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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第二章:共有された罪
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第20話 鎮圧開始

 輸送車の扉が、

 低い油圧音とともに開いた。


 冷たい外気が、

 一気に流れ込んでくる。


 市街地外縁。

 封鎖はすでに完了している。


 人影はない。

 だが、生活の痕跡だけが残っていた。


 倒れたままの自転車。

 玄関先に置き去りの靴。

 窓越しに見える、点けっぱなしの照明。


「……撤退、

 間一髪だったな」


 二階堂が、小さく息を吐く。


「焦った感じが、

 そのまま残ってる」


「避難率は九八%」


 霧島が端末を操作しながら言う。


「想定内だ」


「二%が気になるやつですね」


「気にしても、

 今はやることは変わらない」


 葛城が前に出た。


「第七、展開」


 短い指示。


 それだけで、

 全員が配置につく。


 久遠は、

 いつもの位置に立った。


 前線より一歩後ろ。

 だが、

 “引き受ける”位置。


「反応は」


 葛城が聞く。


「……あります」


 答えたのは、皐だった。


「単体です」


 即答。


 その言い方が、

 逆に場を静かにした。


「単体?」


 二階堂が眉を上げる。


「はい」


 皐は、

 周囲を確認するように目を閉じる。


「間違いありません」


「……妙だな」


 葛城が低く言う。


「この規模で、

 単体ってのは」


「普通なら、

 もう少し派手に壊れますよね」


 二階堂が肩をすくめる。


「街区一つ分、

 暴れててもおかしくない」


「……でも」


 皐は、

 言葉を選ぶように続けた。


「“そこにいる”だけです」


 その言い方が、

 久遠の胸に引っかかった。


「動いていない?」


「はい」


「待ち伏せ?」


「……違います」


 皐は、

 首を振る。


「こちらに、

 向いていません」


 葛城が、

 一歩踏み出す。


「視認を優先する」


「霧島、

 防御展開」


「了解」


 空間が、

 わずかに歪む。


 防御が張られた瞬間――


 久遠の胸が、

 重くなった。


(……来た)


 霧島の負荷。

 いつも通り。


 だが、

 それだけじゃない。


 削られ方が、

 一定じゃない。


 波がある。


「……久遠」


 葛城が、

 短く呼ぶ。


「大丈夫か」


「……はい」


 嘘じゃない。


 立っていられる。

 だが、

 違和感は消えない。


「前方、

 視認できます」


 皐の声が、低くなる。


 建物の影。


 崩れた壁の向こう。


 ――立っている。


 人の形を、

 まだ保っている。


「……動かないな」


 二階堂が、

 小さく言う。


「普通なら、

 もう突っ込んできてる距離だ」


「ランクⅢ相当」


 霧島が判定する。


「ですが……」


「ですが?」


「出力が、

 異様に安定しています」


 “安定”。


 その言葉に、

 全員が一瞬、言葉を失った。


「……安定してる

 コラプサーって、何だよ」


 二階堂が苦笑する。


「壊れてないって意味か?」


「……違います」


 皐が、

 はっきり否定した。


「壊れているはずなのに、

 崩れていません」


 その瞬間。


 ――視線が合った。


 久遠と、

 コラプサー。


 一瞬。


 殺意でも、

 敵意でもない。


 ただ、

 “見られた”という感覚。


(……?)


 次の瞬間。


 コラプサーが、

 ゆっくりと一歩、

 後ろへ下がった。


「……は?」


 二階堂が、

 思わず声を漏らす。


「下がった?」


「後退……?」


 誰も、

 攻撃していない。


 能力も使っていない。


 それなのに。


「久遠」


 葛城の声が、

 一段低くなる。


「今、

 何かしたか」


「……してません」


 本当に。


 判断も、

 操作も、

 していない。


 ただ――


 胸の奥に、

 かすかな感覚が残っている。


 恐怖ではない。

 怒りでもない。


 もっと、

 言葉にしづらい何か。


 それを確かめる前に。


 コラプサーは、

 ゆっくりと身を翻し――


 建物の奥へ、

 消えた。


 静寂。


「……追う?」


 二階堂が聞く。


「待て」


 葛城が即座に止める。


「様子が、

 明らかに違う」


 霧島が、

 端末を閉じた。


「ログは、

 全部取れてます」


「……ああ」


 葛城は、

 久遠を見る。


 責める目ではない。

 探る目でもない。


 ただ、

 確認する目。


「警戒レベル維持」


「これは、

 通常の鎮圧じゃない」


 誰も、

 異論を出さなかった。


 久遠は、

 自分の手を見る。


 震えていない。


 だが、

 確かに残っている。


 “引き受けた”感覚とは、

 違うものが。


 それを、

 まだ誰にも言えないまま。


 第七特別部隊は、

 再び、静かに前進を始めた。

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