八刃の制限
動けぬヤヤ。元十三闘神の一人、騎神キッドの実力は?
「それで、偶然って訳じゃないんですよね?」
小較が落ち着いたところで公園に現れた較の言葉にキッドが頷く。
「私もその人、大徳寺真一郎博士を探していたの」
真一郎の顔に緊張が走る。
「このおっさんがどうかしたのか?」
良美の言葉にキッドが真一郎を見ながら言う。
「彼が作ったそのペンダントを使えば、本来の十分の一の力で魔獣を召喚出来るらしい」
較の顔が引き攣る。
「それってまさか、簡易的な異界間ゲート作成装置の可能性があるって事ですよね?」
キッドが小さく溜息を吐いて言う。
「エンは、その可能性が高いって言っていた」
小較が難しい話をする較達に対して言う。
「おじいさんは、いい人!」
そんな小較を宥める様に真一郎が言う。
「良いんだよ。私は、科学者としての興味心から魔獣と言う存在の研究を行い、そして簡易的に呼び出す為の媒体であるこのペンダントを生み出した。こんな物を作ってしまった為に、君達に余計な迷惑をかけてしまっている」
頭を下げる真一郎。
その時、較の携帯電話が鳴り、較が少し離れた所に行く。
「ヤヤお姉ちゃんはとっても強いからもう安心だよ」
笑顔で真一郎に言う小較。
その時、一人のスーツを着た理的な女性がやってくる。
「小較様、おしさしぶりでございます」
頭を下げるその女性に小較が不思議そうな顔をする。
「零子さんがどうしてここに居るんですか?」
「知り合いの人ですか?」
真一郎の言葉にその女性、零子が答える。
「白風の分家の一つ、白水の者です。貴方を神雷教に引き渡す代行人として着ました」
その言葉に驚く小較。
「それってさっきの奴等だよね! どうしてなの!」
「奴等が希代子さんに正式に抗議をしてきたの。異邪が関らない事であちき達、八刃が干渉するのは、約定違反じゃないかって」
較が戻ってきて告げるのに続けるように零子が言う。
「神雷教は、小較様に対する戦闘行為に正式な謝罪を述べた後、小較様が干渉しなければ、大徳寺博士の身柄は、自分達が抑えていた事を主張し、不干渉を護るつもりがあるのだったら、大徳寺博士の身柄を引き渡せと言ってきています」
「絶対駄目だよ」
小較の言葉に較も納得できてない顔をするが、頬を掻く以外しない。
そんな較を小較が見つめて言う。
「ヤヤお姉ちゃん?」
較が思いっきりをつけようとした時、強い気がその場を覆う。
振り返るとそこには、百母の長、西瓜が立っていた。
「待たせたね」
頭を下げる零子。
「態々すいません、百母の長」
西瓜は、較の隣に来て言う。
「白風の次期長の事だ、多少強引でも妹の為に、その人を護ろうとするだろう。だけど白風の次期長は有名すぎ、八刃が明確な干渉をした事になってしまう。暫く私の寺に居て貰うよ」
小較が縋るような様な顔を較に見せると較は大きく息を吐いた後、戦う顔に変わろうとした。
その時、真一郎が言う。
「大人しく神雷教の所に行きます」
その言葉に、小較が驚く。
「そんなの駄目だよ!」
真一郎は小較に視線を合わせる様にしゃがんで言う。
「でも、ここで私が行かないと、君の家に迷惑が懸かる。それは、私は、奴等に捕まるより辛い事なんだ。解ってくれるね」
泣きそうな顔をする小較。
西瓜が較に移動を促しながら言う。
「そうそう、有名な較の動きを態々、私が抑制したと、あちらさんには、言ってくれよ」
「了解しました」
去っていく西瓜に頭を下げた零子。
最後に較が言う。
「ヨシ、小較と一緒に居てあげて。そうすれば本気で危なくなったらあちきが動けるから」
その言葉に良美が何かに気付いた顔をする。
「了解、小較と一緒にキッドさんの傍に居るから安心して」
キッドも頷く。
「それでは、私達も行きましょう」
零子の言葉に真一郎も頷く。
「また会おうね」
微笑みながら別れる真一郎に小較が大泣きしていた。
そして西瓜も真一郎の姿も見えなくなったところで良美が小較の頭を殴る。
「何時までも泣いてるな。行くぞ」
その言葉に小較が怒鳴る。
「今更何処に行くって言うんだよ!」
良美が余裕たっぷりな態度で答える。
「あのおっさんを追いかけるんだよ」
不思議そうな顔をする小較にキッドが言う。
「ヤヤが動かない様に止めている事で八刃は、不干渉だと主張する。でもその為、貴方は保護者が居ない状態になったの。そこで父親の知り合いである私が保護する。その私が八刃と関係ない所で、大徳寺博士を追いかけるのに、被保護対象である小較ちゃんを連れて行っても仕方ない事だと思わないか?」
少し考えた後、小較が嬉しそうに言う。
「うんうん。仕方ないよね!」
そして尾行を開始するキッド達であった。
無理やりバイクに三人乗りして、尾行をしているキッド達。
その中、良美が言う。
「神雷教って何なんだ?」
キッドが運転をしながら答える。
「簡単に言えば、神様は何時も天から見下ろしていて、悪い事をすると神の怒りの雷が落ちるから、清く正しく生きようって教義よ。問題は、その天罰が、雷獣を使った人工的だって事かしらね」
「それってインチキじゃん」
良美の言葉にキッドが頷き、あっさり言う。
「でもよくあること。私達が余計な干渉することでは無い。問題は、あのペンダントだけど、もしあれが本当に異界との道を結ぶものだとしたら、けっこう面倒な事になるわ」
「おじいさんを助けるの!」
キッドと良美に挟まれている小較の主張に、良美が微笑み言う。
「だったら我慢しろよ。キッドさん、スピード上げて下さい」
キッドは頷くと、更にスピードを上げる。
「すまないわね」
落ち着いた雰囲気がある大人の女性、西瓜の娘、栗理が、娘の桃を寝かせつけながら言う。
「別に構いませんよ。それより、お仕事の方は大丈夫なんですか?」
干していた洗濯物を取り込んでいた較が、戻ってきて尋ねる。
「あの人が、頑張っているから大丈夫よ」
微笑む栗理に較は少し考える。
「正直言って良いですか?」
「何を」
栗理が首を傾げながら聞き返すと較がはっきり言う。
「柿生さんって商才は、あまり無いと思いますよ」
栗理が慌てて言う。
「そんな事は、無いわよ。ほら戦闘センスも凄いと思わない?」
較が溜息を吐いて言う。
「戦闘センスが八刃でも指折りなのは認めます。実際戦えば、長以外に勝てる人は居ないと思ってますよ」
「そうなのよ、柿生は、凄いのよ!」
栗理の言葉に較が遠くを見るように言う。
「だからからもしれませんね。あちき達が崇める八百刃様は、金運はありませんから」
その一言に、怯む栗理。
「でも、八刃でも金持ちの人間は、多いじゃない?」
較は、洗濯物をたたみながら言う。
「八刃の経済的の要所から少し離れた場所には、卵料理店が必ずある理由を知ってますか?」
首を傾げる栗理。
「そういえば、あるわね。何か意味あるの?」
較が小さく溜息吐いて言う。
「あれって八百刃様避けの意味があるんです。八百刃様の力が近くに来ても、卵料理屋に引っ張り込まれるって話しです。だから、卵料理屋は何処も赤字だって話ですよ」
頬が引き攣る栗理。
「そんな話し、聞いたこと無いわよ」
較が溜息を吐いて言う。
「百母は、元々八百刃様の受肉の手伝いする関係上、あまり知らされて居なかったって聞いてますよ」
慌てて栗理が言う。
「でも、ヤヤちゃんは、近くに卵料理屋さんが無くても大丈夫でしょ? だったら迷信なんじゃない」
較は右手を見せて言う。
「あちきは、右手が白牙様と繋がってますから、八百刃様の力も余計な事が出来ないんですよ」
引き攣った笑顔で栗理が言う。
「きっと大丈夫よ」
そんな栗理を放置して較が言う。
「ヨシ、無茶しないと良いけど」
神雷教の教団本部。
「確かにお引渡ししました」
零子の言葉に、神雷教の教祖、ジージスが、一枚の封筒を渡す。
「これは、少ないですが、白風のお嬢さんを襲ったお詫びです」
それを受け取り零子が部屋から出て行くのを確認してからジージスは、真一郎に言う。
「さあ、貴方が開発したペンダントの開発方法を教えていただけますか?」
その言葉に真一郎は首を横に振る。
「そのつもりは無い」
肩を竦めてジージスが言う。
「しかたありません。私達の教えをその体で、解っていただきましょう」
ジージスは、空中に複雑の印を描く。
『神の怒り、汝は、神の代行者なり。我が導きに答え、その姿を成せ!』
ジージスの目の前に雷の獣、雷獣が生まれ、真一郎に近付く。
「早く考えを変える事ですね」
余裕たっぷりな態度でジージスが告げるが、真一郎も弛まぬ瞳で言う。
「人を襲う為の協力は出来ない」
「残念だよ」
ジージスが言葉とは、裏腹に嬉しそうな顔をしている。
目を瞑り真一郎が呟く。
「楽しかったよ、小較ちゃん」
その時、壁が吹き飛び、キッドが操るバイクが入って来て、雷獣を吹っ飛ばす。
「残念だけどそいつは、私が貰うわ」
キッドがそう宣言する。
「おじいさん大丈夫!」
小較が声をかける。
「小較ちゃんどうして?」
真一郎の言葉に小較が答えそうになるのを、良美が口を塞ぎ、キッドが答える。
「彼女はまだ子供なので、私が保護しています。そして私は、八刃の外の人間で、その人を奪回します。彼女は、保護しているから仕方なく連れて来ました」
「詭弁を使いおって!」
怒鳴るジージスに対してキッドが言う。
「この子には手を出させないわ」
鼻で笑うジージスが言う。
「たかが人間が、我等に勝てると思っているのか?」
ジージスは、壁に掛かった西洋画を外すと、大きな壷を取り出して、叩き割る。
「私が召喚した最強の雷獣だ!」
体長が4m以上の双頭の雷獣が現れる。
「ところであのキッドって人、大丈夫? 八刃では、ない普通の人でしょ?」
較が隔離されている寺で栗理が較に尋ねると較は肩を竦ませて言う。
「中級以上の異邪ならともかく、教団一つ潰すのに、キッドさんじゃ過ぎるぐらいだよ。万が一の事を考えての処置だろうけどね」
それでも納得していない栗理が言う。
「人の身では、限界が知れてるわ」
較は溜息を吐いて言う。
「模擬戦、十戦零勝」
首を傾げる栗理。
「その人と誰の? 随分負けがこんでますけど?」
較は、そっぽを向いて言う。
「あちきとキッドさん。模擬戦では、一勝も出来てないんですよ」
栗理が驚く。
「冗談でしょ?」
「最初の一回しか勝った事無いよ。元十三闘神って、最高攻撃力こそ低いけど、一対一の対決だったら、八刃トップクラスと互角に遣り合えるレベルですよ」
少し悔しそうに言う較の言葉に真実と知り栗理が戸惑った表情で言う。
「異邪とやりあうために人を捨てた八刃の存在を否定しそうな存在ね?」
較はあっさり頷き言う。
「やり方さえ考えれば人を捨てなくても、異邪に勝てたかもって可能性。そんな可能性をお父さんは否定したかった。だからバトルに参加して、最強の鬼神って呼ばれていた」
少し躊躇した後、栗理が言う。
「詰り、白風の長は、八刃が、人を捨てた意味を護りたかったからバトルに参加していたって事よね」
較は何も答えない。
その悲しみとやり切れなさに包まれた表情を見て栗理も何もいえなくなった。
「こんな狭い部屋では、自慢のバイクも意味が無かろう!」
ジージスの言葉にキッドが苦笑する。
「二人とも降りて」
頷き、降りた良美と小較を確認してからキッドは、アクセルを握る。
高速で壁に向かって走るキッドに戸惑うジージス。
「自爆するつもりか?」
壁に接触した瞬間、キッドのバイクは、壁を疾走し始めた。
ほぼ四角の部屋の壁を周回し、どんどん加速する。
早すぎる動きに、双頭の雷獣も戸惑い、動きが止まる。
次の瞬間、その体に大きな切傷が生まれる。
それは次々に増えていく。
「とにかく雷を放て! あれだけ高速で動いているのだ、当たらない訳が無い!」
むやみやたらに放たれる雷は、壁や高級な家具を破壊するが、キッドには掠りもしない。
『マッハ、スラッシュ』
その声と共に、双頭の雷獣の首が切り落とされ、消えていく。
部屋の中央で、ナイフを構えるキッドが告げる。
「まだやりますか?」
その言葉にジージスが首を横に振るしかなかった。
『そーだったらあたしが貰っていってもいいかしら?』
声の出所が解らない声、そして、キッドが真一郎を見た時、その直ぐ後ろに、一人の女性が居た。
「貴女、オーフェンね?」
その一言に苦笑してから、その女性が弾ける。
その姿を見て良美が怒鳴る。
「あんたは、メイダラス!」
その一言に、キッドの表情に緊張が走る。
「まさか、もう六頭首の一人が動いてるなんて……」
メイダラスは、肩を竦めて答える。
「貴方達、オーフェンハンターの目が厳しいから、他の人間に侵食して動ける、あたし以外は、行動が困難になってるわ」
一人、事態が飲み込めない、ジージスが言う。
「お前は、何物だ、我が使え女に何をした?」
その一言にメイダラスが微笑を浮かべる。
「貴方の魔獣召喚能力が何時か使えるかもと思って、あたしが侵食したあの子を入信させてたの。意外にも面白い物を見つけたから、あの子の体に完全侵食して浸入したんだけど、相変わらず動きが早いわね」
キッドが油断なく、構える中、メイダラスが余裕たっぷりな態度で答える。
「残念だけどまともにやりあうつもりは全く無いから」
そう言って、指を鳴らすメイダラス。
「何をした!」
キッドの言葉にメイダラスが真一郎を気絶させるとキッドが浸入してきた穴に真一郎を抱えて下がる。
「あたしは、この教団の信徒を多く侵食したわ、そしてその信徒達に、この教団が隠し持っていた雷獣達を無差別に解放させた」
その言葉に答える様に、あちらこちらから悲鳴と爆発音が響き始める。
「まるっきり無関係な人に多く被害が出るわねー」
キッドが思いっきり堪える表情をして小較達に言う。
「奪還は、一時諦めなさい。雷獣の始末が先よ!」
小較が真一郎を見ながら言う。
「でも、おじいさんが連れて行かれちゃうよ!」
キッドが悔しげに言う。
「ここで無理に取り戻そうとすれば、多分そいつは、周囲の住民を襲わせる。そうなったら、助け出しても真一郎さんが苦しむ事になるわ」
小較は、メイダラスを睨む。
「絶対、取り返すんだからね」
「待ってるわ」
穴から去っていくメイダラスを放置し、キッドと小較は、教団施設内を暴れまくっている雷獣の始末に向かった。
「オーフェンが絡んでいる以上、主導権を手に入れられたな。六頭首まで出てくるとは、少し面倒だな」
殆どキッドの手によって雷獣が滅ぼされた後、到着した西瓜が、大して気にした様子も無く言った。
「人間に侵食されると、探索が通用しなくなるのが致命的だね」
西瓜と一緒に来た較が言った。
「おじいさん大丈夫かな?」
不安げな小較に対して較が懐から電子マップを取り出す。
「こんなこともあろうかと、あのおじいさんには、発信機を付けといたから、安心しなさい。キッドさん、運転お願いします」
キッドがバイクに跨り頷くとその後ろに較が乗る。
慌てて小較と良美が乗ろうとするが、較が言う。
「少しでも早く行きたいから、二人は、あちきが乗ってきた車で後を追ってきて。こっちの居所なら、解る様になってるから」
その言葉に小較が訴えかける目をしてくるが、較は折れなかった。
「大切な者を護りたいと思うんだったら我慢する事も覚えなさい。直進だけでは何時か大切な者を失う事になるよ」
較が促すとキッドがバイクを発進させる。
それをじっと見る小較の背中を叩き良美が言う。
「こっちも急ぐよ!」
頷き小較は、車に乗る。
直ぐに良美も乗って言う。
「法定速度なんて無視して突っ走れ!」
良美の言葉に運転手が大きく溜息を吐き、車を発進させるのであった。




