表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

少年と地下迷宮 そのさん

 創作する魔物からも命を狙われかねない。この情報は日本人として、学生として守られていた少年に、精神的な打撃を与えるに十分な物だ。

 ただ、未だに現実感が乏しい彼にしてみれば、ふーん、じゃ気を付けなきゃね、で終われる事だった。それが殊更に驚き、怯えている風に見せるのは、リリアに甘える為だ。

 少年の思惑通りに、リリアは彼を慰め様とあれが何でこれでそれとやり、結局二人で浴室へと向かうはめになった。

 広く作られた洗面室には、二人並んで使える洗面台、ドラム式の洗濯乾燥機があり、独立しているトイレに繋がる、脱衣場に繋がる、廊下へ繋がる、と三ヵ所ドアがある。脱衣場には少年の肌着などの着替えが詰まった衣装棚、タオル類のリネン棚、ボディソープやシャンプー等の予備が置かれた棚、洗濯物用の籠があった。

 そして浴室は良く磨かれたタイル張りの広い造りで、浴槽は大人が三人は余裕で入れる大きさがあり、常に循環され温かで綺麗な湯が満たされている。

 DM室で何があったのかは謎だが、何故か汚れてしまった少年とリリア、時間がもったいないと二人で入浴を。キャッキャウフフでピンクな事情で時間を取られ、御休憩ぐらいの時間がかかり、入浴後に食事を摂りに食堂へ。

 ここでもやはり、「王様、はい、あーん」「美味しいよ」「嬉しいです」、と独り身には不可能な光景を生み出す。そんなイチャイチャで再び盛り上がった少年は、リリアを半魚人持ち、通称お姫様抱っこすると、「王様、まだ片付けが、だめですよ」と全然駄目ではない甘えた声でたしなめる彼女と共に寝室へと姿を消した。

 はよ仕事しろ、見せ付けんなバカップル、と常時DMと迷宮全般を監視する地下迷宮管理機構が思ったかどうか。DMが何をするにも必要なPの取得方法が殺す、奪う等が主な仕様である事を考慮すれば、ほくそ笑んでいるかも知れないが。




 少年がリリアにより地下迷宮に召喚され一夜が過ぎた。

 寝室には大人でも三人は余裕で眠れる広さ、ふわふわとしているのに寝心地は抜群なベッドがある。目覚めたリリアは、昨日から続く気持ち良く汗を流す運動の疲れも見せず。爆睡する少年を起こさない様に静かにベッドから出ると入浴に向かう。

 運動後に疲れから寝入った少年、二人のナニで汚れたベッド、脱ぎ捨てられていた衣類、余韻に苛まれながらも全て綺麗にして、なおかつ不思議な液体で汚れていたDM室の玉座、夕飯の後片付けも済ませて少年の腕中に戻りリリアは己に睡眠を許した。

 そういう訳でリリアは睡眠不足のはずなのだが、肌艶も良く上機嫌で見ているだけで幸せになれそうな様子である。

 シャワーを浴び、薄化粧を施し、身嗜みを整えると、少年が未だに寝入っているのを確認。しばし彼の寝顔をうっとりと見た後、食事の用意や農場部屋のコボルトに指示を出すために寝室を去る。

 合間に何度も少年の様子を確かめに来るも彼が目覚めたのは、三食の用意やコボルトへの指示、掃除等の作業が終わりもう昼食だという時間帯だった。


「よかった、夢落ちじゃなかった」


 起きた少年は慌て辺りを見渡し、記憶に薄い部屋である事に安堵する。彼は自分の無茶な願いも、「……どうしても?」と恥ずかしがりながらも、結局は叶えてくれる美少女に、夢か妄想かとの疑惑が捨て切れてなかった。

 目が覚めたら見慣れた自室で、「夢落ち乙」と呟き、パンツの隠蔽工作をして、つまらない学業の為に学校へ向かい、友人と、あれ、なんか顔が思い出せね?

 自室ってどんな感じだったかな、あれ親は、つうか俺の名前なんていんだっけ?

 色々な事柄があやふやで思い出せない事を少年は、この年で痴呆ってまずくね、と顔を青くさせる。


「おはようございます、王様。食事を用意しましたので……」

「うぉっ、て、リリア!?」


 唸りながら記憶を探っていた少年は、彼の様子を見に来て起きていた彼に、挨拶をとそばに近寄ったリリアの存在に気付いておらず。彼女からの声かけに飛び上がらんばかりに驚く。

 目を丸くして、「どうかなさいました?」と心配そうに尋ねるリリアに、少年は、大丈夫、問題ない、顔洗いに行く、と誤魔化す。不味い、痴呆だと知られたら捨てられるかも、と記憶の混濁については黙っておく事にしたのだった。




 洗顔ついでに朝風呂を浴び、食堂で朝食兼昼食を済ませる。やはりリリアに食べさせて貰った少年は、DM室の玉座に腰掛けていた。

 記憶の問題も、ま、いっか、とながし、相変わらずリリアとのイチャイチャぶりを発揮する。人生初の恋人で、これ程までに尽くしてくれる相手なのだから、致し方ないのかも知れない。

 あくまでもリリアを恋人だと思っているのは少年の主観で、だが。告白をした訳でもないし、リリア自身がどう思っているかは確認していない。

 少年が確かめた事は、リリアは自分のモノである、という事だけだ。


「魔物創作については、どこまでお話ししましたか?」

「ん、創作した魔物も魔石を奪うかも、ってとこまで」


 リリアはしっかりと覚えてはいたが、昨日の少年のうろたえぶりから、記憶にとどめるのを拒否したかも、との心配からの物言いだ。


「ありがとうございます。魔物によりますが、DMが自分より弱い、と見ると魔石を奪いに襲ってくる者(魔物)もいます。他にも、待遇やら何やらで反逆する者も居ますが、大方の理由は魔石の奪取の為です」


 何を持って強い、弱いと決めるかは魔物により違うが。


「じゃ俺もこう、戦ってレベルアップしなきゃならんの?」

「戦って、魂の欠片を吸収して強くなるのも良策です。ただ、DMである王様は改造カスタムでPを使った方が簡単で安全に強くなれるのですが……」


 言い難そうに言葉を濁すリリアに、少年は嫌な予感しかしない。それ以前に


「カスタムって何?」


 そこから意味が解らない少年だった。


「改造と言う意味です。例えばですけど、Pを使えば羽をはやして空を飛べたり、腕を増やしたりできます。他にも技術を修得したり、魔法が使える様にする事も。単純に力を強くしたり、反射神経やらを良くしたりもです」

「へぇー、なるほど。それで創作する魔物より強くなればいいのか」

「はい、余裕で返り討ちができる程に強化していれば、魔物もまず反逆する事はありません」


 なんか凄くゲームぽいな、というのが少年の感想である。無意識にレベルアップという考えが思い浮かぶぐらいなので今更な事だが。


「DMにも魔物にも能力値が定められており、それぞれ体力(ST)、敏捷力(DX)、知力(I)、生命力(HT)、耐久力(HP)、魔力(MP)と呼称されています」


 少年はリリアの整った美しい顔を見ながら、説明の大半を聞き飛ばす。ゲームでも説明書は読まずに開始する彼には、今一つ興味がわかない内容故に。

 実際にやってみれば解る派の少年が、リリアの説明を遮らないのは、彼女の一生懸命さに萌えているからだ。


「……体力は腕力を始めとした筋力や体格に影響があり、体力を五十以上にするには体長を最低三メートルにせねば……」


 まつげが長くて金色してたんだな、顔ちぃっさ、テレビで見るアイドルやら女優なんて目じゃねぇな、少年の頭脳はリリアの話の内容より、彼女の綺麗な、可愛い、良い所を探すのにリソースを振っていた。


「……知識系や技術系などの技能は、膨大なので、そのつど説明しますね。王様、質問や理解し難いところはありませんか?」


 金髪巨乳美少女万歳。と、どの様な経緯で至ったか解らぬ妄想に浸っていた少年だが、リリアの問い掛けに。


「いや、大丈夫だよ。リリアの説明はわかりやすいから」


 覚える気ないし、大半は聞き流してたし、ということはおくびにも出さずに、少年はそう伝えた。例え、全然聞いてなくてもリリアならば、きっと許してくれるし、と罪悪感の欠片もない。


「じゃさ、そのカスタムを俺にするにはどうすればいいん?」


 習うより慣れろの精神でいけばいいだろ、と気楽に尋ねる。


「え、と、ごめんなさい、王様。カスタムは解禁されてなくて、まだ出来ません。解禁はそんなに難しい条件ではないはずなのですが」

「えっ!? あんだけ長々と説明しといて、できねぇの!」


 あ、しまった。と条件反射的に何も考えずに言葉を発してしまい、シュンと縮こまり、ごめんなさい、おうさま、と泣き出しそうなリリアを前に少年はうろたえまくる。


「えっと、今のなし! う、うん、すごくためになったから、ね、ね。い、いや、さすがはリリアだなぁ、すごいから、だいじょうぶだから、ないちゃだめだぞ!」


 いっそ、押し倒すか、とも考えた少年だったが、昨日の酷使によりトイレすら困る程に何があれで無理だった。




 少年がげっそりしていたり、リリアの目が赤かったりするが、何とか話題を地下迷宮構築に戻せた。


「幸いと言うべきか、王様は地下迷宮で迎え撃つ方針なので、反逆の可能性が高い魔物を創作しないでも何とかなるかと」


 自身の失言にて落ち込ませてしまったリリア、彼女を慰めるのに気力を使い果たしてしまった感のある少年は無言で続きを促す。

 少年も出来るならば、疲れたからまた今度、と言いたい。しかしそう言えばリリアが、やっぱり、リリアは役立たずなのですね、となり再び落ち込ませかねなく。

 妄想する余裕もないので先程より真面目に話を聞いていた。


「魔物も生きている以上、食事や水分を摂らねばなりません。必要のない魔物もいます、魔法生物の一部と、動く死体ゾンビ骸骨戦士スケルトンといった不死者アンデットならば、食事の心配はいらないのですがどうされます?」

「ゾンビってあれだよね、腐ってうじがわいてる」

「おそらく、王様の想像する者で間違いないかと」

「却下、食事のうんぬんの説明よろ(よろしく)」


 リリアには言えないがホラー系は苦手な少年、避けるために必要ならば好きでもない勉強をした方が良いぐらいだ。


「はい、王様。地上と繋ぐまで、食料を与えねば創作した魔物は飢えて死んでしまいます。農場部屋がありますので、ある程度の数までは養えますが、獲物となる魔物を創作して繁殖にて増やすのが良策です」

「んー、増えるのと減るのとの、バランスは大丈夫なん? せっかく創作して増やしたのに食い滅ぼされてもねぇ。後、その獲物用魔物の餌とか」


 そんな少年の心配に。


「そこで小部屋の内装変化です。食用魔物の代表と言えば、巨大鼠ジャイアントラットです。小部屋を巨大鼠専用の繁殖部屋に改装すれば、繁殖と成体までの成長速度が部屋内限定で加速されます」


 ねずみねぇ、ゾンビよりは嫌悪感は少ないが、非衛生的で(ばっちく)ないのだろうか、少年はそんな疑問を抱いた。


「繁殖用と成長中の鼠が食べる分の餌と水分は自動補充されますが、余裕はないのであぶれた鼠が食料を求めて部屋の外へと出ます。それを他の魔物が狩り食糧とするのです。繁殖部屋は出る事は可能ですが、侵入は不可能なので半永久的に提供が可能です」


 感心する少年にリリアはさらに詳しく説明をくわえる。説明のためとはいえ喋り続けたのが良い方向に向いたのか、少年がきちんと聞いていた為か、リリアの精神状態もだいぶ回復していた。


「需要(獲物を欲する魔物)と供給(獲物となる魔物の繁殖速度)のバランスは、どんな魔物を創作するかで変わります。ただ、提供が滞るだけなら繁殖部屋を増やせばいいだけなので、まずは提供側を少なめにして調整すれば大丈夫かと」

「ふむふむ」

「巨大鼠も魔物なので増えすぎると、捕食者側の魔物を逆に狩り食いかねませんし。」


 リリアの説明では繁殖部屋がある魔物は他に巨大蝙蝠ジャイアントバット巨大蛙ジャイアントトード等が存在していて、魔物にも食べれる食べれないがあるので、なるべくならば共通で食べれる魔物に統一した方が良い、との話だ。

 他にも、こういった食用の魔物や知能が低い魔物は、同族以外の魔物に襲いかかったり、DMすらも食物としか認識出来ずに攻撃してくる。巨大鼠ならば侵入者や死んだ魔物の遺体を(骨まで)食べるので、掃除屋としても使える、と続いた。

 これらの情報から少年は


「じゃ(巨大)鼠を創作し(つくっ)て、(繁殖)部屋をそう(改装)して、魔物の食糧確保っつう事で」

「はい、王様。巨大鼠の集団創作に10P、巨大鼠専用繁殖部屋への改装に4P必要です。でも実際に創作するのは、守護者魔物の種類と数を決めてからがよろしいかと」


 それもそうだ、少年はリリアに裏切らなそうな魔物を訪ねる。


「王様は獣と虫ならば、どちらがよろしいですか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ