第6話 勝ててしまった
コラプサーが沈黙したあと、
しばらく誰も動かなかった。
警戒解除の指示が出るまで、
第七特別部隊はその場で待機する。
「……終了確認」
霧島の淡々とした声。
「反応消失。
テストケース、クリア」
“テストケース”。
その言葉に、
悠真は小さく息を吐いた。
――実戦ではない。
そう言われている。
「帰るぞ」
葛城が、
いつもより軽い声で言った。
「怪我人なし。
……久々だな、こういうの」
冗談めかして笑うが、
その表情は少し硬い。
自分でも分かっているのだろう。
異常な結果だということを。
「ほら、言っただろ」
鷹宮が、
機嫌良さそうに言う。
「いけるって」
その“いける”の中に、
誰が含まれているのか。
悠真は、
聞かなかった。
帰還後/基地
帰投してからの流れは、
驚くほど事務的だった。
簡易検査。
ログ提出。
短い聞き取り。
どれも、
“問題なし”で終わる。
「久遠」
検査室を出たところで、
葛城が声をかけてきた。
「……大丈夫か」
その問いは、
身体ではなく、
もっと別のところを見ていた。
「はい。
今のところは」
「……そっか」
それ以上、
何も言わなかった。
言えなかったのだと思う。
ブリーフィングルームでは、
すでに簡易報告がまとめられていた。
「第七特別部隊、
テスト戦場において想定以上の成果」
上官の声は、
淡々としている。
「被害ゼロ。
運用効率、極めて良好」
画面に映る評価項目の中に、
“久遠悠真”の名前はない。
だが、
全体の前提として組み込まれている。
「次回以降も、
同編成での投入を検討する」
それは、
提案ではなかった。
決定事項だ。
「以上」
短い言葉で、
ブリーフィングは終わった。
部屋を出たあと。
「……なあ」
葛城が、
小さく声を落とす。
「無理なら、
ちゃんと言え」
悠真は、
少し考えてから答えた。
「……今は、大丈夫です」
それは、
嘘ではなかった。
まだ、
立っていられる。
まだ、
意味があると思えている。
「そっか」
葛城は、
それ以上言わなかった。
鷹宮は、
少し離れたところで笑っている。
「次、楽しみだな」
まるで、
ゲームの続きを待つみたいに。
その夜。
個室で、
悠真はベッドに腰を下ろしていた。
身体は、
思ったよりも軽い。
テスト戦場。
成功。
被害ゼロ。
(……やれてる)
そう思ってしまう。
端末を開くと、
日和から短いメッセージが届いていた。
今日は調子いいよ
次、いつ帰れる?
悠真は、
少しだけ笑って返信する。
もう少し
ちゃんと終わったら帰る
その言葉を打ちながら、
胸の奥に、
小さな引っかかりが残る。
“ちゃんと終わる”とは、
いつなのか。
その答えは、
まだ誰も知らない。
少なくとも、
久遠悠真自身は。




