表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必滅少女伝  作者: 鈴神楽
19/52

滅びを求める者

雷斗と紅姫の対決。そして、紅眼の魔王との最終戦が始まる

「ふざけるな!」

 雷斗が地面に携帯を叩きつける。

 その剣幕に雷華が驚く。

「何怒ってるんだろう?」

 怒鳴られることに慣れてる良美が平然と較に質問する。

「多分、紅姫には、関るなって釘を刺された筈。ついでに言えばその指も早急にシルバーアイで消滅させろと言われてるよ」

 較がテーブルの上にある紅姫の指を指差す。

 雷斗が、テーブルに近付きその指を取ろうとするが、素早く較が奪う。

「返してもらう。それが無ければ雪子の体が取り戻せない!」

 雷斗が怒鳴るが、較は冷静に言う。

「貴方が飲んでも紅姫の下僕になって、雷華さんを紅眼の魔王に差し出すだけだよ。あちきの知り合いにこの指を調べさせるのが一番確実なんだけど」

「約定があるから余計な手出しは、出来ないのか?」

 雷斗の言葉にあっさり頷く較。

「これが、ヨシや雷華ちゃんの命がかかってるんだったら約定を無視するけど、死んだ人の遺体を取り戻す為で約定を犯せないよ」

 雷斗が、拳を握り締めたまま言う。

「俺は、あいつが吸血鬼に殺された事だけは、知っていた。そして、遺体も持ち去られたと。最初は、信じられなかった。信じて居たかったのだ、雪子が元気な顔を見せることを! 俺は、もう一秒でも雪子の体があの化物に使われているのは認められない!」

 血が滴り落ちる拳を見て良美が立ち上がる。

「協力する!」

 大きく溜息を吐き較が言う。

「どうやって相手の居場所を判明させるの。雷斗さんや雷華さんが飲めば、相手の下僕になってしまう。あちきが飲めば、あちきの力が強すぎて逆にその指の力は消滅するよ。そうならない、力が適当にある人間がそう都合よく協力してくれる訳がないよ」

 すると、良美は、較が見せていた紅姫の指を取るとそのまま飲み込む。

 完全に硬直する一同。

「不味い」

 良美のその一言に、較が怒鳴る。

「どうしていきなりそんな事をするの!」

 良美が笑顔で答える。

「あたしだったら、大丈夫でしょ? どうせ元々侵食されてるような状態だもんね」

「どういうこと?」

 雷華の言葉に、較が苛立ちながらも答える。

「良美は、力を借りすぎて高位世界者からの侵食を受けたあちきの腕に噛み付いて、腕の肉を食べたの。その所為で、良美の体にも、侵食が発生してるの。だから今更、紅姫なんかの侵食は、受けない」

「やっぱ、あたしの勘は、あたった」

 平然と言う良美に、較が怒鳴る。

「せめて、確認してから飲んでよ!」

 良美は、舌を出して言う。

「そんな事したら、絶対ヤヤが邪魔するもん」

 睨むだけで何も言えないヤヤであった。

「とにかく場所は、解るのだな?」

 雷斗の問いかけに、良美が頷く。

「お腹の中で、方向を指してるからね」

「すまないが、目的の場所まで、ついて来てくれ。直接戦うのは、俺一人だ」

 雷斗が、ショットガンが入ったケースを見る。

「でも、雷斗さんには、吸血鬼は倒せない筈だよ!」

 雷華の言葉に、較が良美を睨みながら言う。

「だから、雪子さんの体を壊すつもりなんだよ。精神体は、壊せなくても、利用されている体だけなら壊せる。そういうことでしょ?」

 雷斗が頷く。

「俺は、もうシルバークロスとして戦えない。最後に妹の体をあの化物から奪えれば、それで十分だ」

 立ち上がり雷華に頭を下げる雷斗。

「すまなかった。これからは、自由に生きてくれ。シルバーアイもシルバークロスに返してしまえ、奴等は、自分のプライドだけで雷華を戦わせていただけだ。雷華の護りたいものは、きっと白風較が護ってくれる」

「クラスメイトを見捨てる程、あちきは、冷たくないから安心して」

 較も答えて、立ち上がる。

「それじゃあ、敵のアジトに突入だ!」

 良美が宣言して歩き始める。そしてその後を雷斗と較がついて行った。

 一人取り残された雷華の所に、何度かあった事のある、シルバークロスの職員が現れる。

「雷斗も愚かな男だ。今のまま吸血鬼と戦ってくれれば、莫大な報酬を約束しよう。無能な人間に混じって汗水たらして働か無くても優雅な暮らしを出来るぞ」

 雷華が立ち上がり言う。

「あたしは、そんな物の為に戦ってる訳じゃありません!」

 そう宣言すると雷華は、良美達が向かった方向に駆け出した。



 かなり遠い事が、一時間以上歩いた後に判明し、車で移動する較達、四人。

「君が関ったらトラブルになるのか?」

 運転をしていた雷斗の言葉に諦めきった表情で較が頷く。

「ヨシが、指を飲み込んだ時点で、諦めました。それに紅眼の魔王が関ってるとなると、さすがに八刃の領分に入る筈」

 そう答えながらも、携帯に入ってくるメールを見て大きく溜息を吐く。

「希代子さんは、何て言ってきたの?」

 良美の言葉に、較が頭を押さえながら言う。

「この事件が終ったら、シルバークロス等の関連組織への謝罪巡礼があるみたい」

「大変なのね」

 雷華が他人事の様に言う。

「雷華ももうシルバークロスには、戻れないし、下手すると、シルバークロスが、人質とかとってくるかもよ?」

 較の言葉に雷華が笑顔で答える。

「その時は、助けてね」

 疲れた顔で頷く較であったが、雷斗が言う。

「しかし、どうして一緒に来るのだ? 今からでも遅くない、シルバーアイを置いて帰れ」

 雷華は、シルバーアイを強く握り締めて言う。

「これは、シルバーアイの使い手、つまり、あたしを目的にした戦いだから、逃げたくないの!」

「偉い! それでこそヴァンパイアハンター!」

 良美が同意する横で較がぼやく。

「最後に苦労するのは、どうせあちきだよ」

 拗ねている較に良美が言う。

「いじけるなよ、いざとなったらホワイトファング一発で終らせれば良いだろう?」

「それは、今回は無理」

 あっさり較が答えると良美も驚く。

「どうしてだよ!」

 較は冷たい目で良美を見て言う。

「良美が変なもの体にいれるから、その状態でホワイトファング使えば間違いなく、良美に悪影響を及ぼすもん。絶対使えないよ」

「大丈夫じゃないか?」

 良美の言葉に較がそっぽを向いて言う。

「絶対駄目。これだけは、譲れないよ」

 そんな会話をしている内に、車は目的地と思われる屋敷に着いた。

 車を降りる雷斗。

「ここに日本最強の吸血鬼、紅眼の魔王がいるのか?」

 較が頷く。

「気配は消してるけど間違いない。圧倒的な存在感が周囲の空間に悲鳴を上げさせているよ」

 屋敷に正面玄関から入ると、四人が通過すると同時に玄関が閉ざされる。

「お待ちしていました。紅眼の魔王様がお待ちです」

 紅姫が客人にする礼を儀礼的にすると雷斗が、雷華の方を向く。

「すまないがシルバーアイを借りる」

 雷華もシルバーアイを雷斗に手渡して言う。

「死んだら駄目だよ」

 雷斗は、返事をせずに紅姫を見る。

「雪子の体は返してもらう」

 苦笑する紅姫。

「それは、正式な持ち主で無い限り、本来の力は発揮できない。そんな状態でどうするつもり?」

 雷斗は、答えず、ショットガンを連射しながら近付く。

「本当に愚かね、そんな物が通じないのがまだ解らないの?」

 悠然と立っている紅姫に雷斗は、シルバーアイを振り下ろす。

「貴方が使うシルバーアイなんて、普通の武器と変わらないわ!」

 紅姫が素手でその攻撃を受け止めると同時に、空いたほうの手で雷斗の腹を貫く。

「雷斗!」

 雷華が叫んだ時、雷斗がショットガンを撃った。

「通じないと言うのが解らないの!」

 紅姫が苛立ちながら叫んだ直後、紅姫の体がショットガンの弾丸によって砕かれる。

「どうして?」

 困惑し、動きが止まった紅姫の体に雷斗のショットガンの弾丸が次々に決まり、そして完全に破壊された。

 次の瞬間、黒い闇が立ち上り、老女に変化する。

「よくも我が若さの生贄を砕いたな!」

 最後の気力を使い切ったのか倒れた雷斗に攻撃しようと接近したとき、その背後に、較が居た。

「雷斗さんの目的は、完了。こっからは、あちきが相手だよ」

 強烈な較の気に押されて飛び退く紅姫。

「紅眼の魔王様、お助け下さい!」

 しかし、較は、逃がしはしなかった。

『バハムートブレス』

 背後から背中に向けて放たれた強烈な気を伴う掌打で、床にめり込み、崩れ始める紅姫。

「どうしてだ? どうして人間が作った無粋な銃器があの体に命中したのだ?」

 較は、雷斗の手に握られたシルバーアイを指差して言う。

「簡単だよ、シルバーアイが決められた主以外では、吸血鬼を倒せないのは、神器との相性もあるけど、吸血鬼の型を打ち砕けるだけの精神攻撃が出来る人間が少ない為。でも、シルバーアイが秘めている他の力は、ある程度の相性が合えば発動するんだよ。例えば今みたいに吸血鬼の防御解除なんかがね」

 雷斗がシルバーアイを使った意味をようやく悟りながら消えていく紅姫。

「雷斗、確りして!」

 雷華が必死に揺すると、腹に大穴を空けた雷斗は、弱々しくシルバーアイを差し出した。

「ありがとう。これで妹の魂が開放されたよ」

「死んだら駄目よ! 妹さんの為にも生きて!」

 雷華が必死に言うが、雷斗の瞼が閉じる。

「雷斗!」

 雷華が泣き叫ぶ。

 その横で良美が言う。

「それで助かりそうか?」

 雷斗と雷華と感動的な別れのシーンやっている間も、苦手な他人に対する回復術を行っていた較が言う。

「応急処置は終ったよ。後は、八子さんあたりに頼めば早く直るけど、八子さんに頼むと費用高いんだよね。普通の病院に入れようか?」

 雷華が泣くのを止めて較を見る。

「死なないの?」

 較があっさり頷く。

「あちきは、目の前で死ぬかもと言う人を意地とかだけでほっとくほど、人命軽視じゃないよ。それよりどうする?」

「早く直るんだったら、その八子さんって人に頼んで!」

 雷華の言葉に、較が質問をかえす。

「一回の治療で億単位要求する、ブラックジャック顔負けの高額請求だけど、そっちに請求して良い?」

 さすがに雷華も戸惑いながら言う。

「それって保健効かないの?」

 大きく頷く較に少し考えた後、雷華が言う。

「その人に頼んで、治療費は、雷斗が体で払ってくれるわよ」

 較は携帯を取り出しながら呟く。

「今後のこの人の人生、大変になるぞ」



 雷斗を迎えに来た八子に引き渡してから、較達は、奥に向かって進んでいた。

「そういえば、そっちは、助人呼べないの?」

 雷華の言葉に、較が頭を押さえながら言う。

「これ以上、問題大きくしたら、あちき洒落抜きで暫く学校に行けなくなる。本気でやばかったら、逃げるよ」

「えー。そうなったらホワイトファング使えばいいじゃん」

 不満の声を上げる良美を軽く睨んで黙らせる較。

 そして、屋敷の地下の大扉に到着する。

「この先に居るよ」

 較の言葉に、激しく反応するシルバーアイを見て雷華が言う。

「シルバーアイもそうだと言ってる」

「それじゃあ、ボス戦いくよ!」

 良美が扉を勝手に開ける。

「待っていたよ」

 その部屋の奥の玉座に座った圧倒的な力を持つ者、紅眼の魔王が声をかけてきた。

「こっちの世界でも有名な必殺の白手まで揃っているなんて、私の退屈を解消してくれる」

 立ち上がる紅眼の魔王。較が咄嗟に良美の前に立つ。

『カーバンクルシールド』

 物凄い音がして、較は良美共々吹き飛ばされる。

「ヤヤ!」

 シルバーアイの能力で、紅眼の魔王の力を完全に防いだ雷華が振り返った時、その目前に紅眼の魔王が現れる。

「さすがは、吸血鬼を倒す、その為だけに生み出された刀、シルバーアイだ」

 雷華が、シルバーアイを思いっきり紅眼の魔王に振るう。

 しかし、紅眼の魔王は、腰に下げた刀を抜き、それを防いでしまう。

「その刀ならば私も滅ぼせるだろうが、残念だか、食らってやるつもりは無い」

 鍔迫り合いを力技で押し返す紅眼の魔王。

「久しぶりだ。滅びるかも知れない戦い。これこそが私が求めていたものだ」

 一気に詰め寄る紅眼の魔王にシルバーアイで突きを放つ雷華。

 紅眼の魔王は、かわすが、その衣服の一部が切れて落ちる。

 微笑み、刀を振り下ろす紅眼の魔王。

 シルバーアイを突きに使って死にたいな雷華が思わず目を瞑った。

『フェニックス』

 鳥の形をした炎が紅眼の魔王に迫る。

「邪魔だ!」

 空いた手で炎を散らす紅眼の魔王の眼前に較が現れる。

『バハムートファング』

 較の拳が紅眼の魔王の顎にクリーンヒットした。

「この程度は効かぬ!」

 較が念動力で床に押しつぶされる。

「ヤヤを開放しろ!」

 シルバーアイで斬りかかる雷華だったが、その刃は、紅眼の魔王の刀に防がれる。

「シルバーアイが、どんなに優れた神器であろうとも、当たらなければ意味が無いな」

『タイタンハンド』

 床が崩れる。

「下らない真似を!」

 空中に浮かぶ紅眼の魔王が、床を見た時、そこには、誰も居なかった。

『イカロス』

 雷華を腕に抱いたまま天井に着地した較が、天井を蹴って、一気に紅眼の魔王に迫る。

「我が力を舐めるな!」

 再び、念動力を放ち、較を弾こうとしたが、それは、シルバーアイによってキャンセルされる。

『オーディーン』

 較が手刀を放つと咄嗟に紅眼の魔王が刀で弾く。

 較の腕が大きく切り裂かれるが、紅眼の魔王の刀も折れる。

 そして、着地と同時に雷華が、シルバーアイを振りあげた。



「理由を聞いていい?」

 崩れいく紅眼の魔王に向かって較が訪ねた。

「何のだ?」

 較は、咄嗟の事とはいえ、体を激しくシェイクされた為に吐いている雷華を指差す。

「シルバーアイを何故呼び込んだの? この周囲の結界は完璧で、紅姫が誘導しなければ間違いなく、貴方が発見される事は、無かったよ」

 苦笑する紅眼の魔王。

「私は当時の神谷の長との戦いに引き分けて、永い眠りについていた。その間にあの大戦がおき、元の世界に戻る術すら失った」

 懐かしい何かを見る目で紅眼の魔王が話を続ける。

「八刃の存在があったから、この屋敷を生み出して、結界をはった。自分の存在を護る術を手に入れた。しかし、その後は、何も残らなかった」

 疲れきった表情を見せる紅眼の魔王。

「私は、何のためにこの世界に来て、何のために下僕を増やしていたのかさえ思い出せなくなった。私は、もう存在する事に疲れたのだよ」

 較は、紅眼の魔王の魔力を失い、本来の時間を取り戻していく屋敷を見ながら言う。

「滅びる為だったら、結界を解けばいい。今の百母の長は、戦闘好きだから、直ぐにやってきてたよ」

 不敵に笑う紅眼の魔王。

「下らない意地だ。私は、八刃には、負けなかった。神も魔王も滅ぼせる八刃に滅ぼされなかった。私を滅ぼしたのは、そのシルバーアイを持った人間にやられたのだ。完全にこの世界の人間にな」

 満足そうに消えていく紅眼の魔王を見送った後、較は、へばっている雷華を担ぎ上げて、屋敷を後にした。



「シルバーアイは、シルバークロスに返したの?」

 屋上で良美が雷華に質問する。

「そう、何でも八刃が技術提供して、ある程度の能力があればシルバーアイを使える様になったんだって」

 あっさり答える雷華に続けるように較が肩を竦めて言う。

「そこまでしないと、あがなった事にならないって、我侭言ってきたんだよ」

「そういえば雷斗さんは?」

 良美の質問に雷華が答える。

「オーフェンハンターのサポート要員として働かされてるって聞いたけど、具体的な仕事までは、知らない」

 良美が較を見ると較は頬を掻きながら答える。

「多分、一日一回は、死ぬ思いしてると思う。危険手当が付くから返済は早いと思うけど」

 雷華が立ち上がって少し寂しそうに言う。

「あたしは、シルバーアイから開放されたけど、やりたい事はないよ」

 較が苦笑して言う。

「そんなものを具体的に持ってる中学生なんて殆ど居ないから安心しな」

「そうそう、その時、自分が正しいと思うことをやれば良いんだよ」

 良美が断言すると較が溜息を吐いて呟く。

「ヨシには、もう少し我慢して欲しいよ」

「何でだよ!」

 文句を言う良美を見て、心の底から笑う雷華であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ