28.マリージュ様のおすすめ(ユリアス)
「え?景色のいい場所を知りたい?」
「はい。できれば人の少ない安全な場所で」
「ロージーといちゃいちゃしたいなら、好きなとこ行けばいいじゃない」
「……いちゃいちゃ」
そういうつもりで聞いたんじゃないんだけどな。
マリージュ様は呆れたような顔している。
「まったく、学園時代からユリアスがロージーを好きだったのはわかるけど、
ようやくロージーを恋人にできたからって浮かれ過ぎよ。
侍女たちが見てる方が恥ずかしいって言ってたわ。
未婚の侍女たちばかりなのだから、少しは手加減してよ」
「マリージュ様、俺とロージーは恋人ではありません」
「はぁ?あんだけいちゃついておきながら?
もう婚約してるんじゃないの?
だって、先日は寝室で二人きりだったって報告来ているわよ!?」
「あれはロージーが魔力切れで、魔力の補充してただけです。
あのままだと三日は起き上がれなかったので」
「本当なの?……何してたの?今まで。
二人旅でここまで来たんじゃないの?」
「王弟殿下にも帰ってくるまでに告白しろと言われました。
だから、マリージュ様にいい場所知らないか聞いたんですけど……」
本当に告白だけするつもりで景色の良い場所を聞いたのに、
また大きなため息をつかれた。
「はぁああああ。ユリアスって、意外と女慣れしてなかったのね。
っていうか、告白もしないであんだけいちゃついてたことに驚きだわ。
ロージーもユリアスに抱き着いてたわよね?」
「あれは王子から逃げてるだけです。
俺が守るって約束してるので、
俺のそばにいれば大丈夫だと思ってるんでしょう」
「……無自覚なの?この二人。
はぁぁ。わかった、良い場所あるわ。教えてあげる。
私もそこで陛下から求婚受けた大事な場所。
ユリアスとロージーには幸せになってもらいたいから」
マリージュ様にそんな頼みごとをした結果、
アステカニア王国の始まりの場所、聖なる滝を教えてもらった。
おまけにマリージュ様からロージーに勧めてくれた。
おかげで俺が誘うことなくそこに連れていける。
ロージーを後ろから支えるように馬に二人乗りして山道を進むと、
開けた場所に大きな湖があった。
その湖にそそぐように滝が流れている。
湖をのぞき込むとあまりの透明度に、
人が立ち入っていい場所なのかためらってしまうほどだった。
同じように驚いているロージーを馬からおろすと、恐る恐る湖に近付いていく。
水属性のロージーを連れて行くならと、
マリージュ様から教えてもらった情報を伝えてみる。
「ロージー、マリージュ様が水属性のものなら願いを叶えられるって言ってた。
水の精霊が宿っている場所らしい。
ロージーが願えば聞いてもらえるんじゃないか?」
「……願い事ねぇ」
軽く首をかしげて考え込んでいるロージーに、願い事は何か聞いてみたくなる。
願ったら後で聞いてみようかなと思っていると、
ロージーが湖のすぐ近くまで行って跪いて祈りだした。
そよ風で震えている金色の髪に光が反射して、
同じように光る湖と一体化しているように見えた。
神々しいくらいの美しさに見とれていると、
大きな手のように見える水のかたまりがロージーに降り注いだ。
次の瞬間には、ロージーに水が巻き付いて捕まえられていた。
しまったと思った時にはもう遅かった。
水の中にロージーが引きずり込まれていくのが見えて、慌てて後を追って飛び込んだ。
「ロージー!」
湖の中に引きずりこまれたロージーを追って飛び込んだが、
あっという間に引き離された。
どんどん遠くなるロージーに追いつけない。
水が綺麗だから底まで見えて、
ロージーが何か膜のようなものに包まれて底に寝かされているのが見える。
精霊のいたずらか?
だとしたら、ロージーの命や身体は無事なはずだ。
そう思って少しだけほっとしたが、次の瞬間もう一つの心配に気が付いた。
これが精霊のいたずらだとしたら、ロージーを帰してもらえないかもしれない。
精霊とは時間の感覚が違う。
何を考えてロージーをさらったのかはわからない。
だけど、その目的が済むまでは帰してもらえない可能性が高い。
その期間が数日ならまだましだ。数百年ということだってありえる。
ロージーにもう二度と会えない?
そう思ったら、全身の血が凍るように感じた。
嫌だ。そんなのは絶対に嫌だ。
湖面に戻って息を整えて潜り、限界まで行ってまた湖面に戻る。
今まであまり意識せずに使っていた身体強化を限界まで高める。
水の中ではあまり役に立たない風も、湖面から潜る時に後ろから力を加えさせる。
すべての魔力を力にかえて、何度も何度も潜り続ける。
ロージーを包む膜に近付くと、ロージーが俺に手を伸ばしているのが見えた。
俺に助けを求めている?
ロージーが俺の助けを待ってる。あと少し。もう一回。
いや、ロージーを取り戻すために、何度だって。
繰り返し潜って、ようやくロージーまで手が届くと、
最後の力を振り絞ってロージーの腕をつかんで引き上げた。
湖面の上に顔を出したロージーを見たら、もう抑えが聞かなかった。
抱きしめて、ロージーの無事を確認して、
冷え切ってしまったロージーの身体を温めるようにしっかりと抱えて。
水から上がったら、ロージーの薄手のドレスが濡れて透けていて。
身体の線がはっきりと見えてしまって、あわてて風を起こしてドレスを乾かした。
ついでに自分の服も乾かして、今見たのを頭から追い出そうと必死になる。
「ユリアス、認識阻害が切れているわ。いいの?」
「え?」
「いつもかけてる認識阻害、今は切れてるから素顔になってるわよ?」
何を言われているのか、さっぱりわからなかった。
ロージーに指摘され、話をしているうちにようやく理解できた。
俺、ずっと素顔を見せていなかったんだ。
同じ光属性だし、王家の血を持つ者同士だから、
完全に阻害できていたとは思えないけれど、
それでも素顔ではなかったのだろう。
目の色を初めてみたと言われ、ものすごく恥ずかしくなった。
俺、ロージーの素顔を見れるのは俺だけなんて思って喜んでたのに、
ロージーには素顔を見せもせずに告白しようとしてたのか?
いや、ありえないだろう。
ロージーが気を遣って聞かないでくれてたとしても、
それだけ心に距離があったってことだよな。
もしロージーが俺のことを好きで、独占したいって思ってたなら聞いてたと思う。
そして、自分には素顔を見せてほしいと願ったはずだ。
それが無かったってことは、今俺が告白してもうまくいくはずがない。
綺麗な景色を見て、ゆっくり話して、ロージーに告白するつもりだった。
できれば婚約を申し込んで、俺のものにしてしまいたかった。
だけど、俺はまだスタート地点にも立っていなかった。
まずは素顔を見せて、俺のことをちゃんと見てもらって、それからだ。
来週には帰国するというのに。
ようやく始まるところだったなんて。




