第22話:限界共鳴
衝撃が、
何度目か分からなくなっていた。
葛城の拳が叩き込まれるたび、
コラプサーの外殻が砕ける。
霧島の圧縮が逃げ道を潰し、
二階堂の射撃が、
確実に動きを奪っていく。
過不足のない連携。
教範通りの鎮圧。
――正しい。
それでも。
コラプサーは、
倒れきらなかった。
外殻は割れ、
内部構造が露出している。
立っているだけで、
奇跡に近い。
「……まだ生きてるか」
二階堂が、
短く息を吐く。
「暴走兆候は?」
「確認できません」
霧島の声は冷静だった。
「出力は、
むしろ低下しています」
「……異常だな」
葛城は、
視線を逸らさない。
「だが、
続ける」
その判断に、
誰も異論はなかった。
次の瞬間。
コラプサーの両腕が、
大きく歪んだ。
外殻が盛り上がり、
骨格が再構成されていく。
武器化。
明確な能力行使。
表面に、
能力の光が走った。
「――来る!」
二階堂が叫ぶ。
誰もがそう思った。
ここまで追い詰められた個体が、
最後に選ぶのは反撃か暴発。
想定内だ。
だが。
その瞬間だった。
久遠の胸に、
“流れ”が触れた。
「――っ……!」
息が、
詰まる。
視界が、
一瞬だけ暗くなる。
流れ込んできたのは、
痛みじゃない。
怒りでもない。
本来、
久遠が引き受けるのは――
能力使用に伴う代償だけだ。
削れた神経。
摩耗した感覚。
壊れた身体機能。
それらが、
数値として流れ込む。
――はずだった。
だが、
今回は違った。
代償の“奥”に、
濁ったものが混ざっている。
剥がれ落ちるはずのものが、
分離されず、
そのまま流れ込んでくる。
――感情。
悲しみ。
それも、
一つではない。
守れなかった背中。
逃がしたつもりで、
振り返れなかった瞬間。
市街地の中で、
折れた声。
間に合わなかった判断。
そして――
倒れていく、
味方だった存在。
(……これは……)
久遠の膝が、
わずかに折れる。
これは、
“今”生まれた感情じゃない。
能力を使う直前。
自分を終わらせると決めた瞬間。
削り落とされるはずだったもの。
それが、
代償と一緒に、
そのまま流れ込んでいる。
「久遠!?」
誰かの声。
だが、
聞こえない。
胸の奥に流れ込むのは、
諦め。
決断。
そして、
自分自身への拒絶。
(……やめろ)
声にならない。
止めようとしたわけじゃない。
助けようともしていない。
理解してしまっただけだ。
この個体は、
反撃しない。
逃げない。
――自分を終わらせようとしている。
次の瞬間。
コラプサーの強化された両腕が、
内側へ向いた。
自分の胸部へ。
全力で。
叩き込まれる。
衝撃。
外殻が内側から砕け、
能力反応が一気に跳ね上がる。
「自壊……!?」
霧島が、
思わず声を上げた。
その瞬間。
久遠の中で、
何かが限界を超えた。
――共鳴。
本来、
代償だけが通るはずの経路に、
感情が混入した。
処理されないまま、
濁流となって流れ込む。
「――ぐ……っ!」
久遠は、
完全に膝をついた。
呼吸が、
できない。
視界が揺れ、
耳鳴りが走る。
だが。
コラプサーの動きが、
止まった。
完全に。
暴発しない。
崩れ落ちるだけ。
能力反応が、
急速に沈静していく。
「……止まった?」
二階堂の声が、
震える。
「暴走、
停止しています」
霧島が確認する。
「……あり得ません」
葛城は、
久遠を見た。
「何をした」
久遠は、
顔を上げられなかった。
「……何も……」
本当だった。
代償を引き受けただけだ。
ただし――
“余計なもの”ごと。
コラプサーは、
動かない。
死体でもない。
だが、
戦闘可能でもない。
異常な静寂。
皐が、
端末を強く握りしめる。
「……代償経路が、
壊れています」
その一言が、
場を凍らせた。
久遠は、
自分の手を見る。
震えが止まらない。
これは、
覚醒じゃない。
進化でもない。
――事故だ。
だが。
この事故は、
“人の内側”に
踏み込んでしまった。
この瞬間から、
久遠悠真は、
ただ代償を肩代わりするだけの
存在では
いられなくなった。




