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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
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安眠を守りぬけ

慣れない仕事で疲れたヤヤが眠るホテル。そこを護るのは、右鏡と左鏡

「あちきは、眠るから、何かあったら起こしてね」

 較は右鏡と左鏡にそう告げて、つい先程まで、前回の事件の後始末をしていた現場の近くホテルの一室に入る。

 そして、右鏡と左鏡が小さく溜息を吐く。

「あの、我侭娘が入院してるから、開放されたと思ったのに、何で白風の次期長のお付やら無いといけないの?」

 右鏡の言葉に左鏡が悲しそうに言う。

「今回は、かなり我慢してたみたいだから、切れ易くなって居たから、いざという時の為の用心だって」

 右鏡が恨めしそうな顔で、較の入った部屋を見て言う。

「もし、いざとなったら、あたし達で止められる訳無いじゃない。いっその事、百母の長が監視すれば良いのよ」

「百母の長も多忙なのですよ」

 その声に二人が振り返るとそこには、零子が居た。

「それよりも、先程の白風の次期長の言葉は、正確に認識していますか?」

 その言葉に左鏡が首を傾げる。

「そのままの意味じゃないんですか?」

 大きく溜息を吐いて零子が言う。

「違います。本来ならば白風の次期長が、何かあった時に他人に起こされるなんて事は、ありません。詰り、自分が起きなければいけない様な状態を作るなという意味です」

 その言葉に右鏡が半歩下がる。

「それってもし守れなかったらどうなりますかね?」

 零子は悲しそうな目をして言う。

「私の予想を聞きたいですか?」

 左鏡は耳を塞ぐ。

「聞きたくありません!」

 右鏡も強く頷く。

「絶対にそんな事態にはしません!」

「宜しくお願いします。普段は、理性的な白風の次期長も切れると歯止めが効かないタイプですから」

 零子はそういい残して去っていく。



「大丈夫よ、白風の次期長が起きないといけなくなるような問題なんてそうそう起こらない筈よ」

 ホテルのロビーで手に持ったカップを激しく震わせながら引き攣った笑みを浮かべる右鏡。

「でも、白風の次期長って、たった数ヶ月で衛星軌道上から見ても解るトラブルだけでも両手で足らない可能性もあるよ」

 左鏡の言葉に右鏡が頭を抱える。

「どうしたら、人工衛星から確認できるトラブルを日常茶飯事レベルで起こせるのよ!」

「八百刃様からそういう神託があったって聞いてますよ」

 左鏡の言葉に右鏡が大きく溜息を吐く。

「とにかく、揉め事が起きない事を祈るだけね」

 左鏡は、両手を合わせて祈り始めた。

 暫くその様子を見た後、右鏡が言う。

「所で何に祈ってるの?」

 左鏡は祈りながら答える。

「八百刃様です」

 少し考えた後、右鏡が呟く。

「戦神に祈ったら逆にやばい気がするぞ」

 その時、フロントがざわめく。

 右鏡が嫌な予感に囚われて、顔を向けると、拳銃を持った男が立っていた。

「大人しく金を出せ!」

 目が点になる右鏡。

「これも白風の次期長の力ですかね?」

 左鏡の言葉に何も答えず、右鏡がざわめくロビーの中を駆け出す。

 フロントスタッフは、怯え、ガードマン達が注意深く包囲する中、右鏡の跳び蹴りが強盗の側頭部に命中して、一撃で沈黙させる。

「このホテルで騒ぎを起こすんじゃない」

 安堵の息を吐くスタッフ達。

 強盗を確保した警備員が小声で呟く。

「今日は、アメリカの外務官との極秘会談が行われるって言うのに、なんなんだ」

 右鏡は、その警備員に掴みかかる。

「今の話は、本当なの!」

 警備員も自分の失言に気付き首を振る。

「君の聞き間違いだよ」

 右鏡は、無言でフロントに置いてあったガラスの灰皿を握り潰す。

 左鏡が慌てて、頭を下げて、ガラスの破片の上に弁償の為のお金を置く。

 青褪める警備員に右鏡が詰問する。

「二度とは、聞かないよ、今日、極秘会談があるの?」

 警備員は頷くしかなかった。

 右鏡は、警備員を放して悲壮な表情でフロントに言う。

「場所変えてもらえませんか? 今日だけは、騒ぎが起こったら大変なんです」

「駄目だよ、第一、我々は場所を提供するだけです」

 フロントの答えに、右鏡が、頭を抱えてしゃがみこむ。

「絶対にトラブルに発展する! そうなったら……」

 最悪な想像をする右鏡に左鏡は言う。

「取敢えず、現状を零子さんに知らせるべきだと思います」

 右鏡が頷くと左鏡は携帯電話を使って連絡するのであった。



「希代子さんと連絡がとれないそうです」

 左鏡がロビーの喫茶室で落ち着く為に頼んだ紅茶の前で、怯えながら呟く。

「零子さんは、なんと?」

「出来るだけの手段をとるけど、永田町とパイプを持っている希代子さんじゃないと場所の変更は難しいらしいです」

 左鏡の回答に右鏡は、覚悟を決める。

「こうなったら、実力行使よ!」

 右鏡は、立ち上がると外に出る。

 右鏡の後を追いかけて左鏡が言う。

「どうするつもりなの?」

 不安げな左鏡に右鏡が答える。

「実力行使、直接説得する」

「それは、いけないと事だと思うよ」

 しりごむ左鏡に右鏡が言う。

「もしも米国外務官との秘密会談に襲撃があって、白風の次期長が起きる状態になったらどうなると思う?」

 左鏡が涙目になって言う。

「そんな地獄絵図思い浮かべられません」

 頷き右鏡が数台のリムジンの前に立ちふさがる。

 同時に、車が止まり黒服の男達が現れる。

 大量の外人の中から一人の日本人が出てきて言う。

「君達、何者かは、知らないが、すぐ退くのだ。もし退かないのであれば、排除させて貰う」

 答えを待たず、黒服たちが拳銃を構え近付いてくる。

 右鏡は、右手を振るう。

影小円エイショウエン

 数枚の影の円が、黒服たちの拳銃を切り落とす。

 恐怖した数人が拳銃の引き金を引く。

影壁エイヘキ

 左鏡の呪文と共に、影の壁が生み出されて銃弾を防ぐ。

 右鏡が怯むことなく立ち告げる。

「あたし達は、貴方達に危害を加える為に来たわけでは、ありません」

 その一言に先程の日本人の黒服男が言う。

「その言葉を信じろと?」

 右鏡が強い意志を籠めて言う。

「はい。あたし達の願いは、会談の場所の変更。あのホテル以外でしたらどこでも構いません。後で、正式な要請があると思いますが、今は、時間が無い為直接訴えに来ました」

 右鏡の行動の意味が読み取れず、戸惑う日本人の黒服だったが、リムジンから偉そうな男が出てきて言う。

「外務官、危険です!」

 それを手で制してその偉そうな男、白人のアメリカの外務官が言う。

「君達は、自分達が何をしているのか判っているのか?」

 頷く右鏡と左鏡に外務官が言う。

「日本人が我が国に逆らってただで済むと思っているのかな? 我が国の軍事力がなければ、成り立たない国が!」

 威圧する外務官に大きく溜息を吐く右鏡。

「はいはい、解りましたから、場所変えてください。お詫びもする様に上に話しておきますから。どうせ、日本に、金を集りに来たんでしょ?」

 まともに相手をする気がなくなった右鏡に左鏡が慌てて言う。

「すいません。しかし、今回の件は、それ相当のお詫びを入れさせて貰えるはずです」

 頭を下げる左鏡だったが、もう手遅れで物凄く重い空気が流れていた。

「こんな無礼な態度は、初めてだ、今回の会談は、中止だ」

 外務官の言葉に安堵の息を吐く右鏡と左鏡だったが、彼の側近がいさめる。

「外務官、この会談は我が国にとっても大切な物です。この様な小娘の言葉は無視して下さい」

 外務官は怒鳴る。

「こんな小娘に馬鹿にされては、威信に関る!」

 側近は冷静に告げる。

「こんな小娘の言葉に左右される方が威信を無くします」

 外務官が苛立ち躊躇している間に側近が右鏡に近付き言う。

「君達も何故、それ程にあのホテルでの会談を恐れるのだ? 何か問題があるのか?」

 右鏡は少し考えた後、正直に答える。

「今あのホテルでは、白風較が徹夜明けで寝てるからです。万が一にも起こしたら大変になります」

 その一言に側近が目を点にする。

「それ本気で言っているのか? どんな人物か知らないが、その人間を起こさない為に大切な会談の場所を移動させようと言うのか?」

 左鏡が頷き答える。

「はい。較様は、十四歳の女子中学生です。公的には白風の次期長です」

 その言葉に側近が大きく溜息を吐く。

「その白風の次期長って言うのは、君達にとってどんな重要人物か知らないが、その人物が起こすのと会談が出来ないのとどっちが大変だと思うのだい?」

 右鏡と左鏡が声を合わせて言う。

「「白風の次期長を起こすほうが問題です!」」

 側近の男性は諭すように言う。

「君達にとっては、そうかもしれない。でも彼女が、出来ることなど高が知れているだろう? もしこの会談が失敗に終れば、日本にとって大変な事になるかも知れないよ」

 脅す口調だったが、左鏡が頭を抱えてうずくまる。

「白風の次期長が起こす事なんて考えたくも無いです」

 大きく頷く右鏡。

「どうせ、会談失敗して、問題になるって言っても戦争なんてならないし、オモイヤリ予算が数億増えるか減るかの問題だもんね。そんな金で解決出来る問題の方が百倍増しだよね」

 数億という金をあっさり言う娘達に側近は、頭を抑える。

「君達にね、その白風の次期長がどんなに怖いか知らないが、数億円の被害を出す意味が解っているのか?」

 右鏡が遠くを見て言う。

「白風の次期長がやった騒動の後始末に掛かるお金に較べたら、数分の一って所ですね」

 左鏡も頷く。

「山を消し飛ばした時は、確か百億近い金が動いたって聞いてるよ」

「地図の書き換えや各マスコミに対する口止め料とかあったしね。意外と予算が掛からなかったのはホワイトハウスを半壊させた時だったね」

 右鏡が何気なく言うと、側近が固まる中、左鏡が言う。

「あれは、アメリカ側が、自国側の責任もあったからって自費で直してくれたからね」

 納得しあう右鏡と左鏡に外務官が駆け込んでくる。

「まさか、お前達が言う白風較とは、ホワイトハンドオブフィニッシュ(必殺の白手)か?」

 頷く右鏡と左鏡に外務官がリムジンに駆け戻り怒鳴る。

「今すぐあのホテルから離れるぞ!」

 側近が慌ててリムジンが戻るとリムジンが逃げるように去っていく。

 その様子を見て右鏡と左鏡は安堵の息を吐くのであった。



 リムジンの中、外務官の側近の男が質問する。

「何者なのですか、そのホワイトハンドオブフィニッシュとは?」

 外務官が震えながら答える。

「日本にある、異世界からの干渉者を打ち滅ぼす組織、『八刃』の盟主、白風の次期長だ」

 眉を顰める側近だったが、彼も政治の中枢に居る人間だ、そういった現代科学では、理解できない存在があることも知っている。

「だからといって態々、会談の場所を変える必要があるのですか?」

 外務官は大きく溜息を吐いて言う。

「お前は、ゴジラを知っているか?」

 側近が頷く。

「日本製作版でしたら何本か見たことがあります」

 外務官が真剣な顔をして言う。

「ゴジラが居ると仮定しよう。そのゴジラが寝ている足元で会談が行えると思うか?」

「そんな空想の生き物なんて例にだされても」

 側近が引き攣った顔で答えるが、外務官が怒鳴る。

「下手すればゴジラより性質が悪い! 奴こそが、アトミックス島に撃った大陸間弾道弾を迎撃した化物だ!」

 驚愕の表情を浮かべる側近。

「そんな冗談は止めて下さい!」

「冗談だと私も言いたいが、人工衛星からの映像を何度も見せられている。そして大統領からの至上命令として、八刃、特にホワイトハンドオブフィニッシュとは、関るなと言うのがある」

 外務官の言葉に側近が唾を飲む中、外務官は、大きく溜息を吐いて言う。

「それでも向うの都合で会談の場所を変えたのだ、それ相応の侘びは、貰うがな」

 その言葉に側近も落ち着きを取り戻して言う。

「少しは、貯金が出来ますかね?」

 外務官が悪巧みをする顔になって言う。

「上手く本国に知られずに処理できれば数万ドルの金が手に入るぞ」

 側近が頭を下げる。

「お任せ下さい。会談場所については、敵対テロリストに情報が漏れた事にすれば大丈夫の筈ですし、向うの窓口と直接折衝すれば問題ないかと思われます」

「有能な側近が居ると助かる」

「外務官程ではありません」

 悪代官みたいなやり取りをしてから含み笑いをする二人であった。

「どうしてこうなってるの?」

 右鏡が壁に大穴が空いたホテルを呆然と見て呟いた。

 左鏡に至っては、それを見た後、気絶している。

 後ろで大きく溜息を吐いて零子が言う。

「良美さんが、寝ている白風の次期長の所に電話して、無理に起こした挙句、お使いを頼んだそうです。さすがの白風の次期長も切れたみたいですね。それでも病院に行ったみたいですが」

 右鏡が力の限り叫ぶ。

「あのくそ女! 絶対殺す!」

 この後始末に右鏡と左鏡は、数日間のハードスケジュールになるのであった。

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