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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第二章:共有された罪
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第13話 補充人員

 第七特別部隊の区画は、

 相変わらず静かだった。


 ……が。


「いやー、静かっすね。

 ここ、図書館です?」


 その空気を、

 遠慮なく破った声があった。


 全員の視線が、

 一斉にそちらへ向く。


 扉の前に立っていたのは、

 二十代後半くらいの男。


 背は平均。

 体格も普通。


 だが、

 表情だけがやけに軽い。


「お、おはようございまーす。

 本日付で配属されました、二階堂にかいどうでーす」


 軽い敬礼。

 軽い声。


 軽すぎて、

 一瞬、全員が反応を忘れた。


「……集合」


 葛城の低い声で、

 空気が元に戻る。


 二階堂は、

 その変化を一瞬で察したのか、

 すっと姿勢を正した。


「失礼しました」


 切り替えが早い。


「補充人員だ」


 葛城が簡潔に言う。


「今日から第七に入る」


「よろしくお願いしまーす」


 二階堂は、

 もう一度軽く頭を下げた。


 軽い。

 だが、ふざけてはいない。


 その境界が、

 妙に上手かった。


「能力」


 葛城が問う。


「近接補助系っす。

 身体強化寄りで、

 攻撃・防御・機動、バランス型ですね」


 よどみなく答える。


「代償は?」


「運動神経の摩耗。

 使いすぎると、

 地味に鈍くなります」


「地味、ね」


 霧島が、

 ぽつりと呟く。


「派手に来るより、

 マシだと思ってますよ」


 二階堂は、

 悪びれずに笑った。


 軽口。

 だが、相手を選んでいる。


「前所属」


「第五方面、第三制圧班です。

 ……まあ、いわゆる“何でも屋”でした」


「今回の件は?」


 葛城が続ける。


 二階堂は、

 一瞬だけ視線を泳がせた。


 ほんの一瞬。


「戦死者が出た、

 くらいまでは」


 それ以上は言わない。


 空気を、

 ちゃんと読んでいる。


「……以上だ」


 葛城はそれで切った。


「空いてる席を使え」


「了解っす」


 二階堂は、

 何のためらいもなく

 その席に向かった。


 ――空席。


 誰も、

 口にはしない。


 簡易的な装備確認。


 二階堂は、

 説明を聞きながら、

 ちょいちょい相槌を打つ。


「なるほど、なるほど。

 あー、ここ固定なんすね」


「……質問はまとめてしろ」


 葛城が言う。


「了解っす。

 癖で」


 軽く笑う。


 だが、

 手の動きは正確だった。


「慣れてるな」


 霧島が言う。


「まあ、それなりに」


 二階堂は肩をすくめる。


「こういう“減ったあと”の部隊、

 何度か見てきたんで」


 一瞬、

 空気が止まる。


 言っていいことと、

 悪いことの境界。


 二階堂は、

 すぐに察した。


「あ、すいません。

 今の、余計でしたね」


 即座に謝る。


 軽いが、

 鈍くはない。


「……久遠さん、ですよね」


 唐突に、

 悠真へ話を振る。


「え?」


「いや、名簿で。

 噂は聞いてます」


「……どんな」


「壊れない人」


 言い方が、

 妙に雑だった。


 しかし、

 悪意は感じられない。


「便利っすよね、その能力」


 空気が、

 一段下がる。


 二階堂は、

 すぐに手を上げた。


「いやいや、

 褒め言葉ですって」


「……そうは聞こえない」


 悠真が、

 淡々と返す。


「ですよね」


 二階堂は、

 あっさり認めた。


「でも、

 だから第七にいるんでしょう?」


 それ以上、

 踏み込まない。


 線引きが、

 異様に上手い。


 解散後。


 二階堂は、

 区画の端で

 荷物を整理していた。


 空席だった場所。


 そこに、

 何も言わずに座る。


「……なあ」


 葛城が、

 低く声をかける。


「ここは、

 楽な部隊じゃない」


「知ってます」


 二階堂は、

 即答した。


「だから来たんで」


「理由は?」


 少し、

 踏み込んだ問い。


 二階堂は、

 一瞬考えてから答える。


「……生き残る確率が、

 一番高いと思ったんで」


 嘘ではなさそうだった。


 だが、

 真実でもなさそうだった。


「よろしくお願いします」


 最後に、

 そう言って頭を下げる。


 軽い。

 だが、

 雑ではない。


 去り際、

 二階堂はふと振り返り、

 空席をちらりと見た。


 ほんの一瞬。


 何を思ったのかは、

 分からない。


 分からないまま、

 第七特別部隊は

 再編成された。


 欠けたままの場所と、

 埋まった席。


 その差が、

 何を生むのか。


 まだ、

 誰にも分からない。

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