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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第一章:制御できなかったもの
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第9話 本番戦闘・地獄編

 戦況は、

 崩れていなかった。


 それが、

 何よりも残酷だった。


「……押せる!」


 鷹宮の声は、

 まだ余裕を残している。


 光が走る。

 衝撃が叩きつけられる。


 コラプサーは、

 確実に後退していた。


 倒れない。

 だが、押されている。


 ――勝てる。


 数字だけを見れば、

 そう判断できる。


 だが。


(……おかしい)


 悠真の内側では、

 警鐘が鳴り続けていた。


 削られ方が、

 明らかに変わっている。


 回復する前に、

 次が来る。


 息を整える前に、

 また奪われる。


 層が、

 一枚剥がれきる前に、

 さらに深く抉られる。


 それでも、

 倒れない。


 それが――

 問題だった。


「霧島、展開維持!」


「……了解」


 返事はあった。

 だが、

 遅れている。


 霧島の呼吸が、

 はっきりと乱れていた。


 防御は張られている。

 だが、

 余裕がない。


 肺が、

 限界を超えている。


 それが、

 そのまま悠真に流れ込む。


(……っ)


 胸が、

 内側から裂ける。


 空気を吸っているのに、

 足りない。


 視界の端が、

 暗くなる。


「――まだだ!」


 葛城が叫ぶ。


 身体を前に投げ出し、

 コラプサーの動きを止める。


 肉体強化。

 限界超過。


 拳が、

 何度も叩き込まれる。


 だが、

 戻ってくる反動は、

 確実に重くなっている。


(……神経)


 悠真の腕が、

 一瞬遅れた。


 指の感覚が、

 薄れる。


 力を入れているのか、

 抜けているのか、

 判断が曖昧になる。


 それでも、

 葛城は止まらない。


「下がるな!」


 その声は、

 命令というより、

 祈りに近かった。


 コラプサーが、

 咆哮を上げた。


 声にならない、

 音の塊。


 能力が、

 暴発する。


 地面が抉れ、

 建物が崩れる。


「市街地奥へ動くぞ!」


 霧島が叫ぶ。


 その判断が、

 全員を縛った。


 奥には、

 まだ人がいる。


 避難が、

 終わっていない区域だ。


 止められない。


 止めた瞬間、

 人が死ぬ。


 それが、

 全員に分かっている。


 だから、

 誰も止めない。


「……続行だ」


 葛城の声は、

 もう掠れていた。


 それでも、

 撤退は口にしない。


 できない。


 できるはずがない。


 鷹宮が、

 さらに出力を上げた。


「まだ行ける!」


 その言葉が、

 刃のように突き刺さる。


 寿命を削る能力。


 普通なら、

 もう限界を超えている。


 だが。


 肩代わりされている。


 削られているのは、

 自分ではない。


 その事実が、

 鷹宮を止めない。


 むしろ――

 加速させる。


「久遠!」


 怒鳴るような声。


「立ってるだろ!」


 事実だった。


 悠真は、

 まだ立っている。


 だから。


「なら、いける!」


 それが、

 結論だった。


(……違う)


 悠真は、

 声にならない声で否定する。


 いける、

 じゃない。


 倒れていないだけだ。


 だが、

 それを言う余裕はない。


 言ったところで、

 止まらない。


 止められない。


 コラプサーの動きが、

 再び鈍る。


 今度は、

 はっきりと。


 攻撃が、

 中途半端な位置で止まる。


 視線が、

 悠真に向く。


 まただ。


 また、

 目が合う。


 その奥に、

 確かに残っている。


 意思。


 理性ではない。

 記憶でもない。


 だが――

 感情の残骸。


 守ろうとした。

 離れられなかった。


 それが、

 歪んだ形で残っている。


(……やめろ)


 悠真の胸が、

 締めつけられる。


 これは、

 倒すべき敵なのか。


 それとも――


「何見てんだ!」


 鷹宮の怒声。


 次の一撃が、

 叩き込まれる。


 コラプサーが、

 大きくよろめく。


 だが、

 その衝撃が――


 悠真の中を、

 直接抉った。


(……っ!!)


 視界が、

 一気に白くなる。


 何かが、

 確実に切れた。


 音が、

 遠のく。


 立っているのか、

 倒れているのか、

 分からない。


 それでも。


 足は、

 地面についていた。


 ――立っている。


 それが、

 最悪だった。


「……まだだ」


 誰かが言う。


 誰の声か、

 分からない。


「まだ、

 持つ」


 その判断が、

 この戦場を地獄に変えた。


 久遠悠真は、

 この瞬間、はっきりと理解した。


 次は、持たない。


 それでも、

 使われる。


 使われると、

 分かっている。


 このまま行けば、

 すべてを失う。


 時間も。

 感覚も。

 何か大切なものも。


 それでも。


 誰も、

 止めない。


 止められない。


 止める理由が、

 この戦場には存在しない。


 だから――


 地獄は、

 まだ続く。

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