強化された頭脳を持つ少年
小較の恋愛編です
「ヤヤお姉ちゃん?」
小較が較に声をかける。
「何?」
小較は、少し躊躇しながら言う。
「あのねー、次の授業参観の日なんだけどねー、お父さんに来て欲しいんだけど」
その言葉に較が少し困った顔をする。
「そんなイベントの季節かー」
「因みに知ってるか? うちの学校でもあるんだぞ」
良美の突っ込みに較が笑顔で答える。
「前回、校庭を破壊した人が、どんな顔をして来るんだろうね」
「お父さんそんな事をしたの?」
小較が嫌そうな顔で質問すると、較が遠い目をして言う。
「敵が多いからね」
「ヤヤに人の事は、いえないと思うけどね」
良美の言葉には、答えず、較が言う。
「一応連絡してみるね。駄目なときは、あちきが、一美さんと行ってあげる」
小さく頷く、小較であった。
小較は、一人夕方の公園に居た。
「お父さんと一緒!」
嬉しそうに父親の手を握る少女。
「もう、お父さんは、疲れてるのよ」
母親と思われる女性が、駆け寄り、逆の手をとる。
まさに幸せな親子を表現した風景が公園の前にくりひろげられた。
小較は、自分の髪の色を見て、大きく溜息を吐く。
「あたしは、所詮、養女だもんな」
そんな風に落ち込んでいたとき、一人の同じ年の少年が声をかけてくる。
「君は、帰らなくても良いの?」
小較がその少年を見る。
その少年は、小較と同じ、白人の外見を持って居た。
「ううん。もう帰らないと」
座っていたブランコから降りる小較に、少年が言う。
「親は、迎えに来ないのかい?」
一番、言われたくなかった事を言われて涙ぐむ。
慌てる少年。
「ごめん、もしかしてご両親が居ないのかい?」
「知らない」
小較の答えに少年は、必死に考えて言う。
「ええと、遠くに行ってるのかい?」
小較が首を横に振る。
「あたし、売られたんだもん」
首を振った振動でこぼれる涙を、少年は、ハンカチで拭って、言う。
「慰めにならないかも知れないけど、僕も一緒だよ」
意外そうな顔をする小較に、少年が微笑む。
「でも、僕は、ここに居る。親なんて関係ないって思わないかい?」
小較がその微笑を魅入られていた時、いきなり目の前に複数の車が止まる。
「探したぞ、四十四号!」
車から降りてきた男達を見て、少年が叫ぶ。
「逃げて!」
小較が、振り返り、周囲を見回す。
「無理だよ、囲まれてる」
あっさり答える小較に、少し驚いた顔をする少年。
降りてきた男の一人が言う。
「前のように逃げられると思うなよ。こちらは、お前の頭脳に対抗する為に、開発中のSATORIまで持ち出したんだからな」
舌打ちをする少年。
「念がいった事ですね。しかし、逃げ切って見せます」
油断無く周囲をうかがっていた時、小較が宣言する。
「あたしの名前は、白風小較。白風の名を聞いても、引かないんだったら、相手になるよ!」
「白風? まさか、あの有名な?」
少年の言葉に、男達は、舌打ちする。
「そんな名前を知るか!」
拳銃を取り出す男達の目前に、小較が現れる。
『バハムートブレス』
小較の掌が男に当たり、男の一人が吹き飛ぶ。
その技を見て少年が叫ぶ。
「思い出した! 白風と言ったら、闇の世界では、不可侵と言われる八刃の盟主の名前。貴方達、ここは、下がって! とんでもない騒ぎになりますよ!」
親切にも忠告する少年だったが、男達は、あざ笑う。
「お前にしては、詰まらない作戦だな。そんなハッタリで、どうにかなると思ったのか?」
「僕も、白風の介入は、困るんですよ! あそこの次期長が関れば、組織自体が大変な事になり、そうなったら、救える人間も救えなくなる!」
必死の叫びにも男達は、気にした様子も無く、作戦を続行しようとしたが、小較が圧倒的な力で、男達を蹴散らしていく。
「いまいましい、SATORI、行け!」
その言葉に答え、虚ろな目をした中高校生位の少年達が動く。
そんな早くない動きに、小較が余裕を持って迎撃に入ろうとした時、小較の死角から、ナイフが延びる。
『アテナガントレット』
咄嗟に腕を硬化させて、攻撃を防いだ小較であったが、その隙を突くように、他の少年が警棒で殴りつける。
転がされる小較。
咄嗟に回避運動を取る小較だが、まるで動きが読まれているように、妨害される。
その時、小石が飛んできて、少年達を牽制する。
その僅かな隙に、小較が大きく跳ぶ。
『イカロス』
そのまま、少年達が届かない上空まで逃れて、少年の所まで戻る。
「大丈夫?」
少年の言葉に、小較が悔しげに言う。
「まるで心が読まれてる様に、先手をとられる」
「本当に心が読めるんです、SATORIは、日本の妖怪、さとりを研究して生み出された、改造人間で、人の心を読む。心を読まれたら、どんな強くても勝てない」
少年が拳を握り締めて言うのを見て、小較が強い眼差しで言う。
「任せて! 相手がこちらの考えを読む前に倒せば良いんだよ」
『韋駄天』
小較の姿が消えた。
しかし、SATORI達は、大きく離れて、手に持った武器を投げつける。
「キャー」
姿を現した小較の体に、ナイフが刺さっていた。
少年が無我夢中で駆け寄る。
「大丈夫?」
「どうして?」
困惑した表情を見せる小較に、少年が答える。
「どんなに早く動こうとも、動く前までに考えが読まれていたら、対応方法が幾らでもある」
小較が歯を食いしばり、立ち上がる。
「だったら次は、無我だよ!」
「漫画の読みすぎ」
その言葉に、小較が笑顔になる。
「ヤヤお姉ちゃん」
小較の向いたほうには、較と良美が居た。
「またやられてるな。こないだも同じ様な状況じゃなかったか?」
良美の言葉に頬を膨らませる小較。
「年がら年中ヤヤお姉ちゃんに迷惑かけてる良美には、言われたくないよ」
「なんだと!」
二人が喧嘩する中、較がゆっくりと、SATORI達を見る。
「やる?」
その一言で、SATORI達は、失禁する。
「どうしたお前達、お前達は、相手の心を読める! 心を読まれて、勝てる奴なんて居ない!」
肩を竦める較。
「あのね、人の心を読む技術って結構簡単なんだよ。占いなんて良い例。でもそれが戦闘に使われない理由知ってる?」
男が苛立ちながら怒鳴る。
「知らないな! お前が何者か知らないが、見られた以上は、死ね!」
SATORI達が、男の言葉に答えて動くが、較はゆっくりした動きで、近付く。
それだけでSATORI達は、激しく右往左往した。
「何やってる! お前達は、相手の心を読んで、最適な戦闘を行える様に作られた筈だぞ!」
較が苦笑する。
「だからだよ。あちきは、相手の動きを見て、作戦を変えてる。こっちが変えるから、向うも変える。するとこちらがまた変える。実戦では、一々相手の考えを読んで、それに最適な動きをしていたら無駄が多くなる。無数の戦闘バリエーションを、事前に想定して、もっとも適したパターンを、順次選択していくだけ。そこには、予知能力に通じる先読みが必要なの」
混乱し、動けなくなるSATORI達を見て、男が後退り、恐れながら言う。
「お前何者だ? 今まで何度も戦闘テストを経験させたが、こんな事には、ならなかったぞ!」
較が呆れた顔をして言う。
「実戦とテストは、大違い。それとあちきは、白風較。この名前を聞いてまだ戦う?」
少年の表情が引き攣る。
「最悪です。 ウォーキングハルマゲドン(歩く最終戦争)が出てくるなんて」
男達が唾を飲む。
「そんなにやばい奴なのか?」
少年が頷く。
「その人に関って、壊滅した組織は、数知れず。ホワイトハウスを半壊させ、山一つ消滅させた、闇社会の絶対タブー。視界に入る事さえ、危険な存在」
血の気が引き、男達は、急いで車に乗り込む。
「今回は、見逃してやる。だが次は、見逃さないぞ!」
そのまま逃げ帰って行った。
「怪我無かった?」
小較が少年に尋ねる。
「ええ、助かりましたが、これ以上は、関わりに合いになれば、お互い大問題になります。ここで別れましょう」
冷静な言葉に、良美が眉を顰める。
「なんか、ガキっぽくないな? もしかして、実年齢、違わなくないか?」
少年は、首を横に振る。
「いえ、年齢は、見た目通りです。色々と、改造されているだけです」
その言葉に、小較が強く反応する。
「問題抱えてるんでしょ? だったらヤヤお姉ちゃんに頼めば、どんな問題でも解決してくれるよ!」
少年は、首を横に振る。
「それは、駄目です。八刃は、基本的不可侵、それが関係してくれば、単純な問題ですまなくなります。下手をすれば、関係者全員殺される可能性もあります」
良美が頬を掻きながら、隣に居た較の方を向く。
「そんな事をするの?」
較がばつが悪そうな顔をして、言う。
「まあ、時と場合によっては、ありえるね。昔から死人にくちなしって、言葉がある位だから」
少年は、もう一度、頭を下げて言う。
「お礼は、いずれさせてもらいます。今日のところは、これで失礼します」
そのまま立ち去ろうとした時、小較がしがみ付く。
「絶対駄目! ヤヤお姉ちゃんが駄目なら、あたしだけでも手伝う」
少年が困った顔をして言う。
「しかし、そういうわけには、行きません」
小較は、駄々っ子の様に聞き分けない。
「嫌々! 絶対に手伝うの!」
困った顔をする少年に、較が言う。
「小較も、遺伝子操作された人間なの。だから他人事とは、思えないの。せめて事情だけでも話してくれない? もしかしたら力になれるかもしれないから」
少年は、しがみつく小較を見て、少しだけ躊躇した後、答える
「僕は、四十四号、元の名前は、忘れました。裏業界と闇業界にその勢力を伸ばし始めた、ダークウェポンカンパニーが力を入れて開発している、魔法強化人間の数少ない成功例です」
大きく溜息を吐く較。
「また、大事になってきたぞー」
「それで、逃げ帰ってきたのか!」
少年、四十四号を捕まえようとしていた男達を怒鳴りつける、アジア系の男、ダークウェポンカンパニーの日本支部の幹部、モリモト(偽名)
「しかし、相手は、恐ろしい逸話を持つ奴らしく」
男の一人が反論するが、モリモトは、睨みつける。
「そんなのは、ハッタリに決まっているだろうが、そんな小娘がそんな逸話を持ってる訳が、無い!」
男達が縮こまってると、モリモトの執務室の扉が開き、肌が黒いが、白人の様な顔立ちの男が入ってくる。
「そうでもありませんよ。白風較と言えば、幼少の頃から悪名が響く化物です。そして、そんな彼女が家名を込みで名乗った以上、八刃そのものを敵に回す恐れすらあります。一度、体勢を立て直すのがベストでしょう」
モリモトが慌てて立ち上がり、頭を下げる。
「アスモデウス様、お声をかけて頂ければ、私の方からお伺いしましたのに」
それに対して、その男性、アスモデウスが答える。
「四十四号は、私の傑作です。色々と能力をつけましたが、何よりその高い知能が、今後の魔法強化人間製造の生かす必要があるのです。今回も白風が出てきたのは、偶然で無く。故意に近くを通り、こちらの牽制を狙ったのでしょう。白風較と遭遇してしまった事を考えると、少し勇み足だったのかもしれませんね」
「しかし、諦めるわけには、いきません」
モリモトの言葉に、アスモデウスも頷く。
「ええ、真正面から戦う愚考は、しません。政治的な取引と行きましょうか」
そう言って、携帯電話を取り出すのであった。




