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89 驚愕のお茶会(フォトあり)

 千鶴は戦慄した。ただ事ではないと。出生時の男女の取り違えならば理解できる。剣人の独り言も癖も許容範囲である。

 しかしこれは何だ。瞬間移動?さすがにこれは説明がつかない。ありえない。千鶴は千剣破に話しかけた。


「千剣破?」

「お母さん、全部話すからちょっと待って。まずはお茶会の用意をしましょ」


 千剣破は千鶴の様子を見て、連れてきて正解だったと思った。

 千鶴は常識人である。理解が早い。剣奈が女の子に変わったという異常事態でさえ、ホルモン異常による男女の取り違えだと判断して騒がず受け入れた。

 一方で説明がつかない話をすると、何か理由があって嘘をついているのだろうと判断されてしまう。

 常識が邪魔をして説明がつかないことは受け入れられないのである。


 だから千剣破はまず事実を見せた。百聞は一見にしかず。自分の目で見て体験したことであれば、たとえ説明がつかなくとも嘘とは思うまい。

 いや、催眠術や薬物による幻覚と判断される恐れはあるか。ともかく全部母に話そう。その上で、また考えよう。千剣破は思いを巡らせ、口を開いた。


「お母さん、長い話になるのだけれど聞いてくれる?」

「聞かんわけには行かんようやね。何やとんでもないことに巻き込まれてるってことやね」

「とんでもないことじゃないよ!ボク、ヒーローに選ばれたんだよ。クニちゃと勇者パーティを組んで悪の魔王を討伐するんだよっ」

「剣奈、まずはお母さんに話をさせてもらっていい?剣奈の話はとっても魅力的でワクワクするのだけれど、大人には大人の話し方があるの。剣奈に話してもらいたいときは言うから、ちょっとだけお母さんと来くんに任せてね」

「ちぇ、はーい」

「来くんもよろしくね?」

『うむ。承った』

「まず、この声を出してる人(?)から説明するね。剣奈、来くんをテーブルに置いて?」

「はーい」


 剣奈はリュックからウコン布を取り出し、長方形に形を整えてテーブルに置いた。そして来国光を右手で掴み、左手を下から添えてそっと布の上に置いた。美しい所作だった。


「お母さん、こちらが邪斬・来国光くんです。刀です。魂を持っている刀です。先ほどの声は来くんが私たちの心に呼びかけた声です」

「これはたまげたね。本当やったらスピーカーと隠しマイクを探すとこやけど。本当なんやね?魂があるってのは……」

『ご祖母殿には初めてお目にかかる。拙者、邪斬・来国光と申すもの。遠い昔に打たれた奉納刀でござる。訳あって今は剣奈殿と契りを交わしてござる』

「奉納刀と契りとは。これまた、ただ事やないね」

「お母さん、来くん、いいえ、邪斬・来国光さんは地震を鎮めるために、神託を受けた刀工来国光さんが打ち、神様に奉納したの」

「来国光って有楽来国光のあの?」

「ええ。地震を鎮めるために奉納されたのだけれども地震が起きてしまって、それ以来、地震を鎮めることを使命として活動されてるの」

「おやまあ、それはまた。だいたい地震を鎮めるなんてことができんのかね?」

「地震にも色々あって、来国光さんが鎮めることができるのは、「邪気」と呼ばれるナニカによって引き起こされる地震みたい。邪気は地脈を好んで棲家(すみか)とするらしいの。その邪気を浄化することで地震を未然に防ぐことができるそうなの。来くん、邪気について説明してもらってもいいかしら」

 

『うむ承知した。邪気は(そら)から降ってきたものじゃ。藤原定家殿の『愚記』、後に『明月記』と呼ばれるようになった日記にも客星が現れ不気味に輝いた様や「北并艮方有赤気きたならみこんかたにあかきあり」つまり、北の方角に赤気が降るのが見えたとの目撃談がある。邪気は宙から大地に降りた幽玄体、不定形生命体じゃよ。こやつらが地脈に巣食い、地脈の力を喰らい、地震(なゐ)を起こし、山から火を吹かせ、大浪を起こし、雷をよぶ。それが邪気じゃよ』


◆邪気の地球への侵略 『星解』の赤気より

挿絵(By みてみん)

 

「宇宙生命体とはこれまたとんでもないね。そんな大層な相手を浄化することなんか、ほんま出来んの?」

『剣奈の巫女舞で浄化すること能う。剣奈に宿る清らかなる神気。それが地脈の邪気を払う。剣奈はすでに吉備国にて、塩之内断層の闘い、そして畑ケ鳴断層の鬼山の闘い、二度も邪気を払ってくれた』

「たまげたね。ところでなんでみんな剣人のことを「けんな」って呼んでるの?」

『剣人の女性名としてワシが名付けた。ケンナの「ケン」は剣人の「剣」であり、刀剣とのワシのとの繋がりを示し賢さも表す。ケンナの「ナ」は、奈良の「奈」。豊かさ、実り、華やか、繁栄を表す。賢く、聡く、刀剣のワシと繋がり、豊かな実りをもたらす女性(にょしょう)。そういう意味と願いを込めた』

「はぁ名付けね……まさか剣奈を名前で縛って意のままになんて企んでないよね?まあ、情報多すぎて訳分からんわ。サンドイッチでも食べよか?剣奈、でええんよね。剣奈、来さんにお茶こぼすと大変やから腰に履きましょか」

「はい」


 千鶴はあまりに奇想天外な話に面食らいながらも、娘や来国光の話ぶりから、言っていることに嘘はないと判断した。

 が、やはりとても信じられない。とりあえずお茶を飲んで落ち着こう。そう思うのだった。


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