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少年と地下迷宮 そのに

 一月三十一日7時に加筆改訂した改訂版と差し替えさせて頂きました。

 戻って来たリリアに少年は出した結論を伝えた。目を大きく開き驚いたリリアだが、すくさま嬉しそうな表情に、だがまた彼を心配そうに覗きこみ。


「王様はそれでよろしいのですか? ご無理をなさいませんように」


 と少年を気遣うリリアに、彼女の百面相に見惚れていた彼は慌てて。


「だ、だ、大丈夫! 問題なしっ!」


 このような返事をしてしまい、しばらく二人で大丈夫ですか、大丈夫だよとの押し問答となる。そんなやり取りも互いに見つめ合い、恥ずかしがりながら視線をそらしあう事で終演をむかえた。第三者が居れば砂糖を吐き出すか、嫉妬で憤怒を表すかする様な激甘な二人だけの空間を生み出している。まぁ文字通り二人だけしかいないが。


「……説明を続けますね」


 甘く切ない胸の鼓動と、思わず逃げたしたいような、少年を抱き締め綴りたい気持の赴くままに椅子に座る彼に抱きつく。そして少年の耳に囁き、リリアは地下迷宮とDMの説明を続ける。


「王様は残り約三百二十二時間、地球時間で約十四日以内に、最低限地下迷宮の構築を終えて、異世界ミニチガンにあるウウゥル大陸に出現させなければなりません」

「じ、時間制限があるの?」

「はい、王様。今は迷宮構築用の準備期間で、当然ですが地上と繋げるまで侵入者は現れません」


 ミルクチョコレートと生クリームを使ったケーキよりも甘ったるい雰囲気が、重大な話題のはずなのに、まるで睦言を交わすかのような艶やかな表情と声色をリリアに使わせた。彼の胸板で押し潰されたリリアのメロンと、シャンプーの香りと混じった彼女に匂いに、少年は強い酒を飲んだように陶酔していて説明も半分以上、リリアが囁く右の耳から左の耳に抜け出し、少年の頭には残っていない。

 彼が彼女を抱き締めかえすべきかと迷っている間に、はっと正気に戻ったリリアが「王様ごめんなさいっ!」と慌てて離れた。穴があったら入りたいよう、と激しい羞恥に駆り立てながら、彼女は滅茶苦茶な言い訳をする。


「あの、その、えと、そ、そう、王様が寒そうだったから、暖めなければとか思ったり思わなかったりしたのです! 決してドキがムネムネしてぎゅとしたかったとか、えへへ素敵な抱き心地だとかなんとか……」

「お、おうっ」


 現在異空間にある地下迷宮は寒くも暑くもない。だが漫画的な表現なら少年もリリアも目をグルグルと渦巻かせる様な混乱具合で気付いてはいないが。二人が落ち着くまでしばしの時間を要した。




「地下迷宮を構築する方法は二つあります。Pを消費して創り出すのと、創作魔法を用いる方法です」


 いまだに羞恥などで顔を赤く染めているリリアだが、表情は至極真面目なものだ。椅子に座る少年の正面で正座をして説明を再開する。正座は自制心がゆるんでいると判断した彼女なりの対策だ。


「創作魔法?」

「地下迷宮創作魔法です。魔力を消費して迷宮を創ります、手間が要りますがPを消費しないで迷宮の拡張や独創性の高いものを創れます」


 少年も気恥ずかしく、リリアの瞳を見つめながら会話は出来ない。その為に視線は彼女の可憐な唇、たまに自己主張が激しいメロンにと注いでいた。


「えと、魔法はどうやって使うん? あと魔力とかも」

「魔法は魔道書を読み解き、必要な呪文と動作を修得するか……」

「ああ、いいや。うん、もう一つの方法を説明して」


 魔法といういかにもファンタジーな要素に瞳を輝かせた少年だが、勉強マンドクセ(面倒くさい)と少年はリリアの説明を遮る。リリアも特に気にする事もなく、説明を切り替えた。


「魔物の創作や施設の機能向上や拡大バージョンアップ、DMの自己強化等々にPは使用され、王様の初期Pは5000Pあります」

「それって多いの?」

「はい、王様。最低限のPは1000Pで、平均は3000Pなので多い方だと思いますよ」


 よかったですね、と心の底からの祝辞を贈るリリアに、少年も、ありがと、とボソボソと返事をした。ピンクな空気を撒き散らしながらも、命にかかわる大事な話なので彼女は自制心を働かせ説明を続ける。


「Pを1消費してI字型通路、L字型通路、1.5消費でT字型通路、2消費で+字型通路、ドアが一つある小部屋を創作可能です」


 リリアは下から少年の顔を潤んだ瞳で上目遣いで、はにゃ、と見惚れながら続ける。あってないような自制心だった。


「魔物用の飲み水を沸き出させるのに……」


 他にも生産部屋や噴水部屋等の特殊部屋と説明は続いたのだが、解らない時はリリアに聞けばいいだろう、と膨大な情報量もあり少年は覚える事を放棄した。己の生存、ひいてはリリアの安全にもかかわる知識なのだが、勉強嫌いな彼らしい情報等の軽視と危機感の欠如によるものだった。


※ ※ ※ ※ ※


 Pを消費しての地下迷宮創作を一通りの説明が済んだ時点で一区切りとした。説明を終えたリリアに少年が空腹を訴えたからだが。

 リリアは、気配りがいたらなかった、と恐縮しながら少年を急ぎ食堂へ案内、十人は座れる長方形のテーブルへと導く。

 そしてキッチンに入ると少年の召喚前から稼働させていた、生産施設である農場部屋で収穫、加工済みの食材で調理しておいた、ナポリタンを主菜とした料理の数々、パンやサラダにスープを次々と冷蔵庫型の魔具(魔法の道具)から取り出す。

 冷蔵庫から出したにしては、どれも作りたての様に湯気が立ち上ぼり、食欲をそそる匂いを漂わせていた。これは魔具である冷蔵庫の性能で、冷やして保管するのではなく、内部の時間を止めて格納しているからだ。

 バケット一杯の様々な大きさの焼きたてのパン、たっぷりとベーコンや玉葱が使われたナポリタン、スープはコーンをしてミキサーにかけ裏漉したコーンポタージュ、どの料理も手間と愛情を惜しみ無くかけてある。

 鍋やフライパンから容器に移すのにも気を使い、目も楽しませ食欲を増加させる様に盛り付け。それが崩れない範囲でリリアは急ぎ足で少年の元に運ぶ。

 テーブルに置かれる料理を嬉しそうに眺める彼にリリアは


「王様の嫌いな物は入っていないでしょうか? お口に合えば良いのですが」

「これ全部、リリアの手作り? すげぇうまそうだ」


 少年のよだれを垂らさんばかりの様子に、後押しされて彼の真横に椅子を用意する。視線で、食べていい? と問う彼に胸をキュンキュンさせながら、リリアは彼に疎まれないかと恐る恐る椅子に座った。

 不思議そうに彼女を見る少年に、緊張と興奮で震える手でフォークを掴むと、ナポリタンを絡み取り


「お、お、王様、はい、あの、『あーん』っ」


 彼の口元に運ぶ、リリアの動きから、まさか、と思いつつも予想していた少年だがそれでも固まってしまう。両者ともに極度の羞恥で真っ赤になり、時間だけが過ぎ去る。リリアが彼が口を開けてくれない事に悲しそうに眉を下げたのを切っ掛けに、パクりと少年がフォークに食らいつく。


「……うんぐぅ、お、おいしいよ、リリア」


 緊張のあまり味を感じられなかった少年だが、リリアは文字通り花が咲く様な笑顔を浮かべ、親鳥が雛に食事を与えるように少年の口元に料理を運ぶ。


「はい、王様。えへへ、このナポリタンにはガーリックを使ってるのですよ、お口に合いますか?」


 バランスよく運ばれる料理とリリアの嬉しげな様子に、緊張もとけた少年は恋人が居ればと夢想していたやり取りと味を楽しむ余裕が出る。


「これらの肉や野菜は生産施設の農場部屋で育成して収穫したんですよ」


 多分もっと美味しい料理はあるのだろうが、自分にべた惚れの金髪巨乳美少女の手で食べられるこの食事が、世界一うまいに違いない、と幸せに浸りながら口を動かし食感や味を楽しむ。


「農場部屋の畑や作物、家畜の世話や管理に犬人コボルトが十人働いてますので、後で紹介しますね」


 俺人生勝ち組だよな、きっとリリアは俺が望めば何でもシテくれるはず、とベッドの上や浴槽、DM室での行為を思いだしながら食べていたので彼女の言葉の大半は届いていない。


「それで、コボルト達に支給された支度金の中からかまくわなど……」


 多少、ベーコンや野菜の大きさが不揃いだが、美味しそうな料理の数々である。そして見た目を裏切らない味わいで、用意された分では足らず、リリアが二度程キッチンへ足を運ばなけれならなかった。




 少年自身は口を動かし飲み込む以外何もしなかった食事が終わると、再びDM室へと戻った。リリアに相談して少年は早速、Pを使った迷宮創作に挑む。


「王様、まずは迷宮創作画面を呼び出し(コール)してください」

「どうやって?」


 少年は再び玉座に腰をおろし、リリアはその真横に居た。


「頭の中で『迷宮創作』と念じれば、難しいようでしたら口に出されても構いません」


 こうかな、少年が迷宮創作と頭の中で思い描く、すると……


「おお! すげぇ!」


 少年の前にウィンドーが開き、興奮で大声を出してしまった。立体映像なのに触れる事も可能なこれを用いて、リリアのアドバイスや助力を得ながら地下迷宮を創作する。


「こんな感じ?」

「はい、後は配置する魔物に合わせて調整しなければなりませんが、これで完成です」


 中央にDM室や食堂に寝室があり、螺旋状に通路が創られ、途中で小部屋が散りばめられている。外部への出入口は北西の迷宮第一階層限界範囲のラインに設置する予定だ。小部屋の数は二十五部屋あり、通路に使った分と合わせて使ったPは102.5Pである。


「では次に魔物の創作の注意点「リリア、リリア」はい、何ですか王様?」

「つくった迷宮を直接見てみたいんだけどいい?」


 説明の途中で興奮気味の少年に遮られたリリアだが、笑顔で了承すると彼女がランタンを持ち、玉座の正面にある大門から創ったばかりの迷宮へと赴く二人だった。

 創作された通路は幅約四メートル、高さが三メートルあり、見た目は坑道であり壁は崩れないように板で補強してある。


「この通路も後から外装の変更が可能です。ただ現状だと板張りの通路か、石畳の通路にしか出来ませんが」


 DM室を出たばかりの時はリリアが先導で、少年が後ろからついてくる形だった。だが、二人の距離は徐々に近付き、今は手を繋ぎ指を絡めた通称恋人繋ぎしている。

 お互いに照れて顔は合わせないが、手は確りと繋いで迷宮の探索というよりデートとかしていた。

 小部屋は幅も奥行きも約六メートルあり、天井までやはり約三メートルある。出入口であるドアは木製で簡単に破壊出来そうな造りだ、室内には何もなく寂しい限りだ。


「今は何もない小部屋ですが、通路同様に内装を変えられて、使う魔物や使わせたい魔物に応じた部屋に変更出来ます」

「そういえば、部屋の大きさってこれだけ?」

「生産部屋や特殊な部屋のサイズは違いますよ。小部屋のようなドア付きの部屋の大きいなタイプの中部屋や大部屋、ドアが複数ある部屋などはまだ解禁されてません、迷宮を育てていけばそのうち創れるようになります」


 こんな会話を交わしながら、手繋ぎから腕組みに、そして少年がリリアの肩を抱き締めながら歩く。彼も彼女も短時間で急速にレベルを上げる。ぎこちなかった歩みも、ゆっくりと迷宮を見て回り、DM室に戻る頃には自然体となっていた。

 肩を抱いて歩くのも、抱かれて歩くのも。その上にリリアは、少年の歩みに負担を掛けずに頬を彼の胸板に押し付け甘えるという、高等技術すら修得したのだった。




 創作した迷宮の検査デートから、DM室に戻った二人は、魔物創作の注意点や迷宮の守護者をどの魔物にするかと話し合う。


「王様の戦略は、専守防衛という事でよろしいですか? えと、こちらからは攻め込まず、迎え撃つだけ、と」

「う、うん、そういう事で」


 リリアの専守防衛という言葉に、少年が意味不明という顔になったので、噛み砕いた説明に切り替えた。


「はい、解りました。簡単に説明しましたが、魔物は基本的に弱肉強食、強い者が支配者であり、弱い者は支配される側になります」


 それがどうしたんだ、と不思議そうにリリアを見る少年は、彼女からすると痘痕あばた笑窪えくぼにうつり、自分が彼を支えなくては、と決意を新たにさせる。


「これはDMと守護者として創作する魔物にもあてはまります」

「え!? って事は……」


 少年にも予想がついたのだろう、顔を青ざめさせながら、リリアに綴るような視線を送っていた。ああ、王様に頼られている、と実感出来るその眼差しに、彼女は瞳が潤み、頬を上気させ、胸とお腹の奥がキュンとなる。

 でもでも、情報を正確に伝えた方が王様のためです、後でリリアが一生懸命お慰めしますので許してください。と、彼女は口を開き


「はい、魔物によっては王様に反旗を翻す事もあります。え、と、王様を倒して魔石を奪おうと考える魔物もいます」

「げぇっ、マジっすか!?」


 うそっん、と少年も言葉使いが変になる程の驚きを表したのだった。


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