表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第二章:共有された罪
30/46

第25話:隠れ家

 車両は、

 基地へは向かわなかった。


 進行方向が変わったことに、

 誰も声を上げない。


 気づいていない者はいない。

 だが、止める理由もなかった。


「……このまま戻るのは、早い」


 葛城が言った。


 意見ではない。

 確認でもない。


 判断だった。


「正式な医療とログに回したら、

 全員まとめて引っかかる」


「対象も、

 俺たちもな」


 二階堂が、軽く息を吐く。


「ですよね」


 隣で妹が即座に端末を立ち上げる。


「通信、遮断します。」


「帰還ログは基地直帰扱い。

 途中経路はセンサー誤作動で処理します」


 指が止まらない。


 慣れている。

 こういう“非公式”に。


「……助かる」


 葛城が短く言う。


「仕事ですから」


 妹は顔を上げずに返した。


 久遠は、黙って窓の外を見ていた。


 戻らない。

 戻れない。


 それを、誰も口にしない。


 車両はやがて、

 市街地の外れへと進み、

 古い建物の前で止まった。


 一見すれば、

 ただの廃倉庫だ。


 だが――

 久遠は感じた。


 中に、人がいる。


 生活の気配だ。


 扉が開く。


「……遅いじゃない」


 低く、はっきりした声。


 出てきたのは、

 三十代後半の女性だった。


 ラフな服装。

 作業着に近い。


 だが、姿勢は崩れていない。

 目つきは鋭く、

 同時に人を見る目をしている。


「久しぶりだな」


 葛城が言う。


「何年ぶり?」


 女は腕を組み、

 葛城を値踏みするように眺めた。


「相変わらず、

 無茶して生き残る顔してる」


「褒めてるのか?」


「警告よ」


 一拍。


「で?」


 視線が、

 第七特別部隊全体に向けられる。


「今度は、

 何を拾ってきたの」


 誰もすぐには答えなかった。


 “拾った”という言葉が、

 あまりに的確だったからだ。


 女は鼻で笑う。


「黙るってことは、

 相当ね」


「……中、入りな」


 背を向けて言った。


 内部は、

 最低限整えられていた。


 簡易医療設備。

 独立電源。

 通信遮断装置。


 何かあった時の場所。


「名乗っとくわ」


 女が振り返る。


「朝霧 香織」


 一拍。


「元・連邦の現場側」


「今は、

 戻らなかった人間」


 言い切りだった。


 誇りも後悔も、

 そこには混ざっていない。


「この隠れ家の管理人」


「……世話になる」


 葛城が言う。


「今さらでしょ」


 香織は、

 久遠へ視線を移す。


「で、君が例の?」


 名指しはしない。


 だが、分かっている目だった。


「……久遠です」


「ふうん」


 一瞬だけ、

 じっと見る。


「立ってるね」


 それだけ言って、

 視線を外した。


「今回は、

 正式には“何も起きてない”」


 二階堂が言う。


「そういうログになる」


「でしょうね」


 香織は即答した。


「その顔で戻ったら、

 “何もなかった”は通らない」


 肩をすくめる。


「安心しな」


「ここにいる間は、

 外からは見えない」


「見る気も、

 もうない連中ばっかりよ」


 その言葉に、

 空気がわずかに緩む。


 だが、完全には緩まない。


 夜。


 久遠は簡易ベッドに腰を下ろしていた。


 基地ではない。

 だが、帰ったとも言えない。


 境界に近い場所。


(……戻らなかった)


 その選択だけが、

 胸に残っている。


 正しかったかどうかは、

 まだ分からない。


 ただ一つ。


 基地に戻っていたら、

 今とは違う何かが、

 もう決まっていた。


 その確信だけが、

 静かに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ