモトが首を傾げる。

「何のことだ?」

 較が肩を竦めて言う。

「さっきの奴には、直ぐに帰って来いって命令されてるでしょ?」

 モリモトが少し考えてから答える。

「そうだが、こんなチャンスを逃せるか!」

 大型の刀剣を手に迫ってくる男に、較は、自分から近付く。

 男は、慌てて刀を振り下ろすが、手首に肘を入れられてあっさり、刀を飛ばされる。

 刀が落ちてくる前に、較の回し蹴りが側頭部に命中し、意識を刈る。

 残った男達は、慌てて、間合いを開けて、銃を連射する。

 較は、平然とそれを避けて、手近な男に近付くと引き金を引く指を切り落とす。

 投げ捨てられた拳銃を掴むと、それを銃撃に向かって投げる。

 拳銃が破裂し、煙幕が出来た。

 煙幕の中、較は、確実に一人、一人戦闘不能にしていった。

 煙幕が晴れた時に、周囲に潜んでいた男達の数は、半減していた。

「馬鹿な、お前の撃術は、封じたはずだぞ?」

 愕然とするモリモトの言葉に、較が質問を返す。

「そうだね、だから何?」

「何って、力が無ければ戦えないだろうが!」

 モリモトの答えに、シシが呆れた顔をして言う。

「本当に愚かですね。ヤヤさんは、撃術が使えるから強いのでは無く。撃術を使いこなせるから強いんです。ここに居る連中ならば、基礎能力だけで全滅させられるんですよ」

 モリモトが怒鳴る。

「そんなふざけた事があるか!」

 シシは、首を横に振る。

「周知の事実です。だからこそ、あの人が、撤退しろと言っていたのですよ」

 モリモトが愕然としている間に、較は、自分達を囲んでいた男達を全滅させていた。

「覚悟をしてね」

 較が笑顔で近付いていく。

 そして、公園に男の悲鳴が響き続けた。



「戻ってきませんでしたね」

 ノーベの言葉に、アスモデウスが溜息を吐いた。

「所詮は、そこまでの男」

 ノーベが呆れた顔をして言う。

「最強の戦闘生物、白風を、術を封じただけで勝てると思えるとは、とんだ愚か者だな」

 アスモデウスが頷く。

「所詮、頭が足らない者に使い道がない。その為にも、知能強化型の四十四号が必要なのだ」

「出来たら、もう一人の方も回収して欲しいのですがね?」

 ノーベの言葉に首を横に振るアスモデウス。

「それは、無理だ。あれは、既に八刃に組み込まれている。あれに手を出せば、間違いなく八刃全体を敵に回す事になる。それだけは、避けなければいけない」

 ノーベが残念そうに言う。

「人を止めた人間、八刃。出来ることなら実験材料に数体欲しい位ですね」

 アスモデウスが苦笑する。

「あれが商品化出来れば、確かに強い発言力と利益を生み出すが、手を出すには、危険すぎる。今回は、仲間を助けに来る、四十四号の回収だけで満足しよう」

 ノーベも渋々頷くのであった。

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