愛が重すぎる義弟は王子でした。私にキスした領主の息子は家ごと取り潰し〜堕胎薬を盛られ王宮を追われた母を救った父が、私たちを王族に戻した結果〜
再婚した夫の娘と、私の息子が愛し合ってるらしい。
喧嘩せずに仲良くなってくれたらいいと思っていたけど、そこまで仲良くならなくても良かったのに。
だって、多分あなたたち姉弟だから——。
夫のエドガーも、私の息子のカイルの父親が娘のリシェと同じだと、見ていたから知ってるはずなのに——。
◆◇◆
父の再婚で私に母と弟が出来た。
父エドガー・アルヴェは行商人で、私も一緒に旅に連れて行かれてたけど、再婚を機に店を持って小さな街に定住した。
私リシェ・アルヴェは転生してから10歳にして初めて教会の学校に通うことになったが、9歳の弟カイル・アルヴェも教会の学校に通うのは初めてなのだと言う。
一体どんな生活を送って来たのだろうと思ったら、実は王子だった。
母セレナ・アルヴェは、本名をセレナ・ローゼンベルクと言って、隣国のヴァルディア王国の公爵令嬢で、第二王子だった頃の現国王の恋人だった。
第一王子が亡くなって、第二王子が国を継ぐ事になり捨てられたけど、お腹にはすでにカイルがいた。
政争の種になるからとお腹の子を殺されそうになって、必死で逃げたらしい。
——そんな事を母セレナが、私に話してくれたのは、私が15歳になって、母が急な病で遠くへ療養に行くからだ。
“カイルに何かあったらお願い”と姉の私に託したんだと思う。
でも、私はこの秘密を抱えてカイルにどう接すればいいんだろう?
そう思いながら、お父さんがお母さんを療養先に送って行って留守の間、カイルと二人で店番をしていたら、領主の息子が店にやってきた。
ここは、お父さんの伝手でかなり高級な魔道具を扱っていて客単価が高く、注文を受けて貴族の屋敷に届けに行くルートが確立しているような店だった。
だから、客は日に数人の事もあるけど、領主の息子なんて言う身分の高い方もたまにいらっしゃる。
「リシェ、今日もおすすめを教えてくれ」
いつものように領主の息子は、私にねっとりした視線を送ってくる。
両親がいないこんな日にルーカス様が来るなんて。
「いらっしゃいませ、ルーカス様。素敵な宝石のついた魔法の護符が入荷したんですよ。ルーカス様になら黒蛋白石のついた物がおすすめですけど、他もご覧になりますか?」
嫌な気持ちを隠して精一杯笑顔を作る。
「見せてくれ」
そう言ってルーカス様は私の腰に手を回す。
いつもはお父さんとお母さんがいるからこんなに露骨なことはしないのに。
ゾッと背中に悪寒が走る。
商品の説明をして、相槌を打たれる度に首筋に息が掛かって気持ち悪い。
カイルが鋭い目つきでルーカス様を睨んでいるのが目の端に見えた。
カイルを怒らせちゃいけないと思った。
どんな騒ぎになるか……。
私はルーカス様の事を全然嫌じゃないと言う様子で接客する。
むしろ、嬉しいくらいだと自分に言い聞かせる。
すごく嫌で泣きたいけど、店を守れるのは私だけだから——。
でも、それがいけなかったんだと思う。
品物を買ってルーカス様に渡すと、ルーカス様が私の頬にキスした。
「リシェにそんな情熱的に見つめられると思ってなかった。今日は来て良かった。愛してるよ」
私があまりの出来事に唖然としていると、カイルがルーカス様に飛びかかっていた。
目の前で、ルーカス様の顔から血が流れていく。
この店を構えているのは、倉庫に置いても高級品に泥棒は来るから、街のギルドに守ってもらう盗難防止が目的だった。
でも、お父さん自体が剣の腕がやたらと強かったし、その父に剣を習ったカイルもかなり強かった。
手加減なしでルーカス様を殴っていたら、死んでしまうかも。
「カイル、やめて」
「リシェ! こいつはリシェに酷い事をしたんだぞ!? なんで庇うんだ!?」
領主の息子に怪我させたら、させた相手が捕まって罰せられるのに、止めるのは当たり前でしょう!
せっかく私が我慢してた事が全部無駄になる!
私はルーカス様に駆け寄った。
ルーカス様は、怒りで震えている。
「ルーカス様、弟が申し訳ありません。弟には私もルーカス様を愛していると言って聞かせますから、どうか、今回だけは許してください」
こめかみが切れて、口からも鼻からも血を流す。
領主の息子を、こんな状態にして許して貰えるのかは分からないけど、私はハンカチで血を優しく拭った。
「リシェも俺を愛してるんだね。それが分かっただけで十分だ。こんな危険な弟の元には残して置けない。俺の屋敷へすぐに来てくれたら、今回だけは許そう」
嫌だ、行きたくない!
「……嬉しいです、ルーカス様。でも、屋敷には父に報告してから行きますから、少し待っていて下さい」
私は震えながら言った。
納得してくれたルーカス様は、カイルを睨みながら、今度は私の唇に何度も何度もキスして帰って行った。
初めてのキスだった。
さっきより、落ち着いた様子のカイルだったけど、指先が怒りに震えていた。
「ごめん、リシェ」
「馬鹿、カイル」
あんな約束をしてしまって、どうしたらいいんだろう……。
カイルを私と同じ平民だと思っていた時には、横暴な領主の息子を殴っても嬉しいと思ったと思う。
けど、カイルが王子だと知ってしまうと、軽率な行動に怒りが湧く。
でも、ルーカス様がカイルを許してくれた……。
ちゃんと守れた。
「なんでか知らないけど、どうしても我慢できなくなって……」
カイルは後悔に震えていた。
私はハッとする。
ルーカス様に売った魔法の護符は黒蛋白石のものだった。
黒蛋白石——ブラックオパールの石言葉は「強欲」「内に秘めた情熱」「カリスマ」「願望達成」。
この力がルーカス様の欲望と結びついて、カイルを動かしたなら……。
うちで扱う商品がただのお守りじゃないのは知っていたのに。
ルーカス様と黒蛋白石の相性が良すぎたのかもしれない。
「……悪いのは、私かも……。ごめんなさい、カイル……」
お母さんが病気で、カイルが王子様で……カイルとずっと一緒にいたかったけど……。
王子様のカイルに危ないことはさせられないもの、私がルーカス様のところに行けばいいだけ。
この店だけは私が守らないといけない。
◆◇◆
店番を終えて店に併設されてる住居部分に戻る。
あれからお客が来なくて良かった。
二人とも話す元気もなかった。
昨日は、お母さんがいない初めての日で、張り切って夕食を作ったのに、今日はそんな気力はない。
カイルと二人で不安だったけど、楽しみに思っていた事もたくさんあったのに。
「今夜、お父さんが帰ってきたら、話して領主様の屋敷に行くわ」
「ダメだよ、俺のせいだ! 行く事ないよ!」
カイルが弾かれたように顔を上げた。
「……カイルが黒蛋白石の魔法の護符に操られてしまったなら、ルーカス様の願いは強力すぎるから、きっと止められないわ。その場を収めるために、私も愛してるって言ってしまったし、嘘だと言ったらどんな罰を受けるか……今更取り消せない……」
ルーカス様の唇が触れた私の唇も、今更どうにも出来ない。
唇に手を置いて思い出したら、涙が溢れてきた。
「リシェ……」
カイルに罪悪感を持たせたくないのに、涙が止められなくて背中を向けた。
私がルーカス様に黒蛋白石の魔法の護符なんて勧めたのが良くなかったのに。
不意に背中から抱きしめられた。
「リシェのことを一番愛してるのは俺だよ。リシェに近づく奴は殴りたいと思っていたから、黒蛋白石に引っ張られたんだ。リシェのせいじゃない」
カイルは弟なのに。
私は、ずっとそう言い聞かせてたのに。
お母さんに王子だと言われて、カイルには姉と思われていなかったなんて——。
——ルーカス様の来る前の日の夜。
「リシェ、母さんは継母だけど、リシェに優しかったじゃないか。療養に行っていないのにそんな冷静なのって冷たすぎるよ」
カイルが姉の私に抗議する。
「すぐ帰って来るって言ってたし、泣くほどのことじゃないでしょう?」
あなたの出自の秘密を聞いて、寂しくて泣くどころじゃなくなったのよ。
それに、お母さんは「本当に元公爵令嬢なの!?」ってほどよく働いて、私とカイルは普段から伸び伸びと過ごさせてもらってた。
「夕食の準備に片付けと、店の売り上げも確認して、明日の準備もして……カイルだって泣いてる暇ないわよ。お母さんがいない間に店を潰すわけにはいかないんだから、ちゃんと手伝って」
カイルがすごく嫌そうな顔をしてる。
「何よ、泣いてるだけで済ますつもりだったの?」
「そんなわけないだろう、リシェが母さんみたいな事を言うからだよ」
「お母さんが恋しかったんでしょう? 私がお母さんみたいに見えるなんて良いじゃない! それから、カイルより私の方が一歳上なんだからお姉さんって呼びなさい」
「一歳だけだろ……それに、リシェは全然お姉さんぽくないし」
「ぽいとかぽくないじゃなくて、実際に一歳上ならお姉さんなの! 血は繋がってないけど、似てるって言われて姉弟には見られてるんだからね」
「リシェと姉弟なんて嫌だ……」
「なんでよ? もう五年も姉やってるんだから、今更言っても遅いわよ。さあ、カイル、夕食の準備を手伝って!」
「……わかったよ、姉さん……」
うーん、カイルって普通の弟って感じで、王子様感がやっぱりないわ。
王子様ならもっと頼りになってくれないと。
そして、翌日はカイルと二人で店番をした。
店番はいつもしてるけど、お父さんとお母さんのどっちかはいつもそばにいてくれたから、子供だけでの店番は昨日に続いて二回目だった。
「ちょっと緊張するわね、カイル」
私が話しかけると、カイルはダラっとだらしなく椅子に寄りかかっていた。
「そうか……? ほとんど客が来なくて退屈だ」
「もう、せめて、ちゃんと座っててよ」
確かに高級な魔道具の店に客は来ないのだ。
「そんな姿、お父さんとお母さんに見られたら怒られるわよ」
どっちも礼儀作法には厳しかった。
私も礼儀作法は叩き込まれたけど、カイルが王子様だから、そのついでだったのかな……?
剣の腕に礼儀作法……お父さんもカイルの出自を知っていて、王子に復帰させるつもりがある……?
それに、王子様に剣や礼儀作法を教えられるお父さんって何なの?
なんだか、色々とわからなくなってきた。
「俺はもっとお客が来る店をやりたいなぁ。リシェも一緒に。なんの店がいい、リシェ?」
カイルは呑気な事を言っている。
「無理よ……」
カイルと二人でお店が出来たら楽しそうだけど……王子様なんだもん。
そんな時に、ルーカス様が来た。
平和な姉弟の日々は終わったのだった。
◆◇◆
深夜にお父さんが帰って来る。
「明日も店があるんだ、待たずに寝ていて良かったんだぞ」
「お父さんのために待ってたんじゃないの……」
私は領主の息子との事をお父さんに話した。
「そうか……」
深刻そうにお父さんが一言言って黙り込んだ。
「父さん、俺はリシェを愛してる、リシェと結婚するつもりだったんだ。領主の息子の所になんて行かせない」
カイルがお父さんに言う。
私は顔が赤くなって来るのが分かった。
カイルはずっと私の手を握って離さないから、お父さんにも異様さは伝わっていたと思うけど、そんなはっきり言うなんて……。
「カイルはそうだろうな」
お父さんが一言言うけど、その言い方は、カイルの気持ちを前から知っていたみたいだ……。
「リシェ、お前の気持ちはどうなんだ」
お父さんに真っ直ぐに聞かれる。
カイルも真剣に私を見つめているけど、親の前で言うのが恥ずかしすぎる。
「だって、カイルは弟なのに……」
「俺よりルーカスがいいのか?」
カイルが言うけど。
「あんな人と比べてマシって言われて嬉しいの、カイル?」
「でも、それは、リシェが俺を、弟じゃないと見てるって事だろう。そこが一番大事だ」
「私がカイルを選ばないのは、弟ってだけじゃないから……」
カイルの目に明らかに落胆が生まれた。
お父さんも一瞬動揺を見せた。
やっぱり、お父さんはカイルが王子様だって知ってる。
「なんだよ! 俺を選ばない理由って、どんな理由だよ!」
「落ち着け、カイル。リシェも、その理由なら、なんの問題もない。ただ、お前次第だ」
問題ないって言われても……。
「朝まで考えさせて……」
お父さんは、納得して部屋に戻ってくれたけど。
「カイル、部屋に行くから、手を離して」
「姉さんと一緒に寝る。今は、まだ弟なんだろう」
弟だって言われたら、そうだけど……。
一年くらい前までは、カイルは姉の私の部屋で一緒に寝ていることが多かった。
一緒に寝なくなったのは、身長が伸びてベッドが狭くなったと言う物理的なものだ。
「狭いよ、カイル」
「こうすればいいよ、姉さん」
カイルの腕の中に私はすっぽり収まっていた。
姉さんって、ずっと呼べって言っても呼ばなかったのに……。
「もう、絶対に弟のままでいてもらうから」
だけど……。
首筋にかかるカイルの息が全然嫌じゃないと思った。
◆◇◆
翌朝、カイルが先に起きて私を見ていた。
「父さんが、今日は店を休むから、まだ寝てていいってさ」
「お、お父さんがきたの!?」
カァっと顔が熱くなる。
一緒に寝てるところを見られたなんて……。
私はカイルに背を向けて、毛布で顔を隠した。
カイルはその様子に察したらしくニヤッと満足そうに私の背中に顔を埋めた。
弟なら一緒に寝てるところをお父さんに見られても平気だけど、弟だと思えない男と一緒に寝てるところをお父さんに見られたら……。
「カ、カイルは弟だもん」
「じゃあ、いつもみたいに父さんの前で抱きついてよ」
カイルといるとドキドキする。
もう弟だと思っていた頃とは、自分の身体の反応が全然違う。
カイルの身体に触れるとキュッと胸が締め付けられて恥ずかしくなる。
一晩でこんなにも変わってしまった。
カイルが私にキスした。
「アイツより先にリシェにキスしたかった」
お父さんが朝食を作っていてくれた。
カイルは、私がカイルと結婚する事を承諾したと伝えた。
私は恥ずかしくて、うなづいただけだった。
「じゃあ、リシェがこの国、ルーメリア王国の王女だと、領主の息子に伝えないとな。不敬罪で王宮の騎士を捕まえに向かわせるか」
「ええ!? リシェは王女様だったの!? 俺と身分が違い過ぎる!」
「王子様なのはカイルでしょう!? なんで私まで!?」
私も驚いた。
「は!? 俺が王子!? そんなわけないだろう!?」
カイルが抗議する。
どうなってるの!?
——店を休んでギルドに任せて、私たち一家三人はお父さんの操る馬車で王都に向かった。
カイルと馬車の荷台に乗って移動するなんて、いつものことなのに、お父さんから明かされた出自に私もカイルも戸惑って口数が少なくなってた。
お父さんはエドガー・アルヴェ、アルヴェ公爵家の嫡男だった。
ルーメニア王国の第一王女だったヴィオレッタ・ルーメリア・ディ・アシュクロフトとは恋人同士だった。
けれど、ヴィオレッタ王女が王女を産んで亡くなってしまい、産まれたばかりの王女を政争の種にされるのを恐れて、お父さんは王女を連れて行商人になって逃げたらしい。
その王女が私、リシェ・アルヴェで、本当の名前はリシェ・ルーメリア・アルセインというらしい。
そして、一緒に馬車の荷台にいるのは弟のカイル・アルヴェで、本当の名前はカイル・ヴァルディアと言って隣国のヴァルディア王国の王子らしい。
カイルが荷台の上で私に近づいてくる。
「俺も王子なら、王女のリシェと身分違いじゃないんだよな……?」
「ん? そうなのかも……」
昨日の夜に私が、カイルを選ばないのは弟ってだけじゃなく王子だからって意味のことを言ったら、『問題ない』ってお父さんが言ったのは、わたしが王女だったから?
カイルが私を抱きしめた。
「リシェとこうしても問題ないんだよな……」
「うん……」
いつもこうやって、くっついて荷台に乗って寝てしまっていたのに、今は色々変わってしまった。
「アルヴェ公爵家って有名な家と同じ苗字になったって、父さんが出来た時に嬉しかったのに、まさか、本当に公爵家の人だったなんて……」
「うん……」
カイルと違って、エドガー・アルヴェは私にとっては実の父だ。
なのに、カイルと同じように戸惑っている。
そして、王都のそのアルヴェ公爵家に着いた。
「兄上!」
お父さんが、立派な身なりの公爵様にそう呼ばれていた。
「これが例の子たちですか……」
公爵様は私とカイルを見て言った。
「わかりました。私が王宮に一緒に行きます。兄上は宰相のルーファス・エインズには会いたくないでしょうからね」
公爵様がそう言って私たちを王宮に連れて行く準備を進める。
「そういうわけじゃないが。今更、俺は王宮に顔を出せるような身分じゃないだけだ」
お父さんは平民の身なりをしているけど、公爵様に劣っているようには見えない。
ただ、ここは窮屈そうだ。
店にいる時の方が生き生きしている。
私とカイルは貴族のような服を着せられて、アルヴェ公爵様に王宮に連れて行かれる。
これが私なのかと鏡の前で戸惑っていると、
「やっぱり、リシェは綺麗だ」
カイルが私を見て言う。
やっぱりって何!?
あんまり驚いて、カイルもカッコ良いって言いそびれてしまった……。
——王宮に着いた。
「……ヴィオレッタ様……!」
宰相のルーファス・エインズが私を見て小さくつぶやいた。
涙声だったような気がする。
ルーファス様は元は私の母のヴィオレッタ王女の側近を勤めた文官だったらしく、母をよく知っていた。
それでなのか、なんの疑いもなく、私はルーメニア王国の第一王女に復帰していた。
カイルの方は私よりは複雑だったけど、隣国のヴァルディア王国に使者を送るとすぐに王子としての迎えがやって来る事になった。
領主の息子のルーカス様はその日のうちに王宮の兵士に捕えられて、家ごと取り潰されるという処罰が下った。
兵士に連れられたルーカス様と廊下ですれ違う。
「リシェ、なんて美しいんだ!」
立場が分かっているのか分かっていないのか、ドレス姿の私に叫ぶ。
カイルが私を隠すように背を向けて立った。
ルーカス様がカイルも一緒に、私たちが王族になった事に青ざめて震えた。
けれど、今では、私たちには地方の領主の息子のことなどなんの興味もなくなっていた。
そんなことより、私たちは離れて暮らす事になってしまったから——。
ルーメニア王国の王女の私と、隣国のヴァルディア王国の王子のカイル。
王宮でもずっと離れた部屋に入れられて、そばに行ける時もカイルの隣に座ろうとしたら宰相のルーファスに注意された。
カイルと会えないままに、侍女たちの不穏な噂を聞いてしまう。
「ヴィオレッタ王女は隣国の亡くなった第一王子ザイラス様と噂があった方よね?」
「カイル様のお母様はヴァルディア王国の公爵令嬢で第一王子が亡くなった後に婚約者だった第二王子から婚約破棄されているのよね?」
「まさかとは思うけど、リシェ王女とカイル王子って……」
胸がキュッと締め付けられた。
ただの根も葉もない噂なのに……。
王宮ってきっとこんな場所なんだわ……。
そんな日々の後にヴァルディア王国からの迎えの使者が来て、やっとカイルのそばに行く事を許された。
「カイル……!」
私が真っ先に抱きつくと、カイルは意外そうに驚いてから、ギュッと抱きしめてくれた。
「必ず迎えに来るから、待っててリシェ!」
「うん、カイル。大好きよ」
カイルが真っ赤になっていた。
「俺の方がずっとリシェを大好きで、愛してるから。何があっても」
そう言ってカイルが私に長いキスをする。
カイルが馬車に乗り込むと、すぐに馬が走り出した。
最後まで離さなかった手が、指の一本一本外れていって、最後に人差し指の先が触れ合って離れた。
指先からカイルの温もりが消えた瞬間に涙が溢れ出した。
本当に大好きだったの。
きっと、初めて会った10歳の時から、離れられないくらい大好きで、愛してた。
……私とカイルのお父さんは別の人で、また、会えるのよね?
『俺の方がずっとリシェを大好きで、愛してるから——』
宰相のルーファスが私の肩を抱いて支えてくれた。
『何があっても——』
私とカイルは、お別れした。
◆◇◆
夫エドガーからの急な手紙が届く。
『リシェとカイルを王族に復帰させた』
「なんてこと!?」
療養先のベッドの上で、私、セレナ・アルヴェは叫んでしまう。
領主の息子のルーカスがリシェに悪さをしているのは知っていたから目を光らせていたけど、療養中にもやってくるなんて……。
想定していなかったのは迂闊だった。
黒蛋白石の魔法の護符に感情を増幅されたと言うのはありそうだけど、そうでなくてもリシェのことでは周りが見えなくなる危うさが息子のカイルにはあった。
そこまで好きなら、なんとしても一緒にさせてやりたいと応援していたけど……。
王族に復帰したら、無理かもしれない。
だって、あなたたちが姉弟なのは、調べたらすぐにバレてしまう。
平民なら、そこまで血筋を見られる事はなかったのに……。
エドガーはカイルの父親が誰なのか、見ていたから知っているのに、何故、王族に復帰なんてさせたの!?
地方領主の息子のことくらい、実家の公爵家に頼めばなんとかできたはずよ。
——十五年前。
私は、隣国のヴァルディア王国の公爵令嬢セレナ・ローゼンベルクで、国の第二王子アルヴィスの恋人だった。
恋人と言っても政略結婚で決められた婚約者だっただけで、4歳年上のアルヴィスは16歳の私の恋人ごっこによく付き合ってくれたと思う。
けれど、ある日、アルヴィスから手紙が届いた。
『君の本当の恋人になりたい』
そう書かれた手紙に、わたしは胸を高鳴らせて、呼び出された場所に向かった。
王宮の外れの普段は使われていない部屋。
陽が落ちて真っ暗になった部屋で私はアルヴィスを待ち続けていた。
そして、やっと来たアルヴィスは黙って私を抱きしめてキスしてくれた。
本当の恋人になれる事に私はドキドキしていた。
触れた指先がいつもよりも細く感じるのは、いつもよりも近づいているからだろうか?
でも、これが本当のアルヴィスなんだ……。
珍しく耳に付けている黒い黒蛋白石のピアスが月の光を反射した。
「ありがとう、セレナ……」
終わった後で声が聞こえた。
アルヴィスに似ているけど、アルヴィスじゃない声……。
私の心臓が止まる。
ランプに火が灯されて、顔が浮かび上がった。
ヴァルディア王国の第一王子、ザイラス・ヴァルディアの顔が……。
「俺は後ろ盾が弱いから第一王子でも、王太子にはなれないと思っていたんだ。君のローゼンベルク公爵家が協力してくれるなら安心だ」
満足そうに笑って、私にキスする。
私は事態がやっと飲み込めて、身体が震え出した。
だって、アルヴィスから手紙が来たのに……。
あれはアルヴィスじゃなくて、最初からザイラスが仕組んだものだったの……!
次に、自分の浅はかさに血の気が引いた。
震えが止まらず、頭が真っ白になる。
「あははは、もう遅いよ。君は俺の子供を身籠った後だし、アルヴィスは君の事を軽蔑するだろう!」
楽しそうにザイラスが笑う。
子供なんて……!
いないとは言えない。
アルヴィスがもう私を愛してくれないのは本当だろう。
ザイラスは勝ち誇ったように笑い。
私は耳を塞いで目を瞑った。
ドサッ。
不意にザイラスの身体がベッドの上に倒れてきた。
私は耳を塞いだままに顔を上げた。
——男が立っていた。
真っ直ぐ構えた剣の先には真っ赤な血がべっとりと付いていた。
耳を塞いでいた手を離しても、ザイラスの不快な笑い声は聞こえない。
かわりに聞こえてきたのは——。
「何人に同じ事をすれば気が済むんだ……」
ベッドに倒れたザイラスから溢れる血が、倒れた勢いで私の顔にかかっていた。
息をしていないザイラスよりも、剣を構えた男に目が行った。
僅かなランプの灯りに照らされて目だけがギラギラと鋭く光っている。
幼さの残る顔が同じ歳くらいの少年に見えた。
ザイラスを刺した剣を鞘に収めると、少年は暗闇の中に消えていった。
何故、ザイラスを刺したのか? どこから来たのか?
ただ、「ヴィオレッタ……」と、震える声で、そんな呟きを聞いた気がした——。
◆◇◆
翌朝、私は王宮の見知らぬベッドで目を覚ました。
何故、ここにいるのかわからない。
ただ、覚えていることは、きっと夢だったんだと思った。
ザイラスに呼び出されたことも、ザイラスが殺されたことも、全部——。
でも、婚約者の第二王子のアルヴィスが来て、
「君とは結婚できない。婚約は破棄する」
そう言っただけで消えてしまった。
それから、第一王子のザイラス様の葬儀が行われた。
やっぱり、あれは夢じゃなかったのか。
私は事情を聞かれて、犯人を覚えていないと言った。
ザイラス様に呼び出された経緯については、一緒に泣いてくれる人もいた。
噂では最近、出産後に亡くなった隣国の王女を身籠らせたのもザイラスだったらしい。
私は少年の呟きを思い出す。
『ヴィオレッタ……』
隣国の王女の名前だ……。
身籠もって……。
吐き気がする。
『もう遅いよ。君は俺の子供を身籠った後だし』
ザイラスの笑い声が耳から離れない。
まさか、そんなことあるわけない……。
お腹に手を当ててみる。
何もないただ平らなだけだ。
同じじゃない。
ヴィオレッタ王女と、私は違う——。
けれど、私のお腹に子供がいる事がわかると同情してくれた人たちの顔が暗くなる。
私はお腹の子と一緒に取り残された。
亡くなった第一王子の子を宿した私は、この国では厄介な存在になった。
静かな部屋でただ一人過ごす。
監禁されているわけじゃないけど、似たようなものだった。
やる事がないからお腹を撫でてみる。
命が育っている気がした。
食事を運んできた侍女が耳元でそっと囁く。
「堕胎薬が入っています」
私は具合が悪いと手をつけなかった。
実際に食べられない事は多くあった。
お腹の子が狙われるだろうことは予想できていた。
ザイラスがいない以上は、無事に産ませる利点が王家には何もない。
私自身が、早く処分して欲しいと願っていたのに。
侍女から堕胎薬の事を聞かされて、背筋が凍った。
この子を失いたくないと思った。
嫌だったのに。
もう、この子しかいない——。
侍女に頼んで逃がしてもらう。
バレたら、この侍女もタダでは済まない。
それでも、王宮の外で仕官していた騎士を見つけてきて、私を安全なところまで送る手配をしてくれた。
王子や公爵家で、特に優秀な騎士たちを見ていた私には、この仕官出来ずにいた騎士ロイドは頼りなく見えた。
それでも、このロイドのおかげで小さな街の片隅で無事に出産する事が出来た。
侍女が用意してくれた中に、お金になりそうな物があったのも良かった。
小さな私の赤ちゃんにやっと会えて涙が溢れた。
「カイル……」
自然に名前が浮かんで、抱きしめていた。
小さな街の狭い部屋で、カイルに会えて幸せだった——。
でも、それから、私はどうやって生きていくつもりだったんだろう。
お金もなくなって、乳飲子を抱えて働ける場所なんてなかった。
唯一出来る仕事は娼館に行く事——。
ロイドだけの方が、マシだった。
最初の夜に私が泣いたからかもしれない。
ロイドはずっと優しかったのに、私が愛する事が出来なかった。
カイルのいい父親で、カイルも本当の父親だと思って懐いていたのに。
私が、どうしても、好きになれなかった。
王宮からの追手に怯えて、転々とする暮らしをさせているから、仕事も収入も安定しない。
それでも、私とカイルを見捨てないでくれる。
だから、殴られるくらいは仕方がない。
私は、何も出来なくて、ロイドに頼ることしか出来ないのに、いつまでも公爵令嬢だった事を捨てられない。
平民として生きる覚悟なんて全然できていなかった——。
「母さん、大丈夫」
俯いて歩く私を心配そうにカイルが見上げる。
ロイドに殴られた右の頬が少し腫れている。
でも、食料の買物はしなければいけない。
これもロイドが稼いで来てくれたお金だ。
最近は、9歳になったばかりのカイルにも、ロイドの暴力は隠して置けなくなってしまった。
「父さんなんか、嫌いだ……」
あんなに懐いていたカイルもこんな言葉を口にするようになった。
「お父さん! 靴を買ってくれてありがとう!」
カイルと同じ年頃の女の子が、屈託のない笑顔を父親に向けていた。
カイルが悲しそうに親子を見つめて、キュッと胸が痛んだ。
父親が優しい笑顔を娘に向けている——。
——あの、剣を突き付けてザイラスを睨んでいたのと同じ顔をしている。
ただ、表情が違うだけ。
あの少年が、こんな幸せになれるんだ——。
かつての少年と目が合った。
私は目を逸らした。
右の頬を押さえて見られないようにした。
「セレナ・ローゼンベルク……」
彼はかつての私の名を呼んで、驚いていた。
カイルとリシェにお小遣いを渡して遊ばせる。
カイルは私と彼を見て行くのをためらったけど、リシェの明るい笑顔に引っ張られていった。
彼の名前はエドガー・アルヴェ。
ヴィオレッタ王女の婚約者がそんな名前だと、王宮の噂で聞いた。
噂を聞いた時から、多分、年恰好から言ってザイラスを刺した少年は彼だと私は確信していた。
「悪かった。あの後に、君がどうなるか、もっと気を配るべきだった……。俺があの子の父親を殺したのに……」
その言葉に、彼がいい人なんだと思った。
恋人の仇を取る人だもの、悪い人のはずがない。
「……カイルの……あの子の父親が生きてる方が、もっと悲惨だったから、むしろ感謝してるわ。もうカイルは私だけの子なのよ」
エドガーは複雑な顔で笑ったけど、
「それでも、今の君の状況は俺の責任だ」
そう言って私の右頬を触った。
「……あの人は悪い人じゃないの。私の事情に巻き込んで、ずっと助けてくれたんだもの」
心からそう思っているはずなのに、涙が溢れてとまらなかった。
「そいつを解放してやろう。君とカイルは俺が守るから、もう泣かなくていい」
エドガーが私の背中を抱いてくれた。
ロイドは私とカイルを手放すことに激しく抵抗したけど、エドガーに殴りかかって、あっという間に倒されると、観念した。
エドガーにかなりの額のお金を渡されて去っていく、ロイドの足取りはとても軽く見えた。
エドガーが私とカイルをリシェに紹介すると、天使の微笑みを浮かべて、
「私、お母さんと弟が欲しかったの」
と、受け入れてくれた。
私は一瞬でリシェの虜になったけど、その前に一緒に遊んでいたカイルはとっくにリシェにメロメロになっていた。
リシェはカイルより一歳年上で、ヴィオレッタ王女の命日が誕生日だった。
この子もザイラスの娘なのかと思ったら胸が痛んだ。
エドガーはどれほどヴィオレッタ王女を愛していたのか、リシェの笑顔が教えてくれる——。
◆◇◆
療養先にエドガーが迎えに来る。
そんなに重い病気じゃなかったから、すぐに帰れる予定だったのに……全てが変わってしまった。
「エドガー! どうして、リシェとカイルの正体を明かして、王族に復帰なんかさせたの!?」
私は帰りの馬車の手綱を握るエドガーの横で責め立てた。
「二人が愛し合ってる事は知っていたでしょう? 王族に戻ったら血筋を調べられて、姉弟だってバレちゃうから、結婚なんてできなくなる……!」
「それはないから大丈夫だ、セレナ」
二人は結婚したいって言い出すことはないって意味?
だって、カイルはあんなにリシェが好きなのに……。
「……リシェが違っても、カイルは絶対に諦めないわよ……」
私が俯くと、エドガーがため息をついた。
「無理もないが、セレナ、君は誤解している」
「え?」
誤解も何もないと思うけど。
「確かに、ヴィオレッタはザイラスに脅されて関係を持ったが、リシェの父親はザイラスじゃない」
「え!?」
そんなのおかしい。
「リシェはエドガー、あなたの子なの? それでヴィオレッタ王女が襲われたからザイラスを殺したの?」
「違う。リシェは俺の子じゃない」
じゃあ、誰の子なの?
「リシェは俺の婚約者だったヴィオレッタ王女と宰相のルーファス・エインズ——当時はまだ、ヴィオレッタの側近の文官だったが——二人の子供だ」
「え……?」
「二人は俺の目を盗んで愛し合っていたんだ。それをザイラスに知られて脅され、俺にもルーファスにも知らせずに、ザイラスと関係を持ったヴィオレッタは心を病んでしまった。娘を産むと、俺とルーファスに申し訳ないと、自ら命を絶ったんだ。表面的には俺の子供で出産時に亡くなった事になっているけど」
……。
そんな事が……。
エドガーの語る真相に絶句してしまう。
ルーメニア王家はこの真相を知っているんだ……。
なら、王族に復帰しても、カイルとリシェの間に血のつながりはないし、なんの問題もないけど。
「王族に復帰させるのが良いことだとは思わないわ……」
私は王家の人と関わって、悪いことの方が多かった気がする。
「…王族に復帰させなくても、エドガー、あなたなら、解決させられたでしょう?」
私が聞くとエドガーは身体を一瞬、震わせる。
なにかまずい事を隠してる?
「もう、あの子達も15歳だし、親元を離れてもいいと思ったんだ。そうじゃないと、君と二人きりになれないし……」
「え?」
「療養所に送る時に君と二人きりで幸せだったから。好きな人と二人になれるのってこんなに幸せなのかと思って……」
それは……私も、本当に好きになったのはエドガーが初めてで、二人きりになかなかなれなくて寂しかったけど……。
「エドガーの馬鹿。私が病気になったから思いついたみたいに言わないでよ!」
私がエドガーの腕に抱きつくと、少しだけ手綱が揺れた。
真っ直ぐ走る馬を確認してエドガーが私にキスした。
家に着くまでに、何度も何度も。
それでも、帰った家にカイルとリシェが居ないのは寂しかった。
◆◇◆
カイルと別れて一年後——。
私はヴァルディア王国に招かれていた。
私を招いて開かれた夜会で、初めて出会った王女と王子は恋に落ちる。
お似合いの二人をみんなが見ていた。
ただ、二人は話す。
「王宮って退屈」
「父さんと母さんは取り潰されたルーカスの領地を任されて自由にやってるのに、子供の俺達が不自由なんて不公平だよな?」
「じゃあ、二人で抜け出す?」
そんな事を言っても、ヴァルディア王国にもルーメニアにも後継がいないのだ。
ヴァルディア王国の第二王子から国王になったアルヴィス様には子供がいない。
ルーメニア王国でもヴィオレッタ王女が産んだ子供以外は王族の直系の子孫が途絶えている。
そんなわけでヴァルディア王国もルーメニア王国も現王子と現王女を手放すことは出来なかった。
しかし、親世代の事もあり、私たち二人はルーメニア王国で18歳と17歳で結婚した。
若いアルヴィス王が統治している間に、私とカイルの子が養子になり王国を継ぐという話になっていた。
カイルのお父さんは噂通り第一王子のザイラスだった。
どこまで噂が本当の事なのか分からないけど、お母さんはとても大変な思いをしたんだと思う。
それに比べたら、私が、ルーカスに初めてのキスを奪われたくらいどうってことないんだ……。
「そんな事ないよ。リシェのキスは俺のものだったんだ、絶対にルーカスは許さない」
そう言ってカイルは私にキスする。
そのルーカスは平民になって何処にいるかも分からないし、許すも許さないもないんだけど。
カイルのキスはいつも気持ちがこもっていて、私を深く安心させてくれる。
初めてのキスが違う人だったから、こんなにもカイルのキスが嬉しいのかもしれない。
キスしながらいつも二人は笑顔になる。
私の父はやっぱりエドガーだったけど、私の母のヴィオレッタ王女の死の原因にはザイラスが関わっているらしかった。
詳しくは宰相のルーファスから語らないようにとみんなが言われているらしく、教えてもらえないけど。
ルーファスは、ヴィオレッタ王女の側近だったから、いまだに忠誠を尽くしているのかもしれない。
私にとても優しいの。
親世代の元凶はザイラスで、拗れたものは戻さないといけない。
カイルは父親についてショックを受けていたけど、育ての父の私のお父さんエドガーの方に似てると思う。
「カイルは、お父さんに似てるから安心するのよ」
そう言ったら、カイルはお父さんに負けないと言って、立ち直ったみたい。
私のお父さんのエドガーは、本当の母が亡くなってからずっと私を育ててくれた。
今考えると、行商の不安な日々もお父さんが一緒だからずっと安心だったの。
カイルと出会わなければ、私はお父さんと結婚するって思っていたかもしれないわ。
ルーメニア王国では、カイルは宰相のルーファスからお小言を言われることが多くて怒っていたけど、私の為に我慢してくれてる。
私から見ても、カイルはちょっとお小言を言いたくなるし、仕方ないとは思う。
それから、私は男の子、女の子、男の子の順番に子供を産んだけど、すごく恥ずかしかった。
それは領主となってたまに王宮にも遊びに来てくれる、お父さんとお母さんの子供たち——弟と妹たちと同じ順番だったから……。
「考えすぎじゃない?」
カイルは言うけれど……恥ずかしくなったんだもん。
その後で男の子、女の子、男の子と産んで、恥ずかしさは落ち着いて行った。
お父さんは魔道具屋を辞めてしまったけど、カイルに青いサファイアのお守りをくれた。
石言葉は「冷静」「誠実」「知性」「邪念を払う」
黒蛋白石に影響された事のあるカイルの気休めにはなっている。
義弟として出会ったカイルだけど、王子と王女になって——。
色々あったけど、私たちはずっと幸せです。
それは、お父さんとお母さんも同じで——。
カイルが「母さんより、リシェの方がずっと幸せになれるようにするよ」ってお父さんに対抗しています。
私はカイルが一番大好きだけど、お母さんは、どうなんだろう?
カイルはお父さんに負けている気がする。
だから、私がもっとカイルをずっと好きでいようと思う。
【終わり】




