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68 疾走 vs玉置方歩兵(マップあり)


『剣奈、来おったぞ。南の主郭のやつらが降りてきおった。合流して追撃する腹積もりだったのじゃろう。敵味方合流して追撃とは味なことを』

「はぁ。なんで全然関係のないボクが敵味方協力してまで襲われなきゃなんないんだか」

『しかし奴らの目論見は空振りじゃの。こんなに早く一方の部隊が殲滅させられるとは思うてもおらんかったじゃろ』

「てかさ、もしボクがここでもたもたしてたら前と後から挟み撃ちだったてことでしょ?ひどくない?」

『うむ。絶体絶命の死地に追い込まれておったじゃろうな。挟撃は数に勝る敵がよく使う手よ。やられる方にとっては脅威じゃろ?いい経験ができたということじゃな。あぁはは。』

「まったくもう。笑い事じゃないよ。クニちゃがいてくれなかったらボク、今頃やられちゃってたからね」

『じゃがそうはならんかった。それどころかあっという間の殲滅じゃ。さすが剣奈じゃ。剣奈の成長はとどまることを知らぬな』

「にへ。そう?ボク、すごい?」

『うむ。感服した。さすが剣奈じゃ』

「にひひひひ。もっと褒めていいよ?」

『うむうむ。まっこと剣奈は愛いやつよ。む?きおったぞ!』


「よし、いくぞ! ん♡」


◆剣巫女 岡山県美咲町 鬼山城マップ 剣奈 鬼山の闘い

挿絵(By みてみん)


 鬼山から十体の玉置方黒震獣念が剣奈に向かって接近していた。南の主郭から五体づつの二列縦隊での坂道の進行である。

 おそらく切岸下に到達した後、尼子方槍兵の残留思念と共になんらかの陣形を展開するはずだったのだろう。今はただ合流するため隊列を組んで移動していた。

 黒震獣念の一体一体の輪郭が黒く揺らめいていた。禍々しい気配が感じられた。明らかに人外の恐ろしい気配を漂わせた物の怪・怪異集団である。それが武器を携え整然と隊列を整え接近してくるのである。

 かつての剣奈であればそのおぞましい姿に恐慌をきたしていただろう。踵を返して大声で叫びながら逃げ出したであろう。

 塩之内(しおのうち)断層の闘いで、黒震獣犬の群れと殺気におびえたように。恐慌をきたして逃げ出したように。


 あの時の敗北の経験はしっかりと剣奈の糧になっていた。

 怪異の禍々しい気配、むき出しにぶつけられる殺気、武器を向けられる恐怖、一対多数の絶望的状況。それらをくぐりぬけた剣奈はすべて己の糧とし、立ち向かう発想を生む引き出しとしていた。

 

 剣奈は駆けた。二列縦隊の敵の真っただ中に向けて。

 多勢の敵に囲まれる状況に自ら赴くのは賢策ではない。多数の敵はできれば一対一の状況に持ち込み、各個撃破するのが常套戦術である。

 しかし剣奈は駆けた。本能的に彼我の戦力差を感じ取り、中央突破を選択した。


 真正面から疾風のように突進してくる剣奈である。敵は意表を突かれ、対応が遅れた。剣奈は右足を踏み込むとともに抜刀した。

 ヒュン。抜刀とともに右上に向かって斬り上げた。順手抜刀からの左逆袈裟斬り。前列の二体は一瞬にして消滅した。残八体。

 ヒュン。斬り上げから刀を返した剣奈は左足を踏み込むと同時にそのまま袈裟斬りに斬り下ろした。二体消滅、残六体。


 剣奈は止まらない。左への振り抜きとともに左に捩じられた上半身。溜められた力は、続く右足の踏み込みとともに一気に解放された。

 ヒュン。捻り戻される上半身、左から右にきらめく刃閃。左一文字切りでさらに二体の鎧武者が消滅した。残四体。

 

 ヒュン。さらなる左足の踏み込みとともに右から左に刃閃がきらめいた。右一文字切りでそらに二体が消滅した。残二体。

 

 左に振り切られた来国光。ここで剣奈は左手を鍔に添え、瞬時に順手から逆手に持ち替えた。

 ヒュン。踏み込む右足とともに剣奈は逆手持ちでの左逆袈裟斬りを行い、右前方の黒震獣念を切り上げた。黒震獣念は黒霧と化し、空中に解けた。残わずかに一体。


 しかし剣奈は残る一体に背を向けていた。来国光は肝を冷やした。最後の最後で油断して隙をさらしてしまったかと。

 シュッ。左足のかかとが踏み込まれた。左手は柄頭に添えられた。剣奈はひざを曲げ、腰を落としながら背後への強烈な刺突を放った。


 剣奈の動きが止まった。


 風が吹いた。草が揺れた。剣奈の髪が流された。

 その場に立っているのは剣奈だけだった。十体いた敵は、剣奈の疾走によって、またたくまに殲滅されたのである。


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