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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第一章:制御できなかったもの
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第8話 本番戦闘(前半)

 降下地点の手前で、

 第七特別部隊は一度、足を止めた。


 予定されていた動きではある。

 だが、それを誰も口にはしなかった。


 ここで止まる理由は、

 確認でも、調整でもない。

 ――覚悟を揃えるためだ。


 夜明け前の市街地は、

 不自然なほど静かだった。


 風がない。

 人の声もない。

 遠くの機械音すら、聞こえてこない。


 電気の消えた建物。

 割れた窓。

 放置された車。


 逃げたのか、

 逃げきれなかったのか。


 判断できないまま、

 人がここで暮らしていた痕跡だけが、

 街の至るところに残されている。


「……入る前に、確認しておく」


 葛城の声は低かった。


 いつもの現場指揮よりも、

 明らかに重い。


 命令というより、

 作戦の一部としての宣言。


 全員が、自然にそちらを見る。


「久遠」


 名指しだった。


 悠真は、

 わずかに背筋を伸ばす。


「テスト戦場とは、話が違う」


「……はい」


 短く答える。


 否定も、

 言い訳も、

 挟む余地はない。


「だから話す」


 葛城は言った。


「聞いとけ」


 鷹宮が、

 楽しそうに口を挟む。


「今さら?」


 その軽さが、

 逆に空気を張りつめさせる。


「今さらだ」


 葛城は即座に睨み返す。


「本番だからな」


 その一言で、

 場の温度が変わった。


 霧島が、

 端末を操作しながら口を開く。


「今回の対象は、

 元・連邦防衛軍第三方面隊所属の能力者」


 悠真の呼吸が、

 一拍だけ遅れた。


「能力ランクはⅢ後半。

 市街地防衛での功績が多い」


 葛城が、

 その言葉を継ぐ。


「住民避難の時間を稼いで、

 最後まで残った」


 撤退していく部隊。

 背中を押すように、

 一人で残る能力者。


 悠真の脳裏に、

 勝手に光景が浮かぶ。


 胸の奥が、

 わずかに詰まった。


「撤退命令が出た時点で、

 すでに限界を超えていた」


「……つまり」


 無意識に、

 声が漏れる。


「英雄だよ」


 鷹宮が、軽く言った。


「使い切られた、ってやつ」


 笑いはない。


 誰も、

 その言葉を否定しなかった。


 否定できる理由が、

 ここにはなかった。


「だから今回のコラプサーは、

 強い」


 葛城は、

 一瞬だけ言葉を選んでから続ける。


「理性はない。

 喋らない。

 命令も通じない」


「残ってるのは、

 守ろうとした力だけだ」


 それが、

 どれほど危険か。


 説明する必要はなかった。


 この場にいる全員が、

 嫌というほど知っている。


 沈黙が落ちる。


 その沈黙を、

 葛城が切った。


「で、第七の動きだ」


 短い言葉。


 それだけで、

 全員が理解する。


「今回は、

 誰も余力を残さない」


 いつもの調整も、

 様子見もない。


 最初から、

 限界の向こう側を使う。


「倒れたら撤退」


 葛城は続ける。


「倒れなければ、

 続行だ」


 条件は、それだけ。


 遠くで、

 建物が崩れる音がした。


 低く、腹に響く音。


 反応が、

 確実に近づいている。


「……行くぞ」


 霧島が言う。


 鷹宮が、

 肩を回しながら笑った。


「英雄相手に、

 本番だな」


 葛城は、

 何も言わなかった。


 悠真は、

 自分の手を見る。


 震えてはいない。


 まだ、

 立っている。


 だが――


 ここから先は、

 誰かが壊れる前提で進む戦場だ。


 それだけは、

 はっきりと分かっていた。

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