少年と地下迷宮 そのいち
性的な場面を想像させる描写があります。そういった描写が苦手な方や、嫌悪感がある方はご注意ください。
一月二十九日17時に改訂版と差し替えさせて頂きました。
「お願いです、――様。私と、私の仲間を、助けてください」
「まかせろ!」
幻想的な淡い金の輝きに包まれた少女からの嘆願に、学生服を着た少年が微塵の躊躇も無く応じた。彼女は何者なのか、少女の仲間とは誰で何人ぐらいなのか、助けるには何をしなければならないのか、そんな重要な事柄を何一つ確認せずに。
恋人不在日数が生きてきた年数十六年と同じであり、現在進行形で更新中の青少年に全裸で巨乳で儚げな金髪美少女に、真摯で一途な表情で懇願されれば致し方ない事かも知れない。
男の子の事情で両膝を付き、腰が引けている姿勢は不自然である。だが、見ようによっては騎士が淑女に愛を囁く体勢とも見れなくもなかった。
そう、その金髪美少女はその様に受け取り、明確な了承に心底嬉しげに微笑みを浮かべうっすらと頬を染める。真っ赤に興奮しながら少女の胸と陰部を交互に血走った目で見詰める少年に。
「ありがとうございます、――様。それでは貴方を、私の地下迷宮に召喚します」
少女の宣言が終わるや否や彼女から光があふれだし、少年の意識を消し飛ばしたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「んあっ?」
眠りから覚めるように意識を取り戻した少年は、寝起き時と似た様に頭が働かない。抱き枕にしていた暖かく柔らかで良い匂いがするそれを無意識で抱き締めた。
その腕の中にある者から溢れんばかりの慈しみと愛情と畏敬がこめられた声が耳に入る。
「王様、お目覚めですか?」
「へ?」
はっきりしない意識のまま意識を声が聞こえた向けた少年は、抱き締めているのが美しすぎる金髪巨乳美少女だと解り、液体窒素でもかけられたごとく瞬間凍結する。
豪華なベットの上で裸の二人、少女は少年の腕の中で大きな紫水晶の瞳を上目使いに声を発した。いい匂いだ、柔らけぇ、と現実逃避気味に固まる彼に金髪巨乳美少女は止めを刺す。
「……王様、もう一度ご奉仕しましょうか?」
うっすらと頬を赤く染めて恥じらいながら、ぎこちない手つきでこんな状況下でも元気過ぎる少年の息子を握って彼を見つめて。
もう一度ご奉仕をお願いして、記憶にない初体験を補完した少年、ベッドで二回、風呂場で二回と頑張った。気がついたら自分にメロメロな金髪巨乳美少女とベットインで合体でご奉仕で、という妄想か、それなんてエロゲ? というべき状況に全力で少女に溺れる事に。
すげぇリアルな夢だ、見た事ない女の子の部分や味まで妄想出来て俺天才、なかなか覚めない夢だな、起きたら下着をどうするか、と少年は思っていた。だが、入浴後に少女から案内され座らされた椅子の上で、改めて詳しい説明を受けてこれが現実だと理解する。
「えっと、これは夢じゃなくて、君は俺のモノで、ダンジョンマスターっていうのを任せられて、君は俺のモノ?」
「はい、王様は私の呼び掛けに快く応じて頂きました……」
いまだに夢見心地で言葉使いが変な少年の問いかけに、私は王様のモノです、と金髪巨乳美少女――リリアは嬉しいが恥ずかしそうにしながら答えた。その色好い返事に少年は相好を崩しながら話を進める。
「うん、まぁ、それは良かった。……てかダンジョンマスターって何をすればいいんだ?」
DMは名が示す通りダンジョンの支配者であり、迷宮の構築に守護者として魔物を創作、配置等をして統御し迷宮を育てるのが役目だ、というのがリリアの説明だった。
「ん、ん? 何で攻められるん?」
「迷宮を大きくするにも、魔物を創作するにも、命を摘み取り魂の欠片を奪う事が必要です。DMの方の中には座して待つよりも効率がいいと、自ら魔物を率いて、人間族や森妖精族などの集落を襲う方も多くいらっしゃいます」
二人が居るのは地下迷宮の心臓部であるDM室、バスケットボールのコートぐらいの広さがある。風呂やらがある部屋へと続くドアの近くにある、室内唯一の椅子に少年が座り、リリアは彼と向かい合って立って居る。エルフもいるなんてファンタジーだな、と思いながら彼は彼女の話に耳をかたむけ続けた。
「それに加えて、今王様が座られている椅子についている宝石を売れば、一生遊んで暮らせる値がします。だから地下迷宮が発見されるとすぐさま攻略に攻め寄せられるのです」
「ならさ、この宝石をすてればどう?」
「その宝石、魔石と呼ばれていますが、それを外すにはDMを行動不能に(肉体の破壊等)するか、迷宮の外に連れ出さなければなりません」
少年が椅子に座っている為に、立っているリリアだと見下ろしている形になるのだが、それなのに上目遣いで少年を不安気に見つめながら。
「どちらにしろ魔石をうしなえば王様も滅び(死に)ますがそれでいいのですか?」
彼は即座に魔石破棄の提案を撤回した。破棄を引っ込めた少年に安堵するリリアを確認して、彼もまた内心でホッとする。迷宮の安全性を考えれば、少年を殺すなりして魔石を外し捨てた方がいいだろうな、と考えていたからだ。
少年がもう少し思慮深いならば、リリアがそんな事を思案していれば、DMが迷宮から出ている時に魔石の奪取が可能な事は黙っていると気付けた。それと魔石を処分しても地下迷宮の脅威は変わらないので、結局は掃討のために攻め込まれることも。
自分の発言でそんな方法もある、と教えてしまったと勘違いにより顔色を悪くさせていた少年にリリアは説明をかさねる。
女性を前にした男性の見栄で、内心を悟らせないように努力している彼だが、リリアには察せられており気付いている事を気取られないように、と逆に心配りされていた。
「DMと地下迷宮は運命共同体です。魔石をうしなえば、王様は滅び(死に)迷宮は崩壊します」
そうなのか、と呟き表情がゆるみ血の気を取り戻した少年にリリアが嬉しげに顔を綻ばせた。だが、別の何かに気付いたのか彼は面持ちと声色を硬くしてリリアにたずねる。
「……結局は人間を殺さなければならない?」
「いえ、王様からすれば異世界であるミニチガンは魔物の支配が強い世界です」
リリアは少年と視線を合わせて、会話を続け、彼は彼女の瞳に宿る愛慕の光に、何か俺めちゃくちゃ惚れられてね、と頭を茹であがらせた。つい先刻のベッドや浴室での艶姿も思い出して表情もだらしなく鼻の下をのばす。
「殺人を気になされるのならば、魔物を相手しても構いません。集められる魂の欠片、Pこそ少なくなりますが食用の動物でも」
リリアは地下迷宮のDM選定と交渉に召喚、補佐役として地下迷宮管理機構が創作した存在だ。その存在意義として最大限に努力せねばならないのが迷宮の拡張である。
だが彼女のこの進言はDMに対しての対応としては下策だ。泣いて綴って媚を売り、約束を盾に取りと様々な方法で人間を殺戮する方向に誘導するのが上策である。
だがリリアは交渉も駆け引きも迷いもなく、召喚に同意した彼に対して身体を差し出すぐらい好感を抱いていた。いや、少年をDMに選出して(えらんで)交渉の呼び掛けをする前からだ。
彼女のような補佐役を最初から用意されているDMは希だ、選考の権限まで持つリリアのような者は、彼女が与えられている知識のなかにはいない。リリアの主人になる相手なのだから、事前調査は確りと行っており、彼女の好み(タイプ)に合致しなおかつ惚れたから少年に願った。
DMがいかに危険で命懸けかを付与されていた知識で重々承知しているので、間髪入れずの了承に完璧に落ちた。彼も色々と頭が飛んでいるが初恋の実りにリリアも十分茹であがっている。
でなければ流石に召喚直後、肉体を持っての初対面で押し倒されたら抵抗したし、初体験後に快楽で気絶した少年が、目覚めた時に自分から奉仕を提案する事もなかった。まさしく恋は盲目であり、普通ならば百年の恋も冷めるような扱いや醜態でも、リリアからすれば、そんなにも己を欲して貰えた、可愛い人、とますます少年への愛慕が募る行為にうつる。
「私としては、いささか残念でありますが、人も魔物も住めないような僻地に迷宮を出現させて引きこもるのも良いかと」
故に地下迷宮を発展させるために用意された、自分の存在意義を危ぶませかねない提案すらリリアにはできた。地下迷宮管理機構から、これ以上迷宮運営に消極的な提唱には人格の書き換えを行使する、との警告が届いても。
少年が想像も出来ぬ領域で、リリアは彼のために命懸けの奉仕を敢行していた。異世界から少年を見いだし、惚れ込み、平和で穏やかな生活から怨恨と血塗れの修羅道に引き込む事に悩み苦しみ。それでも募る恋慕に、断られて蜃気楼の如く儚く消え行く一瞬の記憶となっても、彼と話せれば本望だ、その思い出を胸に新たなDMを探そうと覚悟していたリリアである。
少年が嫌がるのなら自分の喪失を招いても構わない、システムが己を消し去る前に可能なだけの手を打つべく頭を必死で回転させ策を練る。恋に狂った女に恐れる事など何もない。
「ごめん、それはもうチョイ考えさせて。あれ、うん、魔物しかいない地域なら問題なくね?」
守護者に魔物を創作可能な事から、少年は魔物勢力はどちらかといえば味方よりだと判断したのだ。魔石が高額といっても、貨幣を使わないぽい魔物達なら地下迷宮に侵入して奪う事もないだろうし、俺ってやっぱり天才かも知れね。と、この思いつきに彼は内心で自画自賛する。
そんな少年にリリアは申し訳なさそうに告げた。
「魔物の価値観は弱肉強食で、縄張りに地下迷宮が現れれば、どちらが上かと攻めて来ます。DMの力の象徴である魔石を魔物が取り込めば劇的に強くなれるので、その、やはり……」
Pを消費するとはいえ、地下迷宮、DMは新たな生命の創造が可能である。魔石の性能を完全に使いこなせるのはDMだけだ。が、極端に効率が悪くても魔石を吸収した魔物は、命を狩り取り得る魂の欠片よりも遥かに大量に、自己強化や階級進化に必要なそれを取り入れられる。
弱ければ搾取され、強ければ望むままにいきられる魔物達にとっても、地下迷宮はまたとない攻略対象なのだ。このような事を彼を傷付けないようにとリリアは必死に言葉を選んで説明した。
それでもやはり落ち込んだ少年を元気付けるために、リリアはあの手この手と手間隙をかけ、最終的にお口での御奉仕という謎の手段まで必要としたのだった。
DM室を照らす明かりは、少年の座る玉座近くにあるサイドテーブルに乗せられた、ランタンの形をした魔法の道具のみ。故にランタン付近以外は闇におおわれていた。
今この部屋にはリリアの手によって召喚された少年しかいない。彼女に良い所を見せたかった彼だが、自分の提案があまりにも悪手過ぎだったと落ち込んでしまう。
そんな少年を慰めようとリリアが色々な事をして何があれで彼女の服を汚してしまい、着替えやシャワーに退室した。ちなみに彼の服装は質素な上着とズボンで、リリアの努力により彼の服は汚れていない。その分彼女が汚れたので退室した。
リリアが何故少年を王様と呼称するかといえば、彼女の認識だと地下迷宮は国なのでDMはその支配者、即ち王となる。故に彼を王様と呼ぶのだ。
リリアが着替えやらに立ち去り一人になり、彼女の助力によって、悟りを開いた高僧のごとき精神、すなわち賢者タイムとなり冷静な判断が可能となった地下迷宮王こと少年は悩んでいた。
そしてリリアに教えられた事柄を考慮しながらどうするかと考えた。彼女は殺し合いが嫌ならば、引きこもっても良いと言っている。だが、それではきっとリリアからの評価が下がる。
さすがに自分から襲うのは抵抗があるが、地下迷宮への侵入者を倒すのは、自宅に強盗が押し入って来たから返り討ちにした、と少年の倫理観からも納得出来る理由だ。これならリリアの望みであるダンジョンの拡大、彼の良心的な抵抗との妥協案として自分を納得させられる。
少年の年頃らしい欲望の後押しと、夢ではないと解っていても、現実感が乏しい現状が、犯罪者(強盗)なら殺しても構わない、そんな過激な判断を彼に取らせた。
「リリアが戻ったらこれらの考えや判断を伝えて、地下迷宮や守護者の魔物をつくらないとな」
いまだに記憶が抜け落ち、自分の名前すら思い出せないでいる事にも気付かずに、少年はきっとリリアも喜んでくれるだろうと無邪気に彼女の帰りを待つのだった。