71 新技の理 鋭く、細く
「なるほどね。矢がなくても矢が飛ばせるんだね。新必殺技も関係あるの?」
ワクワクしながら尋ねる剣奈である。
『うむ。伝えようとしている技じゃがな、端的にいうと剣気を飛ばす技なのじゃよ』
「剣気を飛ばす?ケントウルトラファイナルストライクみたいな?たしかにあれ一気に剣気をぶっ放す技だからすっごく強力だよね。だけどやっちゃったら剣気使い果たしちゃうんでしょ?またクニちゃ死んじゃったらやだよ?」
剣奈は塩之内断層の闘いを思い出していた。黒震獣犬の殺気に怯え、逃げ出し、追い詰められ、恐慌してやみくもに剣気を吸った。そして全方位に向けて爆発的に放出した。
剣奈の言う「ケントウルトラファイナルストライク」を追い詰められた恐慌状態で全力でぶっ放した。その結果、剣気が枯渇寸前まで一気に消費されてしまったのである。剣気エネルギーをよりどころとして存在している来国光は意識をなくし、存在が消滅しかねない状態に陥った。
剣人語の「ケントウルトラファイナルストライク」、来国光はその言葉の意味はまったく分からないが、それが何を意味しているのかはしっかり理解した。
『そうじゃな。あの技で大量に剣気を消費すれば、剣気は枯渇しワシが消滅するじゃろう。しかしな、剣奈は剣気の扱いにかなり熟練したじゃろ?』
「確かに!」
謙虚のかけらもない剣奈である。いや、素直なのは美徳か。
『あれほど剣気を無駄に一気に放出することはもはやすまい」
「うん!まかせて!」
『さて、剣奈よ。彼奴らの黒矢をおもい浮かべてみよ』
「うーんと、黒くて、速くて、鋭い。すっごく細くて、針みたい?」
『そうじゃ。さすが剣奈じゃ。しっかり見ておるな』
「えへへへへ」
『あのようにの、剣気を鋭く、細く、短く練るのじゃ』
「なるほどぉ。あ、でもボク、弓持ってないし、使ったこともないよ?」
『あれは彼奴らが生きておった頃の心象記憶に引っ張られているに過ぎん。弓をひいて矢を飛ばすという体感によるものじゃ。さっきも言うたが箙は空だったじゃろ?』
「うん」
『さらにじゃ。彼奴らの持っておった弓、刀、槍、すべて邪気による幽体じゃ。剣奈によって体もろとも武器も浄化されておったじゃろ?』
「確かに!」
『つまりじゃ。気を飛ばすのに弓矢を使う必要は全くないのじゃ。ナニカを飛ぶはずという心象があればいいのじゃ。「この方法でやれば飛ぶはず」、という確信があればいいのじゃ』
「ふうん。ボクが何かを飛ばす確信あるものか。水鉄砲とか、エアガンとか、吹き矢とか、あとパチンコとかかなぁ」
『今の剣奈にはもっとふさわしいものがあるぞ?』
「えー!なになに?」
『ワシじゃよ。ワシを強く振って、ワシの先から針を飛ばす。そんな心象は心に浮かばぬか?』
「あ!わかるわかる!剣を振ったら、剣からドバーッて聖なるエネルギーがほとばしる感じね。目からビーム!剣からビーム!あとは魔法剣からファイアとか。なんならサンダーとか、真空刃とか、アイスニードルとか!剣からの腐食エナジーで相手が消滅とか!」
『う、むむむむ。さ、さすがすごいのぉ剣奈よ。すでに刀から剣気を飛ばす心象をもっておるか!これは感服した』
剣人語である。剣人ワールドである。剣奈のいう技が何一つわからない来国光である。いや、そもそも来国光は「剣」ではなく「刀」なのである。
しかしそんなことはどうでもよい些事である。重要のはそこではない。技を出すための重要な手順は二つ。
一つ「剣奈が剣気を細く、鋭く、小さく練って放出できること」。
二つ「剣奈が的確に方向性を制御し、針を高速に打ち出す心象を明確に持つこと」、である。
刀を素早く振り、刀身から敵に針を打ち出す心象が剣奈に明確にあれば良いのである。あとは修練である。
来国光は剣奈の剣気の取り扱いから見て、針を作り出すことは短時間にできると踏んでいた。あとはその針を勢いよく射出する心象設定だったのである。
剣人語は理解できなかった来国光だが、剣奈がすでにその心象設定を済ませていることは確信できた。そうであればあとは修行である。
もし新技が習得できないと判断すれば、当初の考え通り側面から急襲すればよい。その際は剣気の残存量と時間だけ気を付けていればよい。
幸い十体の弓兵は山の向こうである。敵を認知できなければさまよう亡霊と変わりはない。
『さて、修行開始じゃ。時を惜しめ剣奈!』
「はい!」
剣奈の修業が始まろうとしていた。
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