プロローグ ――REMNANT
レムナント連邦が人間を書き換えたのは、
生き残るためだった。
それ以上でも、それ以下でもない。
かつてこの国は、
武力主義国家、機械国家、聖権国家に囲まれた小国だった。
人口は少なく、資源も乏しい。
正面からぶつかれば、数で押し潰される未来しかなかった。
だから選ばれたのが、能力だった。
人間に、力を与える。
ただし無条件ではない。
能力には、必ず代償を伴わせる。
寿命、記憶、感情、身体機能。
何かを削ることで、出力を得る。
遺伝子レベルでその構造を組み込み、
発現を安定させ、
誰が使っても、同じだけの“強さ”を引き出せるようにした。
結果、連邦の能力者は強くなった。
小隊は大隊に等しく、
一人は十人分の働きをした。
戦況は変わり、
国は生き残った。
代償は、想定内だった。
人は壊れるが、
それは戦争において珍しいことではない。
問題は、
想定を超えた壊れ方が現れたことだった。
能力を使い続けた個体が、
ある日突然、人格を失う。
理性を喪い、
命令を理解せず、
敵味方の区別もなく破壊を始める。
暴走個体。
後に《コラプサー》と呼ばれる存在。
当初、それは事故とされた。
調整不足。
想定外の副作用。
改良すれば、防げるはずのもの。
だが、防げなかった。
能力を強くするほど、
代償は重くなり、
限界を越える個体は増えていった。
暴走個体は、
能力の失敗作ではない。
むしろ、
成功の末に生まれるものだった。
だが、そう結論づけるわけにはいかなかった。
能力を止めることは、
すなわち国の弱体化を意味する。
再び、数で押し潰される未来が見える。
だから、続けた。
暴走個体は、
発生すれば処理する。
討伐部隊を編成し、
市街地から切り離し、
迅速に排除する。
記録上は、
「自然発生した暴走事故」。
誰も嘘は言っていない。
ただ、原因のすべてを語っていないだけだ。
やがて、
奇妙な報告が上がるようになった。
同じ戦場に配置された部隊で、
暴走個体の発生率に差が出る。
特定の区域、
特定の部隊。
そこには必ず、
同じ人物がいた。
能力出力は低い。
直接的な戦闘力はない。
前線に立つ理由が、記録上存在しない。
だがその人物がいると、
他の能力者の消耗が軽減される。
代償の進行が、
なぜか遅くなる。
理論的な説明は、つかなかった。
代償は分散できない。
それが、この国の能力理論の前提だ。
にもかかわらず、
現象は起きている。
記録は残され、
分類だけが与えられた。
――特異個体。
扱いは変わらない。
前線に配置され、
戦場を渡り歩く。
壊れない限り、
使われ続ける。
この国にとって、
重要なのは一つだけだ。
国が、
今日も存在していること。
そのために、
どれだけの人間が削れたかは、
記録の端に残る数字でしかない。
境界を越えた者は、
怪物として処理される。
越えなかった者は、
人として使われる。
そして、
どちらにもなりきれなかったものだけが、
境界に残る。
それが、
この国が生み出した
REMNANTだった。




