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79 おばあさんの洗濯岩(マップあり)



 祝詞(のっと)で地脈の浄化をはたし、「おばあさんの洗濯岩」にたどり着いた剣奈は、来国光と共に現世に戻ることを望んだ。

 今回の闘いを経てた今、剣奈の心で来国光の存在はとても大きなものになっていた。

 今回の闘いは非常に苦しい闘いだった。命を何度落としても不思議ではない苦戦の連続だった。

 その死地を来国光と乗り越えたのである。来国光の助言によって死地を逃れ、また来国光の助言により倒せない敵を倒せた。

 

 来国光といると剣奈は大きな安心感に包まれるようになっていた。剣奈にとって来国光はもはや離れがたい一心同体のパートナーだったのである。死地を共に乗り越えた戦友だった。頼りになる経験豊富な教師であり、絶対的な信頼を寄せる保護者ともいえる存在になっていた。

 剣奈と来国光は結紐で身体の繋がりはすでにできていた。剣奈にとって来国光は実質的に身体の一部だった。

 そして今回、一振と一人は、いや二人はしっかりと心でも固く繋がり結びついたのである。


「どんぶらこー、どんぶらこ」


 剣奈は上機嫌で打穴川(うたのがわ)の川辺を歩いていた。勝﨏と祝詞にほど近いの打穴川東側岸辺に「おばあさんの洗濯岩」と呼ばれる地がある。

 剣奈はその地を目指しながら桃太郎の桃が川に流れてくる情景を思い浮かべながら上機嫌で口ずさんでいた。


◆おばあさんの洗濯岩 剣巫女 岡山県美咲町 元祖桃太郎史跡マップ

挿絵(By みてみん)

https://kakuyomu.jp/users/SummerWind/news/16818622177287133658

≪≦8dcc1fd948525100666b503e39a20e9a.jpg|C≧≫

 

 桃太郎伝説ではおばあさんの洗濯中に上流から桃が流れてきた。桃太郎伝説冒頭の重要なシーンである。

 桃太郎伝説はこの世のものならぬ他界から現世に超人が現れるマレビト伝説としてとらえることが出来る。

 桃太郎伝説でマレビトである桃太郎が現世でおばあさんと初めて接触したのが川である。そしておばあさんが洗濯をした川は他界と現世の位相が重なった場である。

 その考えにおいて、現世への帰還に「おばあさんの洗濯岩」を選んだことは大変意味があり、意義深いことである。

 剣奈はもちろんそんなことは意識していない。


「うわあ。川原が凸凹(でこぼこ)!」


 これである。凹である。剣奈は凹に引き寄せられただけである。剣奈よ。それほど凹が好きか?そんなに凹に魅力を感じるか?そんなに凹になりたいか?もはや凹は剣奈ホイホイである。


 凹凸(おうとつ)が連続する地形を「洗濯板状起伏」という。層になった堆積岩が水浸食にさらされる場所で時折見られる。

 「おばあさんの洗濯岩」は砂岩(粗粒砂岩〜中礫岩)と礫岩(大礫岩)の2層がミルフィーユのように交互に重なった地層である。

 礫岩層の浸食が先行して(ぼこ)になり、残された砂岩層が凸型に突出したことで形成された。

 ここは岡山県美咲町元祖桃太郎伝説めぐりの必見スポットの一つである。


 剣奈は凹凸の川原にはしゃぎながら来国光に語りかけた。

 

「今日、クニちゃとボクはすっごく頑張ったよね!だからさ、現実世界に一緒に帰ろ?ちゃんとお世話させて?一緒に寝よ?」

 

 チラッ。


 抱きかかえられたまま、おねだりされた来国光に否はない。剣奈、小悪魔の素質ありである。

 しかもである。そこは「お世話」ではなく「お手入れ」である。

 今後、剣奈は無自覚に魅了の被害者を増やさないか心配である。


 ところで剣奈よ。一緒に帰還するとして、ディーゼル車の中で来国光を抱かないように!

 銃刀法違反である。いや、リュックに入れて持ち運んでいる時点ですでに銃刀法違反か。

 実はこの案件、すでに千剣破(ちはや)の脳内会議で検討されている。詳細は別の機会に譲ろう。


 さて、二人の帰還である。


『剣奈、同時帰還の術式を行うぞ。四方拝を行い、我に追唱せよ』


 剣奈は来国光を両手に高く捧げ、北東南西の順に深く(こうべ)を垂れ、深く腰を折って神様方に心から感謝の意を捧げた。そして剣奈は来国光と共に祝詞(のりと)を奏上した。


()けまくも綾に(かしこ)

天土に神鎮(かむしずま)()

(いとも)も尊き大神達の大前(おほまえ)

慎み敬い (かしこみ)(かしこみ)(まを)さく

(さきわ)ひ給ひし事を

嬉辱奉うれしみかたじけなみまつりりて

今し大前に参集侍(まいうごなは)れる

剣奈と来国光 現世(げんせ)に戻さむことを

(おろが)(まつ)るをば

(たひら)けく(やすら)けく

聞こしめし(うづな)(たま)へと

白すことを聞こしめせと

恐み恐み白す


 剣奈は光りに包まれ、幽世(かくりよ)の風に溶けた。

 

 同時刻、現世で一陣の風が吹いた。皆が風に気を取られている間に、ひっそりと剣奈が川原に立っていた。

 気づいた人は誰もいなかった。


「そう言えばクニちゃ。あのさ。地脈を清めるときの呪文さ、前回とちょっとだけ違くなかった?」

『よくわかったのぉ。祝詞がわかるようになったか?』

「違くて。なんかね違うなって、何となく思ってさ。そしたらお清めの時に風が吹いたでしょ?神様方の風。そのなかにさ、ピンチの時に助けてもらった時と同じ色の風が混ざってた気がしたんだけど」

『たまげたのぉ。同じ色の風とな?剣奈は風に色がついて見えるのか?』

「うーん。正確に言うと色というより感じ?気配?雰囲気?」

『うむ、そうかもしれんの。なら吉備国(きびのくに)を離れる前に、ちゃんとお礼しておかねばの』

「どなたに?」

『一緒に現世に戻ったじゃろ?明日、共に向かおうぞ?』

「うん!」


 剣奈は元気に返事し、ホテルへの帰路につくのだった。


 日は傾き、夕暮れに差し掛かろうとしていた。


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