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必滅少女伝  作者: 鈴神楽
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救いを求めに来た少女

彼女は、日本に銀刀を使う剣士を探しに来た

 緑色の髪を持つ少女が、成田空港に降りた。

「この国に、銀刀の剣士が居るのですね?」

 少女の言葉に、後ろで荷物を持っていた少年が答える。

「はい、我等ミスリルナイツに不死なる獣を滅ぼす技を伝えた、銀刀の剣士は、日本から来たと言う記録が残っています」

 少女は強い決意を込めた瞳で言う。

「絶対に見つけます。わが国、ミサラ王国を救う為に!」

 彼女の名は、ミール=ミサラ、ミサラ王国の王女である。

 彼女は、短期留学という名目で日本に来ていた。

 しかし、その本当の目的は……。



「短い間ですが、よろしくお願いします」

 日本の中学校、私立羽鳥中学校の三年の教室で、ミールは、必死に覚えた日本語で挨拶した。

 騒ぎ出す男子。

「従者のサイト=サルダです」

 荷物持ちをしていた赤毛の少年の素っ気の無い挨拶に、女子の一部が騒ぐ。

 二人ともクラスメイトの事を気にする様子も無く、空いている席に着こうとした時、元気爆発していそうな少女に声を掛けられる。

「あたしの名前は大門ダイモン良美ヨシミ、ヨシって呼んでくれ。宜しくな」

 その態度に、サイトの視線が怖くなる。

 すると良美の隣に座っていた、童顔のロングポニーテールの少女が溜息を吐いて言う。

「ヨシ、馴れ馴れし過ぎだよ。相手はお姫様なんだから。すいませんでした」

 頭を下げる少女に、ミールは社交辞令的に返礼する。

「気にしなくて結構です。宜しくお願いします大門さん」

 不満気な顔をする良美。

「ヤヤ、クラスメイトなんだからお姫様なんて関係ないだろーよ」

「関係あるの!」

 ヤヤと呼ばれた少女の言葉に、苦笑するミール。

「ところで、貴方の名前を教えてくださいますか?」

 ヤヤと呼ばれた少女は頷き答える。

白風シラカゼクラベと言います」

「クラベ? でもさっきヤヤと呼ばれていましたが?」

 較が普通に答える。

「較って漢字は、ヤヤとも読めるのです」

「そうですか。態々ありがとうございます」

 問題が起こらないように返事をするミールであった。



 放課後、ミールとサイトによる、銀刀の剣士の捜索は開始された。

 サイトが自国で知り合った、裏業界の関係者のつてで連絡をとった仲介屋と会う。

「銀刀の剣士は、江戸時代に有名だった奴だな。何でも東洋の妖帝の従者だって話で、討伐されたって事だから技を受け継いでる奴は居ない筈だぜ」

 その一言に折れそうになる気持ちを必死に奮い立ててミールが言う。

「他に銀の武器の達人は、居ないのですか?」

 仲介屋の男が言う。

「つまり不死の化物退治だな。それだったら日本よりヨーロッパや中国の方が良いんじゃないのか?」

 ミールが首を横に振る。

「大陸の技が通じないのです」

 仲介屋が少し唸った後言う。

「そーなると一番確実なのは、人外の力を借りるって手だが、あいつ等は本気で利己的で、金で動く人間なんて殆ど居ないからな」

 ミールが縋るように言う。

「人外って何なのですか? その人達ならば、不死の化物も倒せるのですか?」

 仲介屋はあっさり頷く。

「奴等は、神様だって殺しちまう。だが、人と同じ外見をしてるが、決して人間では無い。化物と戦う為だけの存在。そして身勝手で、例えアメリカ大統領でも言う事を聞かせられない。一度、馬鹿な総理大臣が居て、配下にしようとして、逆に国会議事堂を半壊させられたっけな」

「オカルトの人間が、化学兵器でも使うのですか?」

 困惑するサイトの質問に仲介屋が言う。

「奴等は、その術だけでアメリカ軍を圧倒できる化物なんだよ。だから人外って言われてる」

 畏怖するミールだったが、必死な思いで尋ねる。

「その人達と連絡をとれませんか?」

 仲介屋は首を横に振る。

「俺じゃ無理だな。一応つてを探ってみるが、あいつ等はこっちを利用するが、逆に利用される事はまず無いから無理だと思ってくれ」



 絶望的な状態に、落ち込むミールにサイトが必死に話しかける。

「どうか気を落とさないで下さい。きっと連絡とれますよ」

 ミールは力なく頷いた時、サイトが懐から、不思議な銀で作られた短刀を抜く。

「誰だ!」

 サイトの声に応えるように、周囲から人のシルエットをした、狼達、人狼が現れる。

『こんな東方の島国まで、無駄な事をしに来たみたいだな』

 一人の人狼が言うと、ミールが睨み返す。

「私は、貴方達の悪事を絶対に裁きます!」

 爆笑する人狼。

『この不死身のムーンウルフの一人、ガルフ様を倒す術が見つかったのかい?』

 ミールが怯む。

『見つかるわけ無いよな、とっておきのミスリルの武器が通じない俺達を倒す術などあるわけが無い!』

「姫様、ここは私が足止めします! お逃げ下さい!」

 サイトの言葉に、躊躇するミール。

「急いでください!」

 ミールは駆け出す。

『逃がすかよ!』

「いかせない!」

 ミールは涙を流しながらひたすら走った。

 そして、角を曲がった時に、人にぶつかって倒れる。

「短期留学生!」

 そう言ったのは、ミールが学校であった女子生徒、良美だった。

 ミールは慌てて怒鳴る。

「逃げてください! この先は危険です!」

 良美が隣に居た較の方を向く。

「危険なのか?」

 較は少し考えてから言う。

「まー猛犬ぐらいに危険はあるけど、正直ここ通らないと遠回りだね」

 ミールは必死に訴える。

「そんな事を気にしている場合ではありません。折角サイトが作ってくれた時間です。早く逃げないと」

「おーあいつも男だな、姫様の為に体を張って、敵を食い止めるなんて」

 較が呆れた顔で言う。

「でも実力不足は否めないね」

 その言葉が終わるかどうかのタイミングで、人狼達が迫ってくる。

 目を瞑るミール。

『ベルゼブブ』

 通常とは何かが違う声をミールが聞いた。

 暫くして目を開けたミールは信じられない物を見た。

 ミールを追ってきた人狼達が壁に貼り付けられて居た。

「真っ直ぐ帰った方が早いな」

 良美の言葉に較が困った顔をする。

「あまり他人の揉め事に関わるのは好きじゃないんだけど」

「そんな、他人事みたいな事を言ってると、ろくな大人になれないよ」

 良美の突っ込みに、較が言う。

「分別があるのが大人だと思う」

 そんな下らない会話をしながら、真っ直ぐ歩く良美と較。

 全身傷だらけのサイトを踏みながら人狼のガルフが言う。

『ガキが迷い込んだか、まあいい存分に楽しんでやるか』

 下品に笑うガルフに、較が一言。

「通行の邪魔だから退いて。日本の道は狭いんだからね」

 爆笑するガルフ。

『目の前の現実を理解出来なくなってやがるぜ。安心しな、俺のあそこでもっとステキな世界につれてってやるぜ!』

 良美が首を切るポーズをとると較も頷き、ガルフの前に出る。

『抵抗しなければ天国に連れてってやるぜ!』

『バハムートブレス!』

 較の掌がガルフにぶつかった時、凄まじい勢いでガルフが弾き飛ばされる。

 周りの人狼が一斉に較に襲い掛かる。

 短距離走の世界記録保持者より速いスピードで接近し、一撃で車を破壊する爪を較に伸ばす人狼達だったが、較は、僅かな体の捌きで、避けると両手を迫ってきた、人狼の腹に当てる。

『ダブルコカトリス』

 次の瞬間、血反吐を吐き、二体の人狼が倒れる。

 躊躇した人狼に、瞬間移動したとしか見えない踏み込みで、接近した較の両腕は振られる。

『フェニックスウイング』

 両手から発生した炎が、残った人狼達に引火して、のたうち回させる。

 較はサイトを肩に背負って言う。

「クラスメイトをほっておくのも気が引けるから家に連れてって治療するよ。ミールさんも来ますか?」

 一連の騒動に声をなくしていたミールは慌てて頷く。

 そして較達が去ろうとした時、ガルフが立ち上がって言う。

『ガキ待ちやがれ、大人しく帰れると思ったか!』

 良美が面白そうな顔をして言う。

「うーん見事な、やられ役な台詞。良いキャラだね」

『うるさいわ!』

 ガルフがその爪を、サイトを肩に背負い、動きが鈍っただろう較に向って下ろされる。

『アテナ』

 較が避けずにそう言うと、ガルフの爪は、較の皮膚で受け止められてしまう。

 言葉を無くすガルフ。

 そんなガルフを置いて、較達は、家路につくのであった。



 翌日、包帯だらけのサイトとミールは昨日の仲介屋のところに来ていた。

「知りたいことってなんだい?」

「白風較を知っていますか?」

 ミールの言葉に、仲介屋の顔が明らかに青褪める。

「悪い事は言わない、それとは、関わるな」

「知っているのですね?」

 サイトの言葉に仲介屋が言う。

「鬼の娘、ヤヤ。前に話した人外、八刃ハチバの盟主、白風の次期長。たった12歳で裏の賭け試合、バトルのA級闘士になったバトルクレイジー。ノンデッドクラッシャー。色々な肩書きがあるが、確実なのは、人間の常識が通用しない化物だって事だ。関わってただで済む相手じゃない!」

 息を呑むミールとサイトであった。



「貴方の国で人狼が暗躍しているから、八刃に救援を頼みたいって事ですか?」

 仲介屋から話を聞いた後、ミール達は、その足で白風家に来ていた。

 ミールが頷く。

「お願いします」

 較は少し考えてから言う。

「最初に言っておくけど、動けてもあちきを含めて二人か三人だよ」

 その言葉に、サイトが詰め寄る。

「どうしてですか? 盟主と言われる白風の次期長なのだろう」

 お茶を啜りながら較が説明する。

「契約でね、八刃の人間が海外に出るときは、目的を明確にしないといけない。そして大人数で動く時は、裏の国連の承認をとらないといけないって事になってるんだよ」

 その言葉にミールが驚く。

「どうしてですか?」

 良美も興味深げな顔で見てくる。

「簡単だよ、直系の人間数人居れば、小さな国だったら制圧出来るから。長クラスになると、核兵器と同列扱いされてて、常に居場所を明確にしておく義務があったりするんだよ」

 言葉を無くす、ミールとサイト。

「でも、ミサラと言ったらミスリルの産出国で、ミスリルナイツってオカルトにも対応出来る騎士団が居たはずだけど」

 頷くミール。

「はい。ですから当初は大きな問題になるとは、思われていませんでした。しかし、奴等は何故か、ミスリルの武器が通じないのです」

 眉を顰める較。

「人狼が、ミスリルに耐性があるなんて普通は考えられないね」

 その言葉にサイトが悔しげに言う。

「しかし、実際に通じないのです」

「いまは、密かに重要人物の暗殺といった、目立たない方法を使っています。奴らが犯人だと言う事は解っていても、頼みのミスリルの武器が通用しない為、決定的な手段がこうじられない状態なのです」

 ミールの説明に良美が手を上げる。

「ミスリルってゲームで良く出てくる金属だよね? 実際にそんな凄い物なの?」

 較が解説する。

「元々銀は、精神力を効率よく相手に伝える効果があって、それを使うことで、精神面だけの化物や肉体を精神世界にある枠から効率よく再生させる奴の精神その物に攻撃できるメリットがあるの。魔法銀と言われるミスリルは、通常の銀の何倍もの効果があって、常人でも幽霊なんて精神物質を斬る事が可能になるんだよ」

 サイトが自慢げに続ける。

「そのミスリルを使った武器を持つ、我等がミスリルナイツは、ヨーロッパでも名高い騎士団で、古来より人狼退治を得意としている」

「問題はそこだね、通常の人狼には、二種類あって、異世界から流れてきた、元からの人狼と、人がその魂を受けて人狼となるタイプ。統計的には後者が多いよ。そして後者の一番の特徴が、精神世界の枠を使った再生能力。だからミスリルの武器が致命的だった筈なんだけどね」

 較が首を傾げる。

「お願いします」

 ミールが頭を下げた時、外から声が聞こえた。

『小娘出て来い!』

 その声にミールが驚く。

「この声は、あの時の人狼!」

「リベンジに着たのか?」

 良美が気楽に言うと、面倒そうに較が言う。

「まー不死身なだけが取柄みたいな奴だからね」

 呑気な二人が声のする庭に面した廊下に出ると、そこには金髪の幼女を捕まえた、ガルフが居た。

『このガキの命が欲しかったら大人しくしてろ!』

「何て事を! お前にはプライドが無いのか!」

 サイトが激情にかられて怒鳴ると愉快そうにガルフが言う。

『お前等も居たか、丁度いい。プライドなんてもんは、そこの小娘をねじ伏せて、泣いて許しを請わせれば満たされる物だよ!』

 憎々しげに見るミール。

 しかし、良美も較も気にした様子が無い。

小較コヤヤ、そいつ不死身だから殺さない様な手加減しなくて大丈夫だから好きにやって良いよ」

 較の一言に、捕まっていた金髪の幼女、今年小学校二年になった、小較が頷く。

「わかった!」

 次の瞬間、ガルフの腕をねじり、投げる小較。

 目を白黒させるガルフに小較が踵落しを決める。

『トール』

 踵落しが決まると同時に放たれた雷撃がガルフを行動不能にする。

 その様子を見ていた較が、ガルフの状態を確認してから言う。

「小較、まだ電撃にばらつきがあるから人間相手じゃ使っちゃ駄目だよ」

「はーい」

 駄目だしに肩を落とす小較であった。

 そんな会話に言葉を無くすミール達であった。

 較は庭に出て、倒れているガルフに言う。

「次、同じ事をしたら、不死身な事を呪う事になるよ」

 決して常人では、発しない気配に、震えるガルフ。

 しかし、最後の意地をはる。

『このオーフェンの奴等に貰った力が、あれば俺達は決して滅びない!』

 その一言が地獄への片道切符になるとは知らず。

 較の顔からクラスメイトを相手にしていた、普通の少女としての表情が消えた。

「なるほど、裏でオーフェンが動いていたって訳だね。納得したよ」

 携帯を取り出し、連絡を取る較。

 話を終えて携帯をきって較が言う。

「死ねるって権利だって理解できるようになると思うよ」

 残酷なまでの笑顔に誰も何も言えなくなるのであった。

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