地上最強の攻撃力を持つ者
長いです。プラタが活躍しています。そして八刃学園でも語られたあのエピソードです
「一つ聞いていいか?」
空港でミートが尋ねる。
「先に人員整理やって」
較が切り捨てる。
ミートが諦めきった顔をして言う。
「どうやって収めるつもりだ?」
ミートが指差す方向には、アトミックス島住人以外の全ての人間が居た。
「ジェット機のピストン輸送で逃がす予定。船じゃとても逃げ切れないからね」
較の返事にミートが冷めた口調で言う。
「あんなのが上空で漂っているのにか?」
黒い雲のようになった、化け物の群れがその上空に漂っていた。
「だから待ち状態なんだよ。援軍が来るはずだから」
較は大きく溜息を吐く。
「何だ、その溜息は?」
ミートの質問に較が告げる。
「この後の問題考えると、溜息もつきたくなるよ。オーフェンの幹部に、その幹部が立てていた異邪九龍の一、黒翼の復活作戦。それが殆ど終了している。どれだけの被害が出るかも解らない。最悪は島が無くなる事は覚悟しといたほうがいいかも」
「怖い冗談は止めろ!」
ミートの言葉に較が首を横に振る。
「洒落ぬきだよ。異邪九龍が関るって事は、そういうことなんだよ。なにせ相手は、東京大空襲を企てて何万人以上の人間を殺した奴を復活させようとしてるんだよ。こんな小さな島くらい無くなる戦いも八刃だったら容認の範囲だよ」
唾を飲むミート。
「なんとかならないのか?」
「この避難を引き出すのは精一杯だったよ。正直、そんな事をせずに八刃の戦力を集中して殲滅戦をやるって話しもあがってたんだよ」
較の言葉にミートが頭を抱える。
「お前等何時の時代の話しをしてるんだ? そんな事が許されると思ってるのか?」
較はミートの顔を見て言う。
「異邪と八刃は天敵なの。殺すか殺されるか。身内を殺される可能性がある以上、敵対者の排除には一切の躊躇がしない。それが八刃だよ」
ミートは大きく溜息を吐いて言う。
「偉そうなことを言ったが、俺もまた、平和の時代の人間だって事だな」
「悪い事じゃないよ。問題は、その争いに巻き込まれた自分の運の無さだと思って」
較の言葉にミートはタバコを取り出す。
「この島に来て唯一良かったのは好きな時にタバコ吸える事だけだな」
ミートが口にタバコを加えると、較は指を擦って火を起こし、タバコに移す。
「馬鹿な連中が来たみたいだよ」
ミートは、首をかしげる。
「こんな状況で誰が来るって言うんだ?」
「世界の警察って言えば何?」
較の問いにミートが手を叩く。
「そうかアメリカが動いたのか!」
最新型の戦闘機のジェット音が響きわたる。
「これでこの島が救われるぞ!」
希望のひかりを見出すミートに較が肩を竦ませて言う。
「最新式の戦闘機なんて論外だよ」
「どうしてだ! あの攻撃力だったらあんな化け物でも倒せる筈だ!」
ミートが怒鳴ると航空管制室を指差して較が言う。
「レーダーに映らない、機械に反応しない存在を最新型の戦闘機でどうやってロックオンするの?」
ミートが舌打ちする。
「そうだった。だからシンガポールからも援軍も来ないんだった。しかし、それなら何で米軍が来るんだ?」
較が頭をかきながら言う。
「八刃の上が大きく動く場合は、こちらから申請する義務があるの」
嫌味こみでミートが言う。
「お前が事前の入国審査をしてたくらいだからな」
上空を通り過ぎていく戦闘機を見てから較が告げる。
「言っとくよ、これから来るメンバーは間違いなく、米軍の一方面軍を蹴散らせるよ」
「冗談はよせ、お前等が幾ら強く、何百人いるかしらないが、あの数と最新技術の暴力に勝てるわけが無い!」
ミートの言葉に較はあっさり言う。
「常識内にあるうちは、勝てる相手じゃないよ」
唾を飲み込むミート中、較が眉を顰める。
「死人が出る前に諦めてくれればいいけどなー」
墜落していく戦闘機を眺める較とミートであった。
較達が待つ、空港に一機の高速飛行機が着陸する。
「元気でしたか?」
一人の中肉中背の男性が降りてくる。
「あれは、誰だ?」
ミートの質問に較が普通に答える。
「お父さん」
ミートが否定する。
「冗談だろ? お前の父親があんな普通な訳ないだろう」
遠い目をする較。
「外見は普通だよね、外見は」
何が言いたいのか凄く解る言葉であるが、ミートは、それでも信じられなかった。
そこにごついがたいをした、パイロットの風太が降りてくる。
「エアーナは、無事か?」
頷く較。
「はい、観光客の中に居ます。皆さんには、安全を図るためにこれから近くの航空会社の人と連携して、この島の外に避難してもらう予定です」
そこにまさにエリートビジネスマンを表現したような男性が降りてくる。
「その件の交渉は終った。こちらがルートを確保しだい、各航空会社が協力してくれる事になった」
「朧、面倒な仕事を任せるな」
較の父親の言葉に、その男性、朧が普通に答える。
「役割分担だ、焔。こういったサポートが十全に行えてこそ間結として価値があるのだ」
較の父親、焔は、上空を見て言う。
「それなら、これからは私達の仕事ですね、遠糸の長」
「一刻も早く、避難をすませましょう。あんな大災害は不要です」
較が以前出た、八刃の会議に出ていた、遠糸の長、翼が最後に降りて来て、右手首につけた腕輪に左手を添える。
『九尾弓』
翼の左手に上部に九本の尾の飾りのついた弓が握られる。
右手で左手首の腕輪の飾穴に指を入れて翼が唱える。
『純白色鳥矢孵化』
翼の右手に白い尾羽がついた矢が握られる。
矢は、弓に番われ、矢が放たれる。
矢は、信じられない飛距離飛び、化け物達に達した。
『羽撃』
翼の声に応え、米軍の攻撃すら物ともしなかった化け物達の中に大穴を空ける。
ミートはその様子に目が点になる。
相手にも動きが発生する。
泰然と動かなかった化け物たちが空港に向かって襲ってくる。
『バハムート』
焔が拳を空撃ちすると、向かってきていた化け物の先頭集団が消し飛ぶ。
ミートが声にならない声で騒ぐが、較が落ち着く様に肩を叩き言う。
「二人ともまだ本気じゃないよ」
暫く、一方的な殲滅戦が続いた。
「飛行ルートの結界維持を優先しろ」
朧が間結の分家の人間に指示を出す中、ミートが頭を抱える。
「お前等本気で人間か?」
較は肩を竦ませて言う。
「よく人外って言われます」
ミートは、人が込み合っている空港の中なのに警備の人間が恐れて近付かない為、密集度が低いロビーの席に座る、焔と翼を見る。
「あまり良い豆を使っていませんね」
眉を顰めてコーヒーを飲む翼。
「空港のコーヒーでは、ましな方ですよ」
平然と答える焔だったが、世話役の人間が、慌てて上等の豆を探しに動く。
「あの二人だけで、数え切れないほど居た化け物を空港周辺から掃討しやがった」
ミートの言葉に較が答える。
「これが八刃の上位者が入出国に許可がいる理由。その気になればお父さんと遠糸の長だけで、一国の軍隊全てを殲滅出来るからね」
否定できないミート。
「ヤヤ、あの人達どうするの」
良美が来て、遠巻きにしている現地の人達を指差す。
較は、溜息を吐いて言う。
「出来れば避難して欲しいんだけどねー」
較はプラタの方を向くとプラタは首を横に振る。
「無理です。ブラックウイングは私達にとって、とても大切な守り神です。それの復活を阻むものに、戦うのに邪魔だから島を出ろといわれても、誰も従いません」
「だよね。明確な妨害工作が無いだけでも、プラタさんに感謝してる」
あの事件の後、プラタは兄が利用された事を熱弁したため、住民全員が即座にブラックウイングに従わなかった。
しかし、島から避難する事も拒否した為、較も扱いに困っていた。
「お前等の上はどう判断してるんだ?」
ミートの質問に較が答えないで居ると焔が来る。
「娘を責めないで欲しいのですが」
ミートが焔の方を向く。
膝が震えるのは、到底抑えられないが、それでもミートが質問を続ける。
「貴方達は彼等をどうするつもりですか?」
焔が断言する。
「黒翼に協力するのなら敵対者として排除する」
その言葉に妥協が無かった。
ミートが焔の胸倉を掴む。
「貴様達は何様のつもりだ! 化け物みたいな力が持ってるか知らないが、お前等の正義で全てを裁くと言うのか!」
焔は冷たい目で告げる。
「勘違いしている、八刃は正義の味方ではない。自分が大切な者を護る為に戦うものだ。だから、相手がこちらの大切な者を傷つける可能性があり、自分の意思で従うのだったら戦うのみだ」
ミートは怯む。
「でも利用されてるだけならば開放する必要はあると思うよ」
較がフォローを入れると焔はプラタを見る。
「君の意見を聞きたい。もし島の人間が黒翼に従うとしたらそれは、自分の意思か? それとも集団意識や、暗示の上か?」
ミートは視線で操られていると言えと訴えるが、プラタがはっきり答える。
「多くの人間が自分の意思だと思います」
頷く焔。
「ならば戦うしかないな」
その言葉に較が辛そうな顔をした時、翼が焔の隣に来る。
「人の意思は変わる物。彼女にチャンスを与えては如何ですか?」
プラタを指名する翼。
「しかし、私の言葉で他の人の気持ちは変えられないと思います」
自信の無い言葉に、翼は優しい顔で告げる。
「貴方達が望む未来に黒翼の力が必要なのですか? それを考え、答えられるのはこの島に住む貴女だけにしか解りません」
そのまま取り残されるプラタであった。
次々に飛び立つ飛行機を背中にプラタが一人悩んでいた。
そこにやってくる良美。
「まだ悩んでるんだ」
下を向いたままプラタが答える。
「私に島の住人の命が懸かっています。失敗できません」
良美は少し考えてから言う。
「自分の気持ちを言うしか無いと思うよ」
「そうかもしれませんが……」
口ごもるプラタに良美が力強く言う。
「やる事が決まっているんだったら後は、迷わず突き進むだけだよ」
そこにミートが来て言う。
「お前みたいな気楽な人間に、そいつの気持ちが解る訳ないだろう」
敵意を込められたその一言に、良美が怒鳴る。
「あんたに、言われる筋合いないよ!」
「自分の行動次第で、人が死ぬ。そんな責任を背負った事が無い人間がどうこう言える事じゃないと言っているんだ!」
ミートが怒鳴り返した時、凄まじい殺気が放たれる。
「それ以上、ヨシに文句言うんだったら、それ相応の覚悟を決めてね」
較が言葉にミートが怯む中、較は、良美に近付き言う。
「委員長達が、次の便で日本に帰るから、見送りに行くよ」
「了解」
良美と較はその場を離れる。
「あの娘が何だって言うんだ」
ミートの呟いた時、一通りの指示を終えて休憩に来た朧が言う。
「ウエイトオブアース。地球の重石。それがあの娘に付けられたこの業界での仇名だよ」
プラタが首を傾げる。
「どうして彼女がそんな名前で呼ばれているのですか?」
朧はソファーに座りながら言う。
「あの娘は、暴走すれば世界を滅ぼしかねないヤヤを押さえつける重しなのだ」
ミートが眉を顰める。
「幾らなんでもそれは大げさだろう。世界を滅ぼすなんて真似が個人に出来るわけが無い」
朧が頷く。
「普通なら無理だが、ヤヤは普通ではない。オーフェンとの最初の戦いでヤヤは、自分が崇める神の使徒の力を使いすぎて、その使徒に侵食されてしまっているのだ。ヤヤは、その時点で暴走する前に神によって消滅させられる運命を選んで居た。それを止めたのがあの娘だ」
真剣な顔になってプラタが尋ねる。
「どうやってですか?」
朧は右腕を前に出して言う。
「使徒に侵食されたヤヤの右腕の肉を食ったのだよ」
「冗談だろ?」
ミートの言葉に朧は首を横に振る。
「本当だ。そしてそれは、ヤヤの暴走や消滅が自分の死に直結させる事を意味している」
プラタが驚いた表情で言う。
「良美さんは、命を懸けて較さんを救ったのですね」
朧が訂正を入れる。
「残念だが、過去形ではない。ヤヤの使徒からの侵食は、もう切り離せないものになっていた。ヤヤとあの娘は常に使徒に侵食される危険性と隣りあわせなのだ。あの娘は、落ちたら助からない綱渡りを常時行っているのだ」
言葉が無いプラタとミートに朧が説明を続ける。
「そんな状況だって言うのに何かを救う為に、暴走の危険がある使徒の力を使用するあの二人、特に拒絶反応で死ぬ様な激痛を耐えるあの娘には、我等八刃も脱帽ものだ」
プラタが較と良美が歩いて行った方を見て言う。
「そんな重い物を背負っているのにどうして普通にしていられるのでしょうか?」
朧が答える。
「まっすぐだからだろう。あの娘にしてみれば極々当然の事をしているつもりなのだ。だからこそ普通にしている」
「朧様、結界の一部に不具合が発生しました」
朧の部下の一人が駆けてくる。
「解った。直ぐに行く」
立ち上がり、その場を去る朧。
「まっすぐにですか」
プラタが誰にとも無く呟いた。
アメリカ、ワシントンにある、ホワイトハウス。
「HATIBAからの通達が来ました。アトミックス島に関してはこれ以上の干渉は禁じると」
補佐官の伝言に大統領が呟く。
「星条旗を付けた戦闘機が落された以上、絶対に我等の手で解決しなくてはならない」
国防省長官が頷く。
「何時までも裏の人間に大きな顔をさせている訳には行きません」
補佐官が慌てて言う。
「しかし、我が軍が誇る最新鋭戦闘機では、相手をロックオンすら出来ません」
大統領が決断する。
「核搭載の大陸間弾道弾の使用を許可する」
その言葉に、ざわめきが起こる。
「大統領どうかご再考を。あの島には未だ多くの住民が居ます。核を使えば、世論が納得しません!」
補佐官の必死な言葉に国防省長官が告げる。
「現在あの島で起こっていることは全て最高機密とされ、どんなメディアにもあがる事が無い。例え核が爆発しようともな」
一部の人間が青褪める中、大統領が告げる。
「発射は五時間後、三発の核搭載の大陸間弾道弾をもって、アトミックス島に潜伏したテロリストを完全排除する。この決定に変更は無い」
必死に提言する補佐官達だったが、その前に国防省長官が立ちふさがり告げる。
「私達は世界最強でなければいけないのだよ。それは世界の平和を維持するために必要の事なのだ。それを証明する為に外国の島が一つ地図から消えようが大儀の前の小事でしかない」
そして最悪のカウントダウンが開始される。
最後の飛行機が飛び立ったのを確認し、焔が告げる。
「オーフェンの掃討作戦を開始する」
その言葉に、焔の直属のバトルの闘士からの転身が多いオーフェンハンターや八刃の人間が行動を開始する。
「もう動くのですね」
プラタの言葉に較が頷く。
「時間はあまり無いからね」
空港から谷走と零刃によって調べ上げられたブラックウイングの施設に向けて、移動を開始しようとした焔達の前に立ち塞がるアトミックス島の島民達。
大きく溜息を吐いて焔が告げる。
「時間があまり無いので、手短に済ませたいと思います。私達は貴方達が崇める神とは敵対者です。ですからこれから戦いに向かいます。自分達が正義とは言うつもりは全くありませんが、こちらは引くつもりはありません」(現地語)
圧倒的な戦闘能力を持つ焔の存在に多少怯むが、島民は後退しない。
「ならば、この身を犠牲にしてでも、神の盾になる」(現地語)
銃器を構える島民達と焔達の間にプラタが立ち塞がる。
「みなさん止めて下さい!」(現地語)
「止めるな、これら我等の存在意味を懸けた戦いだ!」(現地語)
島民代表の言葉に、他の常民達も頷く。
それに対してプラタが答える。
「何時の話をしているのですか? あたし達は、一度神を捨てた筈です。ブラックウイングの教えは、日々の糧を日々狩り得よ。自然のままに生きろ、だった筈です。今のあたし達が自然の中で生きているのですか?」(現地語)
島民達に動揺が走るが、中年の男性が答える。
「俺達が間違っていたんだ。これから再び自然と共にすごすべきなのだ!」(現地語)
島民の中でも観光地政策前に大人になった人間達は同意するが、若い人達の中からは、あまり賛同が出ない。
「今更、車や電気の無い時代に戻れますか?」(現地語)
プラタの言葉に同意していた島民の中にも戸惑いが生まれる。
「貧富の差がありますが、それはあたし達の努力で解決しないといけない事です。皆さんに確認します。今更、ブラックウイングの教えに従いますか? あたしは嫌です。兄さんを利用した者を信じられませんし、今の生活が好きです。嫌な観光客も居ますが、心のそこからアトミックス島を楽しんでくれる人達も居ます。あたしは、アトミックス島を外の人に見せる今の生活を誇りに思います」(現地語)
緊張がその場を支配する中、一人の男が拳銃を納めた。
「俺も今の生活が好きだ。正直、贅沢は出来ない。だが、昔みたいに治安が悪く、子供を安心して外に出せないよりましだ」(現地語)
隣の女性も頷く。
「今は努力すれば食べていける。無理に変える必要は無いよ」(現地語)
次々と結束が敗れていく中、中心人物らしき男が怒鳴る。
「そんなので良いのか! 俺達の誇りは何処に行った!」(現地語)
プラタははっきり言う。
「それは、あたし達の誇りではなく、過去の人達の誇りです。あたし達はあたし達で自分達の誇りを持たないといけません」(現地語)
そして振り返りプラタが焔達に告げる。
「あたし達は今のこの生活を大切に思ってます。貴方達がそれを砕くというのならあたし達は断固として戦います!」
プラタの言葉に同意の声が上がる。
焔が頷く。
「我々は、黒翼を倒せればそれでいい。現状を維持できるように最善の努力を約束しよう」
安堵の息を吐く較に良美が言う。
「あたしの目に間違いは無いよ」
頷く較であった。
ブラックウイングのアジトが一斉に襲われた。
圧倒的な実力差をもって、殆どの構成員を殺さずに確保していくオーフェンハンターと八刃の混合部隊。
その中でも一番重大な施設と思われる神殿の前に焔達が居た。
「この最奥に、あるのですね?」
焔の質問にプラタが頷く。
「はい。島に古くから伝わる神話にブラックウイングの体の一部が欠落し、それをこの神殿の奥に安置したと伝えられています」
「大戦の時、私の父親が滅ぼした黒翼は、この世界での影響を与えるための端末でしかありません。本体は元の世界にあり、未だ健在の筈です。大戦の影響で世界間の関連性が殆ど失われて居る今、そのパーツと強い宗教心を使って黒翼を復活させるつもりなんでしょう」
翼の言葉に、答えが返ってくる。
「残念だが、もう時間切れだ! 黒翼様は復活した」
上から聞こえるジジードの声が響くと同時に、アトミックス島全体の黒い化け物が収束して、巨大な黒い翼を持った者が生まれた。
『我は、復活した。我が仮初の肉体を打ち砕いた愚かな八刃に、今こそ神罰を与えん』
黒い翼から放たれる黒い波動は、敵味方の区別無く、周囲に降り注ぐ。
『カーバンクルパラソル』
焔の力がブラックウイングごと人間を護る。
そして、焔の力が及ぶ外に居た、不幸なブラックウイングは周囲の建物や木々と一緒に砕かれてその命を黒翼に吸収されて行く。
その情景にブラックウイングの信徒達も驚愕をする。
「ブラックウイング様! どうして我々にこの様な仕打ちをするのですか!」
信徒の言葉に黒翼が答える。
『科学など、無粋な物に一度でも手を染めた者には、生きる価値なし。悪に染まりし者どもを滅ぼした後、自然に生きる者だけの世界で汝らを守護しよう』
一部の狂信者以外は、その言葉に絶望する。
ジジードが歓喜しながら言う。
「父上、お久しぶりです。我が策略に乗り、白風の長と遠糸の長をおびき寄せました。どうかお褒め下さい」
その顔は、父親に褒めて貰おうとする子供それであった。
『ジジードよ、お前の功績は認めよう。しかし、油断をするな、奴等は悪あがきをする。お前には、それを防ぐ役目を与えよう』
黒翼の言葉に、ジジードが頭を下げる。
「ありがたき幸せ」
汗を拭いながら較が言う。
「あちきのホワイトファングを使う?」
焔は首を横に振る。
「まだです。黒翼の復活は完全ではありません。いまだ神殿の奥に収められている体の欠片とのリンクが途切れていません。今の体が安定する前にその欠片を打ち砕けば倒せる可能性が高いです。私と遠糸の長で黒翼を抑えておく。その間にお前が体の欠片を打ち砕くのです」
頷く較。
「行ってきます!」
神殿に入っていく較。
「あたしも行く!」
その後を続く良美。
較達が去った後、焔と翼が黒翼と相対する。
『お前の事は知っている。あの時、我が仮初の肉体を打ち砕いた男の娘だな』
黒翼の言葉に翼が頷く。
「貴方の完全復活は父の魂に懸けても阻止します」
翼は九尾弓を構える。
「ヤヤがお前の肉体を砕くまでの時間を私達が稼ぐ」
拳を握り締める焔。
「結界を急げ! あの三者が戦ったら、近くの町が壊滅するぞ!」
朧が、間結の分家の人間に結界を急がせる中、戦いが始まる。
連続して光の矢が飛び、黒い羽と対消滅して行き、そのスペースに焔が突っ込む。
『アポロン』
強大な熱量が黒翼を襲う。
『甘いな!』
黒翼は、自分の体を構成する、配下の異邪の一部を分離させて、熱量攻撃にぶつけて防ぐ。
『その程度の攻撃が我に通用すると思うな!』
舌打ちをしながら、一度後退する焔。
その焔を追撃するように放たれる黒い羽だったが、その全てを銃弾が迎撃する。
「エン、そっちだけで戦うなよ、俺達だって居るぞ」
ホープの言葉に、焔が言う。
「助かる。しかし、こちらより周りを頼む」
焔が視線を向けた先では、黒翼の羽が、強力な異邪の鳥に変化して、オーフェンハンターや八刃だけでは無く、ブラックウイングの人間まで襲いはじめて居た。
「無差別に襲いやがって! キッド、行くぞ!」
ホープの言葉に答えるように、キッドがバイクで次々に異邪の鳥をふっとばし、ホープの拳銃が止めを刺していく。
『この地に居る限り。我が力は無限なり。お前等の抵抗がどこまで続くか楽しみだな』
黒翼の言葉に、翼は断言する。
「貴方がこの地から去るまでです。私達の力はその為にあります」
放たれた矢は、防御に回された異邪の鳥達を貫いて、黒翼に達する。
『人の限界を知れ!』
更に増加していく異邪の鳥達。
増加量の多さに、幾ら倒しても無駄な気が、オーフェンハンターと八刃の中に生まれたその時、それが起こった。
『ゼウス』
物凄い雷撃が、異邪の鳥を一気に激減させる。
焔はその場にいる者達を見回して告げる。
「私は、私の娘を信じる。私の娘だったら確実に奴の体の欠片を打ち砕いてくれる。そして娘を信じる私は、娘が事を成し遂げるまで、諦めない。皆さんはこの私を信じて下さい」
その言葉に、さっきまでの絶望が振り払われる。
「伊達や酔狂じゃ長って呼ばれてないな」
ホープが呟きながら、拳銃を連射する。
「ところでネズミ男は何処行った?」
ホープの言葉に隣で糸を操って異邪の鳥を切り刻み続けるユーリアが答える。
「適材適所よ。こんな場所より適した場所があるからね」
較は良美を抱えて、神殿の中を疾走していた。
『オーディーン』
行く手を邪魔する異邪の鳥が居たが、較の足を止める事は出来なかった。
暫く行った所で、大きな石の祭壇が現れる。
「ここが問題の場所?」
良美の言葉に較が頷く。
「気配からして間違いないよ」
油断無く、周りを見ていた較が、ジジードの姿を祭壇の上で捉えた。
「今、壊させる訳には行かないのでね」
ジジードが手を振ると、黒い羽が生まれそれが、四方から較に襲い掛かる。
大きく避けて、良美を床に置くと較は、一気に間合いを詰める。
「甘く見てもらっては困る。まだお前みたいな小娘に負けるつもりはない」
ジジードの黒い羽は結合して、三羽の人間大の鳥へ変貌すると、次々に較に襲い掛かる。
較は、紙一重の所で前転して回避すると同時に踵落しを放つ。
『トール』
雷撃が篭った踵落しが、鳥の頭を砕くが、鳥は、較の足をめり込ませたまま再生していく。
「無駄だ、この鳥は我が父、黒翼様から受け継いだ力で生み出した物。黒翼様同様に、力が続く限り再生し続ける」
動けない較に向かって両側から鳥が襲い掛かる。
『タイタンボディー』
較の体が地面に急落下する。
当然、較の足を捕らえていた鳥も地面に激突して、砕ける。
『フェニックスウイング』
較の振るわれた手から炎が発生して、両側から襲い掛かってきた鳥に直撃させる。
大きく飛び退く較。
「チャンスだ、行け!」
良美の言葉に較が首を横に振る。
「残念だけど、もう復活してる」
較の言葉通り、三羽の鳥が復活して居た。
「エネルギー切れを期待するのは止めといた方が良い。三羽の間ならば幾ら再生しても、我が力が尽きる事は無い」
ジジードの言葉と共に三羽の鳥は、較に襲い掛かる。
横にかわすと同時に較は右手を鳥の頭に触れる。
『コカトリスブレス』
鳥の一羽の頭が粉砕されるが、直ぐに復活した上、残りの二羽の攻撃が較にヒットする。
両腕に大きく切傷を作りながらも較は、後ろを見せた鳥達に手を振るう。
『ヘルコンドルツイン』
カマイタチが鳥達に傷を負わせるが、直ぐに回復する。
そんな中、較は黒翼の体の一部と思われる物、拳大くらいの大きさの黒肉の塊を見る。
強く脈動するそれは、強い力を放ち続ける。
そしてそこまでの中間には、ジジードが立ち塞がっている。
「ここから先には行かせん」
較は少し考えてから拳に力を溜める。
「そうだね、あの三羽の攻撃を避けながら貴方を抜くのは無理だね」
あっさりとした較の言葉にジジードが違和感を覚えて聞き返す。
「諦めると言うのか?」
「まさか」
較の即答に答えるように、黒い塊がジジードの上を飛んで、較の攻撃範囲に入る。
『バハムートヘッド』
拳に籠められた力が一撃でその黒い塊、黒翼の体の一部を粉砕する。
慌てて振り返るジジードの目に祭壇に群がるネズミの大群が居た。
「ヨシ、撤退するよ!」
較が良美を抱き抱えて、出口に向かって駆け出す。
「地下の黒翼の体の一部の破壊に成功しました」
後方のバンに隠れていた男からの声にホープが言う。
「よくやったネズミ男!」
「ミノタウロスだ!」
バンに隠れていた、大量のネズミを自在に操る能力を持つ男、バトルが中止になり、迷宮での引き篭もり生活が出来なくなった為、オーフェンハンターになったミノタウロスが反論する。
「直接的な戦闘能力は低いけど、ネズミを使った先行偵察など色々便利よね」
ユーリアが感心したように言う。
「もう無限増殖は無い。後は、あそこに残った抜け殻を倒せば私達の勝利です」
焔の宣言に、攻撃の勢いが増す。
『まだだ、この体を長時間維持すれば、我が世界との新たなつながりになる。そうして力の供給さえ戻りさえすれば、我は負けない』
黒翼は、そう言って逃走に入ろうとしたが、翼の矢が行く手を遮った。
「私が決して逃がしはしません」
『お前等を滅ぼす力くらい残っている』
黒翼と焔達の大乱戦が始まった頃、較達が地上に戻ってきた。
「あちきも参加しないといけないかな?」
そんな事を較が呟いた時、携帯電話が鳴る。
「作戦中に誰だろう?」
携帯に表示された名前を見て慌てて電話に出る較。
「希代子さんどうしたんですか?」
『アメリカがその島に向かって核搭載の大陸間弾道弾を三つ発射したわ』
希代子の即答に、目が点になる較。
「冗談じゃないですよね?」
クモの糸を掴むような希望にすがる様に較が尋ねるが、希代子は希望を断ち切るように断言する。
『アメリカは核の兵器価値を高めるチャンスをずっと狙っていたわ。今回は、八刃、裏の力で完全な情報規制がかけられる。それを利用して、表向きは使用したことを隠しながら、裏では核を撃てる国として、絶対的なアドバンテージを得ようとしているのよ』
怒りを堪える較に希代子が告げる。
『間結に結界を張らせたらあなた達だけは助かるわ』
その言葉に較は優しい声で答える。
「ありがとうございます。でもあちきは、自分の我を通します」
『無茶は止めなさい。一人で何が出来るの!』
較は良美を見て告げる。
「一人じゃないですから」
電話を切り、較が良美に言う。
「核ミサイルが三発こっちに向かってきている。これからそれを防ぐからホワイトファングの三連発を放つけど良い?」
その発言に周囲の人間が驚く中、良美が肩を竦める。
「そんな聞くまでも無い事をいちいち聞くなよ」
較は、苦笑すると、薄く引き延ばす様に気を全体に飛ばす。
その結果、三発の大陸間弾道弾がかなり近くまで来ている事が解る。
「タイムラグは、殆ど無い。かなり力技になるよ」
較は最初に着弾予定の大陸間弾道弾の方に右手を向ける。
『ホワイトファング』
較の右手から放たれた白い光は、周囲の雲ごと初弾を完全に消滅させる。
目が点になる周囲の人間を無視して、次の目標に右手を向ける。
『ホワイトファング』
再び放たれる白い光が、二弾目も消滅させる。
三弾目に向いた較の射線には、黒翼と戦う人達が居た。
「間に合え!」
海岸線に走る較。
しかし、最後の大陸間弾道弾は島より少し離れた位置に突き進む。
「核搭載してなければ絶対無視してたのに!」
較がぼやくのは、当然だ。
爆発がどんなに強力だとしても海中で爆発する以上、その被害は格段落ちるのだから。
そして、海岸線まで出た較の目の前で着弾する。
「このままでは津波で被害が出た上、あの周囲が死の海になる」
較は覚悟を決めた。
通常は、ただ向けるだけの右手が撃術を放つ様に突き出される。
『ホワイトファングバハムート』
それは圧倒的な力量となり、海岸線と海を切り裂いた。
「あれ、なんだ?」
遠くから様子を見ていたミートが口からタバコを落す。
それは、黒い空間だった。
しかしそれを認識出来たのは極々短い時間だけだった。
「何かが消えた。だが、何が消えたんだ?」
困惑するミートであった。
「大陸間弾道弾が全部、消滅しました」
補佐官からの報告に大統領の執務室が静まり返る。
「大陸間弾道弾の迎撃システムなどあんな島に有るわけが無い!」
国防省長官の言葉に補佐官が告げる。
「その時の衛星からの映像です」
映し出される二つの大陸間弾道弾が白い光に包まれて消える瞬間。
そして、海面から一瞬だけ上がったキノコ雲が黒い空間に変化し、次の瞬間、そこは、元通りの空間に変わっているのを見た時、だれもが言葉を無くす。
「白い光の発射予測位置を拡大した映像です」
較が白い光を放つ様を見て蒼白になる一同。
「こんな映像は、作り物だ! ハリウッドにでも作らせたのか!」
国防省長官の言葉に補佐官が冷たく告げる。
「どう思おうと勝手ですが、アトミックス島に向けて発射した大陸間弾道弾が爆発した痕跡はこの地球上どこを探してもありません。それは、この映像を見た後、軍部の協力で確認しました。これが貴方の望んでいた通りの結果ですね。発射した事実だけが残り、その痕跡が全く無いのですから」
国防省長官は睨み返すが、何も言えなかった。
「元気か?」
ミートがアトミックス島特産のバナナを持って良美達が入院する病院にやって来た。
「まだ駄目だよ」
右腕の肘から先を包帯でぐるぐる巻きにしている較が、ベッドで寝ている良美を指差す。
「あの時は、本気で死ぬと思う程、苦しんでいました」
看病を手伝っていたプラタの言葉に較が溜息を吐いて続ける。
「さすがにホワイトファングの三連発はきつかったみたい。八百刃様のご加護無かったら間違いなく死んでたね」
「冗談だろう?」
ミートの質問に較が首を横に振る。
「あちきの白牙様に侵食された部分の肉は、白牙様の肉に近い性質を持っているよ。そして白風の開祖の時、白牙様の肉を食べて何十人って人が死んだって話しだからね」
ミートが呆れた顔をする。
「それなのにやったのか?」
較は肩を竦める。
「ヨシも同意した事だよ」
良美の寝汗を拭きながらプラタが言う。
「感謝しています。あの時、較さん達だけだったらこんな無茶をしなくても助かった筈ですよね?」
素直に頷く較。
「まーね。どんな強力攻撃だとしても、時間さえあれば防ぐ方法は幾らでもあったのは確かだよ。でも、ヨシもあちきも、プラタさんが育ったこの島を護りたかったそれだけだよ」
ミートは椅子を勝手に出して座ると質問を変える。
「この島は、今後どうなるんだ? あの国が核を撃ってきた以上、ただで済ますつもりは無いんだろう?」
プラタも緊張する中、較が大きく溜息を吐く。
「それらの件であちきが交渉に行く事になったよ。正直、こういう仕事はお父さんの分担だと思うんだけどな」
「白風の長は、今回の反省から、至急オーフェンのチェック体制を整える必要があるんで世界中を飛び回ってる筈ですよ」
入り口の所に立つ、霧流の長の妻、八子が言った。
「だったら、当事者の遠糸の長でも良かったと思いますが?」
較の反論に八子が部屋に入りながら言う。
「その案もあったんだけど、今回の後始末はヤヤにって希代子さんの強い要望があったの。ついでに言うと希代子さんからの伝言で、偶には自分への借りを返して欲しいとの事ですよ」
再び深く溜息を吐く較。
「反論するだけ無駄って事ですね」
笑顔で頷く八子。
「行きますよ」
較が立ち上がる。
「いつでもどうぞ」
その時、八子がプラタを見る。
「貴女も来てくれる。アトミックス島の代表として」
その言葉にプラタが驚く。
「そんな、私が代表だなんて、もっと相応しい人が居るはずです」
ミートがタバコを取り出しながら言う。
「居るかもしれないが、そこのお嬢さんと一緒に行ける度胸がある奴はそうそう出てこないと思うぞ」
指差された較を少し見てからプラタが諦めた様に言う。
「解りました。精一杯がんばります」
「それでは出発」
八子が、指を鳴らすと、較とプラタ共々消える。
ミートは遠い視線になりながら言う。
「今更こんくらいじゃ驚かねえぞ」
ホワイトハウスの入り口で較達が黒服の男に止められていた。
「大統領はお約束の無い人間とはあえません」
黒服の男は呆れていた。
較達をよくいる自分が神様かなにかと勘違いして、大統領に合わせろと言っている変人と思ったからだ。
「居るのは解ってる。大人しく案内すれば被害が少ないと思うんだけどな」
較は面倒そうに言って、大統領執務室の方を向く。
大統領の執務室では、補佐官が、職務中の大統領に耳打ちする。
「八刃の人間が会いにきただと?」
大統領の言葉に周囲の人間の顔が強張る。
「ここは、会うべきだと思われます。相手はあくまで裏の人間、あまり派手な事態には発展しない筈です」
補佐官の言葉に国防省長官が怒鳴る。
「相手は、化け物だ。化け物の前に大統領を出すなど出来るか! 大統領は私と一緒に地下のシェルターに避難して下さい。問題の化け物は、我等の精鋭部隊が始末します」
激しく頷く大統領。
「そうだ、頼んだぞ」
足早に逃げていく二人に補佐官達は深い諦めの溜息を吐く。
「これってどういうこと?」
較の言葉に対応をしていた黒服の男も戸惑う。
「知らない。お前等何をしたんだ!」
較達の周囲を米軍の精鋭部隊が囲んでいた。
その上、後方では、戦車が並び、上空に攻撃ヘリまで飛んでいる。
『大人しく退散しろ! そうすれば見逃してやる!』
傲慢な最終勧告が攻撃ヘリから告げられる。
八子はプラタを抱き寄せる。
「あたしから離れちゃ駄目よ」
「どうするんですか?」
プラタは相手に哀れみの視線を送りながら言う。
八子は肩を竦めて言う。
「折角普通の話し合いチャンスをあげたのにね」
較は包帯を外すと白く輝く右腕を振るった。
「ここならば絶対安全です」
地下シェルターの中で国防省長官が断言する。
「その自信の出所が解りませんが?」
補佐官の言葉に国防省長官が怒鳴る。
「この施設は核攻撃に備えて作られたものだ。例え核を使われようとこのシェルターは安全だ!」
「相手は、その核を消滅させた化け物みたいですよ」
補佐官の言葉に大統領が冷や汗を垂らす。
「どんな化け物じみた攻撃力を持っているか知らないが、生身で上の兵士の攻撃を防げる訳が無い!」
『大変です長官! 問題のモンスターワンを包囲していた部隊が全滅しました!』
地下シェルター内を重い空気が流れる。
「このシェルターだけは絶対に破れないのだ!」
国防省長官の言葉と同時に天井の一部が消滅し、国防省長官を押しつぶすように較達が降りてくる。
「地下シェルターの実施テストですか? 大統領も色々大変なんですね?」
較の言葉に大統領が涙目になりながら答える。
「そうなのだ、上の軍人もそのテストの為に来ていたのだ。全ては情報の行き違い、君達と敵対するつもりは無いのだ」
誰が聞いても嘘八百な台詞に較は平然と答える。
「了解、こちらからの通知も大統領には届かなかったって事ですね?」
激しく頷く大統領。
「全ては発射後に連絡が来たのだよ!」
較は笑顔で告げる。
「今回だけはその話しを信じます。八刃に対しての今回の攻撃は、今後のお互いの関係の事を踏まえて無かった事で良いですね?」
嬉しそうに立ち上がる大統領。
「当然です。今後は、更なる友好的な関係を結びましょう」
「それじゃあ後は、アトミックス島の住民との交渉だね。言っておくけど、あちき達は島民の味方だよ」
一歩下がる較と代わってプラタが前に出る。
「私達は今回の一件は、決して許しません」
大統領が較の方を気にしている間に補佐官が答える。
「今回の一件は大規模なテロの恐れがありました。HATIBAのご協力が無ければそれは、世界があの化け物に蹂躙される危険性があった事実を忘れないで頂きたい。そして、そのテロを目論んだのが、アトミックス島の住民である事実も」
「テロに加担していたのは一部の人間だけです」
プラタの発言に補佐官が告げる。
「我々にその判断をどうつけろと言うのですか?」
少し怯むプラタ。
「判断がつかないからって、いきなり攻撃っていうのも問題だと思うけど?」
較が助け舟を出すが補佐官も負けていない。
「時間があったら別の手段をこうじていました。しかし現実問題、時間はそれ程無かったのと判断します。その上で、最新鋭戦闘機が通用しない相手を確実に倒す方法はそうありませんでした」
そこに八子が言う。
「今回はそちらの先走りよ。判断も出来ず、手段が無いのは当然、今回の件は貴方達の関係する事件じゃなかったのだから」
補佐官は、それでも引かない。
「我々には、責任があります」
八子は断言する。
「無いわよ、もし責任があるというならあの第二次世界大戦の責任をとる事になるわよ。あの大戦の裏で何が起こっていて、八刃が裏でどれだけ被害を出し、それに米軍がどれだけ加担した事になるか。責任が無いと言うことで不問にしてるのよ。もし裏との関係を主張するなら、八刃はあの時の被害に対する報復するけど良いの?」
怯む補佐官から視線を外し、八子がプラタに言う。
「ぶっちゃけ言って、こいつ等から正式な謝罪は引き出せないわ。その代わり貴方達が欲しい物を言いなさい」
プラタがその言葉に頷き言う。
「解っています。全てを無かった事にするのが一番の最良な手ですね」
プラタは補佐官の横を通り過ぎて大統領の前に出て言う。
「私達に一番欲しいのは、教育です。私達の島には子供たちにちゃんとした教育をうけさせる余裕はありません。今回の件の非公式な賠償として教育組織に関する全面的な援助をお願いします」
「何故我々がそんな事をしないといけない!」
反論する大統領だったが、較が軽く視線を向けただけで後退する。
代わりに補佐官が出て言う。
「了解した。海外援助、それも教育ということなら他国の余計な調査対象から外れるだろう。良いですね大統領」
大統領もガクガクと頷いた。
較は右腕を掲げて言う。
「これで交渉は終わり。これは、今日の行き違いのつけだと思って」
白い光が立ち上り、ホワイトハウスに大穴を空けるのであった。
数ヵ月後のアトミックス島の喫茶店。
「今日から学校だったんだってな?」
事件の最終調査報告書の作成の為に来ていたミートの言葉にプラタが頷く。
「はい。奨学金制度も整っているので、今のところ生活に困る事はないです」
ミートはタバコに火をつけながら言う。
「それにしてもアメリカが全面的にこの島の援助をするなんてな、化け物の後ろ盾があったとしてもお前はよくやったよ」
プラタがはにかみながら言う。
「自分の願望を言っただけです」
そんな二人の横を右手に白い布を巻いた島民が歩いていく。
「少し気になったんだがあれなんだ?」
プラタが笑いを堪えながら言う。
「新興宗教の信者の証ですよ」
「ふーん。新興宗教ねー。白い布を右手に巻くなんて、まるで……」
ミートの言葉が途中で止まる。
「まさか、その宗教って」
プラタが頷く。
「ホワイトファング教って言うらしいです」
ミートは暫く沈黙した後、言う。
「海を切り裂く化け物を崇めたくなる気も解らんでもないが、なんだかな」
プラタは手を叩き言う。
「そうだ言い忘れていたのですが、この後に較さん達のガイドを無料でやる予定になっています」
その言葉にミートが固まる。
「卒業旅行だって言っていましたよ」
プラタの言葉と同時にミートの携帯電話が鳴る。
「俺は、絶対出ないぞ! シンガポールに帰るんだ!」
ミートが力いっぱい叫んだ。




