70 剣奈の絶頂と来国光の決意
『さて、まずは回復といくかの。剣気が体の傷を癒し疲労を回復する様を強く想像しながら全身を剣気で満たせ』
「らじゃ。ん♡あっ♡あぁ♡」
来国光から結紐を通じて急激に丹田、つまり子宮に流れ込んだ剣気が作り出した円環の激しい波動に剣奈は思わず声を上げた。
ボロボロの身体を癒すため全身に剣気を満たそうと、いつもより勢いよく大きな剣気を吸収したのがマズかった。
激しい円環からの刺激、身体中に剣気が満たされる充足感、無数の傷が癒され、疲労が回復することによる多幸感。激戦をくぐりぬけ、死地を脱した生物としての本能。敵のいない安心感。張り詰めた緊張状態から一転して安らぎ弛緩する神経群。新技に期待する高揚感。それらがないまぜに交錯し、剣奈の脳を強く刺激した。
さらに荒れ狂う剣気の波動が物理的に子宮およびその周辺の女性としての生殖器官群を荒々しく襲った。
剣奈は脳と身体中で波立つ快感におそわれ、身を震わせた。そして。
「あっ♡ あぁぁぁぁ♡ あああああああぁ♡」
剣奈は激しく身震いした。眉根を寄せ、きつく目をつぶり、背筋を大きくそらせながら絶叫した。
じゅんと下半身が湿った。剣奈は身体中の力が抜け、腰を抜かすように乙女座りで尻もちをついた。そして、がっくりと頭を垂れ、息を荒げた。
「はぁはぁはぁ。なに、これ?」
剣奈にとって初めての感覚であった。頭が真っ白になり、強烈なナニカが身体中を駆け巡っていった。
剣奈は荒ぶる熱い呼吸を持て余し、放心した。
千剣破がこの場にいれば、来国光に激怒し、激しく叱責するだろう。
「うちの大切な息子になにやってくれちゃってるの!二度とやらないでっ!」
いや、来国光が意図的にそうしたわけではないのだが。
来国光はこのことは決して千剣破には言うまい。そう固く決心するのだった。
一方の剣奈。
「はぁぁぁ。なんか身体がおかしくなっちゃったよ。やっぱ疲れてたんだね。クニちゃのいうとおり、回復してよかったよー」
なにが起きたのか、さっぱり理解していない剣奈である。
剣奈ちゃん、君は絶頂したのだよ。初体験おめでとう!
「これで体調万全フルパワーだね!心置きなく必殺技をマスターできるよ!」
もはやすっかり身体の反応のことは忘れ、必殺技の習得に期待し、わくわくしている。
無邪気なものである。いや、剣奈はそれでいい。それが君なのだ。
『さっき弓兵が黒矢を飛ばしてきてたじゃろ?』
「うん。やばかったね。あれ」
『しかし奴らの箙は空だったじゃろ?」
「えびら?」
『矢を入れておく入れ物じゃよ』
「ああ、エルフが背中にしょってる筒みたいなやつね」
『うむ。そうじゃ(わかってない)』
「そういえば矢がはいってなかったね」
『うむ。なのに奴らは間断なく矢を放ってきた』
「だよねー。ガチえぐかった」
『剣奈にもできるぞ?』
「え?ガチで?やば!まじテンションアゲミなんだけど」
『まだ習得できる段階に達してはおらぬと思うておったのじゃがな。今の剣奈なら大丈夫じゃろ』
「やったぁ」
来国光は剣人語が理解できないことが多い。しかし言葉の意味は分からなくても剣奈の雰囲気、声の調子、感情の起伏、言葉が発せられる間、などから、剣奈が承諾なのか、拒否なのか、理解しているのか、いないのか、細かい感情の起伏まで理解できるようになっていた。
来国光は剣奈理解熟練者になっていた。剣奈検定特級合格者である。
それはともかく来国光は考えた。今の剣奈には遠距離攻撃を多用する敵に対して対応手段がない。敵の遠距離攻撃をかわしながら接近し、攻撃しなければならない。
剣奈が敵に接近さえしてしまえば、今日の弓兵程度であれば、あっという間に剣奈は殲滅させるだろう。
しかし接近するまで、一方的に敵の攻撃に晒され続けるのである。危険極まりない。
先ほどまで来国光は弓兵に対し側面から強引に接近する強硬策を考えていた。
ところが剣奈の驚くべき急成長を目の当たりしに、闘いの中ではあるが新たな段階に踏み出す時機がきていると判断した。
来国光は剣奈に新しい技の伝授を決断した。その決断が下手をすると致命的な窮地を招き入れる可能性があるとしても。