第8話 本番戦闘(後半)
最初の破壊音は、
雷に似ていた。
だが空からではない。
地面の内側から、
叩き割るように鳴った。
「来るぞ!」
葛城の声が響いた瞬間、
市街地の一角が内側から盛り上がる。
アスファルトが裂け、
コンクリートが砕け、
粉塵が夜気を押し潰した。
その中心に、
それは立っていた。
人の形を、
まだ保っている。
四肢は揃い、
背筋も伸びている。
だが、
皮膚の下を走る光が、
制御を失った能力の奔流を示していた。
「……反応、想定以上だ」
霧島の声が、
わずかに揺れる。
それだけで、
状況の異常さは十分だった。
「前に出る!」
鷹宮が、
躊躇なく踏み込む。
寿命を燃やす過剰出力。
ためらいのない全開。
夜の街が、
一瞬だけ昼になる。
光が走り、
衝撃が遅れて追いつく。
爆風が建物を叩き、
外壁が紙のように剥がれ落ちた。
だが――
倒れない。
コラプサーは、
歪んだ姿勢のまま踏みとどまる。
足元の地面が、
蜘蛛の巣状に割れた。
「……硬すぎる」
鷹宮が舌打ちする。
次の瞬間、
コラプサーの腕が振るわれた。
振り下ろしではない。
払うような動き。
だが、
空間が歪んだ。
「防御、展開!」
霧島の声と同時に、
空間圧縮が発動する。
不可視の壁が形成され、
衝撃が押し潰される。
――押し潰しきれない。
圧力が、
防御越しに伝わる。
(……っ)
悠真の肺が、
一気に締め上げられた。
呼吸が止まる。
喉が、
悲鳴を上げる。
酸素が、
体の内側から奪われていく感覚。
それでも、
霧島は防御を解かない。
肩が、
わずかに上下する。
呼吸が、
確実に浅くなっている。
それが何を意味するか、
悠真には分かりすぎるほど分かった。
「押さえる!」
葛城が地面を蹴る。
肉体強化。
痛覚遮断。
常人なら、
骨が砕け散る踏み込み。
葛城の身体が、
弾丸のように前へ飛ぶ。
拳が、
コラプサーの胴を撃ち抜く。
衝撃が、
空気を震わせた。
だが――
手応えが、
ない。
「……っ!」
次の瞬間、
葛城の身体が横殴りに吹き飛ばされた。
直撃ではない。
余波だ。
それでも、
人間が受けるには十分すぎる。
「葛城!」
悠真の声と同時に、
神経が焼けるように痛んだ。
(……来た)
指先が痺れる。
力の入れ方が、
一瞬分からなくなる。
だが、
葛城は立ち上がる。
歯を食いしばり、
何事もなかったかのように。
「問題ない!」
その声は、
自分に言い聞かせるようだった。
「続ける!」
止まれない。
止まった瞬間、
コラプサーはこの場を離れる。
逃げるのではない。
進む。
市街地の奥へ。
人の残る場所へ。
反論できない。
民間人が、
まだ近くにいる。
完全な避難は終わっていない。
この街区の外れには、
まだ人が残っている。
ここで下がれば、
次に壊れるのは防衛線ではない。
街そのものだ。
コラプサーを抑えているのは、
今この場では第七特別部隊しかいない。
代わりはない。
引き継ぎもない。
撤退という選択肢は、
存在しない。
だから、
続ける。
三人の能力が、
再び重なる。
過剰出力。
空間圧縮。
肉体強化。
限界を、
限界で上書きする戦い。
その中心で、
悠真は立っていた。
倒れない。
倒れられない。
削られる感覚が、
今までとは違う。
量ではない。
層が、
一枚ずつ剥がされていく。
身体の奥。
思考の奥。
何か、
戻らない場所。
それでも――
(……まだ、いける)
その瞬間。
コラプサーの動きが、
わずかに鈍った。
ほんの一瞬。
だが、
悠真は見逃さなかった。
攻撃の軌道が、
自分を避けている。
偶然にしては、
近すぎる。
次の一撃が、
来ない。
視線が、
悠真を捉えた。
――目が、合った。
人間のものだった。
本当に、
一瞬だけ。
そこにあったのは、
怒りでも殺意でもない。
戸惑い。
焦り。
何かを守ろうとする衝動。
(……?)
次の瞬間、
鷹宮の一撃が叩き込まれる。
光が走り、
衝撃が炸裂する。
コラプサーの身体が、
大きくよろめいた。
だが、
悠真の胸の奥は、
ざわついたままだった。
今のは、
錯覚じゃない。
確かに――
通じた。
理由は分からない。
意味も分からない。
だが、
何かが変わり始めている。
その感覚だけが、
はっきりと残っていた。




