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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第二章:共有された罪
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第32話 聞き取り

 扉が閉まる音は、

 相変わらず軽い。


 二階堂 征史は、

 その音を背中で聞いた。


 白い部屋。

 机が一つ。

 椅子が二つ。


 前に座っている男の顔は、

 もう知っている。


 鷹宮 恒一。


 初めて会ったのは、

 第七特別部隊への編入を命じられた日だ。


 説明は短かった。

 拒否権はなかった。


 それだけで十分だった。


「久しぶりだな」


 低い声。

 感情は混ざらない。


「そうですね」


 征史は答える。

 余計な敬語は使わない。


 距離を詰めると、

 逆に疑われる。


「座れ」


 征史は椅子に腰を下ろす。

 背もたれには寄らない。


 楽に見えるのは、

 評価を下げる。


 鷹宮は、

 書類も端末も開かない。


 最初から、

 言葉だけでやるつもりだ。


「今回の市街地制圧だ」


 来る。


「第七の動きは把握している」


 把握している。

 全部知っている、とは言わない。


「一点、確認する」


 鷹宮は、

 一拍置く。


 そして、

 わざとらしく言い直す。


「今回のコラプサー」


 さらに一拍。


「……灰原 澪だ」


 静かな声。


「連邦防衛軍、

 第三方面隊所属」


 過去形でも、

 敬語でもない。


 ただ、

 事実を置く。


 征史の喉が、

 ほんの僅かに鳴る。


 止めたつもりだった。

 止めきれなかった。


 鷹宮の視線が、

 一瞬だけ深くなる。


 拾った。


 だが、

 確定はしない。


「現場で、確認したか」


 質問は淡々としている。

 評価も断定もない。


 征史は、

 即答しない。


 一拍。

 二拍は置かない。


「交戦中、

 前線に出ていました」


「状態は」


「判断できる距離ではありませんでした」


 鷹宮は、

 そこを掘らない。


 代わりに、

 別の角度から来る。


「君は、

 彼女の経歴を知っているな」


 知っているかどうか。

 それだけだ。


 征史は、

 小さく息を吐く。


「はい」


 否定しない。

 否定する意味がない。


「英雄と呼ばれていた」


「そうですね」


「英雄が、

 コラプサーと呼ばれる存在になる」


 感想は言わない。

 事実を並べるだけ。


「どう思う」


 初めて、

 主観を要求してきた。


 罠だ。


 征史は、

 目を逸らさない。


「思うかどうかは、

 現場判断に関係ありません」


 鷹宮は、

 口角を動かさない。


 だが、

 否定もしない。


「相変わらずだ」


 それが評価かどうかは、

 分からない。


「久遠 悠真」


 話題が切り替わる。


「予定以上に、

 前線に立っている」


 事実。


「君の見立ては」


 征史は、

 言葉を選ぶ。


「必要だからです」


「それだけか」


「それだけです」


 短く切る。

 余白を残さない。


 鷹宮は、

 少しだけ沈黙する。


 そして、

 低く言う。


「ログにズレがある」


 来た。


「終盤の記録が、

 整いすぎている」


 整いすぎている。

 それは、

 手が入ったという意味だ。


「君は、

 何か知っているか」


 征史は、

 肩をすくめる。


「知ってたら、

 もう少し上手くやってます」


 軽口。

 だが、

 軽すぎない。


 鷹宮は、

 それを黙って聞く。


「……そうか」


 否定も肯定もない。


 ただ、

 記憶する。


「今日はここまでだ」


 唐突に、終わる。


「二階堂 征史」


 下の名で呼ばれる。


 征史の背中が、

 一瞬だけ強張る。


「君は、

 使える人間だ」


 褒め言葉じゃない。


「だから、

 綺麗にしすぎるな」


「綺麗な仕事は、

 必ず疑われる」


 征史は、

 振り返らない。


「肝に銘じます」


 丁寧な返事。

 中身は、

 何も渡していない。


 扉を開ける。


 廊下の白さが、

 目に刺さる。


 歩きながら、

 征史は一度だけ拳を握る。


 ――試された。

 ――名前で。

 ――沈黙で。


 そして、

 灰原 澪という名前で。


 結果は、

 まだ出ていない。


 だが、

 線は引かれた。


 それだけで、

 十分すぎる朝だった。


 基地は、

 いつも通りに動いている。


 名前が試され、

 沈黙が測られ、

 人が削られる速度で。


 今日も、

 それが続く。

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