第4話 第七特別部隊
第七特別部隊の待機区画は、他と空気が違った。
広い。
設備が新しい。
そして――人の数が、少ない。
「……ここか」
久遠悠真は、指定された区画番号を見上げた。
“特別”と付く部隊は、だいたいがそうだ。
高ランク能力者のみで編成され、
投入されるのは、失敗が許されない現場。
そしてもう一つ。
消耗を前提にしている。
「お、来たな」
軽い声がした。
振り向くと、
壁にもたれて腕を組んだ若い男がいた。
年は、悠真とそう変わらない。
二十前後。
整った顔立ち。
無駄に自信のある立ち方。
「久遠、だっけ?」
男は、名簿を見もしないで言った。
「俺は鷹宮。
第七のエース」
“エース”という言葉を、
まるで当然の事実のように口にする。
「……久遠です」
「知ってる」
鷹宮は笑った。
「代償肩代わりの人。
便利だよな、お前」
挨拶代わりだった。
悠真は、何も言わなかった。
「安心しろよ。
俺たち、強いからさ」
鷹宮は一歩近づき、
悠真を値踏みするように見下ろす。
「多少無茶しても、
お前がいれば問題ない」
――多少。
その言葉の中身を、
悠真はよく知っている。
「今回の作戦、
ランクⅣ想定だ」
「……Ⅳ?」
思わず、声が出た。
ランクⅣ。
都市一つを壊しかねないレベル。
「何だ、その顔」
鷹宮が、楽しそうに眉を上げる。
「初めてか?
まあ、お前は後ろにいりゃいいよ」
後ろ。
だが削られるのは、
前線よりも深いところだ。
「鷹宮」
別の隊員が声をかける。
長身で、無表情な男。
ランク表示は、鷹宮と同じ。
「説明はそこまでにしろ。
……久遠、だっけ」
「はい」
「無理そうなら、
倒れればいい」
淡々とした声だった。
「倒れたら、
その時点で撤退判断が出る」
それが、
この部隊の“安全装置”。
悠真が壊れたら、
作戦は中止される。
つまり。
壊れるまで使う。
「なあ」
鷹宮が、急に思い出したように言った。
「お前、妹いるんだろ」
空気が、一瞬で冷えた。
「……」
「病院にいるって聞いた」
情報は、
どこまで行き渡っているのか。
「安心しろよ。
ちゃんと国が面倒見てる」
笑顔のまま、
続ける。
「お前がちゃんと働いてればな」
それが、
脅しだと気づかないほど、
悠真は鈍くない。
だが、反論はしなかった。
――ここで壊れるわけにはいかない。
「ま、よろしく」
鷹宮は、興味を失ったように背を向ける。
「次の出撃、
派手になるぞ」
悠真は、
その背中を見送った。
胸の奥が、
じわじわと重くなる。
さっきまでの検査室とは、
違う種類の息苦しさ。
ここでは、
自分は“人”ではない。
使い切るための部品だ。
それでも。
(……帰る)
日和の顔が、
脳裏に浮かぶ。
帰るために、
壊れない。
その覚悟だけが、
悠真を立たせていた。
だが――
その覚悟を、
踏み潰す準備が、
もう整っていることを。
久遠悠真は、
まだ知らなかった。




