義務的な戦い
吸血鬼を滅ぼす為の刀、シルバーアイ。その唯一の主は、十四歳の少女
「ここが、お前の新しい学校だ」
車を運転していた、黒服を纏った無骨な男の言葉に、助手席に座った、髪をショートした少女が答える。
「どうせ直ぐ転校するんでしょ」
少女の言葉に、無骨な黒服男が淡々と答える。
「お前が上手く立ち回れば暫くは、大丈夫だ」
ショートの少女が男を睨む。
「貴方達、シルバークロスがそれを崩すんでしょ! 私が住む場所に吸血鬼を誘うからよ!」
無骨な男は、表情を変えず続ける。
「急ぎで、転校の処理を行ったが問題ないはずだ」
ショートの少女は、怒りが収まらない表情だったら、何を言っても無駄だと思い、車から降りる。
車から離れようとした少女に無骨な男が竹刀ケースを渡す。
「これを忘れるな」
忌々しげにそれを見た後、少女は、それを肩にかけて校舎に向かう。
そして無骨な男は、車に戻り、タバコを一本吸ってから言う。
「今度の学校、私立羽鳥中学校は、長続きすれば良いが、事前の調査期間も短かったからな」
そう言って、無骨な男、如月雷斗は、もう一度ショートの少女を見る。
「どうして、あれは、雷華を選んだんだ? 俺だったらどんな過酷な道だろうが構わないのにな」
辛そうに呟く、雷斗であった。
「赤芽雷華と言います。宜しくお願いします」
ショートの少女、雷華が頭を下げる。
「先生質問です」
クラス委員長の鈴木優子が手をあげる。
「何?」
担任の先生が聞き返すと優子が立ち上がり言う。
「どうしてまた、うちのクラスなんですか?」
その言葉に担任の先生は、冷や汗を垂らして言う。
「皆さん、仲良くしてあげてね」
「どうしてですか?」
誤魔化そうとする担任に優子が詰問する。
担任は、小さく言う。
「私が、新人で立場が悪いからなの。でも友達が増えて良いでしょ?」
大きく溜息を吐く優子と苦笑するクラスメイト達。
そして、雷華が空いている席に座ると、隣の席の外人の少女が声をかける。
「あたしが、前の転校生のエアーナ=空天よ、よろしくね」
微笑む少女に雷華も笑顔で返す。
「よろしく」
昼休み、転校生の雷華の周りに女子達が集まる。
「赤芽さんって転校多いんだ?」
緑川智代の質問に少し辛そうな顔をして雷華が答える。
「色々事情があってね」
そして血液型から、恋人の有無までのお決まりの質問タイムが終ったとき、智代が、雷華の持っている竹刀ケースを指差す。
「赤芽さんって剣道やるんだ?」
雷華の表情が硬くなるが、直ぐに取り繕うに様に言う。
「うん、少しね。前の学校は、盛んだったの」
智代は残念そうな顔をして言う。
「そう、でも残念うちの学校って剣道部がないんだ」
「残念」
わざとらしい台詞だったが、その事実に気付いた人間は居なかった。
雷華が転校して三日目の朝のチャイムの直前、二人の少女が教室に入ってきた。
「ギリギリセーフ」
元気そうな少女がそういうと、同じ年とは思えない幼女風な少女が言う。
「いつも言ってるけど、ギリギリまでご飯食べるのやめなよ」
元気そうな少女は、気にした様子も無く、雷華を見て言う。
「貴女が、転校生だね。あたしは、大門良美、こっちが白風較、よろしく!」
「赤芽雷華です、よろしくおねがいします」
挨拶をかわした直後、担任が着たので慌てて席に着く、二人を見送ってから雷華が隣のエアーナに小声で質問する。
「あの二人、ずっと病欠でしたけど、とても病弱には、見えないですけど?」
エアーナが何処か遠くを見る目で言う。
「あの二人は、特別なんだよ。前に聞いたけど、ヤヤ、白風さんが学校に多額の寄付をして、病欠を認めさせてるみたい」
「詰り、お金持ちの道楽で休んだの?」
少し不機嫌そうに言う雷華に苦笑するエアーナ。
「そういった事じゃないよ。多分、またトラブルに巻き込まれたんだよ。よくある事だからね」
首を傾げる雷華であった。
第一印象は、あまり良くなかった二人だったが、放課後には、仲良くなった良美達と雷華は、話していた。
「剣道か、あたしは、空手やってるよ」
良美が何気ない話題をあげた時、雷華の携帯が震える。
そしてその振動は、雷華にとっては、凄く嫌な予告であった。
「ちょっと外で電話してくるね」
雷華が慌てて女子トイレに駆け込み、電話に出る。
『遅い』
「五月蝿い、まさかと思うけど、もうこっちに誘導してるの?」
雷華の言葉に相手、雷斗が即答する。
『そうだ、出来るだけ人の除けをするが、時間が無い。また転校してもらうかもしれない』
雷華が怒鳴る。
「ふざけないでよ! たった三日だよ。どうしてあたしだけこんな目に会わないといけないの!」
それに対して携帯からの声は淡々としていた。
『お前しか、シルバーアイが答えないからだ。それ以外に理由は無い』
憎々しげに雷華が、竹刀ケースに入れられた、本物の日本刀を見る。
「こんな物が無ければ!」
発作的に床に叩き付ける雷華。
『気をつけろ、それが無ければ我々人類は、吸血鬼を滅ぼす事が出来ないのだからな。とにかく急いで、校舎裏に移動しろ。そっちに吸血鬼を誘い込む。上手く行けば一般人に知られる前に倒せるぞ』
雷斗の言葉に、雷華は、苛立ちを隠さず怒鳴る。
「解ったよ!」
雷華は、乱暴に携帯を切ると、校舎裏に向かって駆け出す。
「どうせ来るなら、早くしなさいよ」
校舎裏に出た雷華が苛立ちながら言うと、後ろから声がかけられる。
「何が来るの?」
その声に驚き、振り返ると、良美と較が居た。
「どうしてこんな所に居るの?」
雷華の質問に対して良美が言う。
「雷華が居るから、話の途中に何処か行ったみたいだから追いかけてきたんだよ」
頭を抑える雷華。
「危ないから逃げて!」
首を傾げる良美。
「どうして?」
「どうしても!」
雷華が怒鳴り返した時、それが、現れた。
とっさに振り返り、竹刀ケースから、日本刀、シルバーアイを抜き出す雷華。
「逃げて! あれは、人間じゃない」
それは、人の姿は、していたが、しかし人とは違った。
特徴的なのは真っ赤な瞳、その瞳にあるのは、激しい飢えと、人外の力だった。
しかし、良美は、落ち着いた様子で隣に居る較に質問する。
「あれって何?」
歩きながらやっていただろう、ぬいぐるみ作成を続けながら言う。
「有名な吸血鬼だよ」
詰まらなそうな顔をする良美。
「えー、蝙蝠もつれてないし、マントもしてないよ!」
小さく溜息を吐く較。
「あのねー、日本で蝙蝠つれて動けるわけないでしょう。マントだって目立つでしょうが。もう少し常識もってよ」
「なに、暢気に話してるの! 早く逃げて!」
雷華が叫ぶが、それに反応したのは、吸血鬼の方であった。
常人では、とても不可能なジャンプ力を見せて、雷華に飛び掛る。
反応が遅れた雷華が、目を瞑った時、物凄い音と共に、吸血鬼が空中で横にずれる。
「油断するな!」
ショットガンを構えた雷斗が怒鳴る。
そして、雷華が言う。
「もう嫌!」
その言葉に驚いた顔をする雷斗。
そんな雷斗に雷華が続けて怒鳴る。
「何であたしだけ、こんな化物と戦わないといけないの! そして、又転校だよ! どうしてよ!」
戦闘意欲が無くなった雷華の代わりに雷斗がショットガンで、吸血鬼を牽制しながら答える。
「お前しか出来ないからだ。お前以外に、吸血鬼を滅ぼす事が出来るシルバーアイを使えないからだ! お前は、このまま吸血鬼によって人が滅ぼされてもいいのか!」
その言葉に辛そうな顔をしてシルバーアイを構えようとした時、良美が言う。
「やりたくなければやらなきゃ良いじゃん」
その一言に雷華が驚き、雷斗が反論する。
「彼女しか居ないのだ!」
較が蔑む目で雷斗を見る。
「そんな訳無いよ。世界中探せば、赤芽さんと同じ力を持つ人間の一人や二人絶対居るよ」
「それをどうやって探す!」
雷斗の言葉に較が嘲笑で答える。
「それを考えるのは、必要としてる貴方達の仕事。自分達の仕事を人に振って偉そうにするのやめたら?」
雷斗が何発ものショットガンの弾を食らって居るのに普通に立ち上がる吸血鬼を指差して言う。
「目の前の現実を見ろ! ここでほっておけば、その吸血鬼がどれだけ被害を及ぼすと思うのだ?」
較は普通に返す。
「先を見たら、嫌がってる人間にやらせても先が続かない。やりたがる、力を持つ人間を探した方が、後々有利だよ。断言してあげる、嫌がってる赤芽さんにやらせている限り、何時か限界が来る。そして下手したら貴方達の希望であるその刀も失われるよ」
雷斗が睨み言う。
「それなら、お前達は、死んでも良いのか? 今、目の前に吸血鬼が居るんだぞ!」
良美が強い意志を籠めて言う。
「死にたくないけど、嫌がる人間を無理やり戦わせるくらいなら自分で戦うよ」
拳を構える良美に較が続ける。
「親切の押し売りは別に構わないけど、それをやるんだったら自分の力でやりなよ、赤芽さんに強請するなんて筋違いだよ」
意外な展開に戸惑う雷華に較が言う。
「言っとくよ、良美は本気だからね。自分の信念を貫くのに妥協をしらない人間だから」
今にも殴りかかろうとする良美を見て雷華がシルバーアイを強く握り締めて言う。
「あたしは、やる。先の事なんか解らないけど、ここで友達を救う為だったら戦う!」
一気に間合いを詰めて、ショットガンですら殺せない吸血鬼を袈裟切りにする。
そして切られた吸血鬼は、激しくのた打ち回った後、消滅するのであった。
雷斗が、携帯で色々指示を出している間に、雷華が良美達に近づき言う。
「ありがとう。辞めても良いって言われたの、始めてだった。本当に嬉しかったよ」
涙を拭い雷華は、笑顔で言う。
「これでお別れだけど、ずっと忘れないよ」
それに対して良美が言う。
「気にするな、あたし達は、ばらさないし、気にもしないからここに居ろよ!」
雷華が苦笑する。
「そうしたいけど、あたしが居たら吸血鬼がこの学校を襲い続けるから駄目だよ」
良美は平然と言う。
「そんなのは、今更だ。化物が襲ってきても誰かに危害が加わる前にヤヤが殲滅するから問題ない」
良美の言葉に、ぬいぐるみの仕上げをしていた較を見る雷華。
「白風さんが殲滅するってどういうこと?」
その時、雷斗が怒鳴る。
「どういうことですか! これ以上我々がこの学校に居てはいけないとは?」
振り返る雷華に較がいう。
「赤芽さんが普通に学園生活を送るんだったら、この学校に居ても問題ないから安心して」
雷斗が較の所に来ていう。
「八刃の盟主、白風の次期長と言うのは、本当なのか?」
較が頷き言う。
「本当の事を言うと、貴方達がやった事は協定違反なんだけど、取敢えず不問にしておくよ。それと、赤芽さんを又転校させるのは、本人が了承しない限り駄目だからね。そんな事をしたら、ヨシが怒って貴方達の本部に乗り込むよ。当然あちきも同行してるけどね」
困った顔をする雷斗だったが、何度か携帯でのやり取りの後、了承の旨を伝えた。
「白風さんって何者なの?」
後日、シルバーアイの手入れの為にシルバークロスの施設に来ていた雷華に雷斗が答える。
「人間だとは、思わないほうが良い。あれは、人外八刃に所属する物だ」
雷華は、友達を化物扱いされたのが気に入らない様子で言う。
「白風さんは、どんな家系の人間だか知らないけど、そんな事で化物扱いするなんて最低だね」
雷斗は、真剣な表情で言う。
「残念だが、彼女は、家系以上に本人が有名だ。いくつもの忌み名を持つ。この業界では、話すな、関るな、視界に入るなと言われる程、徹底的に関係を持つ事を避けられてる程の化物だ」
雷華は、納得できない顔のまま呟く。
「可愛いぬいぐるみ作る、いい子だけどな」
較が作った携帯ストラップ用のぬいぐるみを弄る雷華であった。
暗い闇の奥底にその男が居た。
「面白い」
その男の言葉に、血の様な赤い唇をした女性が反応する。
「如何なさいましたか、紅眼の魔王様?」
その男、真っ赤な瞳を持つが、雷華が滅ぼした吸血鬼とは異なり、一切の飢えを持たない、悠然とした存在、紅眼の魔王が言う。
「私の配下の吸血鬼が滅ぼされた。前から話しにあったシルバーアイの仕業だな」
赤い唇の女性が言う。
「紅眼の魔王様のお邪魔になるようでしたら、私が滅ぼしますが?」
紅眼の魔王は少し考えた後、答える。
「我が前にシルバーアイとその使い手を連れて来なさい」
その言葉には、赤い唇の女性も驚く。
「しかし、紅眼の魔王様に万が一の事がありましたら大変です!」
その言葉が発せられた直後、紅眼の魔王の瞳が鋭くなる。
「万が一何があると言うのだ?」
震えることすら出来ず赤い唇の女性は止まる。
「失言でした。必ずや、問題の刀と使い手を連れてまいります」
余裕の笑みに戻り、紅眼の魔王が告げる。
「頼んだよ、紅姫」
一礼の後、その場を後にする赤い唇の女性、紅姫を見送る紅眼の魔王であった。




