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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
20/52

真実を貫くカメラ

遂にヤヤの将来の旦那登場です

「ちゃんと待っててね」

 良美がそう言って、出稽古として隣町の空手道場に入っていくのを較は、手を振って見送った後、近くの公園に移動する。

 ベンチに移動し、較は、ぬいぐるみを縫い始める。

 暫くそうやって居ると、視界に奇妙な行動をとる男を見つける。

「何やってるんだろ?」

 較が首を傾げるのも当然であった。

 その男は、普通の木を何度もデジタルカメラで撮っていたのだから。

「気にしても意味無いか」

 直ぐに興味を失いぬいぐるみの作成の続きを行う。



「お待たせ」

 良美が較のところにやってくる。

「気にしてないよ」

 作業の手を止めた較の視界に奇妙な行動を取り続けている男が入る。

「どうしたの?」

 良美が尋ねると、較は問題の男を指差して言う。

「あの人、あの木の写真をずっと撮っているの」

 良美も興味がそそられた様子で、男に近付き言う。

「お兄さん、何撮ってるの?」

「あの木を含めた公園の風景写真だ。他人から見たら殆ど同じ写真を何百枚も撮っている。これが俺の写真の撮り方だ。疑問が晴れたなら、邪魔をしないで貰いたい」

 男のそっけない答えに不機嫌そうな顔をする良美を較は、宥めてその日は、帰るのであった。



 数日後、再び良美に付き合って、待ちの時間を前回と同じ公園で時間を潰していた較の前には、前回と全く同じ事をしている、あの男がいた。

「まだやっていたんだ」

 呆れた顔をする較であった。

 少しした所で、その男は、フィルムカメラを取り出して、シャッターをきった。

 そして、汗を拭うと較の隣に座る。

「今日も待ち合わせかい?」

 優しげな言葉に較が頷くとその男が言う。

「俺の名前は、オオトリ夢斗ユメトだ。十六で高校行かずにフリーアルバイターやってる」

 較は少し考えた後、答える。

「白風較、中学三年生」

 意外そうな顔をする夢斗に諦めた顔をする較。

 夢斗は、暫く較を観察した後、言う。

「嘘で塗り固められた雰囲気だ」

 較は少しだけ驚いた顔をするが直ぐに気を取り直して言う。

「だからどうしたんですか?」

 夢斗は、考え込んだ顔をして言う。

「俺は、変態だから、隠されてるものは、暴きたくなるんだ」

 眉を顰める較。

「趣味が悪いですね?」

 少し不思議そうに頷く夢斗。

「自分でも少し不思議だ。俺は、風景写真が好きでな。何千回とって初めて見えてくる本当の姿をフィルムに収めるのが好きなんだ。知ってるか風景は嘘を吐くって?」

 較はあっさり頷く。

「当然ですけど、その場、その場で姿を変える風景の本当の姿なんて捉えられるんですか?」

 夢斗が頷く。

「風景写真を撮り始めた時は、気付かなかったが、撮るたびに風景に嘘を吐かれてた。だから嘘の中の真実を見つけ出す為に、何回も何回も写真を撮る。十回とっても嘘が解らず、百回とって初めて嘘の概要が解る。そこからひたすら撮り、真実の姿を導き出す。真実の姿をフィルムに捉えた時が最高なんだ」

 頬を掻く較。

「思いっきり効率が悪いね」

 夢斗は、それがどうしたのかとばかりの顔をして言う。

「これが俺の生き方だからな。普通にバイトすれば、生活に困らない日本に生まれてきた幸運を感謝しているよ」

 較が苦笑する。

「そこまで割り切れるのは、大したもん」

 夢斗が再び較を見る。

「それで俺は、お前の真実の姿を撮りたいと思っている」

 較は首を横に振る。

「それは、駄目。嘘を吐いてるのは、認めるけど、真実の顔は、見せない。あちきの真実の顔を見ても、気持ち悪くなるだけだよ」

 夢斗は、少し考えてから話し始める。

「富士山の本当の顔って知ってるか?」

 較は普通に首を横に振る。

 夢斗は、凄く真剣な顔をして言う。

「あれは、自然の驚異そのものだ。日本の象徴だって褒め称える奴は幾らも居るが、俺は、その身に溜めた怒りで人々を滅ぼそうとする自然の象徴に見える。その気持ちがこの写真に写せたつもりだ」

 見せられた写真を見て較は思わず息を呑んだ。

 そこに写されている富士山は何時も見ている富士山と同じ筈なのに較にも明確に解る怒りを秘めていた。

 較は、自分の体が震えるのが解った。

「凄いだろ」

 夢斗の言葉に較は素直に頷いた。

「俺は、怖いものでも凄いものがある事を知ってる。そして俺は、君にもそれを感じる気がした。それを裸にしたい」

 その真剣な目に較が飲み込まれそうになった時、夢斗の側頭部に良美のとび蹴りが決まる。

「ヤヤを裸にしたいなんて、変態カメラ小僧だったな!」

 意外にも夢斗は、直ぐに復活して言う。

「女の裸に興味なんて無い!」

「嘘! 今さっき、裸にしたいって言ってたじゃん!」

 良美の言葉に夢斗は、頭を掻き言う。

「だからそれは、比喩表現だ。俺は、秘密を暴く事に興奮する変態だから、女の裸に興味は、無い!」

 良美は、ファイティングポーズをとりいう。

「更にマニアックな変態な訳だね!」

「そうだが、文句があるか!」

 夢斗が開き直ると良美が闘志を燃やす。

「ヤヤには、その毒牙を向けさせない!」

「絶対、丸裸にしてみせる!」

 夢斗の宣言に良美が実力行使に出ようとするのを較が押しとどめて言う。

「本気で変わった趣味だけど、他人に迷惑をかけてる訳じゃないから堪えて」

「でも!」

 不満一杯の良美を連れて、較は家に戻っていく。



「探したぞ」

 その声に良美がいきり立つ。

「あんた、どうしてここが解ったの!」

 夢斗は、胸を張って答える。

「地道に近くの中学校を探して回った。その間に何度も警察に補導されたがな」

 較は呆れた顔をして言う。

「その時点で諦めて下さい」

「残念だが、俺の辞書に妥協って言葉は、無いんだ」

 夢斗が断言した。



「病院送りにしたら駄目か?」

 数日後の良美の言葉に較が答える。

「危害を加えられてる訳でも、交際を申し込まれてるわけでもなく、写真をとってるだけで、写真も悪用していない人間を病院送りにしたら犯罪だよ」

「逆言えば、そういう奴だったら病院送りにしても犯罪じゃないのか?」

 良美の素朴な質問に較は平然と答える。

「遠い異界の魔法使いも言ってます。悪人に人権は、ありません」

「しかし、うざいぞ」

 良美の言葉に較が大きく溜息を吐く。

 二人の後ろでは、夢斗がついて来ていて、ひたすら写真を撮っていた。

 較は立ち止まり、振り返る。

「何度も言ってますが、あちきの真実の姿は、撮らせるわけにはいきません。今のうちに諦めれば不幸な目にあいませんよ」

 夢斗が苦笑する。

「力尽くで、排除するのか?」

 較が首を横に振る。

「あちきのあだ名の一つにハードトラブルスターターって言うのがあります。あちきは、間違いなくトラブルメーカーなんです。事情を知ってて自分からあちきに関る人間は、ヨシ以外は、身内だけです」

 夢斗が揺るがぬ目で答える。

「危険だからって道を変えるほど俺の道は、広くない」

 そして、写真を撮り続ける夢斗。



「今日は、居ないみたいだね、ヤヤの年上の彼氏」

 学校の帰りに新しいアクセサリーショップに立ち寄る為、一緒に歩く雷華の言葉に良美が反論する。

「違う、あれは、ヤヤに付き纏ってる変態だ!」

「親友がとられそうだからって邪険にしちゃ駄目だよ」

 智代の言葉に良美が更に反論して騒ぎが大きくなる中、エアーナが言う。

「本当のところは、どうなの?」

 較は、肩を竦めて言う。

「少なくとも恋愛感情では、ないね。純粋な写真に向ける情熱だけで動いてるから」

 元ヴァンパイアハンターなので体力がある雷華が良美から逃げ切って言う。

「毎日来てないの?」

 較が少し考えてから言う。

「確か、生活費の為に金曜日から月曜日までバイトしてる筈だけど、バイトが無い日で来てないのは、初めてだね。何か用事でも入ったかな?」

「これは、きっといったん距離をとる焦らし戦法よ!」

 良美に捕まっている智代の言葉に較は、首を横に振る。

「多分、一つの事に集中したら、他の事に気がいかなくなるタイプで、かけひきなんて出来ないよ」

「でも相手の方が大人でしょ?」

 エアーナの言葉に較が肩を竦めて言う。

「そういう年齢のとり方する人間は、中卒でフリーターなんてやっていません」

「将来性が無い男みたいだな?」

 雷華の容赦の無い言葉に較は苦笑する。

「だったらまだ、諦めさせるのも楽なんだけど。思いっきり将来性が高いよ」

 そう言って、雑誌に載っていた写真コンクールの記事を見せる。

「金賞とってる、鳳夢斗ってまさか問題の人?」

 智代の言葉に頷く較。

「はっきり言って才能がある上、強い信念をもって動いてるから、きっと物凄く結果残すよ」

 問題ありげな顔をする較にエアーナが質問する。

「どうしてそんな困った顔をするの?」

 較は苦笑をしながら言う。

「あちきを真実の姿を撮ろうとしているんだよ」

 その一言に事情を知っているエアーナと雷華が複雑な顔をする。

「ヤヤの真実の姿に何か問題あるの?」

 智代が質問をするが、そこに良美が割り込んでくる。

「智代、さっきの言葉の弁解ある?」

 智代が必死に逃げ出してその場は、おひらきになった。



 夢斗は、デジタルカメラを片手に路地裏に逃げ込んでいた。

「二兎を得ようとした罰だな」

「あそこだ! 追え!」

 夢斗は、舌打ちして、走り始める。



「はーい。ヤヤお姉ちゃんに伝えておくね」

 小較が自宅の電話を切った時、較達が家に入ってくる。

「ただいま」

 小較が駆け寄ってきて言う。

「お帰り、希代子さんから電話があって、呪術士組織『怨呪』が、この町で活動する許可を申請してるって」

 較が頬を掻く。

「呪術士組織が態々、白風のテリトリーに入ってくるなんておかしな話だね」

 良美が鞄を置きながら言う。

「そうだな、呪いやってるんだったらねちねちと裏で、呪文を唱えてそうだからな」

 較が手を横に振る。

「呪いも魔法の一種だから、事前準備が必要だから、呪う相手の身辺に行くこともあるよ。十三闘神の一人、呪神なんかも、念動力を応用してるけど、あちきの傍に居たでしょ」

 良美が首を捻る。

「だったら、おかしくないんじゃないのか?」

「この町って言うか、白風のテリトリーで仕事する命知らずは、この業界には、居ないよ。仕事がらみ以外で呪術士が態々動く理由が無いって事くらいあたしでも解るよ」

 小較が馬鹿にした顔で言うと良美が睨み返す。

「これが、普通の拝み屋や、術士だったら、目標がこの町に入り込んだって事もありえるけど、一度下準備を終えた呪術士が目標を追ってこの町に入るなんて事は、まず無いから問題なの」

 較は、そう言いながら途中で買った夕飯の材料を持って台所に向かう。

 買ってきた材料等を片付けている較と小較に、後ろから見ていた良美が言う。

「さっきの話だけど、申請を取らずにそいつ等がこの町に入ったら罰則でもあるの?」

 較が首を横に振る。

「このルールって侵入者の為にあるルールだったりするの。事前に申請して、許可を取っていれば、白風の人間と遭遇しても、危害を加えられないですむって事になってるよ」

「逆に言えば、申請しないで浸入したら、どんな酷い目にあっても仕方ないって不文律があるんだよね」

 小較の言葉に頷く較。

 平然と怖い事を言ってる事に苦笑した後、良美が言う。

「でも、そうすると本当に呪術士の奴等がこの町に入って来た理由が解らないな」

 頷く較であった。



「リーダー、良いんですか?」

 怨呪に所属する女性が聞くと、短気さが顔に出ているリーダーの男が言う。

「良いんだ、八刃のお伺いなんて義務でも何でも無い。万が一の為の保険だ。今は、撮影された組織の命運を懸けた大呪法の情報を消去する方が先だ!」

 その言葉に、傍に居た若い男が居た男が言う。

「しかし、複雑に隠蔽してあった術式の真の姿を探り出したあの男は、何者でしょうか?」

 リーダーと呼ばれた男が怒鳴る。

「どうせ、敵対組織のスパイだろう。掴まえて、生まれてきた事を後悔したくなる呪術をかけてやれ!」



 問題の写真を撮った男、夢斗は、必死に逃げていた。

「自分の作品を消されてたまるか!」

「こんな所で何してるの?」

 その声に驚き、振り返るとそこには、コンビニの袋を持った較が居た。

「君の家の近くに来てしまったか」

 大きく溜息を吐く夢斗に較が頷き言う。

「うん、かなりうちの近所だよ。何故か無くなっている卵を買いにコンビニまで来たんだけど、追われてるね」

 夢斗は、あっさり頷く。

「ああ、しかし気にするな。何とか逃げ切ってみる。巻き添えになる前に逃げるんだ」

 その時、先程の男達、怨呪が現れる。

「もうおしまいだ。そこの小娘、運が無かったな、諦めて死ね!」

 リーダーの男の言葉に舌打ちする夢斗。

 そして手に持っていたデジカメをその男に投げて言う。

「お前等にとっては、それを処分する事が大切なんだろう。こいつには、何も喋ってないから見逃してくれ」

 リーダーの男は、デジカメを地面に叩きつけて壊す。

「残念だが、そうもいかないな。万が一にもあの術式がばれたら大変な事になるんでな」

「逃げろ!」

 叫び、両手を広げて盾になろうとする夢斗に較が言う。

「どうしてカメラを渡したんですか? あれは、夢斗さんの信念でしょ?」

 夢斗は、真っ直ぐ前を見たまま答える。

「信念かもしれないが、自分を犠牲にしても、他人を犠牲する気は、無い」

 較は頬を掻きながら言う。

「甘い考えだと思うけどな?」

「別に無理に辛くなる必要は、無い。自分の信念の為に自分の考えを変えるなんて変だ。自分の考えをそのままで信念を貫く。それが俺の生き方だ!」

 笑顔になる較。

「ごちゃごちゃと五月蝿い! お前等は、ここで死ぬんだ」

 リーダーの男は、蝋人形を取り出して、それを較の方に向ける。

『簡易呪法、移し身砕き』

 リーダーの男が蝋人形の腕を折る。

「ぎゃー!」

 蝋人形と同じ様にリーダーの男の腕が折れた。

「どうなっているんだ?」

 戸惑う夢斗に較が説明する。

「あの蝋人形は、向けた相手の魂魄を捕らえ、本体とリンクさせるの。リンクした所で蝋人形を壊し、本体にダメージを与える、簡易だけど強力な戦闘呪術だよ」

「それで、どうしてあいつの腕が折れるんだ?」

 夢斗が、腕が折れてのたうち回るリーダーの男を指差す。

「逆風、あちきは、そう呼んでる。呪いで特定の現象を起こそうと、力を発動した場合、その力の出口、呪う相手から出れないとエネルギーの逆流が発生して、術者に跳ね返るの」

 あっさり答える較に怨呪のメンバーが戸惑う。

 較は、夢斗の前に出て言う。

「まだ、許可は下りてない状況だって知ってる?」

 その一言に青褪める怨呪のメンバー。

 リーダーの男が較の顔を見て一気に飛び退く。

「まさか、どうして……」

 較は、コンビニの袋を夢斗に渡す。

「持ってて直ぐ終るから」

 思わず受け取る夢斗。

「何をするつもりだ?」

 較は笑顔で答える。

「見せしめにするだけだよ」

 怨呪のメンバーは、一気に逆走するが、その前にさっきまで後方に居た筈の較が立って居た。

「諦めてね」

 垂らした手を持ち上げる較。

『ナーガ』

 地面が盛り上がり、一気に怨呪のメンバーを飲み込む。

 残ったリーダーの男が青を通り越した、真っ白の顔をして土下座をして言う。

「どうか命だけは助けて下さい。貴方達に逆らうつもりは、指先ほども無かったんです!」

 較はゆっくりと近付いて言う。

「そんな言い訳が通じると思ってるの? 承認のルールは、義務も罰も存在しない。だって単なる権利だから、白風、あちきを敵にまわさないですむというね。その権利を放棄したのは、貴方達だよ」

 リーダーの男は、死を覚悟し、目を瞑る。

 しかし、次の攻撃は、放たれなかった。

「夢斗さん、傷の治療くらいならうちによっても良いよ」

 完全にリーダーの男を無視して較の態度にリーダーの男は、戸惑う。

「それは、助かる。詳しい話も聞きたいしな」

 夢斗も過ぎた事は、気にしない主義なのか、平然と較についていく。

 リーダーの男は、懐から拳銃を抜き出して較に銃口を向けて、引き金を引く。

 銃弾が較に直撃する。

「魔法にどれだけ耐性があるかは、知らないが物理兵器を不意打ちされたら終わりだな」

 高笑いをあげる。

「一つ聞いていいか?」

 夢斗の言葉にリーダーの男が答える。

「何でも聞け、冥土の土産になんでも答えてやる」

 夢斗が頷き言う。

「この子は、そんなに有名なのか?」

 リーダーの男が笑いを堪えきれない顔で答える。

「そうだ、幾多の二つ名を持ち、ホワイトハウスを半壊させたりしている。業界では、決して関っては、いけないものとされていた。しかし所詮は、小娘。油断して、とどめをさせていない人間に背後を見せるのだからな」

 夢斗は、納得した顔をして言う。

「なるほど、格闘技の世界チャンピオンの試合中の姿に近い感じがしたのは、それだったのか」

「隠してるんだけど、よく気付けるね」

 較の返答にリーダーの男が固まる。

「銃弾が直撃した筈だぞ!」

 較は、首の後ろの所で止まっていた弾丸を掴み言う。

「銃弾食らったぐらいで死んでたら、バトルに参加出来ないよ。だいたい、拳銃を構えて引き金を引く瞬間まで、ちゃんと見れたよ」

 較は、弾丸を指に乗せる。

『ドラゴンスケル』

 較の弾き出した銃弾は、リーダーの男の直ぐ横を通り抜けて、ナーガで作られたドームを破壊し、怨呪のメンバーを解放する。

 リーダーの男を視界にも入れず歩き出す。

「ほっておいていいのか?」

 夢斗の言葉に較が頷く。

「次が無いくらい知ってるでしょうから」

 その言葉に怨呪のメンバーが激しく頷く。



「なるほどね、それって、国の中枢人物を呪い殺す、大規模呪術だよ」

 怪我の治療をしながら事情を聞いていた較の問いに良美が手をあげる。

「どうして大規模呪術が必要なの? 別に殺すだけだったら普通の呪術でも良いんじゃない?」

 小較が呆れた様子で言う。

「あのねー、国の中枢人物、多分、大物政治家となれば、国の専門機関が対呪術処理を施しているから、普通の呪術なんて通用しないの。その人達がやろうとしていたのは、その対呪術処理を無効にしてしまえるほどの強力な呪術だったんでしょ」

 較が頷く。

「まず間違いない。一通りの事情は、希代子さんに連絡しておくよ」

「撮り応えがある風景だったんだがな」

 夢斗の言葉に較が溜息を吐いてから強い視線を向ける。

「夢斗さん、はっきりいいますよ。貴方の撮りたがってる物は、危険な物が多いです。近い将来、それで命を落します!」

 その言葉に夢斗が真っ直ぐな視線で答える。

「それも運命だろう。しかし、俺は、自分の考えを変えない。それでも今回迷惑かけたことは、謝る。だから、自戒の意味も含めて君を追うのは、止める」

 そう言い残して、家を出て行く夢斗であった。



「どうしたのですか?」

 数日後の教室で委員長の優子が外を見ている較に声をかけた。

「ちょっと気になる人が居てね」

 その一言に智代が駆け寄ってくる。

「あの人の事?」

 較は、あっさり頷く。

「激ラブ?」

 智代の言葉に苦笑する較。

「少なくとも今は、違うよ。でも、勿体無いと思う。夢斗さんの撮る写真は、本気で凄いんだよ」

 夢斗が撮った数枚の写真を見せる。

「モデルになっておけば良かったって事?」

 雷華の言葉に首を横に振る較。

「そういうことじゃないよ」

 寂しげな較の顔に何もいえなくなるクラスメイト達だった。



 学校からの帰り道、良美がいきなり大声を上げる。

「もー中途半端は、駄目!」

 較が驚いた顔をして良美を見ると良美が較の顔を掴んで言う。

「あの人の写真が好きなんでしょ?」

 素直に頷く較に良美が言う。

「だったら護ってやればいいじゃない。直接護らなくたって色々方法は、あるでしょ?」

「でも、過剰干渉は、八刃として問題があるから」

 煮え切らない較の態度に良美が言う。

「だったらあたしが、その人を護ってあげるよ」

「危険は、駄目!」

 較が反論するが、良美が断言する。

「ヤヤに後悔させたくないから絶対する!」

「どうやって?」

 較の質問に良美が一切の揺るぎの無い目で答える。

「どうやってでも!」

 大きく溜息を吐いてからすっきりした顔で較が言う。

「ヨシ、ありがとう。踏ん切りがついたよ」



「本気で良いのか?」

 夢斗が大きな荷物を背負いながら言うと較が答える。

「うん。いわゆるパトロンって思って。あちきは、夢斗の写真が好き。だから部屋もただで貸すし、自分が納得できる写真撮る為だったら、何でも言って。その代わり、その写真は、一番最初に見せて。それに妥協点があったら直ぐに叩き出すから」

「人一人、養うって簡単な事じゃないぞ。それに俺は、撮影の為に海外に行く事だってあるぞ」

 夢斗の言葉に較はジュラルミンケースを取り出して開いてみせる。

「これあちきが個人的に非合法な賭け試合で戦って稼いだお金だからね」

 数千万のお金に驚く夢斗。

「本気なのか?」

 較は、その目を見つめ返して言う。

「自分の写真には、この金額に見合う価値が無いと思ってるの?」

「幾らお金をかけても俺以外には、俺の写真は、撮れない」

 自信たっぷりの言葉に較が笑顔になって言う。

「そういうこと。だからがんばってね」



 こうして、白風家に新たな住人が増えた。

 その後、焔がこの事を知った後の較との親子喧嘩で、南極大陸の大地に数キロにおよぶクレータを生み出す白風インパクトを生み出す事になるのだが、それは、又別の機会に。

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