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92 黒犬急襲 宝塚塩尾寺断層の闘い(マップあり)微妙に百合成分

 邪気の防御機構が反応した。邪気が剣奈の実家、宝梅のすぐ近くに潜んでいたのである。剣奈が演武で超絶な剣気を放った。あまりに峻烈な剣気をすぐ近くに感じてそこに潜む邪気が脅威を感じたのである。邪気は黒犬の群れを放った。


 西から黒震獣犬が猛烈な速さで急接近していた。


 宝塚駅にほど近い場所に月見山がある。そこから宝塚ゴルフ倶楽部北側の野上あたりにかけて南北方向2kmにわたり塩尾寺(えんぺいじ)断層が走っている。

 塩尾寺断層は逆断層型である。傾斜面は四十度、上下変異総量は百m以上に及ぶ。変異速度は二百年で一mと見積もられる。

 この断層は潮泉山塩尾寺ちょうせんざんえんぺいじにちなんで名づけられた。


◆剣巫女 塩尾寺断層の闘いマップ

挿絵(By みてみん)


 塩尾寺は宝塚温泉と所縁の強い寺院である。ここのご本尊は十一面観音菩薩様である。塩尾寺の由来を伝える『塩尾寺観音縁起』と『御供水の由来』には次のような記載がある。

 室町幕府第十二代将軍足利義晴のころ(1511~1550年)、この地は千軒以上の家があり栄えていた。

 この地に貧しい女性が細々と暮らしていた。彼女が五十歳になったとき悪瘡(あくそう)にかかり身心ともに苦しんだ。

 彼女は信心深く中山寺にお参りを続けた。ある夜のこと、彼女の夢枕に一人の僧が立ち告げた。「武庫川鳩ケ淵の川下の大柳の下に湧く霊泉で湯浴みをしなさい。そうすれば病は癒える」と。

 彼女はお告げの通りに霊泉を沸かして身を清めた。すると数日で彼女の病は癒えた。

 彼女の発願により霊泉の大柳を用いて「柳の観音」と「塩出観音」が刻まれお寺が建立された。この寺が後に塩尾寺と呼ばれるようになったという。ちなみにこの塩尾寺、別説では聖徳太子が建立したとの伝もある。


 塩尾寺への行き方は宝塚駅から武庫川にかかる宝来橋を渡り甲子園大学に向けて南西方向に歩くのがわかりやすい。十五分ほど歩くと塩尾寺の石標にたどり着く。そこから比高三百mほどの寺院を目指すのである。

 途中「えんぺい寺休憩所」と「展望台」がある。展望台からは大阪湾、梅田ビル群、難波ビル群、そしてあべのハルカスまで見渡せる。絶景である。ちなみに展望台から塩尾寺まで結構遠い。


『剣奈、やむを得ぬ。ここで迎え撃つぞ。ご祖母殿と母御殿に気を配るのを忘れるでないぞ』

「うん!いくよ!」


 迫りくる黒震獣犬は5匹。鋒矢(ほうし)崩れの雁行陣で急接近してきていた。三匹が剣奈に迫り、二匹が左右に分かれた。


「させるかぁ!あんん~♡スプラーシュ、スプラーッシュ」


 ヒュン、ヒュン


 順手からの抜刀。来国光の刀身が右上に斬り上げられた。逆袈裟斬りの刃閃。キラッ。

 そして斬り上げた先、剣奈の頭上右上で(かいな)が返さた。素早く袈裟斬りに斬り下げられた。ヒュン。


 シュン、シュン

 

 それぞれの斬撃で白黄輝の飛針が放たれた。剣奈の右に迂回した黒震獣犬は頭蓋を貫かれた。左に迂回した黒震獣犬は喉を貫かれた。二匹の黒犬が一瞬にして消滅した。残三匹。


「「剣奈っ!」」


 残る三匹が剣奈に迫る。千鶴と千剣破の叫び声が重なった。剣奈は彼女を迂回して千剣破と千鶴を狙う敵を先に倒したた。そのため剣奈自身を狙う敵への対応が遅れた。「私たちが足手まといになってしまった」。千鶴と千剣破はそう思い、唇を強くかみしめた。


「んん♡」


 剣奈の口から嬌声が漏れた。艷やかな声だった。しかしその色気のある声とまったく正反対の雰囲気が剣奈の周りに広がっていた。剣奈の全身は鮮烈な気に包まれ澄みきっていったのである。

 迫りくるは三匹の黒犬。正面から一匹、左右からそれぞれ一匹。


 剣奈は先ほどの袈裟斬りを放った流れそのままに来国光を左腰の横まで振り切っていた。そして今、剣奈は左腰に添えて来国光を構えていた。姿勢は右半身の構え。右足右肩を前に出した状態になっていた。剣奈の全身から余分な力は抜け、すらりとした自然な立ち姿だった。

 と、剣奈は左足を重心として身体を左に捩じった。次の瞬間、重心が右足に移った。剣奈は右足先を軸にして身体を勢いよく時計回り方向に回転させた。

 

 ヒュン


 振り切られた刃閃は左逆袈裟斬りの斬り上げ。剣奈の左前方から跳びかかる犬の横っ面を切り裂き、正面から剣奈の喉元を食らわんと跳びかかる犬の頭蓋を存分に切り裂いた。


 シュン シュン


 二匹の黒犬が消滅した。


「ん♡」

 ヒュッ


 剣奈は止まらない。右に振り切られた来国光は、(たい)を左に捩じり戻す勢いとともに鋭く前方に突き出された。刺突。


 シュン

 

 剣奈は右前方から跳びかかる犬の胴体を貫いた。前方から鋒矢の型で突進した三匹の黒い犬は、一瞬にして切り裂かれ、消滅した。


「ふぅー」

「「剣奈っ!」」


 剣奈に駆け寄る千剣破と千鶴である。二人は剣奈を左右からギュッと抱きしめた。


 あぁカッコいい……

 はっ、ダメよ。こんな時に何を……


 ハッとして離れた千剣破である。百合から母に戻った千剣破は剣奈の全身を見ながら尋ねた。


「痛いところはない?ケガしなかった?」

「大丈夫。でもボク、汗臭いかも」


 剣奈の汗ばんだ身体からは暖かく湿った空気が立ち上っていた。しかしこれが妙な色気を含む心地良い香りを放っている。剣奈の汗ばむ身体、上気してピンク色に染まった頬、困ったようにはにかむ笑顔。


 ああ…… たまらない……


 娘剣奈に怪我一つないことを確認して安堵した千剣破にふたたびむくむくと百合心が沸き起こった。沸き起こってしまった!いいのか千剣破!


 千剣破は剣奈から立ち上るナニカに誘われるように剣奈を抱きしめた。そして全身で剣奈を味わった。


 尊い…… 満足感が千剣破の身体を満たした。


「えへへへへ。暖かい」


 千剣破と千鶴に抱きしめられた剣奈はニコニコしながら瞳を閉じた。


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