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夫婦の日常

夫婦の日常 #7〜 選び方、進み方 〜

作者:
掲載日:2026/04/02

これでどうだ。


Enterボタンを押す。


またエラーか……。


「はぁ……。」


次の確認箇所は……。


「ねぇ、もうお昼だけど、お腹減らないの?」


「減らないよ。

今、それどころじゃないから。」


「今日は土曜日だよ。仕事するの?」


「……。」


今日は、休日。


でも、ここ1週間くらいまともに進まないこの案件を、

いい加減なんとかしたい。


集中したい。


「恵、買い物でもしてきていいよ。帽子欲しいって言ってたよね。

買いに行ってきたら?」


「行かない。掃除する。」


恵が急に立ち上がって、僕の方を避けるようにスタスタと通り過ぎる。


あ……。


「恵、先に昼ご飯食べようか。」


「わかった、今作るから。」


「ふぅ……。」


ブー、ブー。


あれ、スマホ鳴ってる。


「恵、スマホ……。」


僕が言い終える前に、恵はスマホに向かっていた。


「もしもし、あ、お疲れ様です。」


「はい。すいません、ありがとうございます。」

仕事先の人か。


「はい、今回は……お願いします。

私は、横で応援します。ははは……はい、ありがとうございます。

それじゃあ、また会社で。

お休みの日に、わざわざありがとうございました。失礼します。」


応援?

仕事だよな……。


誤魔化してる?


「恵、会社の人だよね?」


「うん。ちょっと私じゃできないとこあって。」


「横で応援しますって、ちょっとおかしくない?」


「あぁ、それは……」


「働いてるんだからさ、その言い方はよくないでしょ。」


「仲良い人だから、大丈夫だよ。」


「だいたいさ、わからないとこがあるなら、自分で調べればいいじゃん。

何がわからなかったの?」


あ、きついよな。


「……。」


自分を、止められなかったな……。

恵が黙ってしまった。


かと思ったら、黙ったままキッチンに向かっていく。


しばらくして、


恵がテーブルに、食事を並べ始めた。


「陽介、できたから食べよ。」


「……うん。」


食事を終えると、恵がコーヒーを淹れてくれた。


「さっきは、言い方がきつかったかもしれないけど、

俺は、応援するっていうのは、おかしいと思うけど……。」


「泳げない人がさ、水の入ってないプールで、

泳ぐ練習、一人でできると思う?」


プール?


「なんの話?」


「プールに水を入れる方法も、わからないよね。プールの人しか知らないし。」


「……。」


「あとは聞かないなら、自分で水入れるボタンがある部屋とか、

探す?とかかな。

少し、時間かかっちゃいそうだね。」


「そうだね。」


「水に入る前の準備運動始めるのも、気が早いみたいなとこだね。」


「……。」


「私は、水を貯めるとこまでは行きたいかなぁ。

自分でボタンを押すにしても、プールの人に押してもらうにしても。」


「仕事の話だよね?」


「んん……作業を横で見て、応援する。

それは、相手の負担になることなのかな?」


「いや……どうかな。」


「陽介だったら、プールで泳ぐ練習する時、どうやって泳ぐとこまで行く?」


「……考えてみるよ。」


「ふわぁ……。

すごい、眠くなっちゃった。」


「え?」


「少し、寝る。」

「掃除は?」


「後でする。おやすみなさい。」


そう言って、寝室に向かってしまった。


眠かったから、あんなこと言ったのか?


……そんなわけないか。


「はぁ……。」


水を入れる前に——


「前々回の資料、調べてみます。」


「時間かかりそうだけど、大丈夫?」


「はい、家でもできるので。」


——なぜか、昨日の会話が浮かぶ。


……。


もう時間、かけられないし。


トゥルルルー、トゥルルルー。


「あ、もしもし、お世話になってます。

お休みの日に申し訳ありません。……

実はですね、前回の作業で確認させていただきたい部分がありまして……。」


電話を切った後、寝室に様子を見に行くと、恵はすやすやと眠っていた。


「ふぅー、早かったなぁ……。」


もう少し、進めておこうかな。


しばらく作業に集中できた。

時間は、もう16時になるところか。


「寝すぎだね。」


まだぐっすり眠っている恵に、声をかける。


「恵ー、もう夕方になるよ。」


「んん……?

あ!

えー?掃除しなきゃいけないのにぃ。」


「手伝うよ。」


「もぅ、起こしてくれれば良かったのに。」


「恵、ありがとう。」


「何が?」


「掃除機かけるね。」


「ん、お願いします。

……あ!帽子は?」


「買いに行こうか。」


「やったぁーっ!」







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