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76 淫靡な笑


 剣奈は再び黒震獣鬼と対峙していた。

 

「ん♡ ケントー、スペシャル、スプラーッシュ」

 シュッ

 白黄の残光をひいて鬼に迫る針。

 

 しかし、

 ザシュ

 ドゴォォォォッッ!

 

 先ほどの闘いと寸分たがわぬ光景が繰り返された。しかし先ほどの闘いと異なる点があった。

 先の闘いでは怯え、引きつり、泣き出しそうな剣奈だった。しかし今の剣奈は違った。今の剣奈は凪いだ水面が如く穏やかな表情であった。

 しかし。


 「ん♡」

 シュッ

 ザシュ

 ドゴォォォォッッ!

 

「ん♡」

 シュッ

 ザシュ

 ドゴォォォォッッ!


 自信を持った顔で繰り出される剣奈の技。しかし鬼は軽々とそれを叩き潰した。結局、先ほどと同じ光景が繰り広げられるだけであった。


………………


 時は少し巻き戻る。

 

「ん♡ ヒールッ!」

 

 すっかり独自の回復術を体得した剣奈である。左腕を血まみれにした傷は剣気に包まれ癒えていった。

 来国光は熟考していた。剣奈が勝﨏(しょうざこ)に逃走する間に、さらに剣気を吸い込み自らの傷を癒やす間にも。来国光は今日の闘いを思い描き、振り返り、勝機につながるものが何かないかと懸命に考えた。

 

「クニちゃ、聞いて?ヒーロー剣士は強大な敵を倒す時、九つの斬撃を同時に放つんだよ」

『うむ?』

「ボクね、その技見てさ、すっごくカッコいいなぁって思ってたの。でもね、」

『でも?』

「本当の必殺技はそれじゃなかったんだよ。そのヒーロー剣士、同じ技を使う力の強い敵が現れた時、打ち負けちゃってさ。そこから新の必殺技への扉を開いたんだ」

『ふむ』

「ボク、針を飛ばせるようになって無敵になったと思ってた。でもあいつ、大きくて力も強くて。同じ技のはずなのに、あいつが出すと槍みたいにぶっとくて。ボク、小さいからどうしても打ち負けちゃう。同じ技だけど負けちゃうんだ。でもね、これが新の必殺技への始まりなんじゃないかなって」

 

 その通りだ。来国光は思った。剣奈は幼く小柄である。武器も短い短刀である。力任せの技の出し合い、打ち合いに勝機を見いだすのははなから無理筋ではないかと。

 改めて来国光は今日の闘いを思い描いた。苦戦した弓兵を圧倒するようになった剣奈の姿を。自分よりもはるかに大きな獅子が如き黒震獣を両断したことを。

『む?なんじゃと?そうだった。剣奈は自分よりはるかに大きい敵を倒したではないか。あの時どうやった?どうやって勝った?そ、そうじゃ!』


 来国光の心に勝ち筋がひらめいた。そして。

 

『剣奈、よく聞くのじゃ……』


………………


「ん♡」

 シュッ

 ザシュ

 ドゴォォォォッッ!



「ん♡」

 シュッ

 ザシュ

 ドゴォォォォッッ!


 剣奈から撃たれる白黄輝の飛針。しかしことごとく黒震獣鬼の金砕棍(こんさいぼう)に打ち払われていた。

 鬼は続けざまに金砕棍を振るった。そして轟音をとどろかせ黒く巨大な弩矢(どし)を打ち出した。

 黒震獣鬼は思っていた。「ひたすら無駄な攻撃を繰り返す小娘め。貴様の弱々しい針なんぞ、何の脅威も感じぬわ」。

 鬼は小娘がもはやなすすべがなくなったと考えた。鬼は嗜虐心に満ちた淫靡(いんぴ)な笑みを浮かべた。

 

 その時である。


 シュッ。来国光がほんの少し距離を長めに振りきられた。そして剣奈は右手首を返した。来国光の刀身が返された。

 シュッ。剣奈を見下し油断しきっていた鬼はそれを見逃した。


「ん♡ スプラッシュ スプラーッシュ」


 同じ飛軌道で二本の針が飛んだ。一の針のわずかに後ろに二の針。鬼は二本の針が己に向かうのに気づかない。

 また同じ攻撃。小娘め無駄なことを。鬼は嘲り、乱暴に金砕棍を振った。

 

 ザシュウ

 

 いつも以上に金砕棍の振りに力が入った。その勢いのまま突進して小娘に直接金砕棍をたたき込んでやろう。そう鬼は考えた。

 鬼の頭には金砕棍に殴打され、吹き飛ばされる小娘の姿がありありと浮かんだ。

 強打され、なすすべもなく倒れる小娘。組み敷き、貫ぬいてやろう。

 

 鬼は泣き叫ぶ小娘の姿を想像し、股間を(たぎ)らせた。

 

 ヒュッ

 

 鋭い音が聞こえた。


 小娘の針はすべて金砕棍で砕いたはずである。そのはずなのである。小娘の小うるさいだけの攻撃に脅威など何も感じなかった。

 あとは小娘を懲らしめ、凌辱するだけであった。

 

 小娘の手足を斬り落とし、泣け叫ぶ小娘をアクセサリーにしてやろう。

 小娘を貫いたままいろんな場所に連れて行ってやろう。

 なんならその姿で現世に顕現してとことんこの愚かな小娘を辱めてやろう。

 

 鬼はそんな加虐的な想像に心を踊らせていた。

 なのに、なのにである。なぜ音が聞こえる?何故我に痛みが走る?

 

 黒震獣鬼は急に狭くなった視野を訝しみ右目で小娘を睨んだ。


 鬼の左目は白黄の輝きに貫かれていた。


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