表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必滅少女伝  作者: 鈴神楽
10/52

親友と呼べる者

テロリスト男の恨みとは?

「これって監禁じゃない!」

 良美がクレームをあげるのも当然であった。

 較達は、島歴史館のテロ騒動の後、安全確保の名目で、警察署に隔離されていたのだ。

「お前等があの騒動を起こしたんじゃないって保障が無い限り、開放は出来ない」

 ミートが断言する。

 較は溜息を吐いて言う。

「まーあちき達はともかく、隣の部屋に居る。同班の人だけでも解放して貰えませんか?」

「出来ると思ってるのか?」

 脅しとも思えるミートの言葉に較は笑顔で応える。

「関係ない人間を権力で縛るって言われて大人しくしてる程、あちきって大人じゃないんですがね」

 ミートの後ろに居る現地警察官達が怯える。

 ミートも決して怖くないわけでも無いが、恐怖で判断を間違える訳には、行かないため、押さえ込んでいた。

「約束では、この島では問題を起こさない事になっていると聞いているが?」

 較はあっさり頷く。

「あちきは基本的には約束は守ります。でも、それで友達が必要以上に迷惑かかると解っているんだったら別ですよ」

 ミートは暫く較を見た後、言う。

「現場に居なかった奴等は解放してやれ」

 その一言に、現地警察官の間から安堵の息が漏れる。

「お前等は別だぞ!」

 ミートの言葉に較はあっさり頷く。

「まったく無関係だって言え無いし、構わないよ。それでは事情説明をお願い、プラタさん」

 その言葉に、プラタが頷く。

「すいません巻き込んでしまって。あのテロを起こしたのは、私の兄、ブラド=ブラッデです。兄さんは、ブラックウイングに所属していて、アトミックス島の現状を打破しようとあんな事をしてしまったのです」

 較が頷く。

「行動を起こしているお兄さんが居たからあの時の反応は微妙だったんだ。ところで、そのブラックウイングの本拠地何処? 人の旅行を潰した奴等だから、あちきが潰しに行きたいんだけど。安心してお兄さんは、全治三ヶ月未満に抑えるから」

「そんな事をさせられる訳がないだろうが!」

 ミートが文句を言ってきた。

「いいじゃん、テロリストなんだよね? ヤヤが潰せばそっちの手間が省けるよ」

 良美の言葉にミートが机を叩き怒鳴る。

「冗談を言うな! ブラックウイングは一部の人間が過激なテロ行為を行っているが、元々土着民の宗教なんだ。余計な手出しは止めて貰おう」

 較は小声で尋ねる。

「詰り、この警察署の中にもブラックウイングの仲間が居るって事?」(中国語。ちなみに今までは良美の為に全部日本語)

「そうだ。ここでブラックウイングを潰すなんて動きがあったら、大事になるんだ」(中国語。ちなみにシンガポールは、華人が多いので、使える)

 ミートが返すと較が頷く。

「了解、問題を起こさない事になってるし、向うが襲ってこない限り干渉しないよ」

「襲ってきても、関るな! お前達にはテロ被害者の警護って名目でガードをつける。そっちに任せろ!」

 ミートが怒鳴るが、較は相手をしない。

「プラタさんは、どうするの? まさかと思うけど犯罪者の家族だからって捕まえるなんてしないよね?」

「そんな事をするのか?」

 睨む良美にミートが溜息を吐いて言う。

「逮捕をするつもりは無いが、テロの実行犯が再度接触してくる可能性がある為、警察官をつける事になる。暫く仕事は休んでもらう」

「そんな、折角貰った仕事です。休んだら辞めさせられます」

 プラタの必死の言葉に良美が同意する。

「今更ガイドの変更なんて受け付けないよ!」

「あのなー、もしかしたらあんな事件がお前の周りで起こるかもしれないんだぞ!」

 ミートが良美を怒鳴るが、良美は一歩も引かない。

「ヤヤが居るから大丈夫だよ!」

 怒りを爆発させるミート。

「だから、俺達が必死にこいつとブラックウイングを関らせないようにしようとしてるのが解らないのか!」

「そっちの都合なんて知らない」

 良美の言葉に、怒りを堪えきれない顔になるミートの肩を叩き較が言う。

「あきらめなよ。ヨシは、自分の命が懸かっていても意見を変えないよ」

「明日からもよろしくね!」

 良美は完全に話しが終わったって態度で話しを続ける。

 今にも切れそうな程、眉間の血管を浮き上がらせるミートに較が譲歩案を告げる。

「プラタさんが居る限り、ブラックウイングの襲撃はプラタさんを狙ったものとして、こっちに実際の危害が来る直前まであちきは動かない。それで妥協しない?」

 ミートは渋々頷くのであった。



 プラタのガイドは確りとしたものであった。

 優子や較がリクエストした真面目な名所も、智代やエアーナ・良美が求めるような遊び心が豊富な場所まで楽しく案内した。

「うちの班のガイドは当たりだね」

 昼ご飯をプラタのお勧めの屋台で食べながら智代の言葉にエアーナが頷く。

「隣の班なんて無愛想なオヤジで、ろくに日本語喋れないってぼやいてた」

 優子も嬉しそうに言う。

「前に聞いた話だと、現地のガイドの人は、観光客のお財布の事を考えないから、お金が足りなくなって困ると聞いてたから、こーゆーリーズナブルなお店案内してくれると本当に良かった」

「それって家庭教師のバイト代で海外旅行に行ってた男性から聞いたの?」

 較の言葉に、興味の視線が集まる優子。

「えーと、お土産貰った時に、その時の様子を聞いただけ」

 囃したてる智代とエアーナを尻目に良美が胸を張る。

「あたしの判断に間違いは、無かったでしょ」

 恥ずかしそうにしているプラタを尻目に良美が言う。

「後は、後ろの連中が居なければ良いんだけどね」

「誰のおかげで平和な観光が出来てると思ってるんだ!」

 後ろの席で食事をしているミートが怒鳴るが、良美は気にしない。

 較達の周囲には、私服警官がダース単位で居た。

 表向きはテロ実行犯が、自分の姿を見た証人、較達を狙う恐れがある為とされているが、実際は、較とブラックウイングとを戦わせない為、どちらかと言うとブラックウイングに危険が及ばない様にする為のものであった。

「それにしても、こんな平和なのに、なんでテロなんて起こすのかしら?」

 優子の言葉に、プラタが顔を俯く。

「この島って観光が主産業で、逆に言えばそれ以外が無いんだよ。だから観光に関る仕事をしないと、まともな生活が出来ない。それって職業選択の自由があると思う?」

 較の言葉に、優子が悩む。

「でも、観光の仕事に就ければ、まともに生活出来るんでしょ?」

 智代の言葉に較がプラタの方を軽く視線で見てから言う。

「前にもプラタさんが言って居たでしょ。必要だから覚えたって。詰り、観光の仕事に就くのって凄い倍率なの。観光の仕事にも就けない、少ないまともな仕事にも就けない人ってどうなると思う?」

 エアーナが言う。

「凄く貧乏になります。私の生まれた国に近い国も観光をメインにしていて、観光地は、綺麗ですが、観光地以外の場所は凄く汚かった。ろくにごみの収集すら来ないんだって」

 日本語が上手で忘れがちだが、思いっきりの外人のエアーナの言葉に日本人トリオが引く。

「そう言う事だ、お前等みたいに平和に観光旅行できるガキは、世界の中でも三分の一も居ないぞ」

 ミートがズバット言うが、プラタが微笑み言う。

「でもそれって皆さんの所為じゃありません。観光をメインにしていったのは私達自身の判断です」

「その判断が間違いだったんだ!」(現地語)

 その男性の声に振り返るとそこには、島歴史館に居た男、プラタの兄、ブラドが居た。

「先人の間違いは正さないといけない!」(現地語)

 そんなブラドの周りを私服警官が囲み、ミートが前に出る。

「大人しく捕まれ。実被害は低い今だったらまだ恩情の余地はあるぞ!」(現地語)

「兄さん、あんなテロ行為じゃ何も変わらないわ!」(現地語)

 絶体絶命ともいえる状況でもブラドは余裕たっぷりの態度で告げる。

「俺を昨日までの俺と一緒にするな。俺は、ブラックウイング様の使徒として偉大なる力を授かった。見よ!」(現地語)

 ブラドが両手を広げると、腕と胴の間に黒い翼が生まれる。

「ミートさん。少しだけ任せました直ぐ戻って来ます」(中国語)

「委員長、危ないから、ホテルまで駆け足で逃げるよ!」

 良美が怒鳴り駆け出す。

「団体行動を乱しては駄目です」

 優子が追い、智代とエアーナがその後に続き、最後に較が、後ろに注意しながら駆け出す。

 そうしている間に、ブラドが腕を振るう。

『黒き羽の抱擁』(現地語)

 無数の黒い羽が、周囲の私服警官を包む。

 次の瞬間、黒い羽に包まれた警官達は、拳銃を周囲の観光客に向ける。

「島は、我々の物だ!」(現地語)

 乱射を始める現地人と思われる私服警官達。

「どじったな。周囲の警備からは、島の人間を外すべきだった」

 ミートが舌打ちをしながら、手近の私服警官を殴り倒しながら、ブラドに拳銃の銃口を向ける。

 プラタがその前に立つ。

「待ってください! 私が説得します!」

「邪魔だ、どけ!」

 ミートが怒鳴るとブラドの視線が向けられる。

「外人が、この島をこれ以上蹂躙させん!」(現地語)

「止めて!」(現地語)

 プラタは、両者の間に立ち、一歩も動かない。

『黒き羽の怒り』(現地語)

 ブラドの振られた手から放たれた黒い羽の塊が、プラタをすり抜けてミートを襲う。

「がー」

 ミートは電撃に因る火傷を負って倒れる。

「ミートさん」

 慌てて近寄るプラタ。

「大丈夫ですか!」

「早く逃げろ。もう直ぐ奴が帰ってくる。その前に逃げろ」

 必死にミートが言うが、プラタは、全身でミートを護る様に立ち、ブラドを強い視線で見る。

「兄さんは、変わった。昔の兄さんは、それは観光の仕事は嫌いだったけど、外国の人を恨んだりしなかった。どうしてなの!」(現地語)

 ブラドが汚物を見る様な瞳でミートを見下して言う。

「そいつ等は俺達を人間となんて見てないんだ! 奴等は、親友と信じて居た俺との友情を売ったんだぞ!」(現地語)

 信じられない顔をするプラタ。

「それってまさかマイケルさんの事?」(現地語)

 頷きブラドが言う。

「奴は、俺が親友と信じて教えた魚場に観光客を連れてきたんだ。さも自分が見つけた様にな!」(現地語)

 プラタは何も言えなくなる。プラタには理解できたのだ、このアトミックス島で漁師としてやっていく上で大切な魚場を教えるという事が、どれだけ相手を信頼していたのか。それを他人に教える行為がどれだけブラドの心を傷つけたかを。

「その人がどうしてそこに観光客を連れてったか考えた事あるか聞いて」

 プラタが振り返ると、そこには、較と良美が居た。

「早く逃げて下さい!」

 プラタの言葉に良美が言う。

「いいからヤヤの言った事をあの馬鹿兄貴に伝えなよ」

 プラタは、戸惑いながら訳す。

「マイケルさんがなぜ、観光客を兄さんに教えて貰った魚場に連れて行ったか考えた事があるか聞いてるよ?」(現地語)

「そんなのは、観光客を喜ばす為だろう! 奴は俺との友情より観光客をとったんだ!」(現地語)

 ブラドが怒鳴り返すと較が言う。

「どうして。魚場。教えた?」(現地語・カタコト)

「親友だったからに決まってる! それが間違いだったんだ」(現地語)

 ブラドの言葉に較が呆れた顔をして言う。

「もう良い。来い」(現地語・カタコト)

「殺してやる!」(現地語)

 大きく腕を広げて、黒い羽を飛ばすブラド。

『黒い羽の激怒』(現地語)

 黒い羽が較に向かって集中するが、較は平然と立ち唱える。

『ケットシードレス』

 黒い羽は較に当たるが、それだけだった。

 愕然とするブラドに較はゆっくり近付く。

 必死に黒い羽を放つブラドだったが、較には、まったく効果が無かった。

「馬鹿な、神の力が通じないと言うのか?」(現地語)

 較は困惑しているプラタやミート達に応える。

「そいつは、この島に宿る独特の気配を凝縮して飛ばしてたの。だからこの島に元々住んでいた人間には、攻撃力は発揮せず、心の奥底で思っていた感情の発現を起こすだけだったんだよ。観光客を憎んでなかったプラタさんには、なんの影響も与えなかったのがその証拠。あちきは、自分の周囲に同様の気配を纏って、攻撃力の発現を抑えたんだよ」

 平然と言った後、較はブラドの肩に右手を置く。

『バハムートプチブレス』

 吹っ飛ばされるブラドに辛そうな顔をするプラタ。

 そんなプラタに較が耳打ちし最後に言う。

「あちきからの言葉だって言ってね」

 プラタは首を横に振る。

「いいえ、私の言葉として伝えます」

 プラタは、衝撃で動けないブラドの隣に行く。

「情けは要らない。どっかいっちまえ!」(現地語)

 プラタは覚悟を決めて言う。

「マイケルさんも必死だった。同じ様にガイドやってるあたしだから解る。今の仕事を続ける為に必死だったんだよ。だから兄さんから教えて貰った魚場に観光客を連れて行ったんだよ」(現地語)

 意外な言葉だったが、ブラドは反論した。

「だからってやって良い事と悪いことがあるだろう!」(現地語)

「マイケルさんは、収穫が少なくなった時なんかは、船の修理とかただで手伝ってくれてたよね? 兄さんは、マイケルさんの仕事の手伝いした?」(現地語)

 プラタの質問に何も答えられないブラドにプラタが続ける。

「マイケルさんは、兄さんの好意だと思ったんじゃない? 観光客を喜ばせるために苦労している自分に観光客に喜んで貰える場所を教えてくれたんだって」(現地語)

 ブラドが今までとは違って弱い口調で言う。

「俺は、あいつと同じ魚場を共有したかっただけだった」(現地語)

 プラタは断罪の言葉を告げる。

「兄さんが一番相手の事を考えてなかったんだよ」(現地語)

 ブラドが叫び声をあげる。

「マイケルって人は、殺されたの?」

 較の質問にプラタは首を横に振る。

「いま重傷を負って入院中。その怪我を誰から受けたのかは、本人も言ってなかったのですけど、多分……」

 プラタの言葉に較が溜息を吐く。

「マイケルさんも自分が考え違いしていたと解ったから、友情の為に口を噤んだって訳だね」

 頷くプラタ。

「終わったの?」

 現地語がまったくわからない良美が首を傾げながら来る。

「まーね。あとの集団は、任せて大丈夫でしょ?」

 較の言葉に、立ち上がったミートが怒鳴る。

「当たり前だ! これ以上関ってもらっては困る!」

「そうは、行くまい」

 その言葉は、ブラドとプラタの上空から聞こえた。

 振り返ると一人の老人が居た。

「今すぐ周囲の人間を避難させろ!」

 怒鳴り、睨む較。

「無駄だな、わしとおぬしが本気で争えば、この町の住人はただではすまない」

 その老人の言葉に較は舌打ちする。

「ヤヤ、あれなに?」

 良美の言葉に、較が答える。

「多分オーフェンの幹部。下手をすると六頭首の一人だよ」

 老人が頷く。

「正解だ。わしは、六頭首が一人、ジジード。白風の次期長の噂は聞いている。同じ六頭首の一人、ローデアを滅ぼしたお主が、わしの作戦を行っている場所に来たときは焦ったぞ。準備が整うまでの囮は上手く働いてくれて助かった」

 その一言にプラタが怒鳴る。

「まさか、兄さんにマイケルさんを襲わせたのも貴方なのですか!」

 ジジードが平然と頷く。

「どうして当然の事を聞く? 偶然に親友が観光客を連れてくる所を見る事になると思ったのか?」

 睨みつけるプラタに良美も怒る。

「最低の奴! ヤヤやっちゃえ!」

 較は拳を握り締めるが首を横に振る。

「あちきとそいつとが本気で戦えば、この周囲の人間はみんな死ぬよ」

 ミートが青褪める中、ジジードが言う。

「ここでわしが、お主やお主の連れに手を出せば、お主も覚悟を決めて戦闘に移るだろう。しかし、わしはひく。ここで万が一にも負けたら長くかけた計画が無駄に終わるからの」

「つまり宣戦布告って事?」

 較の言葉にジジードが答える。

「そうだ、もはやわしの偉大なる父、黒翼コクヨク様の復活は揺るがない」

 較が青褪める。

「まさか異邪九龍イジャクリュウの黒翼?」

 ジジードが笑顔で頷く。

「その通り。力が大きく衰えた今の八刃では、抗う事は出来まい」

 消えていくジジード。

 そして同時に空を黒い化け物が覆った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ