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REMNANT ――境界に残ったもの  作者: 灰谷 くぐり
第一章:制御できなかったもの
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幕間:検査変更通知

 病院からの通知は、

 いつも唐突だった。


 久遠日和は、

 ベッドの上で端末を見つめている。


 画面には、

 事務的な文章が並んでいた。


《検査日程変更のお知らせ》

患者:久遠日和


次回定期検査について、

都合により日程を前倒しします。


新しい検査日は――


 そこまで読んで、

 日和は一度、端末を伏せた。


 前倒し。


 その言葉の意味を、

 日和はもう知っている。


 体調が良いときに、

 前倒しは来ない。


「……また、か」


 小さく呟く。


 天井は白く、

 変わらない。


 この部屋に来てから、

 何度も同じ天井を見てきた。


 能力への拒否反応。

 原因不明。

 治療法未確立。


 医師は、

 いつも同じことを言う。


「今すぐどうこう、という状態ではありません」


 でも、

 「このままでいい」とも言わない。


 検査は増え、

 薬は変わり、

 様子を見る時間だけが伸びていく。


 その間、

 兄は前線に立ち続けている。


 端末を、

 もう一度開く。


※本検査は、

ご家族の協力体制を考慮した上で

調整されています。


 その一文に、

 日和は視線を止めた。


 ――家族の、協力体制。


 意味は、

 分かっている。


 兄が、

 国に貢献しているから。


 だから、

 自分はここにいられる。


 直接そう言われたことは、

 一度もない。


 でも、

 否定されたこともない。


「……お兄ちゃん」


 病室には、

 日和一人しかいない。


 それでも、

 名前を呼ばずにはいられなかった。


 兄は、

 きっと今も仕事をしている。


 危ない場所で。

 削られる場所で。


 自分のために。


 それが事実かどうかは、

 分からない。


 でも、

 そう思ってしまう。


 そうでなければ、

 自分はここにいる理由を

 見失ってしまうから。


 端末が、

 もう一度震えた。


 今度は、

 別の通知。


《確認事項》

本検査に伴い、

今後の生活制限について

再調整を行います。


 制限。


 その言葉に、

 日和は苦笑した。


「……まだ、減るんだ」


 外出。

 面会。

 自由時間。


 少しずつ、

 削られていく。


 兄と同じだ、と

 思ってしまう。


 ただし、

 こちらは能力ではない。


 選択の余地もない。


 日和は、

 端末を胸に抱えた。


 兄に、

 この通知を見せるつもりはない。


 心配させたくない。

 余計なことを考えさせたくない。


 兄は、

 自分の仕事をすればいい。


 それが、

 この世界の正しさなのだと、

 どこかで信じているから。


「……早く、帰ってきて」


 小さく、

 誰にも届かない声。


 検査日が前倒しになった理由も、

 これから起きることも、

 日和には分からない。


 分からないまま、

 ただ待つ。


 それが、

 久遠日和に与えられた役割だった。

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