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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第二章:共有された罪
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第18話 次任務通達

 起床ベルは、

 容赦がなかった。


 久遠悠真は、

 一度だけ天井を見てから身体を起こす。


 夢は見ていない。

 だが、

 眠れたという実感もない。


 それでも、

 身体は動いた。


 制服に袖を通し、

 個室を出る。


 廊下には、

 すでに人の流れがあった。


 夜勤明けの隊員。

 医療区画へ向かう技術員。

 交代要員を連れた士官。


 基地は、

 昨日の出来事を何事もなかったように飲み込んでいる。


「おはようございます」


 背後から、

 やけに明るい声。


 振り返ると、

 二階堂が立っていた。


「……おはようございます」


「うわ、

 丁寧」


 くすっと笑いながら、

 隣に並ぶ。


「朝からそのテンション、

 疲れませんか」


「疲れる前に慣れました」


「それ一番危ないやつ」


 軽口。


 だが、

 歩調は自然と揃っている。


「昨日、

 ちゃんと寝ました?」


「……少しは」


「それ“寝てない”判定」


「否定はしません」


 二階堂は満足そうに頷いた。


「よし」


「生存確認完了」


「毎回必要なんですか」


「第七では必須」


 前方に、

 ブリーフィングルームが見える。


 扉の前には、

 すでに二人いた。


 葛城と、霧島。


「揃ったな」


 葛城が短く言う。


「入るぞ」


 室内は、

 必要最低限の資料しか映されていなかった。


 地図。

 数値。

 時系列ログ。


 装飾も、

 演出もない。


「次の任務だ」


 葛城が言う。


「調査ではない」


 即断。


「鎮圧任務だ」


 室内の空気が、

 わずかに締まる。


「発生地点は旧工業区画」


「避難は進行中だが、

 完了していない」


 霧島が画面を切り替える。


「対象は単体反応」


「ただし、

 行動ログが不安定」


 二階堂が、

 ふっと眉を上げた。


「不安定?」


「破壊衝動が弱い」


「代わりに、

 移動が多い」


「逃げてる感じ?」


「逃避とも、

 誘導とも取れる」


 葛城が言葉を継ぐ。


「いつものコラプサーとは、

 挙動が違う」


 久遠の胸の奥が、

 わずかにざわついた。


「第七は、

 引き続き同編成で行く」


 一拍。


「補充は?」


 二階堂が、

 軽い調子で聞く。


「――これ以上は、ない」


 即答だった。


「……ああ」


 二階堂は一瞬だけ考え、

 すぐに笑う。


「俺と皐で、

 打ち止めってことですね」


「そうだ」


 葛城は視線を逸らさない。


「現時点での第七は、

 この五名で完結している」


 “現時点で”。


 意図的に選ばれた言葉だった。


「試験運用、

 みたいな扱いですか?」


 二階堂が冗談めかして肩をすくめる。


「言い方は、

 それで構わん」


 葛城は否定しない。


「結果次第で、

 編成は見直される」


「生き残れば、

 続投」


「そうでなければ、

 交代」


 淡々とした基準。


 第七では、

 珍しくもない。


「……なるほど」


 二階堂は、

 特に気分を害した様子もなく頷いた。


「じゃあ、

 ちゃんと役に立たないとですね」


「その認識でいい」


 霧島が短く言う。


 視線が、

 二階堂から皐へ移る。


「妹も、

 同じ扱いだ」


「了解です」


 皐は即答した。


 声は落ち着いていて、

 迷いがない。


「必要なら、

 前に出ます」


「必要なら、

 下がれ」


 葛城が言う。


「判断は、

 こちらでする」


「……はい」


 皐は一拍だけ置いて、

 頷いた。


 久遠は、

 そのやり取りを黙って見ていた。


 補充ではない。

 だが、

 正式でもない。


 “入っているが、

 いつでも切れる”。


 その立場を、

 二階堂兄妹は受け入れている。


 それが、

 不思議と不安には見えなかった。


「久遠」


 葛城が呼ぶ。


「はい」


「今回は、

 無理をするな」


 その言葉に、

 室内が静まる。


 二階堂が、

 小さく口笛を吹いた。


「それ、

 第七で一番難しいやつ」


「分かっている」


 葛城は視線を逸らさない。


「だが今回は」


「“止まれるかどうか”も

 確認事項だ」


 久遠は、

 小さく息を吸った。


「……了解しました」


 ブリーフィング終了。


 それぞれが立ち上がる。


「じゃ、

 準備しますか」


 二階堂が軽く言う。


「二階堂」


 葛城が呼び止める。


「……皐、

 でいいか?」


 一瞬の間。


 二階堂は、

 にっと笑った。


「分かりやすくて助かります」


「妹と被るな」


「現場じゃ、

 ちゃんと使い分けますよ」


「……頼む」


 霧島が小さく呟く。


「騒がしい」


「それ褒め言葉?」


「どちらでもない」


 久遠は、

 そのやり取りを見ながら思う。


 昨日の夜とは違う。

 だが、

 確かにつながっている。


 信頼は、

 静かな場所だけで育つものじゃない。


 こうして、

 現実の中で試されていく。


 出撃準備のアナウンスが、

 基地内に流れた。


 久遠悠真は、

 装備棚の前に立つ。


 手は、

 まだ震えていない。


 だが今回は、

 それだけで進める任務ではない。


 全員が、

 それを理解していた。


 境界は、

 また一歩近づいている。


 それでも、

 前に出る。


 それが、

 第七特別部隊だからだ。

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