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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第二章:共有された罪
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第26話:非公式ヒアリング

 朝霧 香織は、

 簡易テーブルの前に腰を下ろした。


 コーヒーを二つ置き、

 片方を葛城の前へ押し出す。


「で」


 短い一言。


「誰から話す?」


 声は軽い。

 だが、場の空気は張りつめたままだ。


「……俺からでいい」


 葛城が答えた。


 背筋を正すこともなく、

 ただ、正面を見る。


「現場判断は、

 俺が出した」


「鎮圧優先。

 規定通りだ」


「途中で、

 想定外が起きた」


「想定外?」


 香織が聞き返す。


「コラプサーが、

 自壊行動を取った」


「攻撃じゃなく、

 自分を壊す方向に

 出力を回した」


 一拍。


「その瞬間、

 久遠に異常反応が出た」


 香織の視線が、

 久遠に向く。


 だが、

 問いは投げない。


「共鳴です」


 霧島が、

 低く補足した。


「通常の代償流入とは、

 明らかに違う反応でした」


「測定値が、

 途中で破綻してます」


 二階堂が、

 肩をすくめる。


「正直、

 俺も初めて見ました」


「久遠が

 受け止めた、というより」


「……引きずり込まれた感じです」


 香織は、

 すぐには反応しなかった。


 コーヒーに口をつけ、

 ゆっくりと飲む。


「ふうん」


 それだけ。


 理解したとも、

 納得したとも言わない。


「じゃあ」


 視線を上げる。


「本人に聞こうか」


 久遠は、

 一拍置いた。


「……能力を使った自覚はあります」


「でも、

 いつもと同じじゃなかった」


「本来は、

 代償だけが来る」


「痛覚とか、

 神経とか」


「……今回は、

 それより前に来た」


 言葉を選ぶ。


「感情です」


 誰も、

 遮らない。


「恐怖とか、

 後悔とか」


「判断を間違えた、

 って思い続けてた感覚が」


「そのまま流れ込んできた」


 香織は、

 眉をひそめた。


 だが、

 すぐに結論は出さない。


「それで?」


「拒否できなかった」


「拒否したら、

 もっと壊れる気がした」


 そこまで言って、

 久遠は口を閉じた。


 整理できていない部分を、

 無理に言葉にしない。


 香織は、

 しばらく黙っていた。


 そのとき。


 奥の部屋から、

 布が擦れる音がした。


 誰かが、

 体を起こす気配。


 全員の視線が、

 そちらに向く。


 扉が、

 ゆっくりと開く。


 現れたのは、

 長い髪の少女だった。


 顔色は、

 まだ良くない。


 だが、

 自分の足で立っている。


 両腕と両脚は、

 人のものではない。


 兵器化された構造。


 それを見た瞬間、

 空気が一段張りつめた。


「……起きてて大丈夫?」


 香織が、

 真っ先に声をかけた。


 警戒よりも、

 体調確認が先だった。


「はい」


 少女は答える。


「少し、

 頭がはっきりしてきました」


 受け答えは、

 落ち着いている。


 葛城が、

 わずかに目を細めた。


 ――普通だ。


 少なくとも、

 暴走状態ではない。


「名前、

 聞いていい?」


 香織が言う。


 一拍。


「……灰原、澪です」


 はっきりとした名乗り。


 香織は、

 一瞬だけ視線を伏せた。


 驚きでも、

 理解でもない。


 ただ、

 受け止める間。


「……そう」


 それだけ言って、

 頷いた。


 何かを悟ったような

 素振りは見せない。


「……ごめんなさい」


 澪が、

 静かに言った。


 誰に向けた言葉かは、

 曖昧だった。


「私が、

 無理をしました」


「市街地を守るために、

 限界を越えた」


「その結果、

 部隊は……」


 言葉が止まる。


 香織は、

 遮らなかった。


 澪は、

 視線を落とす。


「……生きてるのが

 正しいのかは、

 分かりません」


「でも」


 一拍。


「終わるつもりだったところを、

 止められました」


 視線が、

 久遠へ向く。


 責めていない。

 感謝とも言い切れない。


 ただ、

 事実を述べている。


 香織は、

 小さく息を吐いた。


「……いい子ね」


 ぽつりと。


 評価というより、

 感想に近い。


「自分を

 飾らない」


「人のせいにも、

 してない」


「こういう子は、

 嫌いじゃない」


 澪は、

 少し戸惑ったように

 瞬きをした。


「……ありがとうございます」


「礼はいらない」


 香織は肩をすくめる。


「まだ、

 何も終わってない」


 視線が、

 第七全員に向く。


「このまま戻れば、

 面倒が起きる」


「向こう側は、

 見逃さない」


 二階堂の妹が、

 静かに口を開く。


「ログは、

 最低限だけ残します」


「共鳴事故は、

 測定誤差扱い」


「感情流入は、

 観測不能で処理します」


 香織は、

 その言葉に頷いた。


「……賢い判断」


 二階堂が、

 苦笑する。


 久遠は、

 澪を見る。


 彼女は、

 目を逸らさない。


 強がっていない。

 だが、

 崩れてもいない。


(……ここにいる)


 それだけで、

 胸の奥が少し重くなった。


 答えは、

 まだ出ていない。


 だが――


 無視できない存在が、

 確かに、

 ここに立っていた。

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