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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第三章:手探り
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第40話 二階堂 皐の仮説

 夜だった。


 隠れ家の中は静かで、

 灯りは必要な場所にだけ落ちている。


 誰かが眠っている気配はある。

 だが、

 完全に沈んではいない。


 考えが残っている夜だ。


 端末の前に、

 二階堂皐は座っていた。


 画面には、

 今回の任務のログと、

 その下に重ねられた簡易経歴。


 数値は揃っている。

 異常値はない。


 だからこそ、

 そこから目を離せない。


 皐は、

 キーボードから指を離し、

 椅子の背にもたれた。


 天井を見る。


 昔からの癖だ。


「……やっぱり」


 小さく息を吐く。


「偶然じゃない」


 足音がした。


 静かで、

 迷いのない歩き方。


 征史だと分かる。


「まだ起きてたか」


「兄さんも」


 皐は振り向かない。


 征史は、

 背後から画面を覗き込む。


「……数字だけ見ると、

 問題なさそうだな」


「だから、

 数字の外を見てる」


 皐は言う。


 画面を切り替える。


 評価記録。

 指揮ログ。

 内部報告。


「今回の暴走個体」


 一拍。


「元々、

 命令されるのを嫌うタイプだった」


 征史が、

 小さく息を吐く。


「独断専行の記録、

 結構あるな」


「ある」


 皐は淡々と続ける。


「部隊長とも、

 何度も揉めてる」


「作戦速度が遅い」

「判断が甘い」

「現場を見ていない」


 そういう理由で。


「現場判断を優先して、

 命令を後回しにする癖があった」


 征史は、

 腕を組む。


「……使いづらいが、

 切れないタイプだ」


「そう」


 皐は頷く。


「成果は出してた。

 被害も抑えてた」


「だから、

 問題は先送りにされてた」


 一拍。


「今回も、

 出撃前に制限命令が出てる」


「前に出るな。

 全体を見ろ、って」


 征史は、

 黙って聞いている。


「でも、

 戦闘が始まってすぐ」


 皐は、

 少しだけ言葉を選ぶ。


「それを無視した」


「隊長の制止も聞かずに、

 先行して突っ込んだ」


 一拍。


「その直後、

 指揮系統が完全に切れてる」


 征史が、

 低く言う。


「……暴走した、

 って扱いになるわけだ」


「うん」


 皐は視線を落とす。


「戦闘中に、

 もう誰の命令も聞いていない」


「判断基準が、

 全部“自分”に寄っていった」


 一拍。


「……感情の話をするなら」


 皐は、

 はっきり言い切らない。


「定義は、

 難しい」


 征史が、

 静かに促す。


「でも?」


「怒り、

 かもしれない」


「支配に対する反発、

 とも言える」


 皐は、

 少しだけ眉を寄せる。


「命令されることそのものへの、

 抑圧」


「それを振り払うために、

 前に出続けた感じ」


 征史は、

 低く呟く。


「……自分が決める、

 ってやつか」


「そう」


 皐は頷く。


「自分が正しい。

 自分が動かす」


「それ以外を、

 受け付けなくなってた」


 一拍。


「澪さんの時とは、

 全然違う」


 征史は、

 その名前で一瞬だけ目を伏せる。


「澪は」


「守ろうとしてた」


 皐は即答する。


「誰かを。

 場を。

 結果を」


「今回のは」


 言葉を探す。


「……握ろうとしてた」


 征史は、

 ゆっくり息を吐いた。


「同じ暴走でも、

 中身は別物だな」


「たぶん」


 皐は、

 端末から視線を外す。


「だから」


 一拍。


「同じ前提で考えると、

 必ずズレる」


 征史は、

 立ち上がった。


「久遠には?」


「今は、

 言わない」


 即答だった。


「まだ、

 仮説だから」


「それに」


 少しだけ声を落とす。


「本人が、

 自分で違和感として抱えてるうちは」


「外から名前を付けるべきじゃない」


 征史は、

 その判断を否定しなかった。


「……だな」


 扉の前で、

 一度だけ振り返る。


「次は?」


「次も、

 たぶん来る」


 皐は言う。


「似てるようで、

 違うやつが」


 征史は、

 短く笑った。


「厄介だ」


「うん」


 皐も、

 小さく笑う。


 扉が閉まる。


 皐は、

 一人で天井を見上げた。


 答えは、

 まだ形にならない。


 ただ、

 条件があることだけは、

 少しずつ見えてきている。


 それを言葉にするには、

 まだ夜が足りなかった。


 静かな夜が、

 続いていた。

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